風に舞いあがるビニールシート

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 573
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  • Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163249209

作品紹介・あらすじ

愛しぬくことも愛されぬくこともできなかった日々を、今日も思っている。大切な何かのために懸命に生きる人たちの、6つの物語。

感想・レビュー・書評

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  • 久しぶりの森絵都さん。宇宙のみなしご以来、約一ヶ月ぶりです。久しぶりに読んだことない森絵都さんの本を見つけたのでついつい吸い込まれるように手に取っていました。
    風に舞い上がるビニールシートというタイトルも気になりました。読んでみると六編の短編集でそれぞれの世界観どれも良いもので面白かった。

  • 短編集。最後の表題作が一番好きかなぁ。
    なにかに入れこんだり、夢中になったり、愛したりっていう行為は、客観的にみると一般的なことからズレた場所を、まっすぐ進んでいるようなものなのかもしれないと、この短編集を読んで思った。
    このままどうなってしまうのか、読んでいると不安になるくらい、真っ直ぐに、人も物語も突っ走っていくけれど、落ち着くところにおさまる。

  • 素晴らしい短編集。
    森絵都さんの多岐にわたる関心と好奇心の程が伺えた。
    そして一つ一つの短編に、前を向こうと頑張る者に向けた暖かい眼差しと、人間の可能性を祝福する姿勢が表れている。
    とくに仏像の修復師の物語『鐘の音』と、本書タイトルの『風に舞いあがるビニールシート』が好き。

  • 少し内容が難しいなと感じるものもあったが、
    「器を探して」は続きが読みたいと思う短編だった
    ⭐︎⭐︎⭐︎
    あまりにおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。
    生まれてきてよかった。

  • 森絵都さんの短編が6つ収められた作品。

    どの話も決して明るくはない話題を重すぎない筆致で綴られ、
    最終的には少し光が差し込む感じにまとめられているので、読後感がよい。

    どの話の主人公も、
    情熱、というと大袈裟かもしれないけど、それを傾けられる何かがあって、
    そこへのアプローチは様々だけど、
    等身大の愛すべき人々でした。

    かつての私も、夢中になって追いかけるものがあって、
    でも、1つかけ違えたボタンによって、
    夢中が故に自分を傷つける結果になりました。
    今は方向転換をし始めるタイミングにいるので、
    「鐘の音」には他の話とは違う共感と希望を抱きました。



    でもやっぱり一番ぐっと来たのは風に舞うビニールシート。
    国連難民高等弁務官事務所という、もはや一般企業の常識の範疇を超えた、
    ある種の使命感なくしてはできない仕事をとりまく家族の感情が、どんどん心のなかに入ってきました。
    当人が言ってる意味は頭ではわかる。でも、家族の立場で、心からの納得は簡単にはできない。
    そこから、物語のゴールに向かっていくときの心の機微がとても自然でした。

    中学生以来に久々に森さんの小説を読みましたが、やはり好きな作家さんです。

  • 6編の短編からなる短編集。最初の「器を探して」「犬の散歩」を呼んだ後、「風に舞いあがるビニールシート」までとばしてしまった(正直あまり刺さらなかったので)。
    ただ、「風に舞いあがるビニールシート」には考えさせられた。難民問題に向き合う夫とその夫を心配し、2人で平和に暮らしたいと願う妻。
    『私は富める国に生まれた大多数の人たちと同様、貧しい国の惨状から目を背けているだけだ。』
    『ああ、やはりこの国は平和でいい。平和ボケ万歳だ、望むところだ。平和ボケは美しい。ボケでもなんでもすばらしい。どうかこの美しさが、すばらしさが永久に続きますように。』
    日本で暮らしている自分も当然「富める国に生まれた大多数の人」。教科書やテレビなんかでは見るけど、本当は見ようともしていない貧しい国の惨状。そんな平和ボケしたすばらしい世界…。
    最後の最後で、妻は夫が死んだアフガンへ行きたいと志願する。夫の人格を形成した幼少期の環境や、それを知らずにおり、死後に知った妻にどんな心情の変化があったのか、思わず考えてしまう。

    想像以上に惨い苦しい世界があることを知った上で、日本にいる私たちはしっかりと平和ボケして、平和ボケした世界をちゃんと「すばらしい」って言っていかなきゃいけないな、と思った。

