フレンチ・パラドックス

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163726809

作品紹介・あらすじ

いまや巨大なマーケットとなった中国、インド。新興国を勃興させ、貧富を強烈に分けながら広がっていくグローバリゼーション。この激流を乗り越える答えは、フランスにあった。不況時に強く、少子化も先進国で唯一克服したフランスは、これまで叫ばれてきた「小さな政府」の対極にある。いま、なぜフランスなのか?その秘密を「ミスター円」が解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 10.7.15 WBSで紹介されていた。

  • リーマンショックから最も遠い距離にあると思われた日本が、終わってみれば最も大きな被害を受けた。GDPの落ち込みは目を覆わんばかりの悲惨さである。これに対してリーマンショックの影響が最も小さかったのがフランス。どこの国も小さな政府を目指す中にあって、この国は大きな政府を指向している。公共部門の比重が高いこと、社会福祉制度が整っていること、政府の規制が厳しいことが特徴で、これらが金融危機や世界不況への強さを生んでいる。たとえば景気の影響を受けにくい公務員の数が多く、国全体として不況による賃下げの緩衝材になった。しかも、フランス公務員は薄給ながら禁欲的に働いており、日本のような公務員パッシングもない。また、育児、教育、雇用を対象にした社会保障政策、若年世代を念頭に置いたソーシャルネットワークの充実は出生率を上昇させ、移民社会であるアメリカを除けば先進国の中で唯一出生率が2を超えるという結果を齎している。中長期的にみれば国家の最も有効な成長施策は人口の増加。日本の社会福祉は年金・医療が中心で受益者は老年層だが、フランスはこれを若年層にまで広げている。国民負担率は大きくなるが、使途が明確であるため国民も十分に理解している。全体のビジョンも政策の方向も見えない日本とは大違いである。ただ、こんなフランスも実は過去においては人口減に悩まされている。なんと1916年には1.23という低出生率を記録しており、ドイツ、イギリスなどに大きく水をあけられていた。しかし、寧ろこの逆境が、人口減少に対する危機感が全国に先駆けた子育て奨励家族政策を進め、今に至っている。一方、経済に目を転ずると、内需中心型であり、貿易依存度がドイツの輸出40%に対して輸出は21%。輸入は25%と極めて低い。日本やドイツが製造業中心の輸出によって経済成長を引っ張ってきたのに対し、フランスは内需中心に経済成長を続けてきたため、両国のように労働者の賃金を抑制して製造業の国際競争力を維持しようという考え方がなく、そのことも世界不況に強い体質を生むこととなった。今、日本は製造業一辺倒の輸出立国からの脱皮成長が求められており、新たな社会システムをつくるべき時期にきている。アメリカ型新自由主義からヨーロッパ型社会への転換であり、最も優れたモデルがフランス型社会。周囲を見渡せば中国があり、インドがある。中国とインド両国で人口は25億人以上。世界の人口の5分の2を占め、今なお人口増殖中である。強敵である。日本が生き残るためには中国やインドの真似のできない日本ならではの取り組みが必要である。これまで積み上げてきた日本のモノづくり技術をもって輸出により外資を稼ぎ、内需中心に構造転換を図り経済を活性化しなければならない。なお、金融立国という道もあるが、日本には致命的欠陥である英語ができないという大きな課題がある。明治時代に翻訳文化を確立してしまったのが仇となり日本人は徹底的に英語ができなくなってしまっている。日本人の英語能力はアジアの中でも最低レベルなのである。現状を鑑みれば極めて困難と言わざるを得ない。何が日本の成長産業なのか。しっかり見定め産業構造の転換を図っていかなければならない。

  • 日本は小さな政府。
    しかし大きな政府のフランスがリーマンショックを勝ち抜いた。

  • フランスが少子化問題など数々の社会問題をどう解決して行ったかを紹介している
    スウェーデンパラドクスと合わせて読んだ
    統計をいめんだんだけ追ったところもあるので説得力はスウェーデンパラドクスの方がある
    が、フレンチパラドックスにも今後日本が強化すべきポイントはとても共感できる
    グローバリゼーションの中日本が生き残って行くために多くの人に読んで欲しい

