エターナル・フレイム (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ) (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ 5028)

  • 早川書房
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感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (526ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784153350281

作品紹介・あらすじ

故郷を滅亡から救うため〈弧絶〉が旅立ち、数世代後。苛酷な人口抑制を強いられる〈弧絶〉内で、伝説のエネルギー源〈永遠の炎〉が見出されるが……。ハードSFの旗手イーガンのシリーズ第二弾

感想・レビュー・書評

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  • グレッグ・イーガンの〈直交〉三部作の第二巻『エターナル・フレイム』を読み終わった…。なんという余韻…。これはある宇宙の物理学史であるとともに、性別とは何であるか(何であると考えたらいいか)を問いかけてくるな。すごイーガンの極地だと思うんだけど、これでまだ完結してないのである!

    この〈直交〉宇宙における主人公たちである人類は、女は出産時四つの子供に分裂して死ぬという世界なので、宇宙船〈孤絶〉の中においては四つ子になると人口の増加を招くので「飢餓状態にあれば二つ子出産になるかも」という通説に従い節食している。そんな極限ななかで、いろいろすすむ。

    人類はまだ、空間と時間が交換可能な宇宙についてほとんど知らず、とはいえ近くを通る反物質「直交物質」の性質を知るために科学に邁進する…。一方で、政治的な事情や世論にものごとが阻まれたり、古臭い慣習によって一悶着おこったり、とエピソードには事欠かない。

    果ては「女を飢餓状態に置かなくても二児出産させる方法」を模索していた生物学者の研究は、思わぬ方向へと発展しつづけて……???

    とにかくヤバいのでみんな読もうな!

  •  『直交』三部作の第2。われわれの宇宙とは物理法則が符号がちょっとばかり違う宇宙。そのような宇宙を設定すると、われわれの相対論的宇宙と違って、時空をかなり簡単に図示できるのがメリットなのだが、この数学と物理学、私は十分わからないまま読んでいる。それでも物語は面白いと思えるからまあいい。それで挫けてしまう人にはお勧めできない。そして登場「人物」もまた人間ではない知的生物なのだが、彼らの惑星の未来への進行方向と直交方向から星団が飛んでくることがわかり、いずれ衝突して彼らの惑星は滅びてしまう。そこで山ひとつを世代間宇宙船〈孤絶〉にして、直交座標の横方向に高速で飛んでいくことにする。この宇宙の物理法則だと十分に高速で飛ぶと、船内の時間経過は故郷の惑星よりも早くなり、そこで時間稼ぎをして、つまり科学技術を発展させてからなんとか故郷に戻って、直交星団との衝突を回避しようというのが、ミッションであり、この三部作の設定である。
     『クロックワーク・ロケット』では主にわれわれの宇宙の相対性理論に相当するものが発見されていったが、本書の科学の発展は量子論に相当するものである。〈孤絶〉が飛行するなか、別の天体を発見するのだ。そしてこれが反物質の相当するもので、という展開。前巻のヤルダから数世代あとの時代、天文学者タマラと物理学者カルラが活躍し、エターナル・フレイムを発見するのである。
     そしてもうひとつの重要なテーマが生物学。この物語の知的生物は、雌雄があるのだが、人間の生殖とはまるで違う。女性が四分裂して二組の男女ペア(これを双という)を生む。そしてこの双が人間で言うところの夫婦であり、次の生殖を担う。双子は産まれながらにして夫婦であり、「出産」は女性の死を意味し、残された双の片割れの男性が育児を担うのだ。これ、結婚・出産で仕事を断念せざるをえない人間女性の置かれた立場の強烈なアリュージョンになっており、『クロックワーク・ロケット』でも女性科学者の苦悩として描かれている。
     しかし本書では四分裂すると、世代間宇宙船の中でどんどん人口が増えてしまう。そこで女性たちは自ら食事を制限している。飢餓状態だと出産時に二分裂になる可能性があるからだ。さもないと子どもを間引かなければならない。これは摂食障害に苦しむ女性のアリュージョンか。カルラの双であるカルロは生物学者であり、この問題に挑んでいく。