  • 6つの短編小説から成る物語

     ひとつひとつの作品が短編とはいえ 十分な読み応えを感じさせるのは 著者の森さんが持つ深い知識と作品を書くにあたって調べ上げたであろう情報量の多さに他ならない

     6話はどれをとっても面白く読後感が良い

    ◯『器を探して』の作中に『釣具小鳥将棋碁麻雀』というのが出てくるが こういう発想に感心する

     『一口含んで、泣きたくなった。昔から、あまりにもおいしいものと出会うと、弥生は泣きたくなる。生まれてきてよかった。そうつぶやくと周囲は大袈裟と笑うけれど、「食」とは人類に最も手短な、そして平等な満足と幸福をもたらす賜りものであると信じている。』
        (器を探して の文中より)

     同感!
    そうだ そうだ!
    『衣食住』というが 『食』は人の体ばかりか心もつくりあげる

    ◯『だから、私の中にいつもあるのは、自分はこの犬たちの一割を救っているんだって思いじゃなくて、ここにいる九割を見捨ててるんだって思いなの』
       (犬の散歩 の文中より)

     ボランティアをするにあたって してあげているという優越感ではなく これしかできないけど自分のできることはしっかりさせていただくという使命感がある人間がいることが素晴らしい
    ボランティアの真髄を問う物語でもある

    ◯『守護神』では 「伊勢物語」や「徒然草」の解釈や考察が面白すぎだった

    ◯『鐘の音』は仏像の話が大変興味深かった
    私の父は丸太の木から仏を彫り起こす作業を趣味にしているからなおさらだ
    仏を彫るも 修繕するも 仏の御魂を移す儀式も 全てが厳かでドラマチックだった 
    だからこそ プラモデル用の接着剤や 最後の鐘の音のくだりはクスクスっと笑えて楽しかった

    ◯『ジェネレーションX』ではオチがあるに違いないと
    想像力を駆使して読書を楽しんだが 私の想像力を超える明るいオチが待っていた

    ◯『風に舞いあがるビニールシート』は 表題作なだけあって 濃厚なメッセージ性をはらんだ物語だった
     
    『もう君は聞き飽きたと思うけど、僕はいろんな国の難民キャンプで、ビニールシートみたいに軽々とばされていくものたちを見てきたんだ。人の命も、尊厳も、ささやかな幸福も、ビニールシートみたいに簡単に舞いあがり、もみくしゃになって飛ばされていくところを、さ。』
      (風に舞いあがるビニールシート の文中より)

     『誰かを助けたい』って思いがあっても 自分の身に危険を呈しても行動に移すっていうのは 誰にでもできることじゃないよなって思う
     『助けたい』と思っただけでもすごい
     『それについて知ろうと学ぶこと』…それもすごい
     でも そこに体ごと突っ込むっていうのは 死ぬかも知れないけどそれでもいいって覚悟で 
    私はそういう人間を 本当に尊敬する
    作中の彼女が最後にそう決断した全ては 最高の愛情を
    得たからに違いないと思う

     やはり 『愛情』を受けた人は 強くもなり 優しくもなれるのだと思う


     短編はあまり好き好んで読まないけど 今回この本は出会ってよかった
    朝 仕事にいく前の数分間ができた日に ちょっとずつちょっとずつ読み進めるのが楽しかったな

     

  • 市井に生きる普通の暮らしをする人、国際機関で働く非凡な暮らしをする人…様々な人の心模様を森絵都さんならではの視点で描いている。
    大人向けの本だが、何故これが中学校の図書館にあったのだろうか。

  • 図書館で気になる題名と思って、手に取ってみた。
    短編集で、どの作品もいろんな立場の方の話で興味深く読み進められた。
    友人にも勧めたい。
    森さんの作品をまた読んでみたいと思った。

  • すごく頭がいい人だと思う。どの作品も専門知識がしっかり調べられていて、知識の羅列にならずにしっかり物語の核に絡められている。ただ、その頭のよさ、隙のなさが圧となって息苦しさを感じることもあり。

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著者プロフィール

森 絵都(もり・えと):1968年生まれ。90年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。95年『宇宙のみなしご』で野間児童文芸新人賞及び産経児童出版文化賞ニッポン放送賞、98年『つきのふね』で野間児童文芸賞、99年『カラフル』で産経児童出版文化賞、2003年『DIVE!!』で小学館児童出版文化賞、06年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞、17年『みかづき』で中央公論文芸賞等受賞。『この女』『クラスメイツ』『出会いなおし』『カザアナ』『あしたのことば』『生まれかわりのポオ』他著作多数。

「2023年 『できない相談』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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