  • あまり政策的な本には興味がないが、この本は面白く読めた。ちょうど、今の日本がどの方向に進めばいいのかを、やさしく説明してくれる。
    小さな政府と言っているが実際はどうなのか? その小さな政府の見本となりうる「先生」の国は?
    フランスの良さを伊奈に見習うか?
    または、貧富の差のはげしい二極化の国を目指すのか?それとも、社会主義的な平等社会を形成していくのか? どこを目指すのかによって 異なってくる。 小泉政権時代は、貧富の差がOKであり、今はまたその差をちじめる政策すすめようとしている。
    このばら撒きと言われた悪政も、国力アップの人口アップにはいいかも、、、
    しかし、もっと大きな目でもっと大きな力で、大きなビジョンをつくえる人が政治家として存在しないと、ほんと日本国は生きていけるのだろうか?
    企業のビジョンづくりと同じであると思った

  • かつて日本では職安法により間接雇用が禁止されていたから派遣社員というのは法的に存在しなかった。
    小さな政府最先進国のアメリカでは一番貧困層との格差が大きい。
    中国がアメリカを抜き、日本の最大貿易相手国となっている。3位韓国、4位台湾と日本の貿易の50%がアジアとの取引。
    フランスシラクイギリスのブレアをあてこすって、まずいものを食っている国の人間は信用できないと、プーチンに言ったという有名な話がある。
    フランスでは大学も9割以降が国立で無料。
    日本の最大の弱みは語学力。技術力、知識レベルは高いのに英語ができない。フランスでも英語を受け入れた。アジアの共通語も英語になる。

  • フランスと日本を対比しつつ日本社会の歩むべき道を示す本。アメリカなどと対比している本が多い中、この本は比較的社会主義色の強いフランスを比較対象にしている点で面白いと思う。また、示唆の内容も共感できるものが多いと感じた。ただ最後の「廃県置藩」には納得できない。

  • 民主党のブレーンと言われている榊原英資の本。
    竹下平蔵と対談したときに、日本は大きな政府になるべきだと
    しきりに言っていたので、その理由を知りたいこともあって読んでみた。

    フランスは大きな政府なのだが、
    その中でどのような政治を行っているのかが書かれている。
    あまり、フランスの政策のことをよく知らなかったが、
    大きな政府がどのようなものなのかがよくわかった。

    スウェーデンが福祉国家なのは有名だが、実はスウェーデンの人口は
    900万人程度で、とても小さい国だからそれができている。
    日本人は1億人以上いるため、どうしてもそれと同じモデルは採用しにくい。
    フランスには6000万人国民がいるので、日本の半分ではあるが、
    ある程度モデルにしやすいだろうと述べられている。

    なぜ、大きな政府がいいかというと、小さな政府だと貧富の差が
    大きくなるから。
    小さな政府だと競争力が高まるというのも、本当かどうかわからない
    ということらしい。

    確かに、アメリカのように自己責任で負け組勝ち組が決まる世の中は
    日本には似合わない気もする。

    この人の考え方には、ベーシックインカムの考え方に似ているな
    という印象があった。
    個人的にあまりベーシックインカムには賛成しないが、もしかすると、
    そうした方が健全な世の中になるのかもしれない。

    あと、この人の国債をどんどん発行すればいいという考え方も、
    あまりしっくりこなかった。
    -----------
    他の人のレビュー
    http://www.honzuki.jp/book/book/no35337/index.html

  • フランスはなぜこの世界規模の経済の難局を、さほど影響を受けずに乗り越えられているのか?―その答えは「大きな政府」にあるという、今の日本人には一見パラドキシカルに思える議論が展開されている。
    フランスでは、雇用や失業、出産、育児、教育など社会保障が行き届いていることが国民に安定した生活基盤を与え、グローバリゼーションや少子化の問題を克服している。また、公的部門の巨大さや規制の多さが資本主義の暴走を食い止めている、と著者は指摘している。
    もちろんこれらの背景に「大きな政府」の存在が必要となるわけだが、著者が強調したいのは、国のあり方が今までになく問われている日本において、単純に「大きな政府」=「絶対悪」と切り捨てるのではなく、また逆に無条件に礼讃するのでもなく、こういう良い面があるからその価値を再検討してみてはどうか、ということだと思う。
    「官」と国民の関係、国家の歴史、個・家族・仕事の価値観など、日仏の違いは多い。今フランスで成功していることが長期的にはどうなのか疑問に感じる点もある(特に公的部門の大きさ)。しかし、ここで書かれている施策のなかで、特に育児や教育まで含めた広い意味での少子化対策については、フランスに学ぶべき点は多いと思う。

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著者プロフィール

1941年生まれ。東京大学経済学部卒業。65年に大蔵省入省。財政金融研究所所長、国際金融局長を経て97年に財務官に就任。99年退官。2010年より青山学院大学特別招聘教授。著書に『「今日よりいい明日はない」という生き方』『書き換えられた明治維新の真実』など。

「2018年 『AIと日本企業』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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