- Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163724300
作品紹介・あらすじ
朽ちかけた木の襞に、ルリボシカミキリがすっとのっていた。嘘だと思えた。しかしその青は息がとまるほど美しかった。しかも見る角度によって青はさざ波のように淡く濃く変化する。それは福岡ハカセがハカセになるまえの、まぎれもないセンス・オブ・ワンダーの瞬間だった。
感想・レビュー・書評
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福岡ハカセのエッセイ。
一見難しそうな事でも、すごく分かりやすく書かれていて、福岡ハカセは読む側聞く側の立場に立てる人なんだなぁと。こんな先生の講義受けてみたかった。
ちなみに子供の頃田舎で育ったせいか、大人になった今でも私は案外昆虫が大丈夫です。特にルリボシカミキリは大好き。でも、もう何年も見ていないなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
新幹線のお供に何か雑誌でも買おうという時につい『週刊文春』を選んでしまうのは福岡 伸一のエッセイがあるからです。
もちろん、阿川佐和子の「この人に会いたい」も好きだけど。
本書にはその福岡ハカセのエッセイが70編詰まっています。
タイトルにもなったルリボシカミキリは、それはそれは美しい青色をしたカミキリ虫だそうで、表紙にもなっています。
ググったら確かに美しい。
福岡ハカセは、本業は生物学者で、狂牛病を取り扱った 『プリオン説はほんとうか?』や、動的均衡について書かれた『生物と無生物のあいだ』で有名ですが、文章も上手くて、
蝶への興味はやがてもっと硬質の美しさへの希求にとってかわる。あこがれたのはルリボシカミキリだった。小さなカミキリムシ。でもめったに採集できない。その青色は、どんな絵の具をもってしても描けないくらいあざやかで深く青い。こんな青は、フェルメールだって出すことができない。その青の上に散る斑点は真っ黒。高名な書家が、筆につややかな漆を含ませて一気に打ったような二列三段の見事な丸い点。大きく張り出した優美な触角にまで青色と黒色の互い違いの文様が並ぶ。私は息を殺してずっとその青を見つめつづけた。
って、科学者というより文筆家の域ですよね。生物学者はやはり観察力が半端じゃないので、表現力を伴うと恐ろしく魅力的な文になりますね。
それから、
生物の特徴は、実は、指揮者やリーダーがいないということである。ヒトの細胞は全部で六十兆個もあるけれど、どの細胞も全体の地図や構造を一切知らない。個々の細胞が絶えず連絡を取り合っているのはせいぜい自分の前後左右上下の細胞だけである。にもかかわらず全体としては組織だった統合がなされている。中央集権ではなく地方分権的な仕組みだという点がポイント。脳ですら、身体全体を鳥瞰的に見ているわけではなく、むしろ個々のニューロンは近隣のニューロンと情報を交換しているにすぎない。ローカルなグリッドが相互に連結するだけで、グローバルなシステムを作り上げる。つまりここには「部品」と呼ぶべきものはなく、ローカルは連続的に全体を構成する。このようなモデルは、生命の本質を探る上でとても重要なヒントとなる。
という文章。考えてみれば、DNA鑑定ができるということは、六十兆個の細胞には、すべて同じDNAが組み込まれているわけです。なのに、部分部分で全く違った形や機能を有し、さらにそれが80年位の人生で部分部分で継続して新しい細胞に置き換わっているのはすごい不思議なことだと思いました。
もちろん、分子生物学的にはその辺も解明されつつあるのでしょうが、神秘だよなぁと思います。
一時期、「企業のDNA」なんて言葉が流行り、また、兼子先生が日本型組織の良かった点として「向こう三軒両隣を大切にした」と仰っていましたが、そう考えると成功したトヨタなんて会社は大きな一つの生物なのかなと思いました。 -
分子生物学者のエッセイ集。
ダイレクトに生物学の話というよりは、日々のよしなしごとから連想される話題が多く、これまで読んだ『動的平衡』、『生物と無生物のあいだ』よりちょっと日常的な色が多いところが特徴。
これまでの著作とかぶる内容も多いが、ノックアウトマウスのその後の研究成果だったり、少し視点を違えたりとどれも興味深い。ひとつのテーマで概ね3ページ程度のものが多く、内容的には浅いのが残念だが、そういう書き物なのでそこはしょうがない。他の本を読もう。
