ハチはなぜ大量死したのか

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163710303

感想・レビュー・書評

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  • "ハチが大量にいなくなった。その原因は何なのか?犯人を探していく。まるでミステリー小説のように読み進める。自然の営みを意図的に人間の都合で変えてしまうことで、とてつもない事態を引き起こした悪しき事例として、われわれは学ぶべきことが多い。
    レイチェル・カールソンの沈黙の春と共に自然について考えさせられた本。"

  • 今頃になって興味を持って読んだ。ハチのコロニーが突然失踪して崩壊する原因を、いくつもの可能性を探りながらひとつひとつ追及していく内容は、著者自身が書いている通りミステリーのようでおもしろい。本書では、結論として様々な要因が絡んだ複合汚染としてまとめている。世界のアーモンドの82%がカリフォルニアで生産しており、その受粉のためにアメリカ中のミツバチが駆り出され、過密な仕事場で過酷な労働を強いられているという。トウモロコシや畜産業に見られるようなアメリカ式の効率主義が、こんなところでも同じような問題を引き起こしていると知って、唖然としてしまった。長年にわたって生態系に合わせて生きてきたハチを効率主義の産業に巻き込んでいることが根本的な原因であるとの著者の指摘には十分に説得力がある。

    人間が目先の利益を拡大させるために気づかぬうちに損失をまねいてきた事例は数多い。効率化を進めることは余裕を放棄することであり、突如の災害や異常事態の際に対応できなくなる状況に自ら追い込むことになる。求められているのは多様性なのだ、という著者の主張にも大いに共感する。ハチは農業生産に大きな役割を果たしているが、この問題は文明論にもつながる大きなテーマだった。

    風媒花のトウモロコシとオートムギ(エンバク)などを除いて、食用植物のほとんどが昆虫に花粉を運ばせる虫媒花。ミツバチの利用は古くから行われてきた。古代エジプトではナイル川沿いに咲く花を追ってミツバチを乗せた船を南北に移動させていた。イスラエルのレホブ遺跡では、BC900年の人口のハチの巣が発掘された(聖書では、イスラエルを密と乳の流れる土地と呼んだ)。ヨーロッパでも、ドナウ川、ラバ、人間の背中を使って花の季節を追いかけていた。ミツバチに花粉交配を頼っている作物は100種類近くになり、人間の食物の80%を占める。

    セイヨウミツバチの祖先はアフリカが起源で、200万年前に木の洞や岩の割れ目で生活するようになったため、熱帯以外の地域でも住めるようになった。ミツバチは花蜜だけでなく花粉も集める。花蜜は採餌蜂のエネルギー源になるが、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが含まれる花粉は蜂児に与えられる。採餌蜂の4分の1が花粉の採集を専門に行うが、花蜜を集める蜂との割合は状況によって変化する。

    2006年秋から蜂群崩壊症候群(CCD)が起こり始めた。ダニ、ウイルス、ノゼマ病微胞子虫などが疑われたが、決定的な原因が見つからない。農薬のネオネコチノイドは、アセチルコリン受容体と結合して神経を麻痺させる。ミツバチの死因の10%は農薬によるものとの推定もある。ネオネコチノイド系農薬のイミダクロプリドを製造するバイエル社によると、ヒマワリの花密と花粉の残留濃度は1.5ppb未満、トウモロコシとキャノーラでは5ppb未満だが、亜致死濃度は6〜8ppbとの研究結果もある。しかし、イミダクロプリドの使用を禁止しているフランスのミツバチが他のヨーロッパの国より良い状態にはない。

    研究者たちは、CCDに単一の原因があるという見方を捨てている。ミツバチが多くの種類のウイルスに侵されていることは、慢性ストレスによって免疫系が崩壊したことを示している。2月のアーモンド受粉期に備えて蜂の数を増やすために、養蜂家は冬の間に大量のコーンシロップを与える。しかし、花粉からのタンパク質の供給がないため、ミツバチの体からは善玉菌が消え、腐蛆病菌が蔓延する。今や、養蜂家はミツバチにプロテインジュースを与えるようになった。

    中国四川省のナシ農園では、殺虫剤が大量に撒かれてから昆虫が見られなくなったため、体重の軽い女性や子供が受粉を行っている。バニラ蘭の花の蓋を開けることができるハリナシミツバチは森林伐採のために消滅したため、今や世界中のバニラ蘭の受粉は人間が行っている。

  • 表紙に惹かれて手に取ったら大当たり!
    普段は小説しか読まないけれどわかりやすく興味深く、この分厚い本でも抵抗なく読み進められます。
    ミステリちっくなので生物学に興味のある方だけでなく、文系が最近の環境変化とその弊害について知るさわりとして読むのにも適していると思います。
    知ることの大切さを教えてくれた1冊です。

  • 題名だけを読めばだから何となるかもしれないが、蜂がいない世界には果物は繁栄しない。農業がこれほど蜂に支えられてるとは知らなかった。
    有る特定の作物を効率的に育てようとする事がより大きな危機の原因となる。ここでもバブルは崩壊するようだ。
    化学屋としてはそこをどう折り合いをつけるか考えてしまう

