マンガホニャララ

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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163722603

感想・レビュー・書評

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  •  ブルボン小林とは、芥川賞作家・長嶋有の別ペンネームである。もちろん長嶋のファンなら知っていることだが、本書には長嶋有の名はどこにも使われていない。長嶋もいまでは映画化作品も複数ある人気作家なのだから、長嶋名義で出したほうが少しは本の売れ行きも上がると思うのだが……。

     ブルボン小林名義の著書には、『ゲームホニャララ』というゲームネタのコラム集もある(私はゲームをやらない人間なので、未読)。本書はそのマンガ版。『週刊文春』にいまも隔週連載中の同名コラムを中心に、さまざまなメディアに寄せたマンガネタのコラムを集めたものなのだ。

     マンガ評論と言わずに「マンガネタのコラム」と呼ぶ理由は、読んでみればわかるはず。古いものから新しいものまで、メジャーからマイナーまで、さまざまなマンガを取り上げた文章が並んでいるのだが、その大部分は作家論とも作品論とも言いにくい、ユニークな角度からマンガを語った内容なのである。

     たとえばあるコラムでは、「刊行に時間がかかることでも有名」な『ヒストリエ』のコミックスに、なぜか「これまでのあらすじ」がないことに着目。誰も思いつかない角度から、『ヒストリエ』の魅力に迫っている。

     別のあるコラムでは、人気マンガのタイトルロゴについて語るという、これまたほかの誰も思いつかないようなテーマを選んでいる。しかも、そんなトリヴィアルなネタで十分面白いコラムになっているのだから、スゴイ。

     また、別のコラムでは、マンガの中に顔が描かれないキャラクター(『めぞん一刻』の響子さんの前夫とか、『美味しんぼ』の山岡士郎の母親など)を比較して、顔が描かれないことの意味を考察している。

     些末なテーマばかり選んでいるようでいて、その内容は意外にも、取り上げた作家・作品の本質を射抜いている。
     たとえば、1990年代とゼロ年代の人気女性マンガ家の質の違いを、著者はなんと「床」の描き方の違いから論じてみせる(!)。

    《九○年代、女性作家の漫画には、やたらと「床」が描かれていた。比喩ではない。(憧れも含め)若者がフローリングとベッドで暮らすようになった時代の反映だろうか。(中略)岡崎京子の漫画が特にそうで、人物はしばしば床にいたし、読者の視野にも板の線がやたら目に入る。
     ゼロ年代にデビューした渡辺ペコの『にこたま』にはほとんど「床」が出てこない(強調がない)。》

     そうした違いが何を意味するのかを、著者は謎解きしていく。訳知り顔の評論調ではなく、軽快なコラム芸の中で……。

     前半を占める『週刊文春』連載分が、総じてコラムとしての質が高い。それ以外のメディアに寄せた原稿を集めた後半は、玉石混淆。
     ただ、全編をつらぬく飄々とした味わいは、長嶋有の小説世界そのものだ。長嶋ファンで、しかもマンガ好きなら十分楽しめる内容である。

     何より好ましいのは、マンガを読むこと、マンガについて語ることの楽しさが、全編から熱く伝わってくる点。

     長嶋有名義のエッセイ集『いろんな気持ちが本当の気持ち』の一編に、CDを買って電車で帰るとき、電車の中でCDの包装を開けてライナーを読み、音を想像するのが楽しい、という一節があった(本が手元にないのでうろ覚えだが)。
     私はその一節を読んだとき、音楽好きの「気持ち」をじつにうまくすくい上げるものだ、と感心した。

     同様に本書も、トリヴィアルなネタのコラムを通じて、マンガ好きの「気持ち」が巧みに表現されている。

  • 微妙なところひろってて面白かった

  • 面白い。その一言につきる。いずれもが深い考察、客観的な言葉で説明されていて心地よい。
    「漫画とゲームは親和性が高い」、「藤子作品では死ぬではなく消える」など読んでいて納得する。

    ぐっとくる題名でも取り上げられていた「ザ・先生ション」が載ってるけど、買ったのか?

  • 最高のマンガ評論。

  • 面白い!読みたい漫画が増えた♪( ´▽`)

  • ボンコバ氏とは同学年。ゲームばかりかマンガ観も合うことが分かった。
    浦沢直樹先生に対する視点とかまるで同じ。
    そんなわけでボンコバ氏の薦める「オバカミーコ」はやっぱり自分の趣味だった。

  • どこかで著者自身がこの本のことを「落ち穂拾い」と言っていたのを読んだ。いやいやちゅうことは落ち穂多過ぎだろ、と思ったけど、落ち穂が多すぎる、というよりは、マンガの持つ(なんかようわからんけどなにかしらの)実りの要素は思っている以上に大きいのかな、と考える。
    だからといって、おい誰かこの人に続いていけよ!とは思わないけど。これはこれで。この人でさえ拾っていく必要を感じなかったものに面白さがあるかもしれないし。

    というわけで(どういうわけで?)、マンガ買わなきゃ、読まなきゃ、と考える。

  • 面白かった!
    衿沢世衣子さんの言う通り読みたいマンガがぐっと増えた。
    色んなとこで評判になってる以外のマンガがばんばん出てくるからかな。
    「かりあげクン」と「モジャ公」すげー読みたくなったもんね。

著者プロフィール

ブルボン小林(ぶるぼん・こばやし)
1972年生まれ。「なるべく取材せず、洞察を頼りに」がモットーのコラムニスト。2000年「めるまがWebつくろー」の「ブルボン小林の末端通信」でデビュー。現在は「朝日新聞」夕刊(関東、九州、北海道)、「週刊文春」、「女性自身」などで連載。小学館漫画賞選考委員。著書に『ジュ・ゲーム・モア・ノン・プリュ』(ちくま文庫)、『増補版ぐっとくる題名』(中公文庫)、『ゲームホニャララ』(エンターブレイン)、『マンガホニャララ』(文春文庫)、『マンガホニャララ ロワイヤル』(文藝春秋)など。

「2018年 『ザ・マンガホニャララ 21世紀の漫画論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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