荒地の恋

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著者 : ねじめ正一
  • 文藝春秋 (2007年9月26日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163263502

荒地の恋の感想・レビュー・書評

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  • 本を読み終えたばかりは、胸の中にいろんな感情が湧いては消える。

    私にはいつでも「覚悟」が足りないのだ、と思ったり。
    ああいうふうに、大切な人をないがしろにはできないよ、と思ったり。
    自分の気持ちに嘘をついたままで、それは生きていると言えるのか、と問いかけてみたり。

    詩人は、会社勤めをやめ、妻に好きな女ができたと言い、家を出たらそれまでの20年では書けなかった詩が、またすらすらと書けるようになったという。
    こころが動くと、血が体をめぐるようになり、頭の、それまで使われず休んでいた部分が活性化されるのだ、きっと。




    「荒地」は、詩人の田村隆一、北村太郎、鮎川信夫らによって作られた同人誌の名前で、ねじめ正一著の『荒地の恋』は、田村と田村の妻 明子、北村太郎との三角関係からはじまる実名の小説。


    はきはきとした物言いで、北村を魅了する明子はきっと私にこういうだろう。

    どうせ、あなたみたいな若い人に、大人のイロコイがわかるはずはないのよ。

    時代は昭和のど真ん中で、登場人物たちは、両親の年代よりもさらにすこし上なのだった。
    だから私は、いつまでも小娘の気持ちで読んでいたけれど、途中でふと気が付いた。
    明子が、田村の元を離れ北村と崖の下の小さなアパートに住み始めた時の年齢よりも、今の私のほうが上じゃないかと。

    50を越えた男女の、それも互いに伴侶持ちの、男女の恋の行く末がパラダイスのはずはないと、想像するのは容易なことで、だから「荒地の恋」とはこれ以上の題名はないと思った。


    誰に泣かれ、誰を裏切り、世捨て人のように暮らし、お金の心配をし続けても、歩き出し、歩き続けなければいけない「荒地」。
    そこにはどんな風が吹き、どんな夕陽を眺めることができるのか、平坦な道を歩いているものにはわからない。

    わかりたくもないという人も、迷い出るはずじゃなかったという人も、それぞれのみちをただ進んでいくしか方法はほかにない。
    もちろん、わたしも。それがどこへ続いてゆくのか知っていても知らなくて

  • 16年冬にWOWOWでドラマ化(豊川悦司主演)されて、見る気はないんだけど、とりあえず原作は読んでみた。う~ん、こういう話はとても苦手。登場人物たちがみんな耐えられないわ。で、読み終わってから知ったんだけど、実在の人物の実話の小説化なんだって。それもう~んって感じ。

  • 詩人・北村太郎の話。実話。
    家族の了承は得ているらしいです。

    Amazonのレビューには受け入れられないという意見も割とありました。
    フィクションだったら私も違った感想かもしれません。でも、これはノンフィクションであり、北村太郎という人間の話だと知って読んでいるので、私は読んでいる間じゅう胸が苦しくて胃が締め付けられる様に切なくて、最後は涙が止まらなくなりました。

    若い人には受け入れられないだろうと思います。人生の終わりが見えるというか、長く生きないと分からないように思います。
    それから真っ当な人にも分からないだろうと思います。精神を病んでいたり色々と抱えている人間でないときっと分からないんじゃないかと思います。
    奥さんを捨てる北村の身勝手さに憤慨するレビューも多々ありました。けれども、私はあまりそうは思わず、逆に奥さんや家族や安定というこれまでの幸福すべてを捨てる潔さにただただ驚きました。私は潔く捨てれません。

    北村さんは自分にも他人にもまっすぐ正直な人で、お人好しで、強い。
    だいたいの人は北村さんみたいに生きられません。嘘つきで、自分勝手で、弱い。

    心の病気はだいたいは分かってもらえません。
    恋愛も本人にしか分かりません。
    私はこの作品を不倫話と位置づけるのは間違っていると思います(私は人が人を愛するのに不倫という言葉を当てることにそもそも疑問を持っている人間なので)。
    不倫話にこの本の本質があるわけではないと思うのです。
    この本は北村太郎という人間の話です。そして彼の周りの人間の話です。「荒地」の詩人たちとの繋がりから見る北村太郎。
    いいとか悪いとかではなく、北村太郎を知る本だと思います。
    彼がどんな人であったのか、どんな人とどんな風に過したのか、彼がどんなことを考えていたのか。