  • タイトル通りに本書の前半では蜂が大量死した原因を探り、農薬、環境破壊、電磁波、遺伝子、寄生虫、病気など様々な観点からミツバチが激減してしまった原因を探っていますが、本題はそのあと。

    てか、CCDと呼ばれるハチの大量死の原因はわからずじまいです。
    様々な原因が「考えられている」だけで、もっともらしい理由もたくさんあるのですが、正確なこれだという理由は特定できずに終わります。
    それどころか、この本の中でも「たった一つのCCDの原因を突き止めようと必死になるのは的外れだ」としています。

    大切なのはハチが大量死していることではなく、ハチが大量死することによって起こりえる様々な影響について。

    ミツバチがいなくなったらいったいどうなるのか?
    そんなことを想像したことがありますか?
    当然私もそんなことを考えたことなんて一度もありませんでした。
    ミツバチがいない。養蜂場のハチのあの箱が空になってるってこと??なんか怖いねぇ…、程度の想像力。
    ミツバチがいなくなると、いったいどうなってしまうのだろう。

    ミツバチには「植物」の「花」を「受粉」させるという重要な任務を負っています。
    ミツバチがいない環境でも、アブやハエが媒介して受粉し作物を実らせる植物もたくさんありますが、逆に受粉をミツバチに頼り切っている農作物も存在しています。
    本書で取り上げられているのは、カリフォルニア州のアーモンド農場。
    アーモンドの受粉にはミツバチによる媒介が絶対に必要であり、ミツバチは膨大な広さの農場内に咲くアーモンドの花を行き来して受粉させる必要があります。
    その広さはなんと2800平方キロメートル。そしてこそに150万箱のミツバチの巣箱が「レンタル」により「設置」され、開花期間中にすべての花を受粉させるべくミツバチたちはドーピングまがいのコーンシロップと呼ばれ餌を与えられとんでもないストレスと戦いながらせっせと働くことになる。
    2007年にハチが大量死したことにより、ミツバチの巣箱の貸し出しは1個につき200ドルにもなったそうで、これはアーモンドの生産コストのうち約20%を占めるいう。このままミツバチが減り続けていけばいずれこのアーモンド事業は成り立たなくなってしまうでしょう。
    そう、「ミツバチ」が「減る」ことで、「アーモンド」が「収穫できなくなる」わけです。

    ビジネスでいうところの「事業」は無限に成長を続けることを前提としています。
    しかし、健康的な農場は、自然のサイクルの中で存在し続けるべきである。
    つまり、順調な「成長」と順調な「腐朽」を繰り返すことにより、農業は維持するためのバランスをとる必要があるとしています。

    効率化と規模の拡大しか目に入らないまま進めてきた事業は、CCDによるミツバチの減少により大きな岐路に立たされているわけです。

    CCDに少しでも良い面があるあるとすれば、農業がミツバチに頼っているという事実を人々に知らしめたことです。そして花粉媒介者を必要としているのは農作物だけではないということ。
    何かがおかしいと私たちが感じるのは、その余波が人間の利益を直接侵害した時だけ。
    そして今、やはり何かがおかしくなっている。

    ミツバチだけの話ではありませんが、人間が植物を育て、収穫するまでには複雑なシステムが絡み合っており、それが少し欠けただけでも多大なる影響を受ける可能性はどこにでも存在しているということです。
    何気なく食べている野菜や果実、それらが目に見えない影響で原因不明のまま消え去ってしまうという事態はいつ起きてもおかしくない。
    しかし、それに対する明確な答え、解決策を見つけるのは不可能です。
    我々にできることは、本書そのものの存在と同じように、単純明快な答えを求めずに、物事の本質に目を向けるよう努力すべきだということではないでしょうか。

  • 自然を征服しようとするのではなく、いかに共存すべきかを示唆してくれる。

  • ハチの大量死に関しての様々な視点からの考察が得られる本。

    ミツバチというものがこれほど、全ての生物にとって重要である事、また、様々な特性を持っていることを知れたのは非常に喜ばしいこだと思いました。

    これを一冊読み終わる頃には、ミツバチが好きになっていると思うし、ミツバチに対しての理解もとても深まる。
    「みつばちなんてどうでも良くない?」と思っている人ほど、読んでみると多くの示唆が得られると思った。

  • ミツバチがいかに自然界で地球上で大切な存在かに気づく本

  • 先生に勧められて読んだ。

    実は2年前に手に取ったことがあったのだが、”環境保護”を訴える扇動的な内容だと思い読まなかった。
    実際に読んでみると、非常に冷静な書き方がされている。著者は科学者ではないが、書かれている内容は公平かつ丁寧で重要な点をしっかり押さえている。

    今まで人間が自然に対してきた態度というのは傲慢そのものであること
    そしてそれが破綻に瀕していることが、ミツバチの大量死という事件を通じて伝わってくる。この本に示されたアメリカの大規模農業の現状は背筋を凍らせるには十分である。日本でも農業の集約化が唱えられ、自分もそれが正しいことであると思っていたが、この本を読んで考えを改めた。

    農学部に籍を置く自分として、環境との共生する農業、地域に根差した農業を意識するきっかけになると思う。

    この本を勧めてくれた先生に感謝である。

  • そういう事実があったことに驚き。
    そして今もある事に驚き。

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