クロックワーク・ロケット (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 早川書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (538ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350243

作品紹介・あらすじ

この世界とは少し違う、別の物理法則に支配されている宇宙。女性科学者ヤルダは世紀の大発見を成し遂げるが、惑星滅亡の危機が判明し……。現代最高のSF作家イーガンの宇宙SF三部作、開幕!

感想・レビュー・書評

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  • イーガン作品の中ではとりあえず読み進められる一冊。でも読了まで長時間かかってしまった。
    イーガンの世界が面白すぎる。
    全く理解できてないけど。

  •  『白熱光』に似て非人類の女性科学者の物語である。『直交』三部作の第1。
     舞台は、ある惑星だが、こことは違う宇宙。われわれの宇宙とは物理法則がちょっとばかり違うのだ。数式にするとプラスとマイナスの違い。しかしそれが大きな差異を生む。われわれの宇宙では光速は一定である。どこで観測しても一定である。これはとても奇妙なことで、地球上で静止して観測しても、亜光速で飛ぶ宇宙船から観測しても同じ速度である。日常生活では目の前を走り去っていく自動車は速いが、その自動車に伴走する車に乗っていたら止まって見えるのに、光速だけは一定。神の眼のような視点は存在し得ず、観測する系によって宇宙の見え方が違うのがわれわれの宇宙であり、これが相対性理論のわかりにくさ。
     さて、われわれの主人公ヤルダの宇宙では神の眼の視点が存在する。縦軸を時間、横軸を(一次元に省略した)空間とすると、この直交座標の中で光速は一定。しかしより縦向きの光は一定時間内に進む空間が少ないために遅く観測され、横に倒れた光は速い。よって、ヤルダの惑星から星を見ると、星は虹のような尾を引いている。波長によって光の速さが違うから、速い波長の光ほどその星の過去の位置に見えるので星の移動に伴って尾を引くのである。この宇宙の法則は直交座標の中に簡単に図示できてしまうのがミソで、ヤルダが発見した宇宙の法則は回転物理学といわれる。
     で、この直交座標の上のほうにヤルダの世界は進んでいく、つまり未来に進んでいくのだが、横方向、つまりヤルダの世界の進みの直交方向から星団が飛んでくることがわかる。ヤルダの惑星とぶつかってしまうのだ。ベイリーの『時間衝突』みたいな話である。さて、どうするか。これを避けるテクノロジーはヤルダの世界にはまだない。では科学を進歩させるための時間を稼ぐしかない。そこで山ひとつを宇宙船にして、直交座標の横方向に高速で飛んでいくことにする。宇宙船内では大変な時間が経過するが、惑星のほうではほとんど時間が経過しないという現象が起こるからである。われわれの世界のウラシマ効果の逆である。
     基本的にはこういう話で、田舎生まれの科学者ヤルダが首都で物理学の新発見をするとともにこの世界の危機を知り、それを回避する方策に向かう苦闘が描かれる。本巻では宇宙船〈孤絶〉が惑星を飛び出し、ヤルダが〈孤絶〉の中で生涯を終えるまでである。イーガンが描きたいのは愛は世界を救う、ではなく知識が世界を変える、ということである。
     ヤルダたちは人間ではないがおおむね人間と似たような形態で、眼は前後に二対ずつ、四肢は増やしたり引っ込めたりできる。そして女性は自分の命と引き替えに子孫を残すという生態を持っている。心理的にはまったく人間である。物理法則の違う宇宙の異質な生物が人類と同じような精神構造を有するとは到底考えられないが、異質な心理から異質な世界を描いたら理解不能な実験的小説になってしまう。それはそれで読んでみたいが。

  • 主人公の姿態をイメージするのに苦労しました。手足を自由に生やしたりしてますが、骨や筋肉はあるようで不定形生物ではなさそう。ニョロニョロが大きくなった感じか?

  • 前半は三回くらい呼んだ。
    そこを超えると最後までやめられなくなる。

    この世界の物理よく分からないので、色々な描写が理解できないのだけど、それでもその世界に馴染んで仕舞えば、気にならない。

    イーガンの小説ではときどき性差別がとりあげられるけど、この世界と我々の世界がこれほど違うのに現れる差別を読むと、社会と生物の生理とには根本的に矛盾があるのかとも思う。が、これは作り話だ。

    物理法則が違うことでそこに棲息する生物はことなり社会の形も異なる。そこらへんの力技が見事

    物理法則については巻末に解説があったり、イーガン自身のサイトにも詳しい情報があるけど、わたしにはわかりませんー

  • いやー時間がかかった。
    私が小説読むのにここまで時間がかかるとは。
    それはひとえにその難しさ故。
    プラス、『エターナル・フレイム』よりストーリー的に惹かれなかったからかな。
    ★2にするか悩むところ。

