私の男

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (381ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163264301

感想・レビュー・書評

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  • 「私の男は、ぬすんだ傘をゆっくりと広げながら、こちらに歩いてきた。」
    この冒頭分から始まる、桜庭一樹著「私の男」。
    舞台は雨の日の銀座、並木通りで幕を開ける。

    主人公・腐野花は24歳、養父・腐野淳悟は40歳。2008年6月、花の結婚式前夜からこの小説はスタートする。

    この作品は時間軸が過去に遡っていく手法をとっている。非常に秀逸だ。
    感想を先にいう。抜群の小説作品。読み返したくなる率ナンバーワン作品だ。

    構成は全6章で花と淳悟の節目となる年ごとに語り手が変わり、遡っていく。

    第1章2008年6月、花が尾崎美郎と結婚し新婚旅行から帰ると、淳悟が消えてしまっていた。普通の小説なら、ここがクライマックスかと思われる。ここに出てくる「血の人形」、「サムシングオールドのふるびた小型カメラ」、「淳悟が捨てたあれ」が章を進むごとに明らかにされていく。場所は銀座、足立区のアパート、式場の明治記念館、新婚旅行先フィジー、目白の3LDKのマンション、足立区のアパート。

    第2章2005年11月 尾崎美郎の語り手で尾崎と花、淳悟の出会いが描かれている。「それは隠れて暮らしている」もここではまだわからない。場所は東京丸の内、そして足立区のアパート。

    第3章2000年7月 淳悟の語り手で淳悟が犯した殺人の描写から始まる。まだ淳悟がバイク便で働いている様子が描かれている。「花の肉はこの半年ほどで嘘のように、こなれた。」という表現で禁断の愛のピークタイムであることが伺える。

    第4章2000年1月 花が語り手。花16歳。北海道紋別市にいたことが判明する。しかも意外にも淳悟は紋別海上保安部勤務であったこともわかる。ここで淳悟が殺してしまった田岡がどういう関係か、小型カメラはどういうものかを知ることができる。
    花が犯してしまったこと。そして花と淳悟は紋別を出た。

    第5章1996年3月 小町が語り手。淳悟と恋人だった小町が花に対しての嫌悪感を示し、花と淳悟の狂った愛を見てしまう。そして小町の凪に風が吹く。

    第6章1993年7月 花が語り手、9歳。奥尻島の民宿を経営する父母と兄と妹。地震、そして津波。花だけが生き残り、避難先で淳悟と出会う。淳悟に引き取られ、淳悟のアパート暮らしの家から宿舎に引越しをする。


    時間が遡っているが舞台は都会→紋別→奥尻島という対比をみせる。時系列が古くなり謎がどんどん解明されていくのには、テクニカル的に非常に不思議な感じがする。

    著者桜庭一樹さん、男性だと思って読んでいたが女性とのこと。確かに生々しいシーンなどは女性的だった。

    淳悟は精神的におかしいな。やるだけやって自分も年取って、やること飽きて、嫁に出して、自分は花の呪縛から解き放たれたい欲望に駆られ、消えてしまっただけではないのかな。

  • あなたは、誰と、どう繋がりますか?
    どんな繋がり方を、望みますか?
    どうやって繋がりを、確かめますか。

  • 途中からどんどんえっ、てなった、せっかく時間さかのぼるんだけど…

    伏線からの想像で補えること以内なら、語りの意味が弱くてだれてしまいます

    感情つかむところはあるんだけど、エネルギーなくてなんか…恋愛小説としてももの足りず


    装丁がいい、表紙の絵。

  • 親子だって男と女。
    それが過ちだと言われても、止まれなかった。

  • 濃い話だった。なんというか、どろどろとした沼の中をもがきながら泳いでいる感じに似ている。息ができないぐらい、いろいろなものが押し寄せてきてつらかった。「生臭い」という言葉が作中何度も出てくるけれど、ほんとにそう。全面から臭いが立ち込めてきて、ちょっと気持ち悪くもなった。
    花と淳悟の関係は、そりゃあよろしくないことはわかるけれど、あまりにも切実すぎてちょっとじんときた。こうやって絶対的に繋がっていたいと思える人間に、なんにしろ出会うことができたのはうらやましくも思った。けれど、その分離れるのがものすごくつらいのだけど。花が淳悟から離れようとしても離れることができない様子に、ちょっと沁みた。
    1番最初の話から過去へ遡る書き方はおもしろいと思ったけれど、同時にこのひとたちはこういう結末を迎えてしまったんだなあと考え込んでしまい、なかなか読み進めることができなかった。もうそこで事実が提示されているから、読者の気持ちはどうにもならないんだよなあ。
    「私の男」という言葉がこんなにも重いものとは。

    (381P)

  • 依存し合う二人。
    終わりから始まりへ向かう物語。
    するするとほどけていく、運命の糸。

  • 第一章が猛烈に素晴らしい。絶望的な切なさが、ここだけで完成されてるくらい。なので、逆に全てが明らかになるにつれ、二人の物語が次第に色褪せてくるような気がした。
    禁忌を犯す理由らしきものが、語れば語るほど後付けっぽくもあるんだよなあ。こゆテーマにつきまとう生理的な嫌悪感に勝てるほどの理由が物語の中に見つからないというか。
    いや、面白いんですけど。直木賞とゆー冠がつくと期待しすぎてしまうからつい。

  • ずーん、とくる。
    切なくなるくらいの愛し方と愛され方。

  • 3回目読了。細かいことを言えばもやっとした点も残るものの、「私のベスト3本」を決めるとしたら間違いなくその中の1冊。

  • 私は純愛だと思う。
    桜庭さんの作品を読むのは初めてで、でも、この人が好きだって言えるくらい好きな作品。
    ただのファザコンとマザコン&ロリコンだとも言えなくもないけど(笑)
    とにかく、桜庭さんの文体は(良い意味で)重くて、濃くて、生々しくて、だからリアルで。
    後味は良くもなく悪くもなく、ただ北の薄暗い銀世界に浸れる。
    帯にもあった通り、衝撃の問題作。
    物語は過去へと遡る形式で、だからか、余計に何が何処で間違ったのかがわからない。何とも言えない。ただ、まっすぐ、純粋に、必死だったんだろうな、と。
    重い、匂いを感じる作品でした。

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著者プロフィール

1971年島根県生まれ。99年、ファミ通エンタテインメント大賞小説部門佳作を受賞しデビュー。2007年『赤朽葉家の伝説』で日本推理作家協会賞、08年『私の男』で直木賞を受賞。著書『少女を埋める』他多数

「2023年 『彼女が言わなかったすべてのこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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