蒼き狼の血脈

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163287003

感想・レビュー・書評

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  • チンギスハンの孫、バトゥを主人公にする目の付け所がさすが、小前さん。中央アジア史専門家ならではだなぁと思う。俺自身このあたりの知識は高校世界史で齧った程度で。オゴタイチャガタイイルキプチャク元とか懐かしく思い出す程度なんだけど…。

    国の数だけ英雄がいるんやなぁ。しかも短い期間とはいえ、ユーラシア大陸の端から端まで制覇したモンゴル大帝国の英雄の物語なんだから面白くないわけがない。規模だけで言えば日本の戦国大名は勿論のこと、中世ヨーロッパなんか及びもつかないわけで、その雄大さだけでワクワクしてしまう。

    もっともっとバトゥの活躍を読んでいたかった。仕舞をきっちりしている小説は好きなんだが、この本に関してはちょっと短くないか?なごり惜しい気持ちが正直残った。

  • 最近モンゴル出身の横綱が起こした残念な事件をめぐり少々騒がしくもあったが、さてモンゴルに関して自分がどれくらいの知識があるかというと考えてみるとほぼ皆無であることに気づく。旭川のソウルフードともいえるジンギスカンの命名のもとになったモンゴル帝国の初代の王ジンギス・カンの名前をかろうじて知っている程度だ。自分の教養のなさに愕然とする。

     そこで少しはモンゴルのことを知るきっかけになるかもと思い小前亮氏のモンゴルを舞台にした歴史小説「蒼き狼の血脈」を読んでみた。チンギス・カンの孫にあたる世代の物語で、主役はチンギス・カンの長男ジュチの嫡子パトゥだ。

     モンゴル帝国は百数十年続いたらしいが、本書はチンギス・カンの死後から第4代モンケが生まれるまでのモンゴル帝国創世記においての出来事を西方遠征を担ったバトゥの活躍を中心に彼の目から見た政争も含めた出来事が描かれた物語だ。

     この物語を読んでモンゴル帝国創世記のことは人間模様も含め少々つかむことができた。だがモンゴルの文化や気質に大きく関係しているモンゴル人の遊牧生活に関してとなるとこの本を読んだだけではからきし情報が入ってこなかったのも事実だ。本を読む前にはこの本を読めば少しばかりはモンゴル人気質というもののかけらくらいわかるかなあなどと軽く思っていたが、それは全くと言っていいほど無理な話だということに読んでいる途中に気づいた。

     早い話、武将の話が描かれているわけで、武将の気性は描かれてはいるがそれがその武将が生きる国の国民の気性を代表しているわけがなく、日本の戦国時代の武将の気性だって相当に荒々しいものだったろうしそれが日本人の気質といわれるととんでもないということになるだろうことに気づいただけだ。おバカな私である。

     そんなわけで、本書を読んでモンゴルの歴史の端緒に触れただけで、今に至る800年くらいのモンゴルの歴史に関してのお勉強はまた別の機会にということで、モンゴルに関しての考察は宿題にするしかない。広く浅くが好きな性格は勉強には向いていない。陳舜臣の「小説十八史略」、森村誠一の「地果て海尽きるまで」、旭川生まれの大先輩井上靖の「蒼き狼」などをそのうちに読も事にしよう。。いつになるかわからないが。

     そんなモンゴルに対する興味を持続させるくらい面白かったモンゴル創世記の歴史小説を読むBGMに選んだのがJohn Scofieldsの”A Go Go"。ジャズーファンクぽいのを聴きたいときに聞く結構マイナーな音源だ。
    https://www.youtube.com/watch?v=1WPGdjZr8PI

  • チンギス・カンの孫バトゥが主人公。父ジュチの死から始まり、西方遠征、ジュチ・ウルスの拡大、グユクとの確執と打倒、盟友モンケのカン位就任に尽力し成就するところまでが描かれる。参考文献は割愛されているけど杉山正明説が多くとりいれられているように感じた。血統を重んじるがゆえに、至尊の地位はあきらめ、しかし、自らが率いるジュチ・ウルスを豊かに、強力にするために、破壊し尽くさず、なるべく無傷で手に入れようとし、遠く征服した地は間接統治し、オゴデイ期は雌伏し、力を蓄え、グユク期は鋭く対立し、自ら盟友とたのむモンケを即位させ、西方をまかせられる、力強さ、冷静さ、寛大さ、理想の君主として描かれる。/「草原…さいはて…海」というジュチの最後の言葉。/バトゥは黙って、オゴデイたちに対する認識をあらためた。誰が主導しているかはわからないが、かれらは非情で、冷酷で、目的のためには手段を選ばぬ相手だ。p.73/ただ、アレクサンドルはその計算高さゆえに、心強い味方になるだろう。p.144/「次に顔を合わせるのは、おまえを大カアンにするクリルタイだな」p.160(バトゥからモンケへ)/「トゥルイには死んでもらったよ」p.224(オゴデイ)/陽光の最後の一片が海に落ちると、バトゥはようやく馬首をめぐらせた。「帰るぞ」p.241/「才に欠ける人ではないのだ。生まれを呪い、他者をうらやむことをやめれば、良い君主になれるはずなのだが」p.247(エルジギデイのグユク評)/「卑怯?」ターヒルはあきれたようだった。「一騎打ちで勝負を決めたり、騎士団が正面からぶつかりあったりする国からしてみれば、モンゴルの戦法も卑怯と言われるでしょうな」p.310

