朝日新聞の中国侵略

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163737300

作品紹介・あらすじ

昭和十四年元旦、日本人居留民が激増する中国の上海に日本語新聞が創刊された。その名は「大陸新報」。題字は朝日の緒方竹虎が筆を執り、近衛首相、板垣陸相の祝辞が並ぶ立派な新聞である。この「大陸新報」こそが、帝国陸軍や満州浪人と手を結び、中国新聞市場支配をもくろんだ朝日新聞社の大いなる野望の結晶だった。「正義と良心の朝日新聞」がひた隠す歴史上の汚点を、メディア史研究の第一人者が、半世紀近い真摯な朝日研究の総決算として、あえて世に問う。

感想・レビュー・書評

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  • 日中戦争時の朝日新聞が軍部との繋がりから
    大陸新報という形をまとって中国市場へ乗り出す様子を描く。
    資料も多く内容は極めて細部に至っているが、
    知識不足からか、理解が追いつかない箇所があった。
    梅機関の役割や、敗戦後の転身など、
    メディアの影響力と危うさを感じずにはいられない。

  • 軍部による報道の検閲や嘘の報道? 実は自ら進んでその旗を振ることで成立した翼賛ジャーナリズム


    8.15を境にしたメディアの変貌はひどいものがある。その日まで「鬼畜米英」と煽りに煽り、その日から「わたしたちも被害者でした」といけしゃあしぁあと「民主主義」を語ってきたのが“無節操”な日本のメディアである。これ関する罪責告白は、会社が大手であればあるほど皆無というのが実状だろう。そして、この問題が日本のメディアの権力との親和性、そして補完構造の根になっていることはいうまでもない。

    さて本書は、『大陸新報』という昭和十四年に中国・上海で創刊された日本語新聞をとりあげ、『朝日新聞』の中国大陸における報道の実態を検証した一冊である。

    上海事変以降明らかになるのは、日本の宣伝工作の遅れである。支那軍派遣報道部は、日本語新聞の創刊でこれに対抗する。大手各社をさしおいて朝日新聞社がこの指名を獲得する。紙面の題字は主筆の緒方竹虎が執った。

    特務機関や知識人とジャーナリストたちの交差は実に複雑だ。路線争いやオーナーの対立など、一筋縄にはいかない複雑な実態を本書は丹念にほぐしていく。本書の史料精査は実に圧巻だ。そしてこれが歴史研究の「深み」であろう。

    戦後、朝日新聞は『社史』においてこれら「汚点」をそれなりに自己告白している。しかし、本書を読むと、それは消極的免罪への「自己言及」にすぎない。実状は、積極的荷担を意図的に隠蔽しているともいえよう。本紙『大陸新報』以外の周辺活動がスルーされていることがそれを如実に物語っている。国内外での軍関係雑誌や書籍の発行、そして植民地でのプロパガンダ工作に目を向ければよい。

    かつて戦時下ジャーナリズム研究家・高崎隆治氏は、新聞メディアよりも雑誌メディアの戦争責任が重いと語ったことがあるが、新聞メディアも雑誌メディアと同じ手法をとっていたことに驚く。すなわち『文藝春秋』は本誌の体面を守るために、都合良く迎合礼讃雑誌『話』を創刊し、翼賛報道を繰り返した。しかし新聞メディアも同じ手法を使っているということだ。そして、南京事件は、権力メディアへの便乗は、同業他社への圧倒や新聞市場の拡大へと点ずる契機となっている。

    戦後、朝日新聞は、GHQに対して、戦争をぎりぎりまで回避する努力を怠らなかったと弁明している。しかし本書を読むと、説明責任とはほどとおいダブルスタンダードぶりが明らかになる。朝日新聞は、戦争を利用して部数を大きく伸ばし、広告収入も大きく増やしている。

    かつて右翼から「国賊新聞」と罵られたリベラリズムの伝統を放擲し、「国策新聞」化へと進むのが戦前昭和の朝日新聞の歴史といってよいだろう。そして問題なのは権力の眼差しを「隠す」ことに協力して事業を拡大したこと、そしてそれと同時に、大陸新報社は、……まさに雑誌ジャーナリズムが本体を守るためにいつもで休刊してよいダミー雑誌を繰り返し発刊したように……子会社化させて本体の責任を逃れるよう仕込んだこと。このことは広く周知されたい時事である。

    その意味では、戦前昭和の「事変」化報道に取り組むなかで、もっとも戦争を光明に煽っていたのは朝日新聞かもしれない。ほとんど隠蔽されたままにあるのが「メディア」と「戦争」の関係だろう。本書はそこに一筋の光を放つ一冊だ。

  • 過激なタイトルがつけられているが、本書はメディア史研究の大家である山本武利氏の「半世紀近い真摯な朝日研究の総決算」とも言える一冊である。上海という「魔都」に存在した大陸新報社という小さな(そして怪しい)新聞社を通じて、“権力”とメディア-特に朝日新聞との関係の実態を明らかにしている。

    一つの会社を起点として中国市場の支配を狙った朝日新聞の「侵略」行為を明らかにする下りは、正に半世紀にわたって朝日を研究してきた著者の真骨頂とも言えよう。ただ、本書は朝日の「侵略」行為を批判するだけでなく、単なる「国策会社」という枠組みだけでは捉えきれない『大陸新報』というメディアの“魅力”も明らかにしている。

    その一つに「人材」が挙げられる。大陸新報社では、二十代半ばの大陸浪人であった福家俊一社長の下に様々な社員が集まっていた。例えば、神兵隊事件の首謀者として有名な鈴木善一や人民戦線事件の被告となっていた美濃部亮吉、高橋正雄などである。このように、当時の大陸新報社には、左右問わず様々な人材が集結していた。本書は、主に経営面に焦点が当てられているが、これだけ稀有な人材を抱えていた同紙が、どのような言説を展開していったかを考察してみるのも面白いのではないかと思う。

    本書から見えてくるのは、“権力“に対抗しながらも弾圧に屈した“悲劇”のメディアというお決まりの構図ではなく、むしろ、そうした“権力”と上手く渡り歩きながら自社の利益拡大を目論む“したたか”なメディアの姿である。権力とメディアの関係を考える上でも、非常に参考になる一冊である。

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著者プロフィール

1940年生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。一橋大学名誉教授、早稲田大学名誉教授。

「2018年 『子ども・家庭・婦人博覧会』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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