それにしても、著者自身も裏テーマと言っている教育に関する洞察、向き合い方が秀逸。一番心に響いたのは(文言は厳密ではないが)”教科書的に事実を伝えてもしょうがない。なぜそうなったのか、どんな議論があったのか、自分がおもしろいと思ったこと、感動したことを伝えることが大事”というものである。全くそのとおりだ。
著者の文章から、このことがにじみ出しているのがまた素晴らしい。
きっと授業もおもしろいんだろうなぁ。 -
著者である福岡ハカセの気づきや思い出が綴られる、エッセイ集。
相変わらず文書がとても感動的で、美しい。
動的平衡、センス・オブ・ワンダーという著者のメッセージはこの本でもブレない。
特に、最後の、初めて著者が本物のルリボシカミキリに出逢えた時の文章は心動かされる。著者を突き動かすものは、今も昔もセンス・オブ・ワンダーであるという思いが強く伝わってくる。
心に留めておきたい言葉は、
Think globally,act locally
-微生物学者で抗生物質を発明し、その後地球思想家になったルネ・デュポスの言葉。
また、ほかの本にも載っていたが、プロフェッショナルと呼ばれる人たちに必ず共通する「1万時間」の話は、いつも考えさせられる。
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馬を水辺に連れて行くことはできても水を飲ませることはできない
教育の不可能性と希望 -
雑誌に連載された短いエッセイ集で読みやすかった。
文章が上手なので小さな感動が連続して味わえる。
知的好奇心や雑学も得る事が出来、著者の本が売れるのも納得。 -
・タイトルの「ルリボシカミキリ」に関する学術的な図書ではない。
・エッセイ集だが、福岡氏が子供の頃、昆虫少年だったエピソードも多く含む。
・数多くのエッセイの中から、最後に収録されたルリボシの話からタイトルに。
・福岡氏は表現力の豊富さから、読書量はかなり多いと見受けられる。
・昆虫好きの人にとっては興味深い話が多いが、そうでない人はつまらないかも。
・男の子は蒐集癖がある、メカ派(鉄道・車)か生物派に分かれる、というのは共感できる。
抜粋P182
脳死問題
最先端科学技術は私達の寿命を延ばしているのではない。両側から生命の時間を縮めているのである。(ヒトをどの段階で生まれたことにするか、死んだことにするか) -
好きなことがあって、それに没頭できることって幸せだよね。人それぞれに、それは違うだろうけど。
どんなにつらいことがあっても、”好きなこと”があればね。耐えられるよ。なんてこととないよ。
プロローグ、あるいはエピローグを読むだけでも価値あり。 -
2010/6/5 借りる。6/23 読み終わる
福岡 伸一の本を読みたくて借りる。
「生物と無生物のあいだ」の後に読む。すごく面白かった。
内容と著者は
内容 :
分子生物学の最前線で活動する一方、生命科学の魅力を一般に伝え続ける著者が、
その研究生活を中心に、ときどきの事件・ハヤリごと、身辺のよしなしごとなどを綴る。
『週刊文春』連載のコラムを再構成・再編集して書籍化。
著者 :
1959年東京生まれ。京都大学卒。青山学院大学理工学部教授(分子生物学専攻)。
第1回科学ジャーナリスト賞受賞。「生物と無生物のあいだ」でサントリー学芸賞・新書大賞受賞。 -
週刊文春に連載しているコラムをまとめたもの(ウチの母はこれを読んでいたのだな)なので、一篇一篇は読み切りサイズ。時事と絡めたり思い出話を引っ張り出したりと多彩で、短く自由な形で書いているために著者の文章のうまさが余計に目立つ。うますぎてほとんどイヤミを感じるくらいに。
GP2遺伝子ノックアウトマウスの後日譚。実はGP2遺伝子は消化管内での免疫システム発動に関わっていた。実験室はクリーンなためノックアウトマウスでも不都合が起きなかっただけだと。
フタバスズキリュウの鈴木”元少年”は今でも博物館の職員である(爆問学問で見たな)。その鈴木さんが講演の最後に引いた与謝野晶子の短歌「劫初より造りいとなむ殿堂にわれも黄金の釘一つうつ」。
Think globally,act locallyとはルネ・デュボス(抗生物質を発見したそうな)が言い出したセリフ。着眼大局、着手小局。
矯正に関する歯医者の流儀はそれぞれであるようだ。行こうかと思っていたが少し思いとどまる気持ちに。
ブラウン運動の勘違いや、思い出とは自己愛であるなど、他にも面白い話がたくさん。