水底フェスタ

著者 :
  • 文藝春秋
3.24
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  • (23)
本棚登録 : 2370
感想 : 420
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163807706

作品紹介・あらすじ

村も母親も捨てて東京でモデルとなった由貴美。突如帰郷してきた彼女に魅了された広海は、村長選挙を巡る不正を暴き"村を売る"ため協力する。だが、由貴美が本当に欲しいものは別にあった-。辻村深月が描く一生に一度の恋。

感想・レビュー・書評

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  • 2021/02/18
    #このミス作品64冊目

    強烈な狂気。
    ブラックな辻村作品の中でもピカイチ。
    排他的な村社会に母を殺され
    復讐を企てる由貴美とそれを愛した広海。
    救いようがなさすぎるストーリーだが、
    それがそれでイイ。

    • megmilk999さん
      おー!こういう感想になるわけですね。読み返してみたくなりました。
      おー!こういう感想になるわけですね。読み返してみたくなりました。
      2023/01/03
  • 363ページ
    1429円
    11月12日〜11月14日

    田舎で行われるムツシロック。広海はフェスで由貴美を見かける。再び由貴美と会ったのは水根湖。そこで由貴美は村への復讐を手伝ってほしいと持ちかける。由貴美に惹かれる広海。由貴美の母がこの村を離れなかったのは、村長選挙の時にバラまかれるお金と、広海の父が原因だという。信じていたものに裏切られ、信じてくれた友を裏切り、最後に広海がみたものは。

    ドロドロした話だった。信じていた父に裏切られ、信じてくれた友を殺してしまい、本当のことを言えない、聞けない、悶々とした感情がうまく描かれていた。最後が悲しい結末でもあり、結局隠蔽体質の村の有り様はそのままで終わり、スッキリしない終わり方だった。辻村深月というよりは湊かなえっぽかった。

  • 何も知らなかった頃にはもう二度と戻れないね、広海。

    広海の最後の行動は村の外からすれば正義だろうけど、村の中からすれば破滅をもたらす悪になる。進むも地獄、戻るも地獄。広海はまだ高校生で出来ることは何もないと言っていいと思う。そんな彼に業を背負っていく覚悟があるのだろうか。広海は村とは決して離れられないと思う。
    もしかしたら、広海は自らの意志で村を出ないのかもしれない。一度離れたとしても、きっと戻ってくると思う。そして、何十年か後に父の跡を継ぎ村長になるかもしれない。門音と結婚するかもしれない。彼女に冷めた気持ちを向けながら、由貴美のことだけを愛して。

    どちらにしても、または別の選択肢を選んだとしても、広海の辿るこれからの未来は由貴美や達哉の存在を無いものとした村に対する復讐かもしれない。そしてその中には彼自身をも含んでいるんじゃないかと思う。
    彼は短い時間だったけれども、お互いを深く求め合った由貴美の残像に絡みとられながら生きていくのを望んでいるのではないだろうか。それはまるでダム湖の水底の水草に、足を取られて二度と浮き上がってこられないような、暗く冷たい孤独を自分の中に受け入れるように。

    何だか、温度の感じない太陽に照らされた闇のように深い影が彼の足元から伸びているような、ザワザワと気持ちが波立つ印象で読み終えました。

  • 4.2
    少しサスペンス的な感じもする内容でした。
    読み進めるうちに、少しずつ色々な事情が明らかにされていく感じと、ちゃんと伏線が色々散りばめられているところがあり、後半読み進める集中力が高まりました。
    ちょっと重い内容ですが、面白かったです。

  • 辻村深月上級者向けの本。

    まず、野外フェスに行ったことがあるかどうかでこの作品への理解度が変わると思う。わたしはフェスに行ったことがある。ムツシロックよりは規模の小さいものだと思うが、それでも辻村さんが描くフェスの情景は想像しやすい。

    次に、本気の恋をしたことがあるかどうか。おそらくわたしはこれもある。本気の恋はダムの水底のように深く一度落ちると二度と浮かび上がってはこれない。その恋が自分にとって大きなリスクを抱えることになろうと落ちてしまっては戻れない。

    このふたつの回答が「ある」読者はおそらくこの作品の魅力に心を奪われると思う。この作品に涙している間はわたしもまだ水底に沈んだままなのかもしれない。

    由貴美のイメージは若いころの釈由美子!