  • 読んだ。なんとか読んだ。
    必死に文字を追っているだけの読書なのに、なぜか面白い。
    難しすぎて全然理解できないけど、それでも読もうと努力したくなる作品。

  • 登場人物達と一緒に、この世界の物理法則を発見していくのがこの作品の醍醐味とわかりましたが、それを理解するのはかなり厳しいです。巻末解説に物理法則のポイントがまとめられてあったので、若干ネタバレはあるけど先に読んでおいた方が良いかも。

  • ★4としたいのはやまやまだけど、これを★4にしたらそれは見栄になってしまう。
    難しいんだよ。
    面白かったけど。
    『クロックワーク・ロケット』読んだ後で変えるかも。

    お恥ずかしいながらSFマガジンでグレッグ・イーガンの作品を初めて読み、
    これは私の好きなタイプ、
    と早速一冊の購入を決意。
    調べると見覚えのあるタイトル、『エターナル・フレイム』が。
    以前テレビでカズ・レーザーが好きと言っていて、一瞬興味が湧いた本だ。
    というわけで購入。
    購入後三部作の真ん中だと気づく。
    まあでも一作品は一作品だから大丈夫だろう…、
    と思ったけどあまり大丈夫じゃなかった。

    ”物理法則が違う”とは書いてあったけど、登場人物たちも人間じゃないのね。
    読みながらその特徴がわかってきたけど、
    確実に一作目から読んだ方が効率が良かった。
    環境の前提もところどころ事前知識が必要で(重力や孤絶の方向など)、
    読み順はちょっと失敗かも
    (『クロックワーク・ロケット』読後追記:順番関係なかった)。

    まあしかし何より理解が難しかったのは、前半よく出てきた物理や数学の情報。
    ほとんど理解ができませんでした。
    おそらく、私達の住んでいる宇宙の物理法則に従った説明でも、
    あのレベルはあまり理解できなかった自信がある。
    違う世界では何をか言わんやだ。
    ちょうどこの本を読む前に数学の本をずっと読んでいたので、
    複素数や複素平面的(次元が違うけど)発想はなんとかわかった気がしたけど…、
    だからどうした。
    ってレベル。
    うーん。
    私って賢くないんだなあ…。

    しかしながら。
    不思議なことにそれでも面白かった。
    後半はきちんとハラハラドキドキさせられた。
    この登場人物たちの種としてのステージはおそらく我々人間と同程度で
    (知的生命体は成熟すると賢くなる、というSF的発想を支持しております)、
    SFの話だけではなく、社会やコミュニティ、様々な人(便宜的表現。
    でも作中でも使われていた)の葛藤や争い、愚かさ、なんかも描かれていて、
    濃かった。
    まあ多分通常の文庫にすると二冊分くらいだろうから長さもあるんだけど。

    登場人物たちの姿はどうしても人間を想像しちゃうんだけど(そして樹精はオラン・ウータンを想像させる。
    人に近種なだけでなく、多分その呼び名が”森の人”を連想させるから)、
    グレッグ・イーガンはどういう感じをイメージしてたんだろうなー。

    もう少し理解をするために、『クロックワーク・ロケット』読んだ後再読かなー。

    ちなみに解説も難しくてすっ飛ばした。

    しかしながらとても文句を言いたいのは、本のサイズ。
    早川書房って、ハヤカワSF文庫も通常の文庫のサイズより大きくて嫌いなんだけど、
    この本はそういった概念を軽く飛び越えて不快。
    なんだよこのサイズ。
    普通の文庫本サイズで出してよ。
    実は「カズ・レーザーの好きな本」と聞いた時に
    SF好きにも関わらず購入に至らなかったのはこの規格のせい。
    本棚が乱れて困るんだよなー。
    文庫本で出版し直してほしい。

