西日の町

著者 :
  • 文藝春秋
3.27
  • (5)
  • (23)
  • (54)
  • (7)
  • (1)
本棚登録 : 151
感想 : 37
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (133ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163211909

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 僕が十歳だったころ、母と住むアパートに”てこじい”がやってきて暮らした日々のことを四十二歳になった僕が思い返す。

    自分の父、てこじいに苦労をさせられてきた母は、てこじいにいじわるしているように見えた。てこじいは何を考えているのかよくわからない人だった。
    てこじいは闘病の末、亡くなった。母もてこじいを愛していたし、てこじいもわかりにくい形で母と僕を愛していた。

    ---------------------------------------

    言葉とか態度で愛情を示すことができれば、それが一番わかりやすい。でも、わかりにくい行動でしか表現できない人たちもいる。そして、本人たち同士ではしっかり通じ合っている。
    家族愛という言葉で表すと、すこし違う気がする。
    そこまで親密じゃない、でもわかりあってる、だから失礼な言動で接する。
    なんて言えばいいのかわからなくてもどかしいけど、絶妙な空気感を味わえた。

    いつか親や祖父母が逝くとき、自分は何を思うんだろう。
    いつか自分が逝くとき、周りの人はどう感じるんだろう。

    そのときにならないとわからないな。でもそのときは絶対くるんだな。

  • 「マッチ売りの少女がマッチを擦ったときだけ幻を見たように、てこじいの煙草に火がついている間だけ、僕は気になっていることを口に出せた。僕にはそれで、ひとまず充分なのだった。」(24ページ)

    勝手に来て勝手に出ていく。
    そんな身勝手な祖父が転がり込んできた。
    共に過ごした季節は、うっすらしたにおいのように、
    微かだけれども、確かな変化をもたらした。そんな物語り。

  • てこじいの半生、てこじいと過ごした僕の思い出について回想されている。

    後半が特に良かった。
    最初は歪な家族関係のように思えたが、
    後半になってくると、それぞれ思い合っていることがわかって心が温かくなった。
    変わったきっかけに思えたのは、赤貝のシーン。
    最後は、てこじいは幸せだったと思う。

  • 「夏の庭」(1992)、「くまとやまねこ」(2008)などの湯本香樹実さんの「西日の町」、2002.9発行です。母親と子供2人の生活の中に、突然割り込んできた、「てこじい」(てこでも動かない)ことおじいさんの話。3人が共に暮らしたのは1年間でしたが、少年のまなざしがてこじいの数奇な生涯をなぞらえていきます。芥川賞候補の作品です。
     「くまとやまねこ」の湯本香樹実さん、1959年生まれ、東京音大卒。「西日の町」、全133頁、2002.9発行、再読。北九州の製鉄が盛んなKという町。西日の照りつける粗末なアパート。母幸子と和志10歳が住んでるアパートに、当然割り込んで来た祖父てこじい。その1年間の暮らしの話。夜、てこじいの前で爪を切る幸子。てこじいが亡くなった後、ときどき、夜爪を切って、てこじいを呼び出す母。少年の心に深く刻まれたてこじいの生涯を描いた書。

  • てこじいがいたこと。

    Kという町で、母と僕との生活に、祖父のてこじいが家に転がり込むように住み着いた。

    てこじいは放浪癖に一家の厄介者みたいな存在で、
    母も叔父も苛立ち困惑しながらも、本当はてこじいを気にかけていた。

    壁に寄りかかって眠るて乞食のような姿。
    戦中戦後のてこじいの生活。
    ふらっと出て行ったかと思えば、夜にアカガイを持って帰ってきたこと。

    暗くひっそりと続いた入院生活。
    祖父がいた子供時代を、
    大人になっても、ふと思い出すことが、ある。西日の町での出来事。

    最初はふーんだったけど、最後じーんだった。

    きっとお手本にもならないろくでもないオトナだったてこじいだけど、子どもにとってはそれでも親で、

    入院中も忙しいながらも世話を焼く母の力強さや
    お腹にいた子どもを諦めた母にたいしての
    てこじいなりの気遣いの優しさが心に染みた。)^o^(

  • 『夏の庭』以来の湯本さんの作品。
    不器用な家族を子供の目線から語られ、祖父てこじいの人間味あふれる性格に惹かれました。
    湯本さんの子供と老人、生と死を題材にしてるこの作品も『夏の庭』も児童文学に分類されるのだと思いますが、いくつの人が読んでも心に染みる作品に思いました。また、なだいなださんの解説もよく見方が勉強になりました。
    いつか自分の子どもに読んでもらいたい。

  • てこじいが、決して横にならず、壁に寄り掛かったまま
    寝る理由が切なかった。
    看取りの描写が見事。

  • 第127回芥川賞候補作。
    文字が大きく薄いので、1冊で短編のよう。
    「てこじい」とその孫の僕、そして母の物語。
    夜に切る爪からてこじいの最期まで
    どことなく「死」というものを匂わせる。
    ダメな大人でありながら、魅力的な祖父に
    魅了されている僕と、父を心底嫌いになれない娘(母)
    「僕」の視点から見た、そんな家族の回顧録です。
    以前 読んだ「岸辺の旅」の方が面白かった。

  • 2003年4月21日読了。

  • 2010.05.31読了

全37件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1959年東京都生まれ。作家。著書に、小説『夏の庭 ――The Friends――』『岸辺の旅』、絵本『くまとやまねこ』(絵:酒井駒子)『あなたがおとなになったとき』(絵:はたこうしろう)など。

「2022年 『橋の上で』 で使われていた紹介文から引用しています。」

湯本香樹実の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×