  • ───天才辻村深月は何処へ消えた?

    ほっほう。読んでる読んでる。って誰が? 自分が。
    辻村深月がこれほどの官能的な描写(?)をした作品が過去にあっただろうか? 
    私はもうすでに主人公の高校生広海君になりきっている。
    織部由貴美に惚れてしまった。
    で、この本、分厚いわりにはそれほど長くないんですね。360Pしかない。
    しかも改行が多いので思ったより早く佳境に入ってしまった。
    広海君と織部由貴美は、この後いったいどうなるのだろう。
    そしてどういう結末が待っているのか。

    ↑と書いたのが一昨日、というか実際は同じ日なのだが。その後の展開には、ちょっとがっかり。

    中途半端、消化不良。そんな言葉が当てはまる読後感。
    天才辻村深月は何処へ消えた?
    どうもおかしい。どうも変だ。
    私が勝手に、“二人の若き天才女流作家”と名づけた綿矢りさと辻村深月。
    この二人が最近どうもおかしい。同じ伝染性の病気にでもかかったのか?
    もちろん、常に素晴らしい作品を世に送り出すことなどできるわけがないことは百も承知だが。
    それにしても、初期の瑞々しさ、心揺さぶる物語から、遠くかけ離れた方向へ進んでるように感じるのは私だけだろうか。

    作家は常に新しいものに挑戦したがる。実験したがる。
    今まで書いてないものを書きたがる。或いは出版社、編集者が書かせたがる。
    しかしながら、人間誰しも、神のように万能ではない。当然、得手不得手がある。
    「闇が深ければ深いほど、そこに射し込む光は柔らかく温かいはず」
    「これからも気取ることなくハッピーエンドを提示していきたい」
    と語った彼女はどこに行ってしまったのだろう。

    途中、広海君の葛藤、初めての経験などあたりは、官能小説のように響いてきた。
    それはそれで新鮮だったが、彼女がこれで何を書きたかったのかが全く分からない。
    閉鎖的な村社会との決別? 不正の暴露? 一生に一度の恋?
    いやあ、それは無理でしょう。この作品からそれを読み取るのは。

    男の子が一生に一度の恋を報わせるために、恋人の望みをかなえさせるために村を出て行く?
    いや逆か。若き女性が一生に一度の命がけの恋をして、自分の思いを若き恋人に託す?
    どちらにしても──きつい。

    いったい、これはミステリーなのだろうか? むろん純文学というわけでもなし。
    SF(少し不思議)ではないSF(すごく不思議)な世界だった。
    さすがに「ダンサー・イン・ザ・ダーク」までの後味の悪さは無いが、綿矢りさ「夢を与える」と同じ読後感。
    もちろん、ミステリー風な分だけ、読んでいての面白さはこちらのほうがあるけれど。
    出てくるキャラも、広美と織部由貴美以外の、両親、友達、みんなが、ある意味気味が悪い人たちだ。
    腹に一物あるというか、表と裏の部分が違いすぎるというか。
    最後には主人公の広海さえも魅力的ではなくなっていた。
    「行ってきます」と言って、村から出て行く広海。
    その先に光は見えるのだろうか。疑問だ。

    やはり彼女には、前半でこれでもかと伏線を張り巡らし、最後の二章辺りでするすると回収していく爽快なプロットの作品が似合っているし、それが読者を引きずりこませるのだと思う。

