対岸の彼女

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163235103

感想・レビュー・書評

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  • 自分の子どもの様子を見て、自分が子どもの時と重なる。
    これは実際に経験したことはないけれど、だけれど容易に想像することができた。

    結婚して出産した小夜子。
    結婚も出産もしなかった葵。
    ふたりの関係と、子ども時代が交互に描かれる。

    自分とは違う人生を送った「対岸」の相手は、自分とは違うものを持っていて「隣の芝は青い」状態で引き合う…のかと思っていたら、やはり他人の人生は「対岸」でしかないのだ。
    周りの噂話やそのときの気分で勝手に相手の人生を想像する。妄想して決めつけて自分の中で完結する。
    わかりあえそうなのに、なかなかわかりあえない。

    それぞれ家庭に対して抱くそれぞれのモヤモヤがなんだか現実的だった。
    それぞれ、いろいろあるものだ。
    だけれど、人は人に出会って生きていく。

    希望の光が差し始めた終わり方だったけれど、もうちょっと明るい気持ちになれる作品を読みたい気分だったのだと読後に感じた。

  • 学生時代も社会に出てからも女って面倒くさい。運良く私は学生時代にトラブルはなかったし、中学からの友達と今でも一番付き合いがある。そして、この人は信頼できるという前職の友人も何人かいる。
    でも、歳を重ねただけ友人だった人の裏切りにも合ったし、かつてあんなに一緒にいたのに今では名前も忘れるくらいな友人(?)もいたり…今でも職場では表でいい顔して、上司にあることないこと告げ口しまくっている年上女に悩まされたり…そんな面倒くさい関係がリアルに綴られていた。
    女って何でこんなに面倒くさいんだろうと何度も思いながらも自分も他人から見たら面倒くさい時があったりして、未だに抜け出せなくてもがく自分がいる。女って一生そうかもね。

  • 直木賞受賞作。

    高校生の時に読んでいたならきっと、惹かれたのは「大切なものは1個か2個で、あとはどうでもよくって、こわくもないし、つらくもないの」というナナコの言葉だったと思います。

    高校生の頃は、とても世界が狭かったと思います。
    その分密度が濃くて、人間関係にも過敏になっていた時期。
    それだけあって、クラスの空気を読む力を持たない女性は少ないんじゃないでしょうか。1人でいるのはまったく平気だけど、集団の中で孤立するのはとても居心地が悪くて、つい守りに入っていた自分がいた気がします。

    今一番共感できたのは、修二とのくだりかもしれません。
    たとえば、小夜子が感じた
    「家の中は整頓され、手作りの料理が並び、引き出しにはアイロン済みの衣類が入っているその状態が、修二にとっては当然の、ゼロ地点なのだ。何かひとつでもおかしなことがあればそれはただちにマイナスになる」
    というくだり。

    やって当たり前のことかもしれないけど、認められたい気持ち。
    家事は、まじめにやると結構大変なんだけどな。


    働く母と専業主婦、集団に所属する高校生と自由奔放な高校生、子持ち既婚者と独身女社長。
    まったく違う立場でいながら、通ずるもののある存在。
    赤毛のアンがランプで合図をしていたように、対岸にいてもわかりあえる。
    違うことにも価値があるんですよね。

  • 女の思春期から大人になった頃合いの生き辛さを描いた小説。
    集団でつるむの私も嫌いだったけど、1人になるのはもっと嫌だったな。でも1人で行動してみたらそれはそれはとても開放感に溢れていた。そう気付くまでに女の子って時間がかかるものだよね…。

  • 何のために年を重ねるのか、私はどこへ行こうとしているのか。それを考えさせられた。
    葵が海外の1人旅で現地の人に金をとられ、信じることが怖くなったとき、でも生き抜くために「えいっ」と思いきりよく、「私はこの世界を信じるんだ」と言い切った瞬間が好き。覚悟と共に、解放感も感じた。

