夢の花、咲く

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163810409

感想・レビュー・書評

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  • 変化朝顔作りに入れ込む朝顔同心・中根興三郎シリーズ第二作。

    とはいえ、時系列としてはこちらの方が前。
    第一作の三年前、興三郎27歳という設定だ。
    今回は植木職人と思われる男が殺された事件から始まる。花合わせで天位を取った吉蔵がどうも何かを知っているようなのだが、名簿作成係に過ぎない興三郎には何も出来ない。
    そんな折りに起こった安政の大地震が、事件の行方と共に様々な人々の運命も変えて行く。

    第一作があれだっただけに、とても苦しい展開になるのではないかとハラハラしながら読んだ。

    大地震により命を落とした人や家族を亡くした人はもちろん気の毒だが、家や職場を失くした人、怪我などで仕事が出来なくなった人、生活が一変した人がたくさんいる。
    それだけでなく、逆に地震により荒稼ぎしている者もいるし、地震により明るみになったこともある。
    吉蔵の娘お京は、興三郎の同心仲間・岡崎と夫婦約束をしているだけに、二人の関係が気になる。
    更には興三郎の亡くなった兄の元許嫁・志保が嫁いだ材木問屋の主が気っぷの良い人なのに悪徳問屋に追い詰められてこれまたハラハラする。

    前作のレビューにも書いたが、興三郎は変化朝顔を金儲けのネタにしたり、人と競ったりすることを好まない。
    彼は朝顔の様々な交雑の末に生まれる新しい花や葉や茎の形の神秘を純粋に見つめている。
    だが変化朝顔を趣味や仕事にしている者は興三郎のような者ばかりではない。
    変化朝顔を金儲けや投機や勝負事や賭け事に使い、人生を賭け、棒に振る者もいる。
    吉蔵もその一人だった。だがそれは自身の野心ではなく、娘や亡き妻を思ってのことだったが、その思いが悪い方向へ転がってしまった。
    それでも朝顔は人の思惑とは関係なく咲く。思うような変化を見せるかどうかは分からない。

    普段はおっとり目立たない興三郎だが、お救い小屋で被災者を励ますために朝顔の種を配ったり、板挟みに苦しむ岡崎の背中を押したり、いざとなると亡くなった兄に教わった居合いの技を見せたりと格好良い。
    第一作とは違い、少しホッとする結末にしてくれた。やや強引な気もするが、こうしたご時世だけに心地好い。

  • やっぱり梶よう子さんの本はいい。一朝の夢 も併せて読むことがオススメ。武士ではあるが閑職勤めの主人公が朝顔作りをひたすら歩むが今回は波瀾もたっぷり、終盤はいささか走り過ぎの感もあるけど読後感がいっそ清々しい。

  • 朝顔同心・中根興三郎シリーズの第二弾。変化朝顔に夢中で嫁ももらえぬ呑気な興三郎。彼の根底にある人の良さがとても好きです。


    江戸時代に、変わった朝顔を咲かせることが流行し、投機にまで利用された、という話は前作で驚きつつも読ませられたのですが、今回はその朝顔を縦軸に、江戸の市井の人々の日常や思いの悲喜こもごもをじっくりと感じることができました。

    八丁堀の旦那、というと、江戸の治安を守る着流しに黒羽織の粋な人物を思い浮かべますが、興三郎は同心の中でも名簿係という地味な仕事。はっきり言って閑職だし、そもそも、三郎の名前から分かるように三男坊。本来は植物学者を目指して勉学していたところに、長男の急逝で家を継ぐことになった、しかも長兄は優秀な定町廻りだったのに、たまたまなのか、彼の力量&性格がそれには向かないということが前もって知られていたのか、名簿係を仰せつかったという・・・。

    で、2日続けて出仕した後は、1日休みという職をむしろ喜び、せっせと朝顔の手入れをしている彼なのですが、先代から仕えている小者の藤吉が嘆くこと、嘆くこと。彼の親身なキャラクターがとてもいいんですよ。(後半、興三郎が探索に関わった時には彼もすっごく張り切っちゃってね。嬉しそうに聞きこみに回る姿が読んでいて嬉しかったです。)

    興三郎は、他の同心や市井の人々と穏やかに交わり、間延びした容姿のせいもあってか少々軽んじられたりもしてるのだけど、人の本質やその場で何が一番大事なことなのかをすっと見分けることができる彼のことは、みんなが好きなんだよね。