    彼女の故郷、笛吹市(ふえふきし)は、山梨県の甲府盆地の中央部やや東寄りに位置する市。
    2004年10月12日に東八代郡と東山梨郡の6町村が合併して発足した。市役所本庁舎は旧石和町にある。2006年8月1日には東八代郡芦川村を編入した。これにより東八代郡は消滅した。
    (ウイキより抜粋)
    このことから、この作品に出てくる“睦ッ代村”は、故郷をモチーフにしていることが分かったが。
    残念だ。誰がって? 自分が……。
    註:主軸となる固有名詞に“睦ッ代村”と促音を使われるのも参った。読みにくくて仕方がない。
    “向かっ腹”が立った、とまでは、もちろん言いませんが。

    辻村さん、次は頼みます。
    といっても次に読むのは「サクラ咲く」だから、これまた従来の辻村深月テイストとは違うのだろうけど。
    結婚して、一児の母となり、今後の彼女の真価が問われるのは、その次の作品になるのか。
    だから、無理な冒険とか、実験とかしないでくださいね、お願いだから。
    それこそジャンルは違えど「チヨダ・コーキ」のように、貴女には、貴女にしか書けない、人の魂を揺さぶる小説が絶対あるのだから。

    若くして才能を発揮させた作家は、その後やはり苦しむのかなあ。
    ここ2、3年のうちに彼女は絶対に直木賞を取ると周りの人間に断言していたが、ちょっと不安になってしまった。
    貴女の原点に立ち返って欲しい。一読者としての我儘ですが。
    頑張ってください。

    (追記)
    他の方が書かれていたが、彼女は文藝春秋と相性が悪いのかもしれない。
    というより、文春の辻村深月担当って誰だ? いったい。

    • きてぃさん
      そうでしたか・・・。
      私はまだ読んでいないのですが、いまイチ押しの作者なだけにkoshoujiさんのレビューを見て、読むのが恐くなりました・...
      そうでしたか・・・。
      私はまだ読んでいないのですが、いまイチ押しの作者なだけにkoshoujiさんのレビューを見て、読むのが恐くなりました・・・!
      けどそのうち読みます(笑)
      どんな作者にも「・・・え?」と思う作品てありますよね。それが続くともう過去の作品でしか楽しめないのか・・・新しい感動に出会えないのか・・・と悲しくなりますが、そこはkosyoujiさんのおっしゃるとおり、「人間誰しも、神のように万人ではない」ので、次回作を信じ、期待するしかないですね!頑張ってほしいもんです!!
      2012/04/09
  • 読むのがしんどい、ずーっと重たい本。でも面白くて、あっという間に読了。笑顔になる瞬間などなくて、それこそじっくりと水底に堕ちていくような感覚だった。

    せめて広海が由貴美と一緒に死ぬことができたなら幸せだったのに、由貴美を海の底に残して広海だけを助けられてしまうのが本当にやりきれなかった。村の闇が深すぎる…。
    広海は一人残された中でも村の闇を世間に明かしていこうとするラストだけど、またも村に力ずくで封じ込められそうだな、と想像してしまう。

    村長の息子で女優の卵とコッソリいい感じの関係、だなんて側から見れば羨ましがられそうだけど、とんでもないな。。でも広海の門音への接し方がどんどん冷たくなってって、私が門音なら心折れるなあ笑

  • イニシエーションといえばひとつのイニシエーションなのだろうなと思う。
    少年はこうして狭い世界を出て、大人になっていく。

    読んでいて、ずいぶん昔に読んだ『暗鬼』(乃南アサ)を思い出した。
    閉鎖的な環境、親族間の関係性、狭い村社会での監視と包囲。
    息の詰まるような環境で、主人公は生きていく。