    世界観が素晴らしいのは間違いない。
    理解できるかどうかは別として、架空の世界のその完成度の高さは今まで読んだどの作家の作品よりも高い。
    私はその完成度の高さが理解できない頭脳の持ち主なので、したがってこれを理由に★をたくさんつけるのはちょっと違うかな、と思う。
    理解できたら素晴らしいんだろうけどなー。

    地球人とは異なる主人公たちは理解できるんだけど、
    頭が自分の世界から完全に切り離せないので
    (世界の発想が全く違うわけじゃないのも切り離せない理由でもあるんだけど)、
    どうしても、
    基本双で子供作るなら種として存続できるのか、
    とか(まあでもこの種は実質単性生殖種だ。雄は誘発するだけみたいだから)、
    社会があまりにも地球に似てはいすぎないか? とか、
    いろいろ考えてしまう。
    そこをプロットの甘さと見るかどうか。

    異なる世界の構築を除くと、
    でもしかし残念ながらストーリーはちょっと陳腐な気がする。
    大まかなストーリーは面白い。
    母星に危機が迫って時間を稼ぐためにウラシマ効果を狙って孤絶(言ってみれば巨大な宇宙船だ)を打ち上げる。
    素晴らしい。
    でもね、小説を小説たらしめるための小さなエピソードが
    取ってつけた感があって、うーん、なんだよな。
    例えば、
    邪魔はあった方がいい。
    敵はいた方がいい。
    人間関係もちょっと面倒いことがあった方がいい。
    主人公も欠点があった方がいい。
    とかそういう感じ。
    一エピソード一エピソードに深さがないって言うか。
    ただそれはもしかして、
    小説の長さと描こうとしたストーリーの長さが一致していないからなのかもしれない。
    と読み終わった今は思う。
    十分に長い一冊なんだけれども、
    描こうとしているのが主人公ヤルダの幼少期から最後までなので
    それでも長さが足りなくて、
    小さな一つ一つのエピソードが雑になるというか。
    (でもそれをまとめるのも才能な気がするけど)

    キャラクターもエピソードと同じようなことが言えるんだけど、
    うーん、今となっては興味深いキャラもそれなりにいたかな。
    ダリアとか。

    私の集中力を維持するのが難しかった本だけど、
    最後は良かった。
    囚人ニノの処遇と、自分の子供の名前の行(くだり)。
    そこに不本意に出産してしまった友人の名前を久しぶりに出すことで、
    ヤルダの生涯の振り返りと過ぎ去った者たちへの想い、
    そして時間の流れをうまく表現していたと思う。

    評価がすごーく難しいので、真ん中の3が妥当かなあ。
    個人的好みとしては『エターナル・フレイム』の方が読みやすかったし、
    カズ・レーザーが二作目である『エターナル・フレイム』を挙げたのはその辺に理由があるのかな、
    と思ってみる。

    実は3作目も買っているんだけど、
    ちょっとハードなので少しお休みします。
    いつか読む。

  • 単身者であるヒロインが祖父を看取り、学校へ行き。
    成長しながら世界の光について研究する。
    世界観がすごい、何がなんだか最初はわからないまま進んでくし、そもそもヒロイン達が人間でないのでまずそこから理解していかないといけない。
    あと物理方式とか数式とか小難しい話が多めなのが挫折しそうだった(読み飛ばしたところあり)
    でも自分の子孫、子どもたちの未来のため、など生存本能は変わらなくて人間ドラマ的なところはすごく良かった。

  • グレッグ・イーガンの〈直交〉三部作第一巻『クロックワーク・ロケット』。時空に関する物理法則が異なる宇宙とはどんな姿なのかを、論理的にとことん導出して見せてくれる一大ハードSF。また一人の科学者の一生の物語でもあり、生物が自身の特性とどう向き合うのかを見せてくれるドラマでもある。

    時間と空間が交換可能かついくつかの仮定をおき、そこから光の性質、物質のありかた、生態系の様相までを描き出す。「球面調和関数くらい知ってるよね?」みたいな顔して怒涛の推論議論を登場人物が繰り広げるところは圧巻である。

    そしてまた、恒星系ひとつが滅びるスケールの世界の危機を、物語開始時点では未解明の物理法則を解明することで防ごうとする一代記でもある。なんというかもう脳汁がヤバい。専門家以外は一発でその物理学を理解はできないレベルなので、後でじっくり楽しみたい。


