猫を抱いて象と泳ぐ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163277509

感想・レビュー・書評

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  • 優しい詩を紡ぐチェスのお話し。

  • 『2010年 本屋大賞』5位受賞作。


    “伝説のチェスプレ一ヤ一、リトル・アリョ一ヒンの密やかな奇跡。触れ合うことも、語り合うことさえできないのに…大切な人にそっと囁きかけたくなる物語です。”―帯より。


    ずっと読みたいと思ってた一冊。著者は『博士の愛した数式』の小川洋子。
    印象深いけど、内容が想像つかないタイトル。でも読みおわったら、とてもしっくりきました。

    感想を形容しがたいんだけど、静かな水中にいるような感覚を味わいました。静かで美しい独特の世界観です。『静謐』ってこんなイメージなのかな。
    感情移入するタイプの作品ではなく、上質の絵本を読んだような、不思議な読後感。

    なんだか、抽象的な表現しかできないけど、オススメです。

  • リトル・アリョーヒンと呼ばれた、彼のチェスと歩んだ一生

    少年時代に初めてチェスを教えてくれたマスター

    デパートの屋上にかつて飼われていた象のインディラと、壁と一体になった少女ミイラと、マスターが飼っていた猫のポーン

    それらがリトル・アリョーヒンの数少ない友人でありながら、彼にもたらしたチェスを奏でていく上での力強さ

    のちにパシフィック・海底チェスクラブでの人形の“リトル・アリョーヒン”の中に入りチェスをうつ日々で
    肩に鳩を乗せた少女ミイラとの出会いと、別れ。

    山頂にある老人専用マンションエチュードでの”リトル・アリョーヒン“のひそかな活躍

    いつまでも、彼の奏でる盤の上で繰り広げられた駒たちよる詩句は、語り継がれた。

    「慌てるな、坊や」
    マスターの優しさにあふれた言葉が、どんなときもふとよみがえる。

    チェスをあまり知らなくても、やわらかな音楽のような流れる文章に引き込まれる。

    なんだか切ないけど温かい。
    これだから小川洋子氏はたまらないよね。

    読みすすめるにつれてドカンとやられる感動を味わうには
    ちょっと本が分厚いかな…

    だけど読み終えるのがもったいなくなる)^o^(

  • なんと美しい。小川さんの本は博士の愛した数式以来二冊目だけど、静かで透明で誠実な空気が本当に綺麗だなあ。チェスの棋譜はやっぱりわからないんだけど、この宇宙はリトルアリョーヒンの祖母のように知らなくても感じられると思いたい。作品タイトルも物凄く素敵だよね。

  • 静かで落ち着いていて焦りもせず淡々としているのだが、なんとも慈愛に満ちている作品だ。
    物語の中に入り込み、一緒になって人生を歩んでいくような感覚になり
    壮大で自由で、歩いている道は決してキレイではないけれど、どんな小さなことにも美しさがあり、リトル・アリョーヒンの独特な感性で捉えられる「美」に魅了され、一緒に歩んでいくこと自体が素晴らしく思えてきて、頂上から見える景色には一言では言い表せない、素晴らしい気持ちをくれた。
    振り返って見えるその道は、下からではわからなかった、とってもキレイな形の道でした。

    そんなに分厚い本では無いのに、何年も何年もかけてような濃厚な時間が流れている。
    登場するどの人もどんなものも、素朴でいいなぁと思わせるのだが、リトル・アリョーヒンの目を通して見ると、新たな一面が見え、混ざり合って、とてもとても大好きになるのだ!
    みんな、死んだあとを想像するのも、死に方さえも、とっても大切なことに感じ、生前暮らしていた素敵なところ大切なもの、それを思い出しては涙が出てきて、そのあとは、死後の世界での幸せをいのってしまうほど、出てくる人全員が、大好きなんだ!

    おばあちゃんの布巾のような、キャリーバック老人のキャリーバックのような、その人を象徴する物が私もほしいと思ったのだが
    リトル・アリョーヒンの棺桶に入った、アリョーヒン人形、ビジョップに駒入れ、チェス盤以外にも、インディラやミイラ、ボックスベッド、産毛・・・
    リトル・アリョーヒンに係わった全ての物がリトル・アリョーヒンを連想させる。それはどんな些細なことも心から接してきたからで、今からムリに真似しなくても、今私が係わっている全てが私を象徴するものになるかもしれないのだ。
    今からでも遅くはない。リトル・アリョーヒンのように心をこめて接していけば、きっとみつかるだろう。