    読者である自分自身も田舎の生まれなので、その閉鎖的な環境と「●●の家の子」と呼ばれることに親和性があるので、その分、主人公に対して同情を深くしてしまう。

    いまでこそこんな村はないだろうが(そうであってほしい)、おそらく昭和のはじめなんかは実際にこういう自治体は日本にゴマンとあったのだろうと勝手に推測する。
    そうまでして村の大人たちが守りたかったのはなんだったんだろう。
    人として大事な何かを無自覚に失いながら生きていくことを選択するともなく選択して生きていく彼ら村の大人たちは、けれども、実際にはなにを守っているのだろう。


    p320
    「ここにいいたら、そのうちに自分もあの人たちみたいになるんじゃないかって、思わない?」
    (中略)
    「年を取って、たとえ、お前があの人たちみたいな大人になったところで、その時のお前に、多分躊躇いはないよ」
    「どういうこと?」
    「今のお前の目から見たら軽蔑の対象かもしれない。だけど、何十年かしてお前があの人たちのようになるというのなら、その時お前は今の考え方を自然と放棄しているはずだ。自分を軽蔑する子供を未熟だと馬鹿にして、今感じているような躊躇いはきれいさっぱりなくなってる。価値観なんてそんなもんだ」

  • 190525*読了
    辻村さんの小説はなかなか多く読んできた方だと思うけれど、初期の作品に近い部分もありながらも、また新しい辻村さんが見られた、というか。
    村ならではの閉塞感。今もまだこんな村って現実にもあるのかな…ここまでではなくても村ならではの掟だったり、連帯感というのはあるだろうな。
    村の権力者の家系に生まれ、高校生になるまでずっと村で育ってきて、村を出たいと思いながらも、結局村から逃れられない広海。高校生で村を飛び出して、村から離れたように見えながら、それでも村に縛られ続ける由貴美。しんどいよねぇ…。
    都会に住んでいるものには分からない苦しみってあるよなぁ、と思います。逆に村だからこそ恩恵を受けている人もいるんだけど。
    それにしても、救われない…。今まで読んだ辻村さんの小説の中で、一番辛くなるというか。救いのない物語だと思いました。
    最近、盲目的な恋と友情も読んで、それも救いがなかったけれど、それよりも深い。それこそ水底まで沈んでいくような暗さ…。
    辻村さんの新たな一面。こんな小説も書かれるんだなぁ。

  • 読後が悪い
    フジロックが富士山麓でやっていなかったのを知ったのは今の会社に入社してからだった。
    ロック好きの同期が教えてくれたのだ。
    そんな疎い私でも、フェスのざわめきを感じた。
    今までとは違った著者の姿が見えるかもしれない、そう思わせる始まり。
    しかし、読後が非常に悪かった。

    目新しいのが、狭い村の密着感をあえて悪意をもって書いていること。
    また、大胆な性描写が登場したのも驚きだ。
    青春小説から大きく方向転換した村山由佳を思わせる。
    綺麗ごとだけの世界から心の奥、それこそ水底に沈んだ村のように悪意を描き、それを知らなかった自分から脱皮する......それはいい。
    新境地でもあるだろうし、より作家として深みがでる。
    それが初めは批判されたとしても、人間はそう単純ではないはずだから。

    しかし私が感じた読後の悪さはそれらとは違う。
    重要な人物が死亡し(ただろうと思われる)、それを主人公は見捨てる。
    また、ある人物との関係も不明瞭なまま、その背景がよくわからない。
    その人物はなぜ、生まれ、そこで育ったのか?
    そして由貴美をそそのかした人物は書き込みが少なくよくわからない。
    ただただ悪意だけがあったのか?
    主人公、広海もまた、村に取り込まれて生きていくのか?
    わからない事、納得できないことが多いのだ。

    村という閉ざされた中で生きる者たちには、そこでそうしなければならない理由もあろう。
    それがそこでの正義だからだ。
    そしてその正義に歯向かう者は村中で真綿で首を絞めるがごとく......

    恋という言葉で語られるような物語ではない。
    確かにそこには恋愛要素もあるけれど、著者が描きたかったのは見えざる檻ではなかったか。
    それを、幼すぎる思考の二人による奇妙な恋愛関係を持ち込んだことで相殺してしまった。
    それが読後の悪さと違和感に繋がったのだと思う。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

辻村深月の作品

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