兄弟

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163175706

感想・レビュー・書評

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  • なかにし礼さんの凄まじい半生記。破天荒過ぎてある種病的な迄のお兄さんの言動(女好き、根拠のない事業欲、浪費癖などなど)のせいで人気の作詞家乍ら破産に追い込まれても兄を切り捨てられない、最後の最後、兄が死んだ後も、理解出来ない部分を埋めようと行動する(戦友会に参加して兄の話を確かめる)といった辺り、終戦後苦労の連続で共に生きた家族の情なのか、血の繋がりなのか。自身の打算的な思惑も赤裸々に描いていて凄い。

  • 『血の歌』を読んでから、これを読む。
    禮三の二人目の妻の百合子(石田ゆり)は、姪の美以子(森田童子)と、同い年であることがわかる(美以子は翌年の早生まれ)。実際は石田が1歳上かも。
    やはり作詞家というのは、若い女性、少女性をもった女性の感性を身近に置いておくことが成功の必須条件なのかも。
    婚約発表の1970年は、美以子は高校3年かまたは卒業して家を出て男と同棲を始めたらしく、百合子の宝塚音楽学校は2年間で卒業なので、前年(1969)からデビューの準備を始めていたことになる。

  • 2020年に83歳で亡くなったなかにし礼氏の自伝的小説で直木賞受賞作。昨年末に同氏の遺稿小説『血の歌』でが出版され、森田童子の父親が氏の兄ということで、興味を持った。小説では、特攻隊帰りを称して破滅的行動を繰り返す14歳上の兄とのエピソードを描く。次から次へと繰り返す事業の失敗やギャンブル、女遊び。そのたびに金をたかられる著者。特にニシン網の網元になって、担保の家をとられる話とか、当事者は悲惨なんだけど笑ってしまう。その後、東京まで行くのに日本海の荒海を貨物船で行って、船酔いしまくる話とか。結局兄が亡くなるまで16年絶縁したとのことだが、最大の謎はなぜもっと早く絶縁しなかったのかということ。作中では、①脳梗塞を患う母親をダシに兄の言うことを聞かざるを得なかった②戦争で父親を失い、年の離れた兄が父親代わりだった、という理由が暗示されているが、それにしても、もっと早く絶縁しようよと言うのが大方の感想であろう。

  • イワユル「事実に基づく創作小説」に属するものだと思うが、その「事実」の想像を超えた凄まじさ、異様さに驚きを禁じ得ず、一気に読み進む。14歳上の兄の常軌を逸した破天荒な言行や愚行の数々。それに死ぬほど苦しめられながらも、兄との血縁を最後の最後まで切れなかった弟。そしてそれを遂に断ち切った16年後の兄の死に際し、安堵と後悔の相克に苛まれる弟。なんとも壮絶な戦中戦後の兄弟史。

  • 焼き直しだけど文句なしに面白い!
    天網(てんもう)恢恢(かいかい)疎(そ)にして漏(も)らさず

  • 母が買ってきたので、読んでみました。
    帯にある「死んでくれてありがとう」の言葉が、全てを物語っている。
    小説が出たあと、ドラマ化されていましたが、いまいちでした。やはり、書かれている文章から読み取る兄弟のつながりが壮絶です。

  • 賭け事や女、様々な事業にお金を使いまくる兄。弟の稼ぎも使ってしまう。悪びれないその態度に読んでいてイライラしてしまった。いくら血のつながりがあっても、私だったら助けないなぁ。。
    なかにし礼さんのお兄さんへの愛憎が溢れ出ている本でした。

  • すごい兄貴だな。誰も真似できない支離滅裂な行動。
    あまりに酷くて読んでいて気分が悪くなりました。
    それでも最後はやはり兄弟なのか?

