笑い三年、泣き三月。

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 75
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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163808505

感想・レビュー・書評

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  • 戦争を風化させないためにも、戦後の混乱を描いた作品は貴重だと思う。そんなことよりなにより登場人物がみな愉快で哀しい。

  • 戦後間もない浅草に、不思議な縁で結ばれた寄る辺のない人々が集まり、共に仕事を見つけて暮らし始めた。

    地方巡業の万歳一座を抜け出して、笑いの芸で一旗あげに上京してきた岡部善造は45歳。名は体を表すがごとく博多弁の抜けきらない田舎者丸出しの善良なおっさん。その善造をカモと見込んで上野駅で引っかけたのが、11歳の戦災孤児・タケオこと田川武雄だ。

    大衆娯楽のメッカ浅草は焼け野原。そこで出会ったのが南方戦線からの復員兵・みっちゃんこと鹿内光秀。仕事もなく屑拾いの彼を拾ってくれたのが、元カツドウ屋時代の同僚・杉浦保だ。杉浦が口八丁手八丁で開いた小さなバラック小屋が「ミリオン座」。そこを根城にエロと笑いの実験劇場がスタートする。

    作中に引用される流行歌や新聞記事に、当時の世相が表れ、否応なしにノスタルジックな気分になるのは、場所がらだけのせいではないかもしれない。

    日本人の記憶を呼び覚ます何ものかが描かれているような気がする。実に丹念に調べ上げた当時の資料を元に構築された、浅草再生の記録。
    荒んだ心が癒され、食欲、性欲、物欲の順に満ち足りていく人間の原点が書き込まれている。

  • 戦後直後の浅草の劇場が舞台。
    旅芸人、復員兵、戦災孤児とストリッパー。
    笑いあり、涙あり、心に残る言葉あり。

    「みっちゃん、おかしかー、おかしかよぉ。『死にたいだって』!そんな願い、遅かれ早かれ、みーんな叶うのに。誰でもできることなのに!お腹が痛い。笑いすぎてお腹が痛い」

  • 終戦直後の混乱の中、けなげにも逞しく生きる人々を描いた、しみじみと味わい深く温かい人情話。

    面白おかしく描かれているようでいて、そこはかとなく哀しさが漂う。それでも強く立ち上がろうとする、戦火を生き残った登場人物たちがまぶしかった。

  • 初めて読んだ木内昇作品は、あたたかくて力強かった。
    終戦後まもない上野に降り立った芸人の善造は孤児の少年と出会う。
    浅草を始めあちこちに出来始めていた出し物小屋の様子と共に、小屋で働くことになり、戦地から帰った男、踊り子と4人の共同生活が始まる。
    戦後、街は荒廃し人は荒み、食べ物がなくて生きることが大変だった時代が書かれているけれども、どこか達観したようなおおらかさがあり悲観的にならずに読めるのがありがたい。
    登場人物の心持ちや感情の動きがすごくうまくて、木内昇さんの想像力の深さに何度うなったことか。
    善造の信念、人間讃歌ともいえるまっとうな生き方に感動した。
    孤児だった武雄のつらさの書き方が安易でないところ、この作家さんにとても好感をもった。

  • 直木賞関連のインタビューを見て、当分は幕末・明治ものを書き続けるんだろうなと思っていたら新作は以外にも終戦直後。

    庶民にとって、自分らとは預かり知らぬところで政治体制=社会状況が一変し、変化に戸惑う民草を描くというところでは幕末も戦後も似たようなところがあるようだ。

    印刷屋の家に育ち「活字で書いてあるもの」が全て正しいと思っている少年は、東京大空襲で親兄弟とはぐれ、独り、浮浪児として上野界隈を根城にしていた。

    映画会社に勤めていた青年は、召集され南方に送られ「運良く」帰還した。

    そんな戦後を背負った男たちの前に現れたのが旅回り万歳芸人。それこそ「運良く」戦災に合わない農村を中心に旅していたこの男は社会の状況にまったく対応していなかった。
    この三人が出会い、ひょんなことから浅草の小屋で食いつないで行くことになる。
    友人の小屋主・ダンサー・香具師らと共に擬似家族的な暮らしが始まる。

  • ありがちな設定ありがちな展開…でも、なんか好き。

  • 終戦後の混乱期をとにもかくにもたくましく生き抜く、哀しさあり、笑いありのお話。だらだらと煮え切らない物語が、ラスト15ページに収束する。武雄が善造に向かってシャッターを切る音が聞こえた。

  • 木内昇さんの小説はこれが初めてだが、なかなか読み応えがあった。タイトルからすると泣きの漫才は簡単だが笑いを取るのは3年かかる、というようなベタなネタ作りの出世物語かと思いきや全然違って良い意味で裏切られた。終戦直後の浅草に田舎のドサ回り芸人が一旗揚げようと出てきたところから物語は始まり、いつしか活動屋崩れのストリップ小屋主に潜り込み、戦災孤児・踊り子・活動屋たちと奇妙な共同生活をすることになる。戦災を経験していない田舎回り芸人の世の中の動きから取り残された笑いの鉄則、即ち他人を揶揄したり体制を批判することなく日常の出来事だけをネタに人々を笑わせようとする孤高の試みが成功するのか否か、是非読んで貰いたい。何時も見ている内海桂子のツィッターでは大御所も「読んでいる」とのこと。戦後のどさくさ期の記憶のある桂子さんには懐かしい風景なのかも。

  • 内海桂子さんがツイッターで呟いていたので購入。まだ手付かず。

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著者プロフィール

1967年生まれ。出版社勤務を経て、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。08年『茗荷谷の猫』が話題となり、09年回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、11年『漂砂のうたう』で直木賞、14年『櫛挽道守』で中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞。他の小説作品に『浮世女房洒落日記』『笑い三年、泣き三月。』『ある男』『よこまち余話』、エッセイに『みちくさ道中』などがある。

「2019年 『光炎の人 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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