    初めてマスターに勝った時の4ページに渡るチェスの海の放浪は、今見てもなんとも幻想的で名画を見ているようで、うっとりしてしまう。
    総婦長さんが大きくなるを心配して夜食をこっそり少なくする所や、インディラが高い所や独りの時など、怖がらないように慰める所や、アリョーヒン人形を雇ってもらうために雑用は自分が代わりに請け負う、などリトル・アリョーヒンの考え方が、なんともほほえましい。
    老婆令嬢が「チェスを教えた人物は、教えられた人の指紋みたいね。私もあなたの先生に教わりたかった。」と言い、記憶を無くした令嬢が、リトル・アリョーヒンにチェスを教えてもらう場面は、因果を感じた。

    ヒカルの碁などのように頂点を目指し強さを求め続けるのもステキですが、この作品には強さでは見えてこない、美しい一面を見ることができる。
    ルール不用チェスによう終局後の盤面の美しさなど、私には思い付きもしなかった。
    見たこともない景色を見せてくれる。
    この作品を読んで、本当によかった。

  • 大きくなりすぎてデパートの屋上から降りられなくなった象、大きくなりすぎてバスから出ることができなくなったマスター、大きくなることを拒否した少年は、大きくなることの悲劇から救われ心の底から安堵した。伝説のチェスプレーヤー、リトル・アリューションの奇跡。出だしはあの懐かしい昭和の時代のデパートの屋上から、不思議な現実感とファンタジー的な要素を合わせ持つ作品。

  • 生まれつきくっついていた唇に脛の皮膚を移植して手術をしたため唇から毛が生えるようになった寡黙な少年の友達は子供の頃訪れたデパートの屋上にかつていたという象・インディラと壁と壁の間に挟まって出られなくなってしまったと話で聞いた空想上の少女・ミイラだけ。
    ある日彼は動かなくなったバスの中で一匹の猫とともにチェスをさして暮らす恐ろしく太った男と出会う。彼をマスターと慕って指導を受けていくうちに少年のチェスの才能はみるみるうちに開花してゆく。
    少年はいつしか天才チェスプレイヤーとなって海底チェス倶楽部でテーブルの下に体を押し曲げて入り込み、「盤上の詩人」と名高いロシア生まれの伝説のチェスチャンピオン、アリョーヒンを模したからくり人形「リトルアリョーヒン」を操ってチェスをさすようになり、様々な人と盤上で心を交わす。


    小川洋子さんの本を読んで思うことは、「博士の愛した数式」にも言えることですが、ほとんどの人があまり踏み込まないであろう特殊な分野を題材として扱っているのにどうしてこれほどまで人の心を揺さぶれる物語を書けるのかということです。
    チェスや数式のことなんて全く詳しくなくてもそのものの「果てしない美しさ」だけはひしひしと伝わってくる。
    それらに対する知識がまっさらなだけに、先入観がないからこそそれだけ、こんなに素晴らしいものなんだと感じることができるのかもしれないですね。

    読んでみて初めていろいろとわかる小説。

  • チェスをしたことも、やり方も分からないけれど、リトル・アリョーヒンの指すチェスが、とても美しいのが分かります。
    少し変わった風貌のリトル・アリョーヒンを取り巻く人たちは、彼の思慮深さ、静かで欲深くないところ、彼の指すチェスを本当に愛していたのだと思いました。
    最後は切ないけれど、チェスをしてみたくなる本です。

  • 面白かった。素敵だった。
    読んでいる最中から、「今度、図書館でチェス入門を借りてこよう」と思うくらいリトル・アリョーヒンやマスターや老婆令嬢が素敵だった。
    私は、梨木香歩さん・川上弘美さん・江國香織さん・吉本ばななさんらの、ふわふわと心もとない女性らしい、だけど本質的で、媚びない小説家さんたちが好きなのですが、小川さんのお話は、そういった女性らしさが漂いつつも、緻密で正確で隙のない強さのようなものを感じられて、そのことにとても安心します。
    主人公の少年が、”リトル・アリョーヒン”というチェス人形となるきっかけを作る「海底チェス倶楽部」なるものが出てくるとき、本当にいやな気分になるのですが、自分が普段から思っていた「人に大きな声で言えないことはするべきではない、しなくても良いことだ」ということが正しいと改めて感じた。
    こそこそと隠れてしなければいけないような遊びなんて、本当は何の意味もないし、大切なことではないのだと思う。
    「海底チェス倶楽部」の気持ち悪さもそこだと思う。
    本当に好きなことを丁寧に大切に楽しむことを最優先すれば、隠れるのか人前に出るのかは、あとで付いてくるものだと思う。
    リトル・アリョーヒンのように。

  • 恥ずかしながら初・小川洋子でしたが、ちょっと衝撃でした。チェスの奥深さ、チェスの棋譜から静かに語られる音のない言葉、なによりも作者の表現力。リトル・アリョーヒンが遺体になってゴンドラを下りていくときに、すれ違うミイラはエチュードで何を見て、何を思い、何を語ったのか。本当に美しい小説でした。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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