- Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163286907
感想・レビュー・書評
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幕末から明治にかけて実在の落語家三遊亭円朝と彼にまつわる人々の話。『牡丹灯籠』は歌舞伎やNHKのドラマでも再現されぞぞっとする。円朝さん25歳の作品とは驚き。
作者松井今朝子さんと落語家春風亭小朝さんの巻末対談によると、松井さんは明治時代の新聞を読み込み作品を作り上げているとのこと。
街の色や気温湿度、季節の移ろいや、人々のせわしなさ等々、風景や着物、食べ物等から伝わってくる所以かもしれない。
表題『円朝の女』の通り、主人公は師匠である円朝ではなく、彼に関わった複数の身分の異なる女性たち。
松井さんの吉原に関する複数の本にあるように、当時の女性の有り様が松井さんの言葉により輪郭を与えられ、生き生きと動き出す。とても面白い。
身分、豊かさ、成育環境、生業等々を異にする女性たちが世の中の塵芥とされながらも人気の絶頂を誇った円朝にどう惹かれ、離れていったのかがテンポよく語られる。
後半は政治家との絡みや、戦争に没入していった日本国民全体の雰囲気なども描かれ興味深かった。
日常の生活はとても便利で豊かになったにもかかわらず、人々はお上に対して被害者意識を持ち、ポリコレをかざす風潮に息が詰まりそうな毎日。
他にもっと大変な人がいるとか、お上は絶対とかは全く思わないけれど、自分で動き何かを得ようとせずに、被害者の立場でいると、大事なものを見失い無為に時間が過ぎるばかり。
登場人物たちは皆脛に疵がありながらも時に健気で辛抱強く、また時に実利的かつたおやかであり、待ち受けるその先の哀しさ等もあり、生きることの機微が浮き立つ味わい深い1冊だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
面白かった。これは、創作ではなく、あるていど実話を丹念に調べ上げて、想像力で肉付けしたかんじなんだろうなぁ。円朝は実在だし、wikiみる限り朝太郎やお里なんかは実名そのままだし。噺家の大名跡、三遊亭円朝の半生を、かかわりのあった女たちを弟子が語るという切り口で、いやあ聞かせるし泣かせるね。「読む」より「聞く」という体感に近いくらい、ずっと一人称の八っつあんの語りを聞き入るうちに、円朝と縁ある女たちの生き様に惹き込まれていく。お江戸の語りってのぁ耳障りがいいやね。なんか影響されるわ。。。惜身(あたらみ)の女、千尋様、玄人の女、花魁長門太夫、すれ違う女、お里、時をつくる女、お幸、円朝の娘、おせっちゃん。どの巻もいいねえ、それぞれに、ひとりの男に関った女の話だけれど、江戸から明治への時代そのものを見せてもらえた。さいごのおせっちゃんの巻きでは、八っつあん、やってくれたねえ、江戸っ子だね!じんわりあったかくなって本を閉じられる見事な構成だと。感嘆。松井さんいいなあ、ほんと読みやすいし、浸み込むなぁ。この方の作品はもう積極的に手にとっていきたい。それにしても、先日セントニコラスで出てきたばかりのマリア・ルス号がまた出てきたり、マンチュリアンリポートでひっかかってた李鴻章がでてきたり、この、日本開国あたりの外交がらみのキイワードが最近よく胸にひっかかる。そのあたりのこと、自分のなかで知りたくなってるんだろうなー。良い本にまた引かれることを願う。
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2016.7.30
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明治維新前後を生きた名高い落語家 三遊亭円楽と、彼に関わる女性達との逸話を円楽の弟子の回想録として描いた。
チャキチャキの江戸弁で語られていてリズム良く読めた。
私は円楽については名前以外全く知らなかったが、女性に弱く愛嬌があって、噺家として当然だが話がうまく、落語を創作するだけあって人の心を読み理解する 感性の鋭い男性なので、確かに女性にもてるだろうと思った。女性に「なめられてやる」器の大きさが愛される所以かなと思った。 -
幕末から明治に活躍し、落語中興の祖として有名な初代三遊亭 円朝の話。弟子の円八が円朝と彼にまつわる女たちについて聞き手に語っている形式。
落語のことはたいして知りもしなかったけれど、雲田はるこさんの『昭和元禄落語心中』を読んでちょっと興味が湧き(時代が随分違うけれど)、単純な私は積読のこの本にようやっと手を付けたしだい。
円朝さん、Wikipediaで読む限りすんごい御仁だったのですね。若い頃モテたこの方、そのすごいお仕事もさらっと語られつつ、ここでは5人の女性、武家の娘・花魁・子まで為した元円朝の追っかけ・元売れっ子芸者・亡くなった芸人の忘れ形見の娘をそれぞれメインに短編の形でスポットを当てています。円八の語りは噺家らしくスッと頭に入って分かりやすい。円朝の伝記のようなもので物語のような大きな事件は別にない。現代の落語家とはまた格が違うようだし、意外にも歴史上のセレブの名前もポロッと出てきたり。
あくまで男視点からの女性の動向、そして円朝さんの心持ちは本当のところ円八の語りとは別のところだったのかもしれませんが、深いところはいつの世も男と女は同じだな~とこれまた単純ですが思いました。円朝メインもしくは主観の話も読んでみたいです。 -
吉原手引草もそうだったが,語り口調ですすめていく今朝子さんの小説はとても読みやすく,するすると頭に入っていく。これは作者がお芝居に通じていることと関係があるのでしょうかね。松井今朝子作品の中で,語り口調で題材が女であるものにはずれなし!と断言します。
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独特な色気がにじみ出てる話。落語会のスター三遊亭円朝と、その周辺の女たちについての語りは、本当の噺家がしゃべっているかのよう。円朝を取り巻く女たちを詳細に書きながら、江戸から明治へと時代が急激に変化していく様子がよくわかる。
とくに円朝の養女の話が印象的だった。時代の変革期に市井に生きながら、どうにもならなく惹かれてしまう男と女の思いの強さ、世のはかなさがすごく出ていた話だと思う。 -
徳川の治世の終わり、明治の始まりの名人、円朝の女性遍歴をその弟子が語り手となって語る形式の時代小説。「吉原手引き草」「吉原十二月」を読んで面白かったので、松井今朝子祭中。
連作短編の様になってるので面白かった。 -
円朝への予備知識がなくても大丈夫(笑)です。
落語好き、時代物好きな方へ。