沖で待つ

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 357
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  • Amazon.co.jp ・本 (108ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163248509

感想・レビュー・書評

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  • 「勤労感謝の日」「沖で待つ」
    どちらもすらっと読めて、入り込んでゆけた。辛辣さがあった。バブル崩壊を境に大きく変わった働き方、女性総合職が出来た頃のお話。お仕事小説は苦手意識がありましたが、自然に織り込まれる仕事現場、仕事に奮闘する現場の裏側に惹きつけられた。
    同期の男女の恋愛感情とも違う、強い絆を描いた沖で待つ。「沖」で待つんだな、そこでぐっときた。光景が浮かぶ、それなら怖くないかも。
    沖で待つ、のある事情を除けば大きな出来事が起きたわけでなく通り過ぎるような日常。その中でふつふつと湧き上がる主人公の切実な感情表現が巧みだと思いました。現実的なテーマなのに宙を浮いているような感覚を得た一冊でした。正直、そこまで読み込めなかった自分がもどかしいですが、この空気感は気になるので、他の作品も読んでみたいと思いました。

  •  『勤労感謝の日』(初出二〇〇四)『沖で待つ』(初出二〇〇五)の短編二篇。どちらも総合職として入社した経験を持つ三十代女性が主人公の話。物語の焦点も文体も互いに異なる二篇だが、当時の女性総合職の生きるさまをありありと見せてくれるところは共通している。
     これがまた、上野千鶴子のミソジニー本(『女ぎらい』)の直後に読むという乙なリレーをしてしまったから、もはや“ミソビュー”でしか読めない。テトリスをひたすらやりまくったあとに、周りの何を見ても並べて消したくなるあの現象さながらに、周りの何を見てもミソ度測定してしまう感じ。
     この二冊を図書館で同じタイミングで借りたのは本当に偶然なのだが、上野千鶴子本の中で『沖で待つ』のほうは脱ミソジニーの兆しが見える作品のひとつとして言及されていた。ミソジニーのもとでは、男女の友情は「成り立たない」に決まっていたが、『沖で待つ』には男女の友情が描かれている、と。それでいうと、作中の男女同期の友情だけでなく、男の先輩との関係もミソ度が低い。
     ただまあ職場の人間関係というのは、共に達成しなければならないミッションがあるから、その達成のために良好な関係を築こうという動機付けが働くところもある。仕事をして生きていく者にとっては、「仕事がきっかけで生涯の友達に出会えた」と「仕事でもなければ友達になんてなってなかった」の差に意味はない。仕事だろうが、男女だろうが、同じ人間同士出会ったのなら、一方がではなく双方が楽しい(それが無理ならせめて「苦しくない」)関係を築き維持したい、それだけだ。ミソジニーの世界では、女は男からみたら対等な人間ではない。
     『勤労感謝の日』の主人公は、ミソ度百パーセントの人たちに囲まれこれに抗っている。上野千鶴子によるフェミニストの定義「ミソジニーへの“適応”をしなかった者たち」そのものだ。作中にあった「総合職をやめた女に共通する脱力じみた孤独感」という言葉が忘れられない。

    • akikobbさん
      111108さん
      あ、私もこの本読もうと思ったのはそのラジオきっかけですよ^_^!小川洋子さんの本読んだことない(^^;けど、藤丸さんとのや...
      111108さん
      あ、私もこの本読もうと思ったのはそのラジオきっかけですよ^_^!小川洋子さんの本読んだことない(^^;けど、藤丸さんとのやりとり含めてあの番組は
      2023/02/10
    • akikobbさん
      あの番組好きです♪(途中でポチってしまった)

      ちなみに上野さんに手を出したのはNHKの100分de名著きっかけでした。
      あの番組好きです♪(途中でポチってしまった)

      ちなみに上野さんに手を出したのはNHKの100分de名著きっかけでした。
      2023/02/10
    • 111108さん
      akikobbさん
      わぁ聴いてたんですね‼︎いいですよね〜あのラジオ!小川さんと藤丸さんのコンビで読めてない本も楽しく読んだ気になりますね♪...
      akikobbさん
      わぁ聴いてたんですね‼︎いいですよね〜あのラジオ!小川さんと藤丸さんのコンビで読めてない本も楽しく読んだ気になりますね♪
      100分で名著も気になる著者いっぱいですね。
      読む読まないはさておき、自分の範疇に無かった読書できるの楽しいですね!
      2023/02/10
  • 図書館放浪して海を題材にした作品を探していたときに気になって借りた本。
    表紙は漁港の海の照り返しの光と影が美しい写真、高林昭太さん。

