ベルカ、吠えないのか?

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163239101

作品紹介・あらすじ

二十世紀をまるごと描いた、古川日出男による超・世界クロニクル。四頭のイヌから始まる、「戦争の世紀」。

感想・レビュー・書評

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  • 1942年、ミッドウェイ作戦の一部として行われた作戦により、アリューシャン列島に属するアッツ島とキスカ島が日本軍に攻略された。しかし、翌43年、アッツ島はアメリカ軍により奪還。これを受け、日本軍はキスカ島から撤退した。人間の兵士は一人残らず引き上げたが、残されたものがいた。
    犬だ。
    軍用犬は後に残されたのだ。
    彼らのうち、あるものは上陸してきた米軍相手に「玉砕」し、あるものは島に残り、あるものは米本土に連れていかれた。

    タイトルの「ベルカ」とは何ものか。
    地球軌道を初めて周回した動物は犬のライカ(スプートニク2号;1957年)である。当時は生還させるすべがなかったため、その死は最初から規定事項だった。犬が生還に成功するのはその3年後の1960年。その犬、ベルカとストレルカ(スプートニク5号)は、ウサギ、ネズミ、ラット、ハエ、沢山の植物や菌類とともに、初めて軌道周回から生きて帰還した生物となった。
    「ベルカ」は、この宇宙犬の子孫である。

    物語は戦中・戦後と1990年代を行き来する。
    それをつなぐ糸は犬たちの系譜だ。
    軍用犬も宇宙犬もそれぞれの伴侶と番い、子孫を残した。
    見えざる手に導かれ、彼らの運命は交錯する。
    犬たちそれぞれの運命がどこでどのように交わるのか、それがどう現在へとつながっていくのか、それが物語を牽引する。

    著者は本作を「想像力の圧縮された爆弾」と呼んでいる。
    物語は疾走する。語り手(≒著者)は、折に触れ、語り掛ける。
    イヌよ、イヌよ、お前たちはどこにいる?
    犬たちは答える。
    うぉん。うぉん。うぉん。
    彼らは時に洋上に、時に戦場に、時にブリーダーの犬舎にいる。その運命は必ずしも薔薇色ではない。しかし彼らは生を全うしようとする。番い、子を産み、育てる。
    現在形を多用して綴られる彼らの見事な生(時にあっけない死)は、不思議な高揚感を誘う。
    そして物語は1990年代へと収束する。

    91年に起こること。
    それはソ連の崩壊である。
    物語はそこに犬たちの叙事詩を結び付けようとしているのだが。

    個人的には、この試みがうまく行っているのか、よくわからずに終わった。
    序盤から中盤は非常に引き込まれて読んだのだが、90年代部分には終始ピンとこなかった。あるいはロシア史をよりよく知ればもう少し乗れたのかもしれないが。謎の老人には若干の魅力を感じる一方、ヤクザの娘やその父親、ロシアマフィアとのあれこれには魅かれる点が少ない。好き嫌いで物を言っても仕方がないが、理屈でどうにかできないのが好き嫌いでもある。
    そう言ってしまっては身も蓋もないが、そもそも軍用犬の生き残りと、宇宙犬、ひいてはロシア史を結びつけるところにやや無理があったのではないかという気もしてきてしまう。いや、着眼点はすごいと思うのだが。
    途中までは熱中していたので、絶賛のレビューが書けずに残念である。

  • ひさしぶりの古川日出男さん。文章が音として心地よくテンポよく目で追っているだけでトランスしていくみたい。歴史は苦手だけど、古川さん語りなら読めた。イヌの系図がつなぐ一本の糸でとてもわかりやすく、エモーショナルに。読中、読後、なんか、飼い犬のチワワのおでこの匂いすら、すごく愛おしく尊いものみたいに思えたね。古川さんのご友人のシンガーソングライター小島ケイタニーラブさんが作った「ベルカ」という曲もとても好きです。うぉん!

  • 2011.02.第2次世界大戦中、日本が占領したアッツ島に4頭の軍用犬が残された.北、正友、勝、エクスプロ―ジョン.これらの子供たちが世界に広がる.犬橇の話、日本のやくざとチェチェンとロシアのマフィア、メキシコの麻薬密売、ベトナム戦争、ドッグショウ、ロシアのロケットに乗せられた犬、カヌーによる太平洋横断、アフガニスタン紛争と様々な話にイヌが絡む.とりとめもなく、よく分からんし面白くもない.

  • 戦後の混沌とした時代に犬の系譜を辿る旅である。犬に絡めてアリューシャンやらメキシコやらハワイやら、色んなところをウロウロしては、それなりに魅力的なメンバーが出てきてそれはそれで楽しい。ヤクザの娘なんかツンデレっていうか攻撃的な肥満ってヤダ何それ怖い。でも悪くない。
    んだけどもね、いやイチイチ歴史的背景というかアカやらアメリカやらで説明が長いんだよね。なんかそれでお腹いっぱいになってどうも煮えきらんかったのよ。

  • 4頭の犬から始まり、その血が、運命がどんどん展開していくので読み応えがあった。

    人間に振り回される犬たち。哀れな最期を遂げるものも多いけれど、「可哀想」という言葉より、その「気高さ」や獣としての「逞しさ」が似合うなと思った。

  • 「人が死んでも犬は死なない映画」みたいなコピペにすっかり慣れた状態で読むと仰け反るほど呆気なく犬がたくさん死ぬ小説です。犬と聞くと無条件に愛おしくなる人にはツラい。
    あと、腹の立つ馬鹿が出てくると漏れなく壮絶な目に遭って死ぬか、かなり残酷な仕打ちで成敗されるので、ちょっと震え気味にではありますがだいたいスカッとします。
    太古より犬の賢さ、忠誠心、学習能力は、同じだけ歴史の長い人の業に裏打ちされているのかもしれない。

  • 「2006本屋大賞 8位」
    九州産業大学図書館 蔵書検索(OPAC)へ↓
    https://leaf.kyusan-u.ac.jp/opac/volume/688388

  • 帯に釣られて借りてみたけど・・・・読みづらかっただけ

  • 2018.3.17
    292pでギブアップ。
    発想はすごいんだけど
    文体がアツくてアツくて…
    苦しすぎた。
    視点がたくさん変わる本は相性が合わないと辛いんだなぁ

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著者プロフィール

1966年生まれ。著作に『13』『沈黙』『アビシニアン』『アラビアの夜の種族』『中国行きのスロウ・ボートRMX』『サウンドトラック』『ボディ・アンド・ソウル』『gift』『ベルカ、吠えないのか?』『LOVE』『ロックンロール七部作』『ルート350』『僕たちは歩かない』『サマーバケーションEP』『ハル、ハル、ハル』『ゴッドスター』『聖家族』『MUSIC』『4444』『ノン+フィクション』『TYOゴシック』。対談集に『フルカワヒデオスピークス!』。CD作品にフルカワヒデオプラス『MUSIC:無謀の季節』the coffee group『ワンコインからワンドリップ』がある。

「2011年 『小説家の饒舌 12のトーク・セッション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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