    脇キャラで、絵描きの周三郎というかなりの変わり者が出てくるんだけど、彼もとてもいいです。人の顔でも朝顔でも風景でも、墨の濃淡だけで見事に写し取ってしまう様子には、その絵が目の前に見えてくるよう。
    彼の絵と行動力のおかげで、滞っていた探索がひょいと進むのも楽しかったし。

    また、興三郎の仕事上の知識や意外な特技が役立って行くのが嬉しかったなぁ。


    後半、江戸に大きな地震が起き、(これは史実どおりだと思います。黒船に江戸が騒然としていたころだから。)それがちょうど去年の地震に打ちのめされた私たち日本人右往左往をも思わせ、そこから立ち上がろうとする人々や支える人々の話には明るい気持ちにもなれました。

    ただ・・・・・
    とても面白い話なのに、事件が解決するくだりになるとちょいと安易な展開で不満あり。でも、興三郎が好きだから許します・・・。

    このシリーズはまだ続くんでしょうね。
    興三郎の夢である「黄色い朝顔」は咲くのか、咲かないまま楽しみとしてとっておくのか。
    藤吉が望むようにお嫁さんはもらえるのか。

    まだまだ楽しみに読ませてもらおうと思っています。(*^_^*)

  • 変化朝顔に入れ込む八丁同心のお話。
    「黄色い朝顔」の花が咲くまでシリーズとして続けてほしい。

  • 薬草園のお話のときも表紙の色が綺麗だったけれど、
    今回も淡い青色なとても綺麗。
    植物系がお好きなのかな?

    朝顔を育てることがなにより好きな興三郎。
    あまり自分に自信もなく、なまじ背だけはひょろりと
    高いものだから、背をかがめて歩くようになる、という程の万事控えめなのだが、朝顔のこととなれば、立て板に水のごとく話がとまらなくなる。

    殺されたのが植木職人、っとなったところで、
    まあ朝顔に関する事件なんだろーなーっとは思っていたのだが、
    そこに地震が加わって、単なる事件もの、というおもしろさ、だけでなく、
    災害における被災者のつらさ、や立ち直ろうとする人たちの健気さ、
    そんな中で、自分の無力さに立ちすくむ興三郎の居たたまれなさや、
    自らの力で世間を動かそうとする絵師の力強さ、
    親が子を、子が親を想う気持ち、などなど、
    いろんな要素が入り混じって、非常にいろんなことを感じさせてくれる1冊だった。

    地震がなー、やっぱ、3.11を考えちゃうんだよなあ。
    だから、興三郎が朝顔の種を配るところは、なんかちょっとじーんときちゃった。
    過去に囚われるんでなく、今だけに必死になるんでなく、
    未来を想いつつ生きる。

    最後、これだけです、といいつつも居合いの構えをみせた興三郎、
    かっこよかったよ。

  • 人がポコポコと死ぬ。幕末とはいえ。朝顔を巡る悶着。朝顔に入れ込んだ父親に腕を切り落とされた大身旗本。地震景気を悪用する材木問屋。振り回される植木屋。
    未来を信じるために種をまくのは良かった。

  • 草食系男子の成長ものがたり。
    朝顔オタクがメイン、蘭はチューリップ・バブル。
    事件の謎解きの最中に、安政大地震。連載途中にリアルでも大地震が起こった。作品にも影響していそう。

  • L

    朝顔をこよなく愛する同心。それも両御組姓名掛という職場。
    前作では興三郎が幼い頃に近所に住んでいた娘とその息子を助ける話だったよね。あっちは明治まで話が行ってたので、時系列的にはそれより前なんだな。
    だけどまぁ、先を知っている身としては、そうは言ってもねー的なところがないわけじゃないんだけれど。
    お人好しでボケボケで周りから愛されてる。けど頼りなさが先行してイマイチ。

  • 河鍋周三郎のちの暁斎。安政地震の際の鯰絵も史実らしい。妖怪画や無惨絵も描いたことを考えると,遺体の似顔絵をあまりにもリアルに描く作中のエピソードも,さもありなんと思える。

  • 終わり方がさくっとさっぱり味。
    もちょっと…。

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著者プロフィール

東京生まれ。フリーランスライターの傍ら小説執筆を開始、2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞を受賞。08年には『一朝の夢』で松本清張賞を受賞し、単行本デビューする。以後、時代小説の旗手として多くの読者の支持を得る。15年刊行の『ヨイ豊』で直木賞候補となり注目を集める。近著に『葵の月』『五弁の秋花』『北斎まんだら』など。

「2023年 『三年長屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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