錯覚の科学

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163736709

作品紹介・あらすじ

サブリミナル効果などというものは存在しない。いくらモーツァルトを聴いても、あなたの頭は良くならない。レイプ被害者は、なぜ別人を監獄送りにしたのか?脳トレを続けても、ボケは防止できない。「えひめ丸」を沈没させた潜水艦の艦長は、目では船が見えていたのに、脳が船を見ていなかった。徹底的な追試実験が、脳科学の通説を覆す。

感想・レビュー・書評

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  • 大変興味深く読んだのだけど、どうしてもひっかかるのが「錯覚」という言葉の使い方。これって原書ではどんな言葉が使われているのだろうか。広辞苑では、「錯覚」は、「①(心)知覚が刺激の客観的性質と一致しない現象。②俗に、思いちがい。」となっている。①は心理学用語ではあるけれど、一般に使うときにもそういうニュアンスであることが多いような気がする。本書で取り上げられている事柄は、確かに①の意味のものもあるけれど(「見えないゴリラ」など)、「思いちがい」とか「思いこみ」とよぶ方がずっとしっくりくるもののほうが多い。とりわけ後半の内容を「錯覚」という語でまとめるのにはかなり違和感がある。

    しかしまあ、それはそれとして、内容はとても面白かった。人はいとも簡単に事実と違うことを思い込むが、それは脳が情報処理を適切に行うことの副産物であり、人のそうした性質を知って対処すべきことが多くある、という著者たちの考え方が説得力を持って語られている。

    有名だという(私は全然知らなかった)「見えないゴリラ」をはじめとして、まさかそんなあと思ってしまう「錯覚」の事例が、実験や実際の事件という形で提示されている。いろいろある中で、特におもしろいと思ったものをいくつか。

    ・記憶の捏造について。少し前に読んだ「脳はなぜ都合よく記憶するのか」を思い出した。記憶というものがいかに不確かか、考え込んでしまう内容だったが、本書でさらにその感を強くした。体験直後から記憶は不正確で、鮮明な記憶と思っているものも思いこみだとその証拠を示されてしまったら…、うーん、これはちょっとつらい。

    ・「人は統計より実話に弱い」。あ~、これは例に事欠かないなあ。CMなんかそのオンパレードだものね。情報が洪水の如くあふれる今の世の中だからこそ、身近な(と思える)体験談に耳を傾けたくなるのかも。

    ・「ふつうの人は、脳の潜在能力を10%しか使っていない」というのも思いこみ。え?そうなの?なんとなく本当らしく思っていた。これも「サブリミナル効果」とかと同じく似非科学的言辞らしい。

    あと、まったくのシロートとして気になったのが、当然の前提として言明される「再現できることのみが科学的真実」という考え方だ。これが、実験心理学という分野では、言うまでもない自明なこととされるのはわかるが、臨床心理学などにおいては、どのように考えるのだろう。さらに、科学界一般(そういうものがあるとして)ではどうなんだろう。「真実」とはなんですか、とか突っ込まれたら困るけど。

  • 去年あたりに読んだのを再読。

    『錯覚』とはいうものの、視覚野を超えて脳の限界・誤解についても言及している。

    具体例として挙げられるのが、どれも有名な事件で、人間の脳の錯覚とはどれほどのものなのか、非常に分かりやすく、示唆に富んでいる。

    誰にでも勧められる良書。

  • 冒頭で紹介しているゴリラのビデオを見てみた。パスの数を勘定してたら、ぼくは見落とすほうの50%入りだな。普通に見ていたら、見落しようはないけれど。
    ぼくはもともと、自分の注意力や記憶力をぜんぜん信用していないので、ショックは受けなかった。でも自分は特殊なほうだと思っていたので、世間一般の人の注意力や認知もあてにならないんだと知って、逆にショックを受けた。怖いな。相手に悪気がないのが更に怖い。痴漢や暴漢と間違えられたらどうしよう。
    事例は豊富で、研究が元になっているから論理的だし、説得力ある。たいへん面白かった。

    ただ後半の主題になっている「俗説」のたぐいは錯覚とは別物だ。サブリミナル効果の嘘や、ワクチン接種が自閉症の引き金になるという「説」、モーツァルト効果などは、感覚や記憶の間違い=錯覚ではなく、論理的な研究や追跡調査の結果を説かれても信じようとしないというもっと根が深い問題だ。一緒にしちゃまずいと思う。