    ストーリーもSF成分もとても重厚! なんか1/2過ぎたあたりでもはや読むのが止まらなくなってしまい、通勤時間が一瞬で終了するわ、気がつくとこんな時間(4:35 a.m.)だわ、読み切ってなお寝られる気が全然しないいい本だった。なお三部作なので物語はまだまだ終わらない。楽しみ。

    それにしても、登場人物たちの抱える生物学的特徴とその諸問題に纏わる部分は、イーガンらしいなっておもった。

  • 無星なのは、つまらなかったからではなく、読み切れなかったからです。物理学の部分がどうも手に負えなくて…世界観にはすごく興味があったんだけど。

  • 映画『インターステラー』が好きならきっと好きになるSF小説。ただし難解と言われているインターステラーよりさらにはるかに難解な設定なので、読むのにはそれなりの気合が必要だと思います。

    21世紀最重要SF作家と言われるグレッグ・イーガンの”直交3部作”の1作目。3作目の「アロウズ・オブ・タイム」まで発売されているので、引き続き読み続けたいシリーズです。
    (ただ、ちょっと前に「これは!」と思ったヒュー・ハウイー著のサイロ三部作も2作目「シフト」の途中で飽きちゃったし、SFの傑作「星を継ぐもの」も続編の結構早い段階で飽きちゃったので、今回も完走できるか怪しいけど…。)

    本作の最大の特徴は、地球(というか僕たちが住む宇宙)とは別の物理法則に支配された世界を構築し、その世界での出来事を描いているという点。
    「時間」と「空間」の区別がなく等価、という世界で、ミンコフスキー時空ではなくてユークリッド時空にもとづいた世界になっています。
    「”時間軸”が特別な軸ではないので、別の空間時間と交換することは可能」。
    その特性を生かして、目前に迫る危機的な状況を救うべく、時間の進行に直交する方向へロケットを飛ばし、解決方法を見つけるまで何世代もかけて科学を進めるという一大プロジェクトをスタートさせる、というのが開幕編の本作の大まかなストーリーです。

    本作の魅力はなんといってもこの”設定”で、物理法則のとある式の1つの符号を+から-に変えたことで生じる様々な変化を”そういう世界”として物理的に完全構築しています。
    物語自体・設定自体がおもしろいというのもあるけれど、それ以上に、1つのアイデアからそこまで世界を広げられるイーガンという人間の「妄想力の強さ」がすごい!
    “設定”が中心にある作品ってSFに限らずいろいろとあるけれど、ここまでの世界を作り上げるのは本当にすごいな、と。
    そして、妄想力の強さ以上に、”ご都合主義”を挟み込まずに理論で矛盾なく構築していく「自分の妄想への”忠実さ”」そして「”誠実さ”」にときめいてしまう。
    こういうものづくりの姿勢って、本当にかっこいいなぁ!

    そして、この設定の伝え方もうまくて、作品内で不自然に”説明的”ではないんです。
    というのも、主人公のヤルダは、最初は何も知らない田舎の女の子なんだけど、世界に様々な疑問を感じ、やがて物理学者になります。
    そして、この宇宙におけるいわゆる”相対性理論”的な法則を発見するんですが、その過程が描かれることで、作品世界中の物理法則が読者にも自然に説明できるというわけです。

    一方で、物理法則同様に、主人公たちの生態にも大きな特徴があって、主人公はおそらく”不定形 “のアメーバみたいな生物なんです。
    この生態については特別に説明がなされることはなくて、例えば”後眼で様子を確認して、新しい腕を一本発芽させた “みたいな文章から想像していくことになります。
    これも、例えば普通の小説で人間の身体的特徴の説明描写がないのが普通なので、あくまで作中の宇宙における”普通の描写”に徹しているということ。ここでも著者の誠実さが光りますね。
    ほかにも、主人公たちの種の生態が、現実世界における男女の格差とか、社会における育児・出産の様々な問題を想起させていて。
    SF作品ってやはり”寓意”があってこそ、みたいなところもあって。こういう設定のうまさもやはり素晴らしいSF小説でした。

  • 波長がどうとか理科の教科書みたいな図やそれについての登場人物たちのやりとりが出てきて読むのに苦労した。その辺は無理に全部理解しようとしなくても流し読みするくらいでいいと思った

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著者プロフィール

1961年、オーストラリア西海岸パース生まれ。SF作家。西オーストラリア大学で数学理学士号を取得。「祈りの海」でヒューゴー賞受賞。著書に、『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』『ディアスポラ』他。「現役最高のSF作家」と評価されている。

「2016年 『TAP』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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