夜蜘蛛

著者 :
  • 文藝春秋
3.43
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本棚登録 : 107
感想 : 23
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  • Amazon.co.jp ・本 (147ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163817309

作品紹介・あらすじ

日中戦争の傷を抱えながら戦後を生きてきた「父」が、昭和天皇の死に際しくだした決断とは。

感想・レビュー・書評

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  • 久々に純文学作品を読んだ。芥川受賞作品は読んでいないが、なるほど芥川賞作家だなという感じ。
    昭和の終わりとともに自死を選んだ父親の戦争体験からその後の人生、老いていく姿を作家にあてた手紙という形にしてつづった小説。本編については目新しいところはないにしろ父親に対する息子の不器用な気持ちが丁寧に描かれていてなかなかよかった。
    ただこの手紙を読んだ作家の感想を最後の部分に載せる必要があったのか。ここは読者にゆだねてもよかったのではないか。この部分に関しては納得できなかった。

  • 2.0

  • 図書館借り出し

    久々の田中慎弥
    これはどこまでがフィクションなのか
    実際の話なのか
    一気読みしてしまった

  • 作家の元に届いた手紙。
    そこに書かれていたのは、太平洋戦争で九死に一生を得た父が老いていくにつれて排泄がうまくできなくなり、施設に入った後、首を吊って自殺するまでの話。
    明治天皇を慕って自死を選んだ乃木大将と自分を重ねた父、昭和から平成に変わる頃、同じように自死を選んだ手紙の送り主。
    死と生に意味を持たせるあまり、難解な迷路にはまり込んだような父子。

    ---------------------------------------

    天皇が亡くなった後に自分も死ぬことで、自分の死に何かしらの意味が出てくるのはわかる。

    先日訪れた那須乃木神社では、乃木大将の遺した品々を見ることができた。300円を払って入った宝物館はお世辞にも綺麗とは言えず、ガラスケーズのなかで虫は死んでいるし、カビも生えているし、貴重な品々がわりと雑に展示されていた。
    色々と思うところはあるけれど、かつて沢山の人たちから尊敬された乃木大将も月日が経てばこういう扱いになるんだな、と感じた。

    死ぬことや生きることに意味があるとして、意味がない死があるとは思えない。
    すべての生死に意味がある、もしくはすべてに意味がない。そのどちらかだと思う。
    天皇の後を追って死んだからといって何か変わるはずもないんじゃないだろうか。
    自分の生死に価値があると思い込むのは自惚れのせいなんじゃないだろうか。

  • 戦争、自殺、言葉、手紙。低く暗い空。

  • 田中氏の作品に特徴的な作中人物に物語を語らせる入れ子構造、親子(=血縁)関係、そしていくつかの作品でもテーマになっている戦争。
    それらが極めて乾燥的な文体で、しかししっかりとしたリアリティでもって語られている。細部にも目が行き届いて、作者の力量が上がっていることが強く感じられた。

    が、しかし、結局のところこの作品の伝えたかったところは一体なんだったのだろう?
    最近自分の文学偏差値が著しく低下しているので、メッセージを自分が受け止めることができなかっただけかもしれない。
    しかし、何気ない一言が一人の人生を永遠に縛り続けるということがある、ということが、強く胸をうった。

  • ほぼ手紙のこの本。
    父の自殺、A氏の自殺、そしてそれらに対する突き離すかのような田中慎弥氏のコメント。正直掴みかねる内容だった。
    父の自殺は本当に天皇に殉じただけなのか、A氏は父の自殺をなぜなぞったのか。
    多分この本は読んだ直後にすぐ感想を言えない気がする。ある日、ぱっと頭をよぎる一冊だと思う。それがいつになるか。

  • 読み終わってすぐの感想が、「天才だ」。

    手紙の形式。
    戦争、父、家族、老化。

    丁寧で実直だけど、殿方にありがちな面倒くさい所のあるおじいさんが書いてるとしか思えない。
    「田中慎弥さんが書いてるんだよね?ね?」と我に帰る感覚に何度も陥る。

    「共喰い」でもそうだったのだけれど、空が低くて濃い灰色を感じる。
    好きだな。

  • 前に読んだ『共喰い』よりは読みやすいと思った。
    「乃木大将とおんなじだね」って言葉、受け取る人間によってはなにも感じない言葉だけども、この父親にとってはとんでもない、突き刺さる言葉だったんだろうなあ。いつまでも抜けることがない刺みたいな言葉だったのか。そんな言葉を無意識のうちにかけてしまった主人公の後悔の深さ、これは経験してしまう可能性はあるのかもしれない。こわいなあ。
    父親の介護の下りは、いつか自分も経験していくことなのかなあと思ってなんだかすごくこわくなった。親がしぬことがないと考えている、そんなつもりではないけども、考えないようにしているのか。
    なんだか全体的にせつなかった。じわじわと紺色に塗り潰されていく、そんな感じ。

    (147P)

  • 図書館で借りた。田中さんの作品は言葉に力がある。今までの作品で一番読みやすかった。足を負傷しながらも戦時を生きながらえた父。彼は昭和天皇崩御の際、自死を選択する。息子であるA氏はその原因を幼いころ発した「お父ちゃんは乃木大将とおんなじだね、すごいねぇ」という言葉にあると信じ、ついには彼も自死する。タイトルなっている夜蜘蛛を幼いA氏が殺すか否か迷っていた場面と、生きるか死ぬかのギリギリの緊張感の中で父親が死んだふりをして中国兵をやしすごした場面は生死の選択が他者に委ねられている点において、つながりを感じると同時にとても印象に残った。再読時はこのつながりをもっと読みほぐしたい。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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