敵対水域

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制作 : Peter Huchthausen  R.Alan White  Igor Kurdin  三宅 真理 
  • 文藝春秋 (1998年1月発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163537405

敵対水域の感想・レビュー・書評

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  • 1986年10月12日 レーガンとゴルバチョフが米ソ首脳会談を開きこれからデタントが進んだ。この流れはプラハの春や東欧革命そして天安門事件なども含め共産主義国家の解体へと続く一里塚の重要な一つだった。しかし、この1週間前に起きた事件次第によっては歴史は変わっていたのかも知れない。

    トム・クランシーの「レッドオクトーバーを追え」が発表されたのが1984年で映画化が1990年、「沈黙の艦隊」の連載が始まったのが1988年だった。1984年チェルネンコ書記長時代の極東ソ連軍はレーガンのジョーク・アナウンスに答えて「只今より極東地域でアメリカ軍及び日本軍と交戦状態に入る」という発信をモスクワにうち(これは事実)、レッドオクトーバーは同時期にアメリカへの亡命を試み、海自の潜水艦「やまなみ」はロシアの潜水艦(連載当時はまだソ連)と衝突し沈没、死んだはずの海江田艦長はアメリカ軍所属の原潜「シーバット」をのっとり独立戦闘国家「やまと」を名乗るそう言う時代だ。関係ないがカーネルサンダースが道頓堀に沈んだのは1985年10月16日この事件のおよそ1年前だ。日本は平和だったように見える。

    9月3日ソ連のミサイル原潜K−219はバレンツ海の基地ガジェーヴォを出航した。ノルウェー国境からそう遠くない基地からアメリカ東海岸を目指す航海の始まりだった。K−219は就役15年を過ぎた老朽艦ですでに一度第16サイロの浸水が原因でミサイルサイロ内で原爆を詰んだロケット燃料ン爆発事故を起こしていた。そして直前の1月の演習でもミサイルに点火せず、ようやく発射すると今度はハッチが閉まらないという事故を起こしていた。浮上しての帰港中艦橋に立ったブリタノフの両腕は凍り付き、湯をかけて溶かさないとハッチを通れないほどだった。

    整備状況は万全ではなかったが政治的にはこれ以上出航を遅らせられる状況にはなかった。当時のソ連といえば軍拡のため予算を使い果たし整備ができていないのはよくある話だったのだろう。兵器士官のペトラチコフはこの航海開始の点検で第6サイロに漏水があるのを発見している。水位計の値は潜水直後に急に上がったが今は少し安定している。しかしここで帰航すると艦長以下全員の経歴に傷がつく。しかもペトラチコフは家庭に問題が発生しており帰りたくもなかった。安全限度すれすれだが水をくみ出せば問題ないだろう。「第4コンパートメント異常なし」

    ソ連の潜水艦の動きはアメリカが海底に引いたソナー網によって監視されている。貨物船の後を静かについて行くぐらいではバレバレで、K−219は攻撃的な船長フォン・サスキル率いる攻撃型原潜オーガスタの最新の聴音装置の試験の的に使われようとしていた。9月17日K−219艦長ブリタノフは温度躍層の下にもぐり込む。上の層からでは境界で音波が反射するためソナーにかかりにくくなるからだ。K−219のソナーはオーガスタを捕え、オーガスタは失探。そしてK−219のアクティブソナーがオーガスタを捕えた。まずはK−219がポイント先取。

    10月3日サイロの浸水は1日2回排水しないといけなくなるほどすすんで来てペトラチコフはようやく報告を損害制御士官に上げた。失点は分かち合わねば。ブリタノフにはオーガスタがまたつけて来ていると信じるだけの理由がありクレイジー・イワンという急回頭を指示する。もしすぐ後ろにアメリカの潜水艦がいれば慌てて方向転換するかスクリューを逆進させるか、いずれにせよかき乱された海流は真空の泡を生み、泡がつぶれる時に大きな音を立てその潜水艦は姿を現す。しかもちょうどいけ好かない政治士官が演説中で彼がこければついでに恥をかかせることもできる。急回頭、オーガスタのサスキルは第2ラウンドでは負けるわけにはいかない、動力を落とし静かにやりすごそうとした。危うく接触しそうになるその時。