  • 自分の授業の副読本として学生に勧めたいレベル。
    オゴデイとドレゲネのラスボス感にゾクゾクしたが、ドレゲネはもっと引っ張ってもよかったのでは?
    新刊のクビライ伝が本書の続編となるのだろうが、フレグとベルケ、そしてバイバルス方面のスピンオフも書いてもらえるだろうか。13世紀後半ユーラシア歴史絵巻としてシリーズ化希望!

  • チンギス・カンの孫にあたる世代の物語です。
    主役はチンギス・カンの長男ジュチの嫡子バトゥ。
    ちょうどモンゴル帝国が安定期に入る前の二十年間位の期間の話です。
    偉大な英雄によって作られた大帝国のカン位相続に絡む物語の展開が面白かったです。
    それとモンゴル帝国がヨーロッパ方面への西征の実質的指導者としてのバトゥの活躍も読み応えがありました。
    バトゥはヨーロッパで言われる「タタールのくびき」の体現者的な存在のようです。
    従兄弟で盟友のモンケ(クビライ・カンの兄)とのやりとりも物語を面白くしてくれてました。

  • ヨーロッパを席巻したモンゴル騎馬軍団の主将「バトゥ」。
    彼は大草原の西の果てから、モンゴルを見守った・・・。

    ストーリーは歴史小説なので、突飛なところはない。
    でも「バトゥ」という題材が珍しい。
    彼がモンゴルの中でどのような位置にあったのか、認識させられる一冊である。

    ※著者は、中央アジア史が専門とのこと

  • 多分10年以上前、司馬遼太郎氏のモンゴルに関する本(「草原の記」だったと思う)を読んだことがあります。

    (歴史の?)地図でモンゴルあたりの漢字の地名を見てどんな土地だか想像してたこと。モンゴルでは一面丘と草原が続いているけれども、単調なようで一つ一つの丘が違う形をしていること。

    氏が、そんなことを本の中で書いていた(ように記憶している)のを読んで、私はモンゴルについて、単調なようで単調でない丘の続く一面の草原を想像するようになりました。

    この本では、そんなモンゴル・中央アジアの大地を、西へと、海へと、目指して進んでいく主人公を描いています。

    中央アジアを、まだ見知らぬ地を目指して進む主人公、モンゴルの草原を騎馬を従えて進んでいく様子、読んでてその気持ちを自分でも味わえて、気分が良かったです。

  • この人のほんいつものことながら読みやすい。
    ただ、その分、うすく、もっと掘り下げて欲しかったなと思うのもいつものこと。
    にしても主人公がバトゥというのは目の付け所が流石だと思った。

  • 冒頭を読んで挫折中。イマイチ文章にノれない。

  • 「とこしえなる天の力によりて。
    モンゴル語の書簡は、この定型文ではじまる。」

    蒼き狼の血脈は、"蒼き狼"チンギス・カンの孫、バトゥが中央アジアに広がる広大な天の下で躍動する物語である。
    バトゥはキプチャク草原から西へドナウを渡り、ハンガリーに至るまでモンゴル帝国の領土は拡大した男であり、ジョチ・ウェルス(キプチャク・ハン国)の実質的な創設者である。

    本書は、中央アジアから東ヨーロッパへとモンゴル騎馬軍団の戦い、次期カンの座を決めるクリルタイを前にして行われる権謀術数、「蒼き狼の血脈」はモンゴル帝国拡大の歴史を鮮やかに描いている。
    モンゴル第4代皇帝モンケをはじめとした人物描写はさることながら、物語の展開の速さ、巧みさはまさにモンゴル騎馬軍団さながらであり、読者の耳には馬蹄の音が響き渡ってくる。

    文句なしの評価☆☆☆☆☆

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著者プロフィール

小前亮/1976年、島根県生まれ。東京大学大学院修了。専攻は中央アジア・イスラーム史。2005年に歴史小説『李世民』(講談社)でデビュー。著作に『賢帝と逆臣と 小説・三藩の乱』『劉裕 豪剣の皇帝』(講談社)、『蒼き狼の血脈』(文藝春秋)、『平家物語』『西郷隆盛』『星の旅人 伊能忠敬と伝説の怪魚』『渋沢栄一伝 日本の未来を変えた男』「真田十勇士」シリーズ(小峰書店)、「三国志」シリーズ(理論社 / 静山社ペガサス文庫)などがある。

「2023年 『三国志 5 赤壁の戦い』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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