- Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163248608
感想・レビュー・書評
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実体のない、空気とはまたちがうんだけどほんとに形がないような文章に、たまに熱が加えられていて形が造られていく。そこがいいのかもしれない。失踪した夫と残された妻、そして子供と母親。女ばかりの3人暮らしって精神的につらいものがあるよなあ。いくら血がつながっていようとも。
おんなのひとの情欲、ふとしたときに思ってしまうこと、それらがすべてが波間に揺れているようにゆらゆらと頭を揺さぶる。心地好いわけでもないし、むしろ不気味で背筋がぞぉっとしてしまうんだけど、なんだかくせになる。
惹かれてしまうのって、いくら自制心を持っていたとしてもありえることだし、だからふらふらっとあちら側の世界に寄り付いていってしまうこともあると思う。けれど、こちら側の世界に戻ることができるってのは生きていける証拠なんだろうなあ。なんて本筋とはあまり関係ないことばかりを考えてしまう作品だった。
(266P)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
失踪した夫の思い出の中と、失踪した十数年後の今を、たゆたいに生きる残された妻。
そして、その妻についてくる、異形の影。
物語は、今生と他生を彷徨いながら、過去と現在・男と女・親と子の希望と絶望を浮き彫りにしていく。
川上弘美さんの作品は初めて読みましたが、文章が非常に素晴らしく、詩篇を読んでいるようなリズムと、言葉ひとつひとつの持つ輝きが胸の中で音楽のように広がりました。
本当に素晴らしい才能をお持ちの方だと、つくづく感服しました。
小説として完璧な作品だとは思いますが、好みをいえば、ラストがきれいにまとまりすぎなので4点。
これは、読み手の好みによってわかれるかと。
それと、素晴らしい文章を忘れたくないので、特に気に入ったのを2つほど。
光があたらしい。朝だからだろうか。まだなめされていない、生のままの光。
耳の奥できこえていた音が、急に外へすいだされ、大きくひろがる。「耳がとおった」
この作品、女性の愛憎劇だけではなく、ミステリー的な手法もとりいてていたりするので、ミステリーファンでも充分楽しめると思います。
万人受けするとは思いますが、特に生活に対する閉塞感を感じているときなどは、ばっちりはまるかもしれません。
そういう意味で、日常に刺激がなく感じている方には特にオススメです。 -
川上弘美久しぶりに読みました。ちょっとフワフワした感覚の文章結構好きです。「センセイの鞄」とか「溺レる」好きでした。真鶴は失踪した夫を待つ女性の心理が妙にリアルでした。体に溜まる熱のようなものがとても強く伝わりました。割り切れない思いや寂しさにリアルな日常が重なっていく感じが濡れたガーゼを重ねていくみたに冷たさと共にヒタヒタしていく感じ、好きです。
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へだてがなくなることを希うひとの物語は、私の何をも揺らすことはないのだなあと思う。
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読むのに凄く時間が掛かりました。ひとつひとつの文章が重くて。主人公の人に対する執着が怖くなりました。特に娘に対しての。
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にじんでくる。
切ない。 -
不思議系の話。
途中で飽きて、読むのやめちゃった。
今までの川上弘美とちがって、とっつきにくかった。 -
にじむ。
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川上弘美のテクストにしばしば見られる「別れ」をきっかけとした生命力の芽生えがここにもある。
枯れてしまった草花は切り落としてやらねばならない。生きているものへの栄養がゆき渡らなくなるからだ。
京は礼と決別し、その生命力は家族の中に注がれる。百が京にとっての新たな礼となるのだろう。
同時に母にも老いが訪れる。
生あるものはいつかは枯れてしまう。
枯れたものを切り落として、それでも生の営みは脈々と続いてゆく。
これは、新陳代謝の物語である。 -
不安定な人の話は久しぶり。悲しい、辛い、怖い。とても直感的。私は幸せなお話が好き、だって持っていかれてしまうから。こうして書いていないと、落っこちてしまいそう、と、暫くぶりに思う。