睡蓮の長いまどろみ 上

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 115
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163195902

作品紹介・あらすじ

自殺したはずの女から届く謎の手紙-宿命とは、不幸を幸福に転じるとは何かを問う最新長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • すごくゾクッとする作品だねぇ、これ。
    確かに主人公の順哉はなかなかな過去を背負っているけど
    それでも妻とも、父の後妻さんとも
    良好な関係を築いているんですよね…

    ただその陰に、どうも怪しげな、
    とてつもない危険な思想がチラホラと出てくるのです。
    それは順哉の前で意味深な死に方をした
    ひとりのうら若き女性…

    虚偽の注文を受けた後に
    怪死しているんですよね。
    そしてそれを同化する癖が…

    なんかイヤーな作品。

  • 好き

  • アッシジ郊外で会った産みの母、そして自分の前で自ら命を断った若い薄幸の美少女。そして、北海道に戻った母への偽名を騙っての接近。主人公の気持ちになり、せつなく人生の無常さを想わされます。

  • 主人公の順哉は幼い頃家族を捨てた母に会いにイタリアのアッシジに赴く。
    そこであっさりと母と再会を果たすも自分の存在を告げる事はないまま帰国。
    そして帰国後、彼はある事件に遭遇する。
    彼のいる部署に、近くの喫茶店のウェイトレスが注文されたコーヒーを届けに来る。
    エレベーターが故障しており、6階まで10人分のコーヒーを持って階段を上がった彼女。
    しかし、注文をした人間はおらず、いたずらだったと分かる。
    その後、彼女はビルの屋上から飛び降り自殺をし、その場にたまたま順哉は居合わせてしまう。

    実は、順哉には人には言えない秘密がある。
    それは自分の中に「女」がいるという事。
    しかし、ホモでもなければ、女装趣味がある訳でもない。
    やがて、その「女」は自殺したウェイトレスの女性の姿となって現れるようになる。
    そして、亡くなったはずのその女性から順哉宛に手紙が届くようになる。

    と内容を書くと、まるでホラーのようですが、全くそういう話ではありません。
    ただ恐いと言えば恐い。
    人間の心の奥底にあるもの、その恐さを描いているから。
    この話には、常識では測れない変わった人間が何人か出ていて、人間の心の不可解さ、複雑さ、醜さが描かれています。
    そしてそれに翻弄される人間、滅ぼされていく人間の姿も・・・。

    私は最初、まだ生まれたばかりの赤ん坊だった主人公を捨てて自分の生きたい道を生きる決意をした母親を冷たい人間だと思いました。
    母親がそんなにあっさり血を分けた子供を捨てられるものなんだろうか・・・。
    だけど、母親がその決心をしたのが20歳の時だったと知り、その思いは覆りました。
    わずか20歳でそんな決意ができるなんて、よほどそれまでに自身を確立してないと出来ない事だと思うから。
    多分、その若さでは自分の決断に自信なんてもてないだろうし、目の前にある安定した生活を、全てを捨てるという事なんてできない。
    生半可な考えでは・・・。
    そう思った通り、母親のそれまでの人生は不幸の連続で、苦労続きのものでした。
    人の何百倍も何千倍も苦労した人。
    だからこそ、はっきりと見えたのでしょう。
    自分の道はこれじゃないと。

    同じく自殺したウェイトレスの女性も恵まれない生涯を送った女性でした。
    主人公の中の女とは形を変えた「母親」なのでしょう。
    だからこそ、母親と似たような不幸な女性が主人公の中で女となって現れるようになった。
    だけど、二人は全く違うのに。
    主人公の母親は強い人、亡くなった女性はとても弱い人だった。
    その事に彼はこの後、気づくのでしょうか。
    多分、以前読んだ時はそこまで読み取る事ができなかったのかもしれません。
    今読むとさまざまな人間像、人間の心の深部を描いたこの作品が興味深いと思います。
    帰国後、一度また偶然にも母と再会した主人公。
    そして複雑な心を抱えた登場人物たちはどうなっていくのか、下巻を引き続き読みたいと思います。

  • 読了日不明

  • 話に無理があるように感じた。つまらなかった。

  • 上下巻、久々に読みごたえのある本だったなぁと思います。<BR>
    宿命、という言葉が重くのしかかる物語でした。一人の少女の死から始った物語は、主人公、世良順哉と三十数年前に離別した母親とを引き合わせ、別れの謎を解き明かす旅でした。アッシジ、東京、大阪、北海道どの土地も主人公を取り巻く物語においては色を失ってしまう、ただの町でしかないほどに、少しずつ明らかにされる別れの真意は重たいものでした。<BR>
    母を突然の行動に駆り立てるほどの宿命の重さ。少女の自殺と二通の手紙。若い夫婦の別離の約束。<BR>
    そこには主人公の与り知らぬ多くの物語が幾重にも重なって存在します。すべてが一つに繋がっていく下巻の疾走感が私は好きだと思いました。<BR>
    前回読んだ「人間の幸福」でも思ったのですが、この作家は人の嫌な面、汚い面を描くのが上手い、と思います。<BR>
    会話や動作の端々から、主人公が感じる嫌悪感や苛立ち、その他の負の感情が十分なほどに伝わってくるのです。それは確かに重たいけれど、でも、人が生きているということが嘘偽りなく描かれている証では無いかと思います。
    <BR><BR>
    (2004年5月10日)

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著者プロフィール

1947年兵庫生まれ。追手門学院大学文学部卒。「泥の河」で第13回太宰治賞を受賞し、デビュー。「蛍川」で第78回芥川龍之介賞、「優俊」で吉川英治文学賞を、歴代最年少で受賞する。以後「花の降る午後」「草原の椅子」など、数々の作品を執筆する傍ら、芥川賞の選考委員も務める。2000年には紫綬勲章を受章。

「2018年 『螢川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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