  • 図書館で見つけて、ふらふらと借りてきました。サイエンスもの、あるいは似非科学ものが好きな僕にとって、この本は手に取らずにいられないタイプの本です。期待に違わず面白かった。僕も交通事故にあって、逃げていったクルマのナンバープレートを覚えようとして果たせなかったことがあるので、「錯覚」が意味するところはよくわかりました。本の中で紹介されているサイト(www.theinvisiblegorilla.com)も覗いてきました。もう一つ収穫は「運動すると認知機能が上がる」という話の元論文を引用していてくれたこと(Nature 400(1999):418-9)。いずれにしても、サイエンス本好きなら読んで損はない一冊です。

  • 本書では6つの錯覚について書かれている。
    注意の錯覚、記憶の錯覚、自信の錯覚、知識の錯覚、原因の錯覚、可能性の錯覚。やはり興味深く読めたのは注意の錯覚だった。実際にゴリラの動画を見たが、事前情報なしでゴリラに気付けたかは自信がない。人はこれ程までに視野内に捉えていても認識出来ないものなのかと驚いた。どおりで事故が減らないわけである。
    記憶の錯覚もハッとさせられた。自分では間違いと記憶している事も、他者から違うと指摘された事がある。恐らく都合の良い様にねじ曲がった記憶だったのだろう。
    錯覚には気をつけたい。

  • 他人が自分に興味を持っていると思って、

    服装を気にしたり、髪型を気にしたりしている。

    しかし、思っている以上に人は自分のことを見ていない。

    その実験をご紹介しよう。

    あなたは大学キャンパスを歩いている。

    その途中、地図を広げて道を探している様子の男性に出会った。

    男性が近寄ってきて、あなたに図書館の場所を尋ねる、

    あなたが地図で位置を示しながら道を教え始めた時、後ろから声がした。

    そして数名の職人たちが、「すみません、通ります」と言いながら、

    大きな木の扉をかかえて、あなたと男性の間を強引に通り抜けた。

    彼らが行ってしまった後、あなたは道案内を終えた。

    その時あなたは、扉を抱えた職人たちが通り過ぎる間に

    道に迷った男性が別人に入れ替わったのに気づいただろうか。

    入れ替わったのが、服装が違い身長に10センチ近く差があり、

    体格も声も明らかに違う男性だったとしたら?

    この実験の結果は半分以上の人が気付くことはなかった。。。 そしてさらに、「相手が入れ替わったのを見落とすなんて、ありえない」と言った人に

    助手が声をかけて実験への参加を呼びかけ、案内した。

    その際に助手が途中で入れ替わったが気付く人はいなかった。。。 しかし例外として、男女や人種の違いはほとんど気付くというデータがある。

    なので過剰にミリ単位で髪型を気にしたり、

    服装のことを気にするということは時間の無駄ということになる。

    しかし、反対に言えばそこの細かいこだわりに気付くことができれば

    良い印象が与えられるのではないだろうか。

  • 原題は、The Invisible Gorilla and other ways our intuitions deceive us.

    つまり、直感的な判断は、間違っていることが多いという内容。取り上げられているのは、
    注意の錯覚 他のことをやりながらだと、よくある動作は問題なく行えるが、予期しない物事を認識することができない
    記憶の錯覚 記憶を定着させる過程で、「あるべきこと」が本当にあったと記憶してしまうこと
    自信の錯覚 自身は他人も自分自身も騙してしまう
    知識の錯覚 高度の専門的知識を持ていると思われている人は、自分でも実際より真実を知っていると思い込んでしまう
    原因の錯覚 偶然の一致や相関関係を因果関係と誤認する
    可能性の錯覚 訓練することによって脳の能力は開発・向上できる。しかし。その効果は、訓練した分野の活動に限られ、脳の活動全般が向上するわけではない。たとえば、数字の記憶能力を訓練しても、英単語を覚える能力は向上しない。

  • 見ているものを脳が見ていない。

    自信が錯覚を起こさせる。

    サブリミナル効果はない。実験のウソ。

    脳トレは効果がない。

  • <blockquote>この本に登場するのは、私たちに影響をあたえる日常的な六つの錯覚――注意力、記憶力、自信、知識、原因、可能性にまつわる錯覚――である。</blockquote>

    日常的錯覚には、我々に自分の能力や可能性を過大評価させるという共通点がある。自分が簡単に出来ることを、上手くできることと混同しやすい。しかし、この特徴のおかげで難題に挑むハードルを低くさせることがある。いわば集中力の副産物だ。

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