    私が泣けたのは彼のまっすぐな生き様が、彼のまっすぐな言葉が、あまりに心に深く刺さってどうにも堪えられなくて涙が溢れました。

    「愛している」という言葉のまっすぐさ。
    「愛した」ことへの責任。

    すべてを正面から受け止めることのできる芯の強さ。

    たとえば太宰治とは真逆で、北村太郎は生から逃げないのです。
    これを読んでから太宰治を読むと、太宰治が女々しく感じてしまいます。


    私はこの本を読んで、彼の眼差しや彼の人柄や彼の詩に触れて、北村太郎が大好きになりました。詩集を読んでみたくなりました。

    そして、こんな風に書けるねじめさんはすごいと思いました。ねじめさんは初めて読んだのですが、有名なだけあってやっぱり巧い作家さんだと思いました。

  • 2015/08/27 読了

  • 惚れたはれたは本当、人生の舵取りなくすからこわい。
    でも、それに振り回される事は苦しみながらも喜んでいるように感じる。

  •  詩人・北村太郎の後半生を、詩人として世に出たねじめ正一が描く本書。
     最初の章は「終りのない始まり」と題され、その脇に「たしかに、それは、/スイートな、スイートな、終りのない始まりでした。」と引用されている。北村太郎が親友・田村隆一の妻である明子に「どうやら僕は、恋に落ちたようだ」と告白するこの章に、「終りのない始まり」とあるのはどういうことだろう、と思っていた。それで、このタイトルがとられたもとの詩の「終りのない始まり」にあたってみた。じつはこれは北村が最初の妻・和子(じつは、田村隆一の妻のほんとうの名前も和子)と息子・昭彦を海の事故でなくしたことをうたった詩だった。二人を荼毘に付したあとで、北村はこううたう。
    ====
     電車の走る音がきこえます。たしかにこれで終りました。
     何が? 生けるものと
     生けるものとの関係が、です。そして
     いまこの郊外の
     晩夏の昼、もっとスイートな関係が、死せるものたちと
     生けるものとの関係が、始まったのです。たしかに、それは、
     スイートな、スイートな、終りのない始まりでした。
    ====
    「終りのない始まり」とは、北村にとっては「死せるものたちと、生けるものとの関係」のはずだった。ねじめが最初の章に「終りのない始まり」と題したのは、たんに言葉としてちょうどいいから選んだというわけではないだろう。北村にとって、もうひとつの「終りのない始まり」は、たんに親友の妻に惚れたということではなく、中断していたに近かった「言葉との関係」=「詩を書くということ」が、ふたたび始まり、それが自分の死まで続いたということを指しているのだと思う。
     じつは『荒地の恋』それほどおもしろい話とも、いい話とも思っていなかったんだが、北村太郎の詩と併せて読んでいくと、重層的というか、二階とか地下室ができる感覚というかが生まれてきて、おもしろくなった。

  • 血がドクドク流れている迫力があり一気読みでした。
    素晴らしい作品

  • 北村太郎が家族を捨てて、田村明子と暮らし始め、
    漂泊の果て亡くなるまでの話。

    詩人仲間 との濃く分かちがたい結びつきと
    別れ。
    死別した先妻の面影を18歳の看護師に
    見出した最後の恋。

    生々しく、切なくも鳥のような詩人の半生。

  • 中学生のころ、テレビで詩を朗読する田村隆一氏を見て、
    なぜか印象に残っていた。
    その田村さんが登場する小説ということで読んでみた。

    主人公は、田村と中学生のころからの親友でもあり、
    自身も詩人の北村氏。

    その北村と田村の四人目の妻、明子が恋に落ちるところから物語は始まる。

    大人の恋、といえば聞こえはいいけれど、一般的に考えると、
    結婚25年にもなる壮年の男性が、長年の友人の妻と不倫関係に陥るということ。

    長くサラリーマン生活を送って詩作も思うように行かなかった北村氏が、
    明子と恋に落ちて、詩が溢れだしてくる。

    「こちらの世界」と書かれた詩人の世界に北村はすっかり入り込んでしまったようだった。

    ただ、物語はただの不倫小説では終わらない。
    最後の北村氏の死の場面と締めくくりは淡々と物悲しくも残酷。

    そして、田村氏の存在感が圧倒的。
    周囲を巻き込み、破壊し、けれど、傷つきやすい才能の塊。

    作者のねじめさんは、関係者の方に丁寧に取材を重ねて書かれたらしい。
    その誠実な姿勢があったから、ただの恋愛小説にはならなかったのかもしれない。

  • 「道楽からは詩は生まれない」という最初の方に出てくる一言が読後まで続く本。生きることも、愛することも、詩を書くことも文字通り「生命を賭して」やった荒地グループの詩人たちが死ぬまでをたどる。
    クンデラ『存在の絶えられない軽さ』のような愛憎劇に、詩の世界がまじりあって濃密で重い、でもどうしようもなく惹きつけられる。

    最後の章の主人公・北村一郎の詩

    モノをほしがる物欲、のほかに
    ココロをほしがる心欲、まで持っているから
    ヒトは怪物、なのだ  「すてきな人生」

    という一節が痛切に沁みる。

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