    『勤労感謝の日』
    主人公恭子の踏んだり蹴ったりなエピソードてんこ盛りと焦り、見合い相手とのお互い値踏み査定しあう気持ちの悪さが歯に衣着せぬ描写で、抜け出して正解、飲まないとやってらんないねと声をかけたくなる。後輩水谷との飲み会も楽しそう。
    『私達の顔には「私は他の女とは違うのよ」という生意気な刺青が刻み込まれていて、何度顔を洗ったって抜けないのだ』
    『総合職をやめた女に共通する脱力じみた孤独感が漂っている』
    喜三昧という中華料理屋さん、いいなあ。
    家に帰りたくないときにふらっと立ち寄れるお店欲しい。
    マスターみたいに「それでだめだったら、そのときさ」と思いたい。

    『沖で待つ』
    ですます調で、口語体でお話を聞いているような優しい文体。
    友だちとも恋人とも違う、職場の同期太っちゃんとの約束をしっかり果たす及川さんの必死さが少し滑稽だけど、何だか素敵な関係だと思った。お仕事現場の様子はすごく興味がわいて、なじみのある福岡の地名もいろいろ出てくるので楽しかった。七隈線開通というポスターとか年代がわかる。どのお仕事でもクレームってなんでもありで大変だ。仕事のできる井口さんと結婚した太っちゃん、職場の人達の声掛けも楽しそうな職場。
    『根性さえあれば、女だろうがよそ者だろうが、ちゃんと認めてくれました』及川さんもいい仕事していたんだと思う。
    寒北斗飲みたい。(お酒弱いけど)
    最期のことを考えると、人に言えない秘密はいろいろ整理していた方がいいなあ、と思いながら、沖で待つ人がいるのは羨ましいなあとも思った。

  • 二篇収録。突っ張った文体は女性ならではという印象。さくっと読めます。

    「勤労感謝の日」
    とある理由で自己都合退職をした38歳独身失業中の恭子は近所のおばさんの勧めで見合いをする。ここまでヒドイ男を前にすると、苛立ちを通り越して達観するのか。カイコ繭というビックリ例えに慄きつつ、何も解決はしていないけれど読後は不思議とすっきり。人間生きていればどうにかなる。

    「沖で待つ」
    同期・太っちゃんと「どちらかが先に死んだ場合、相手のHDDを壊す」ように約束する。太っちゃんと主人公は同志のような、すごく良い関係だなと思った。最後のやりとりは切ないはずなのに何故か微笑ましい。読んだ後にタイトルに立ち返ると、笑いながら泣きたくなる。

  • 一気読みでした。

    「勤労感謝の日」
    社会の中で揉みくちゃにされ、でもうまくいかなくて、そんな狂おしい一人の女性の気持ちが、生々しく描かれていました。文章のスピード感がハンパなかったです。

    「沖で待つ」
    同期採用が同じ職場にいなかったので、「同期」という言葉が、とても新鮮に響きました。男女の友情が羨ましくもありました。

    淡々と進む文章の中に、一人の人を想い慕う心があふれていてグッときました。

  • ひじょうに好きでした
    「勤労感謝の日」は、いろんな怒りや恥を抱えて鬱屈したユーモラスな無職の主人公の一日の話で、最後居酒屋のマスターとの会話がとってもよかった
    「沖で待つ」は、恋愛ではなく、友情とも違う、同じ年に同じ仕事を始めた仲間という「同期」の不思議な関係性を描いていました、死んだあとに出てきてくれたのは、自分が死んで、相手のHDD破壊が遂行できなくなったから、やばいことなる前にやめときなというのを言いにきてくれたのかな
    どちらの話も好きでした

  • 沢山笑ってほろりと涙ぐんだ短編二編。
    どちらの話もツボにハマった。

    『勤労感謝の日』は主人公・恭子の容赦のない鋭いツッコミの嵐に大笑い。
    恭子の見合いの席をこっそり覗いてみたい(勿論参加は遠慮する)。
    でも見合いをトンズラした後に立ち寄ったヤサグレ三昧のような飲み屋は羨ましい。
    店のマスターの「やれるとこまでやるだけだね、それでだめだったら、そのときさ」のセリフが心に染みる。