    K−219のサイロからの浸水が止まらなくなりロケット燃料の4酸化窒素が水と接触すると硝酸と亜硝酸が発生し液体燃料のヒドラジンと出会うと爆発する。第6サイロが爆発しミサイルはかろうじて浮上しただけですんだが、もしこの時サイロの注水の音を聞いたオーガスタのソナー員がミサイルに点火していないことに気がつくのが遅れていればオーガスタはK−219に魚雷を発射して沈めており歴史が変わっているところだった。

    K−219の火災は拡がり乗員は潜水艦の前後に別れて次々に退避して行った。硝酸がハッチのパッキンのゴムを腐食するため次々追い立てられる一方で硝酸は電気ケーブルを腐食し艦橋から原子炉を制御できなくなっていく。火災のため冷却水もなくなりこのままではメルトダウンが起こり水蒸気爆発とともに西大西洋の広い範囲が放射能に汚染されてしまう。原子炉は主導で止めるしかない。すでに原子炉区画の温度は軽く50℃を超え、ガスのため酸素ボンベなしでは作業できない。すでに何人もの乗員が硝酸で肺をやられ緑の泡をはいていた。

    原子炉を止められるのはわずか二人、士官のベリコフが先に行くが酸素不足と熱のため変形してしまったギヤに手を焼き主導で制御棒を降ろすが途中で倒れ、21歳のプレミーニンが何とかやり終えた。左舷原子炉停止。ベリコフはそこに倒れたプレミーニンを連れ戻すとそこで力つきた。酸素ボンベは残り2つ、そして右舷原子炉はまだ動いている。プレミーニンは再度原子炉を止めルノに成功し、区画のハッチまで戻ったのだがこの時にはもう圧力差でハッチが開かなくなっていた。彼が命がけで守ったのは艦や同士だけでなく大西洋もだ。

    この後は責任逃れのため脱出した乗員もろとも船を沈めようとするソ連軍幹部、自分ひとりさっさと救命ボートに逃げ込む政治士官、曳航されるK−219のワイヤーを体当たりで切りあまつさえ救命ボートを沈めようとまでしたオーガスタのサスキル、デタントを面白く思わず軍備削減に反対する幹部などどうしようもない展開の中、艦長のブリタノフはモスクワの指示に従わず乗員が戻ることを拒否し船を沈めた。

    そもそも原潜など作らなければこんな危機は起こらなかったといってしまえばそれまでなのだが、ブリタノフ以下の乗員にはどうしようもなく、もし彼らが拒否していたとしても代わりの誰かが乗っていたので素直に危機を回避したプレミーニンやブリタノフを讃えたい。反逆罪で処刑寸前後はサインを待つばかりのブリタノフの命を救ったのは・・・これは読んでのお楽しみにしましょう。

  • 結構前から気になってた本書。前評判は良かったので期待してたが期待通りのすばらしい本だった。この話を面白いと表現してよいのか疑問だが面白い。たった一人誰に命令されるでもなくただ一人稼働中の原子炉に行く水兵。党の命令に背き乗員の命を守るために動く指揮官。どの軍人もすばらしい働きを見せる。アメリカ海軍の艦長も職務にまい進するが故の行動。当時はみな狂っていたのだろう。その中で正気であろうとしたK-219の乗員たち。ノンフィクションの中でもすばらしい本であった。

  • 先の絶望を考えるのは愚行。

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敵対水域の作品紹介

本書は、一九八六年十月、大西洋のバミューダ沖で起きた旧ソ連海軍北洋艦隊の原子力潜水艦K‐219の沈没事件に基づくノンフィクションである。

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