  • 高校時代のパートはいいなぁ…すごくいい。
    アオイとナナコが生き生きしていて、どの場面も(苦しいところでも)魅きつけられる。
    彼女達の笑顔と、川や海の美しい光景も鮮やかに目に浮かんだ。
    行き着くところはどうあれ、二人が出会ったことは確かに眩しい幸福だった。

    …この、高校時代だけで良かったなぁ、私は…。
    現在パートの始まったところでは興味の持てたアオイもサヨコも、好感は読めば読むほど失われてしまった…。
    まずアオイは何なの…。
    自分の満たされなさにナナコぶって(まあ下手な物真似!)他人を巻き込んでビジネスをさえ装うとか…。
    こんな経営者、私も辞めるわ。
    何で辞めた方が悪者みたいな描き方なのかわからない。
    そしてサヨコも何様なのか…。
    幼稚園ママ達が保育園を悪く言う場面が特に苛立った。
    サヨコに対しても、作者に対しても。
    全編通じて一面的なんだよね…。
    サヨコは働く母と家にいる母、両方がわかるはずだろうに、何で断罪目線なの何で自分は違うって目線なの。
    現在だけでなく、これまでも彼女はそうやって自分は違うと無意識に上から見ていたんだろうな…そりゃあ友達出来ないわ。
    で、働きたい、自分はそれが合ってる、と思うのはいい。
    それは個人の選択。
    でもそこで選ぶべきは中越典子の方だろう…。
    アオイに友情を感じていたから、ということにしたいんだろうけど、私には双方どちらも友情を感じられない。
    アオイは自分をナナコのように感じさせてくれるサヨコが便利、サヨコは自分を便利だと思ってくれるアオイが便利。
    結局、二人ともナナコの幻を介していて、お互いを真っ直ぐに見ることなしに終わる。
    アオイの次の会社も二人の仲も、また大して経たずに終わるだろう。
    バッドエンドとして書かれているなら私はむしろ納得したのだけど、ハッピーエンドなんだよね、作者としては…。
    高校パートは本当に良かったので、現在パートが私に合わなかったのがとても残念だった。

  • 直木賞受賞作

    「ひとりぼっち恐怖症」


    そんな私世代の既婚女性小夜子と未婚女性葵のお話。
    それぞれ対岸にいる二人の過去と現代を交差させたお話。

    共感できちゃうことばかり。
    友達がいないと世界が終わる・・・
    ずっとそう思って小さい世界を生きてきたなぁ。
    いつからだろう。
    ひとりでもいいって思えるようになったのは。
    必死になって誰かと繋がっていなくちゃって思わなくなったのは。


    そんなこと思いながら読みました。
    きっとものすごく前向きになれるお話なんだと思う。
    最後はハッピーエンドだし。
    でも、私には入り込めなかったかな。
    表現の仕方のせいなのか、
    最後の展開のせいなのか。

  • 第123回直木賞受賞作品。

    小夜子、女社長の葵、あかり、ナナコ、中里さん。
    作品に登場する人たちは、みんなどこかであったことのある人みたいです。

    角田さんは、非常に器用な作家さんなのではないかなと思います。
    上手だな~、という感想。
    嫌味がなくって少々羨ましい。

    器用に生きられたらいいけど、なかなかそうはいきません。
    難しいですネ。

  • 既婚、未婚というそれぞれ違った立場にいる30代の女性同士の微妙な関係、みたいなふれこみで、何となく斜めな気持ちを持ちながらも、興味がないわけじゃなかったので手にとってみたのだけど、そんな陳腐なもんではなくて、なんと言うか、思春期の女子独特の儚さや脆さ、ピュアな幼さがひたひたとしみいってきて、自分の奥深いとこにある何かが揺り起こされるような感じがして、読後、爽やかなものが残った。頬を伝う汗や、エイトフォーの香りを思い出した。

  • 直木賞受賞で話題になったときに一度読み、最近朱野帰子さんの『対岸の家事』という小説を読んだことで本書を思い出して再読しました。

    2004年発行から約20年か…。なるほど時代を感じるなと思った。古臭いという意味ではないです。直木賞というのはその時代時代を表しているものなんだなぁって実感しました。

著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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