  • なかにし礼さんの実話。ひどいお兄さんで苦労されました。2人きりの兄弟なのに、「兄の死にあたって、死んでくれてありがとう」と、吐露する場面が切なく感じた。

  • なかにし礼さんの『赤い月』に続く自伝。

    兄が死んだ。
    物語はここから始まる。私は16年前に兄とは絶縁しているので葬式にも出ない。

    この後、なかにし礼さんの子供時代に話は進む。
    昭和21年。私たち家族は満州から引き上げて、小樽の父の実家の祖母を頼って身を寄せていた。そこへ、兄が妻の美津子を連れて現れる。博打好きな兄は、祖母の家を担保に高利貸しから金を借り、増毛の鰊の網を3日間買った。
    最後の日に兄の買った網に鰊が掛かった。喜んだのもつかの間、兄は、鰊を本州へ運び更に儲けようとしたが、嵐が続き鰊を途中で捨てなければならなくなり、小樽の祖母の家を手放さなければならなくなってしまう。
    兄を追って東京へと行くが、母と兄は大喧嘩になり、私たちは叔父を頼り、青森へと移り住む。青森では母が脳卒中で倒れ半身不随となってしまった。兄一家とともに再び東京で生活することとなる。
    兄は本当に家にお金がなくなるまで働こうとしないし、働いても長続きすることがなかった。知り合った人と会社を作り、作ってはつぶし、それを繰り返して借金だけが増えるという生活を繰り返す。
    ついに生活に困っては母自分の金歯をはずし義姉に金に変えてもらおうとするが、義姉は母の行動を侮辱した。そんな義姉を私は殴りつけた。そのことで兄から義絶状をたたきつけられ、家を追い出された。
    行く当てのなくなった私に、救いの手を差し伸べたのは行きつけの喫茶『らんぶる』で働いていた洋子だった。
    しかし、洋子に頼ってばかりの自分に嫌気がさし、洋子のもとを飛び出して、湯島天神の『佐藤薪炭店』に住み込みで働くことになった。苦しい生活を送っているところに兄から連絡があった。
    私のレストランを持ち、その中から立教大学に通い始めた。店は順調ではあったが、売り上げを兄が使い込みやがてレストラン『富士屋』もつぶしてしまう。
    その後、大学の授業料も払えなくなり、立教大を除籍、洋子ともわかれ、御茶ノ水のシャンソン喫茶『ジロー』のボーイとして働き始めた。
    そこでシャンソンの訳詩をするようになり、それが好評で訳詩で食べていけるようになった。
    昭和36年に立教大学に再入学した。
    その頃、モデルをやる傍らシャンソンの勉強をしている真子と知り合い結婚する。結婚式のホテルで石原裕次郎に会い、流行歌の歌詞を書くように勧められた。
    ポリドールレコードから菅原洋一の歌の訳詩を依頼され『知りたくないの』を作り出す。その後初めて作詞した『涙と雨にぬれて』もレコーディングされることになり、次第に収入に余裕がある生活を送れるようになった。そんな時再び兄から「母のために一緒に住もう」と提案される。しかし、真子との間に弓絵が生まれたにもかかわらず、自分の自由を求め真子と離婚する。

    30歳で中野に家を建て、兄一家5人と母と自分、そして4人の弟子と住むようになった。兄たちは私の働いた金で生活し、大学に行くようになったが、それが当たり前だという生活だった。やがて兄は私の会社の当座預金にまで手を出しそれを受け入れてしまう。
    そんな時、新人歌手だった百合子に出会い、結婚する。
    兄の建設会社が倒産し、負債額が1億3000万にものぼった。負債額も半額にするということで私が6500万円の負債を負わされることとなった。
    その後、私に兄を受取人とした生命保険がかけられていることを知る。不安を感じ兄一家には家を出て行ってもらった。
    数年後、再び私を訪ねてきた兄はゴルフ場をやるという。私は社長と言うことで借金を背負わされた。この事業も失敗し不渡りを出し、その保障をしていた私の会社も倒産した。負債額は4億円。しかし、兄の振り出した手形は6億円以上あった。
    負債は資産を処分しても3億5000万円の借金が残った。

    借金を返済しながら、テレビ・ラジオの出演や講演で日銭を稼ぎナカニシオフィスを立ち上げなんとかやっていけるようになった。
    再び兄が現れ、また借金を背負わされる。
    この際、自分の目が行き届くところに置くほうがいいと思いナカニシオフィスの社長に迎え入れる。兄の元にいる母が私の最大の弱点だった。
    しかし、その母が死んだ。
    母の死後、おとなしくしていた兄だったが、二年後またまた母の悪い病気が起こり、ナカニシオフィスの金を使い込んだ。その証拠を押さえ、ついに兄と絶縁した。
    その後も、何度も兄は金の無心に訪れたが、頑として受け入れることはしなかった。

    そんな兄も肝硬変を患い、亡くなった。

    兄が鰊漁に失敗した50年後、その鰊漁を歌にした『石狩挽歌』の歌碑が小樽に立てられることとなった。その打ち合わせのために兄の網に鰊がかかった丁度その日小樽を訪れた。その足で、増毛を訪れ感慨にふける。

    兄とは切っても切れない絆で結ばれていたことを再確認する。しかし、兄を許すことはできない。

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著者プロフィール

1938年旧満州牡丹江市生まれ。立教大学文学部卒業。2000年『長崎ぶらぶら節』で直木賞を受賞。著書に『兄弟』『赤い月』『天皇と日本国憲法』『がんに生きる』『夜の歌』『わが人生に悔いなし』等。

「2020年 『作詩の技法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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