  • 前作に続き、この世界の物理がほぼ理解できない。こんなに分からないのにとりあえず読み進められるのは、2つ理由がある。
    1つは科学者たちが研究を議論し模索しながら進めていく過程が単純に楽しいから。そして2つめは、生物分野の研究は理解できたから。
    この世界の人々の根本的なあり方は、とても興味深い。そこを変える可能性を調べようとする生物学者カルロのパートは、数少ない理解できる部分としてだけでなくリアルに感じられた。だからこそ彼の双であるカルラの選択に言葉を失ってしまう。

  • 読んだぞ、とにかく。おもしろかったよ、そう言っていいのかどうかわからないけど。だって、サイエンス部分が前作「クロックワークロケット」をしのぐ難しさで、ほとんどチンプンカンプン。科学的な議論が始まると、そのくだりは無念無想の境地で字面だけ追い、人間ドラマ的部分(「人間」じゃないけど)にさしかかると我に返って熟読、ということの繰り返しだった。こういう読み方でも「おもしろかった」って言っていいですか?

    いやまったく、出だしからガツンと「物語」にひきこまれて、「わからないにもほどがある(byバーナード嬢)」ところがどんなに多かろうが、読むのをやめようとはちっとも思わなかった。この第二作は、特異な出産の形態に焦点が当たっているので、ちょっとフェミ的な読み方ができるのかもしれないが、あまりそうした方面にひきつけず、あり得る文明の一形態として見るのがいいように思った。とにかく、人間とはおよそかけ離れた生態の異星人たちの姿を、徹底的にリアルに、かつクールに描き出すイーガンの手腕に脱帽。

    「白熱光」でもそうだったが、文系人間にはサイエンス部分の細部が(どころか大枠さえ)理解不能であっても、「ああこれは、この私たちとは違う世界の物理法則を探求しているのだな」ということはわかる。そして、その設定がおそろしく徹底したものであることもビンビン伝わってくる。この部分を知的な興奮とともに楽しめる方たちが本当にうらやましいが、一体どれぐらいの人がこの内容を咀嚼できるのだろうかとも思う。

    あとがきで山岸真氏が、最終章にある「記録学者」の言葉に、そうしたイーガンのスタイルの理由が見てとれると書かれていて、これはなるほどと思った。

    「想像してください。いまから1ダース世代のち、波動力学があらゆる機械の動力となり、だれもがそれを当たり前だと思っている時代を。それが完全な完成形で空からふってきた、とその時代の人々が考えてもいいんですか。じつはその幸運は、史上もっとも強力な変化のエンジン-つまり、科学について論じる人々-に負うものなのに」

    テクノロジーは「魔法」ではなく、世界の真理を追究してきた人たちの営為のたまものだ。その姿勢が揺るぎないものだから、どんなに難解だろうが、またイーガンを読む気になるのだろう。

  • 青木薫訳『量子革命』を連想。これの架空世界版みたいな。プラス、過激なフェミ論争のネタ満載。その観点でも読書会したら面白そうだが、いやちょい怖いかも。

  • 前巻は一応は「速く走れば時間も速くなる」というワンアイデアを把握しておけばストーリーは追えたが、今巻では科学理論の解明そのものがストーリーの本質になっているためか全く・全く・全く・謎謎謎謎

  • 三部作の第二部。
    第一部から続く、物理法則の異なる世界を描いた群像劇で、前作からはかなりの時間が経過している。本書の社会は閉塞感に覆われていて、なかなか息が詰まるような雰囲気だった。
    そして物理法則云々は相変わらず解らないw そもそも現実の物理もちんぷんかんぷんなので仕方がないかw

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著者プロフィール

1961年、オーストラリア西海岸パース生まれ。SF作家。西オーストラリア大学で数学理学士号を取得。「祈りの海」でヒューゴー賞受賞。著書に、『宇宙消失』『順列都市』『万物理論』『ディアスポラ』他。「現役最高のSF作家」と評価されている。

「2016年 『TAP』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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