妖談

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (227ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163295909

作品紹介・あらすじ

「この世で人の欲ほど怖いものはない」あさましき"業"に憑かれた人々を描く掌篇小説集。

感想・レビュー・書評

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  •  34編を収めた掌編小説集である。タイトルと「百鬼夜行絵巻」を用いたカヴァーから怪談集のような印象を与えるが、妖怪変化のたぐいはいっさい出てこない。中身はいつもの車谷節である。

     車谷は数年前に私小説作家廃業を宣言したはずだが、本書に収められた掌編の過半は実質的に私小説だと思われる。主人公としてしばしば登場する小説家もその夫人も、名前はそのつど変わっているものの、車谷夫妻(周知のとおり、「嫁はん」は詩人の高橋順子)としか思えない。
     また、車谷作品の愛読者にはおなじみの、播州飾磨(現・姫路市)ですごした少年期の思い出や、尼崎などで料理屋の下働きをしていた時期の出来事を描いた作品も多い。

     そのような、いわば“擬似私小説”と、市井の人々の心中のドロドロをえぐりだした明らかなフィクションが、おおむね半々の割合で登場する。
     両者を比べてみれば、やはり“擬似私小説”のほうに佳編が多い。「何も無理して私小説作家廃業を宣言せずとも、ずっと私小説を書きつづければよいのに……」と思う。

     34編は玉石混淆で、中には箸にも棒にもかからない駄作もある。
     いちばん最後に収録された「悪夢」なんて、まあひどいものである(読めば誰もがそう思うはず)。初出を見れば『文學界』で、こんな小説以前の作品がよくボツにならなかったものだ。

     いっぽうで、自分が飼っていた鯰の思い出を淡々と綴っただけなのに不思議な感銘を与える、「信子はん」(信子は鯰の名)のような佳作もある。かつて車谷に川端康成賞をもたらした短編「武蔵丸」は、カブトムシを飼った思い出を綴っただけなのに読ませる作品だったが、これはその続編といってもよい。

     また、故郷・播州飾磨の因業ババアを描いた「業が沸く」と「警察官を騙した女」も、たいへんよかった。田舎の婆さんの「困ったちゃん」ぶりを描いただけなのに、「人間が描かれている」というたしかな手応えを感じさせるのである。「因業ババア」シリーズとでも銘打ってシリーズ化してほしい。

     ただ、一冊の本として見た場合、かつての車谷作品と比べれば総じて薄味なのは否めない。
     そもそも、車谷の作風からいって、「緊密なプロットに基づく、計算しつくされた完璧な掌編」など望むべくもない。本書に収められた掌編の大半には、「短編のなりそこね」、もしくは「長編の一場面として書かれながら、けっきょくは使われなかったシーン」といった未完成な印象があるのだ。

     かつての大傑作『赤目四十八瀧心中未遂』(これはじつは私小説ではなく、九割方はフィクションだそうだ)のような骨太の長編に、もう一度挑戦してはくれないものか。

  • 車谷さんは虚実織り交ぜ、その境目をぼやかすのが上手い作家さんなので、
    全編私小説のような気もするし、創作をそう見せかけているような気もする。
    どの話も自身の業火に悶え苦しむ人間たちが、大空を仰ぐ事なく、
    鍋の底のような狭い世界で蠢いていた。
    重苦しいものばかりだが、似たような話をここまで繰り返されると、
    愚かで滑稽な人間に、なんだかおかしみが湧いてくる。
    突然の訃報に接し、作品を読みながら故人を偲んだ。
    この方にしか見えないこの世界をまだまだ書いてほしかった。

  • 妖談。あやしい話。妖怪よりも恐ろしい人間の業を集めた掌編集。
    あんまりにもあさましくてどうしようもない人達。もしかしてアレは妖怪だったのでは?と思うようなオチや話もあるが、どうしてもやめられない止められない欲に振り回される人間の姿は妖怪よりも恐ろしい。
    数が多い分、似たような内容やあまり「妖談」的ではないな…と思う作品もいくつかあるが、飼っている鯰や鮒に人間と同じような姓名(しかも親族や知人と同じ名)を付け、世話をする話等はジットリと重くて嫌な、生臭い空気が漂ってきていかにもあやしく、良い

  • 短編集。ひとつ4~10ページ前後。何れも主人公は著者本人を思い浮かべる男が主人公。飾磨の話、大学での話し、会社員時代、浮浪一歩手前の生活をしていた時代。焦点が当たっている時代は違えど、文学や自身の生き方に対する覚悟が通底していて、それが心地よい。
    難しいことをやさしく書く人だと思う。

  • 「妖談」というタイトルから、おどろおどろしい妖怪変化でも出てくるのかと思いきや、もっと怖い人間の話だった。
    車谷さんの人生が映し出されていると感じても仕方がない気がします。
    「赤目四十八瀧心中未遂」の映画でも人間の行き着くところは、居場所はどこなのだという問いかけをされ、現実に目をつぶって生きている人間の恐怖を知ったような思いだったが、この「妖談」も居場所を探している人間の性や業といったもに囲まれた怖さを教えられたよう。
    「車谷長吉」は「くるまやちょうきち」だと思っていたら「くるまたにながきち」だそうで私の無知に乾杯。

  • 図書館借り出し

    男と女についてのものが多かった。
    車谷長吉は読めば読むほど面白い。

  • むやみやたらにまぐわいたがる女たち、けがらわしく浅ましくせこい男たち、
    お前らみんな気持ち悪い!

  • 「この世で人の欲ほど怖いものはない」あさましき“業”に憑かれた人々を描く掌篇小説集。(帯)

  • まぐわいが好きな人がたくさん登場します。

  • 装丁が百鬼夜行なので、妖かし物かと思ったら違った。数ページの短編が34話盛り込まれた1冊。人の欲に関わる話とはいえ似た話が多く読み応えはあまりなかった。

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著者プロフィール

車谷長吉

一九四五(昭和二〇)年、兵庫県飾磨市(現・姫路市飾磨区)生まれ。作家。慶應義塾大学文学部卒業。七二年、「なんまんだあ絵」でデビュー。以後、私小説を書き継ぐ。九三年、初の単行本『鹽壺の匙』を上梓し、芸術選奨文部大臣新人賞、三島由紀夫賞を受賞。九八年、『赤目四十八瀧心中未遂』で直木賞、二〇〇〇年、「武蔵丸」で川端康成文学賞を受賞。主な作品に『漂流物』(平林たい子文学賞)、『贋世捨人』『女塚』『妖談』などのほか、『車谷長吉全集』(全三巻)がある。二〇一五(平成二七)年、死去。

「2021年 『漂流物・武蔵丸』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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