    表題作『沖で待つ』の太っちゃんのキャラがいい。職場にこういう仲間がいたら仕事も楽しいだろうな。
    「同期」って仕事上の同士のような戦友のような関係。同期の及川と太っちゃんが結んだ協約を及川が必死に遂行する様子には微笑んでしまった。
    太っちゃんが最後に遺した「沖で待つ」という言葉は私の心にもずっと残りそうだ。

  • 絲山さんの作品を読んだのは二作目。先に読んだ「エスケープ/アブセント」は男性視点から描かれた作品で、硬質な文章と内容に驚かされた。今回は二作収録されており、いずれも女性視点で描かれていた。芥川賞受賞作で代表作であろう「沖で待つ」は、ご自身の経験を生かされ、同期の死をテーマに書かれている。決して重くならないところが素晴らしい。
    同時収録されていた「勤労感謝の日」はもろストライクゾーンで絲山秋子という作家にますます興味を覚えた。

  • この人の文章、好きだなぁ。。。

    ずっと前に読んだ数作はそれほどピンとこなかったけど、装丁に惹かれて手に取った近著『北緯14度』が思いのほかぐぐっと心に入り込み、別の作品も読みたくなった。

    結果、上記の通り。
    特にタイトル作の『沖で待つ』は何とも言えない余韻を残す。
    映画でも本でも、"余韻を残す"作品は、私にとっては最上級のものです。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      最近読んで、お気に入りになった絲山秋子。もっと読まなきゃって思ってます。。。
      最近読んで、お気に入りになった絲山秋子。もっと読まなきゃって思ってます。。。
      2014/07/03
  • 『勤労感謝の日』
    失業手当を受給している三十六歳無職の女。勤労感謝の日につきあいでお見合いをするが、なんとも言えない勘違い野郎だったので、途中で離席して渋谷へ遊びに行く。その後も帰る気になれなかったので、飲み屋へ行く。

    『沖で待つ』
    便器などを扱うメーカーで同期だった太っちゃんのことを思う女。ともに福岡に配属されて仕事を覚え、酒を飲んだ。
    太っちゃんは職場で結婚し、子どももできた。その後、女は埼玉へ転勤となり、太っちゃんは東京に転勤した。
    女と太っちゃんは約束した。どちらかが死んだらパソコンのハードディスクを破壊する、と。
    太っちゃんが飛び降り自殺の巻き添えで亡くなった後、女は約束を守ってパソコンを破壊する。
    しかし、太っちゃんの自宅からは詩を書いたノートが発見され、死んだ太っちゃんは恥ずかしい思いをする。

    -----------------------------------------------

    どちらも三十代の女性の話だった。
    『勤労感謝の日』は主人公の愚痴というか、ツッコミみたいな文句が随所で冴えていて、気持ちよく読めた。爆笑問題の日本言論シリーズを読んでいるみたいな気分のまま読み終えた。
    葬式での上司の態度にブチ切れて仕事を辞め、お見合い相手に嫌気がさして渋谷へ行き、渋谷へ行ってそのあと酒を飲むだけの話になんだかとても心を動かされた。
    すごく読みやすい文章で、面白い。この人の本をもっと読みたいと思った。

    『沖で待つ』は何かの賞になった作品らしい。
    突然死んでしまった同期入社の男性との友情と、過ぎていった過去を想う気持ちの描写がとてもよかった。よくわかんないけど、これは賞とか取るだろうなあという感じ。
    同期入社で一緒に福岡へと配属された太っちゃんと及川さんの繋がりを順番に説明して、そして現在の太っちゃんが死んだ後にたどり着く。彼らの二十代前半から三十代前半を走馬灯のように眺めたような気分。圧巻だ。

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著者プロフィール

1966年東京都生まれ。「イッツ・オンリー・トーク」で文學界新人賞を受賞しデビュー。「袋小路の男」で川端賞、『海の仙人』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、「沖で待つ」で芥川賞、『薄情』で谷崎賞を受賞。

「2023年 『ばかもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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