新解さんの謎

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 44
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  • Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163517902

感想・レビュー・書評

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  • 『よの なか②【世の中】①同時代に属する広域を、複雑な人間模様が織り成すものととらえた語。愛し合う人と憎み合う人、成功者と失意・不遇の人とが構造上同居し、常に矛盾に満ちながら、一方には持ちつ持たれつの関係にある世間』―『見えてきた新解像』

    残念ながら新明解(新明国と略すのが公式らしいけど)を使う人ではなかったけれど、新解さんの謎が世間で耳目を集めていたのは知っていた。曰く、引くのではなくて読む辞書。そうは言うけれど今のように誰もがゲーム機やスマートフォンで遊んでいなかった頃、中学生くらいになって自意識が過剰になってくると、辞書の言葉の定義をあれこれ調べて遊ぶなんてことは案外と皆がやっていたもののような気がする。例えば「右・左」問題など、誰もが一度は確かめたのではないだろうか。中学・高校と使っていた岩波にはそんな遊びの痕跡が幾つか残っている。

    「辞書は、引き写しの結果ではなく、用例蒐集と思索の産物でなければならぬ」と高らかに宣言するくらいなので、確かに新解さんには用例が多いし、右を調べてみたら「左の反対」などとはぐらかされることが無いように、多少踏み込み過ぎている位の言葉の説明がある。そこに編集者の個性が色濃く出ているので、本書の「新解さん」とはさしずめその編集主幹である山田忠雄のことということになるのだろう。大正5年(1916年)生まれの山田の言葉の根幹に迫る動機は学者としての情熱という真摯なものであるのだろうけれど、時代の中で編集者自身に染み付いている価値観までは拭い切れず、今、旧版の新明解を読むと彼方此方からクレームが入りそうな表現もある。バブル景気が崩壊し剣呑な雰囲気が世の中に漂い始めた頃、だが未だコンプライアンスだの自粛警察だのという言葉が人口に膾炙していない頃、千円札裁判や櫻画報など世の中の常識を疑う視点にこだわる赤瀬川原平が、当時既に怪しい雰囲気を醸し出していた新明解の語解釈を面白がる文章を書き記せたのも、振り返って見れば時代の要請ということであったのかも知れない。

    もちろん、その赤瀬川に「新解さん」についての文章を書かせた「SM嬢」(あとがきには鈴木眞紀子氏と紹介されるがその後夏石鈴子名義で作家として活躍)が居たからこそ、という側面はある。この編集者の「面白がる」心意気が赤瀬川にも伝染しこの文章を書かせたのだ。と思うと、主幹編集者である山田の真摯な心意気には申し訳ないけれど、過度の真面目さは、やはり、滑稽さを生んでしまうものなんだなあ、との感慨に浸る他はない。

    とは言え、やはり新明解の解釈の中には、どきりとさせられるような警句めいた文句もあって、それが新解さんの新解さん足る所以なのだろうと思いもするけれど。

    『どく しょ①⓪【読書】―する〔研究調査のためや興味本位ではなく教養のために書物を読むこと。〔寝ころがって読んだり、雑誌・週刊誌を読むことは、本来の読書には含まれない〕』―『見えてきた新解像』

    うーん、教養かあ。

    後半の「紙」にまつわるあれこれのエッセイも面白いです。特に「札」⇔「お札」という一考には思いの外感心しました。

  • 先日NHKで放送された『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』(2013.4.29.)で三省堂が出している二つの国語辞書にまつわる物語に触発されて読んだ本。
    三省堂の辞書と言えば、英語(研究社のものも)という図式が脳内にできており、国語辞典は、岩波、古語辞典は、角川しか愛用したことがなかったので、三国と新解の面白さを知りませんでした。よく考えてみれば、辞書として、そこまで言及する必要があるのか、このような例文を使っても良いのか、と思わなくもないですが(辞書は、用例辞典ではないと思うので)、辞書作りにかけた情熱に思いを馳せるにはとても面白い番組でした。
    そして、この本。あわよくば、最後まで「新解」さんの面白さで埋め尽くして欲しかったです。辞書は物事を調べる道具ではありますが、書籍の一つとして読む楽しみもあるよ、ということを伝えてくれるエッセイです。

  • 新明解さんの謎。
    すべての新解さんはどっかの名文からとったのじゃないかと思う。
    わかりやすい表現は外国人にもよいと思う

  • こんな辞書があったのか?!
    とびっくり満載の辞書、新明解国語辞典を赤瀬川原平の妄想も織り交ぜつつ読み解いている本。電車で読むのは危険。
    余談ですが、なんと我が家の辞書も新明解国語辞典でした。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「妄想も織り交ぜつつ」
      他の辞書のコトも、ご存じだから、笑えるのでしょうね。
      「妄想も織り交ぜつつ」
      他の辞書のコトも、ご存じだから、笑えるのでしょうね。
      2014/05/12
    • msaさん
      コメントありがとうございます。
      お返事が遅くなり申し訳ありませんでした。
      新解さんは他の辞書に比べると、どこかゆるい感じがします。
      コメントありがとうございます。
      お返事が遅くなり申し訳ありませんでした。
      新解さんは他の辞書に比べると、どこかゆるい感じがします。
      2014/07/07
  • ぷぷー!

    面白すぎる!

    こんな辞書があったなんて!
    しかも、この小説(?)Likeな
    語り口が絶妙!

    電車で読みながらニヤニヤ。。。おっと。

  • 三省堂の新明解国語辞書はこんなに面白い辞書だったのだ。辞書が主張している。この言葉はこういう風に使うのだとか。

  • 捧腹絶倒新解さん。さん付けで呼びたくなる新解さんの謎に気付いたSMさんと赤瀬川さんもおもしろい。後半は紙の話。地球にやさしい人でありたい。

  • 新解さん初心者です。
    これを読むと新解さんがどんな性格で
    新解ワールドをいかにして楽しむかが分かります。
    新解さんはクールで変わり者だけど頼りになる!
    しかし、時におちゃめで憎めないやつなんだなぁ。
    新解さんのこともっと知りたくなります。

    『紙がみの消息』は新解さんとは関係ない内容だったので個人的にはイマイチでした。

  • 新解さん?辞書である。
    紙の話が面白いのだ。

  • 中学の頃新解さんを愛用していました。そういえば、うまいとかおいしいとか美味とか書いてあったなぁ…。辞典にも性格があるんですね。愛用しているころに出会っていたらもっと楽しかっただろうなぁ。

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著者プロフィール

赤瀬川原平(あかせがわ・げんぺい)
1937年横浜生まれ。画家。作家。路上観察学会会員。武蔵野美術学校中退。前衛芸術家、千円札事件被告、イラストレーターなどを経て、1981年『父が消えた』(尾辻(★正字)克彦の筆名で発表)で第84回芥川賞を受賞。著書に『自分の謎(★正字)』『四角形の歴史』『新解さんの謎(★謎)』『超芸術トマソン』『ゼロ発信』『老人力』『赤瀬川原平の日本美術観察隊』『名画読本〈日本画編〉どう味わうか』。また、山下裕二氏との共著に『日本美術応援団』『日本美術観光団』『京都、オトナの修学旅行』などがある。2014年逝去。

「2022年 『ふしぎなお金』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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