望郷

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163819006

作品紹介・あらすじ

日本推理作家協会賞受賞!心に刺さる連作短篇集

島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。

感想・レビュー・書評

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  • “島"で生きてきた湊さんが「自分にしか書けない物語を書いた」会心作。島に生まれ育った者たちが抱える故郷への思い…六つの物語。

    文章がすらすらと体全体に入り込む。だけど軽い文章というわけではなく物語は深い。

    「みかんの花」真実がわかってもそれぞれの役割を全うする姉妹。もどかしい。

    「海の星」1番驚いた話。子供の頃に起こった出来事の真実に凄く驚いて、誰にとっても取り返しのつかない苦い思いが残る。

    「夢の国」あの日彼女のしたことは…えぇぇ…

    「雲の糸」この話が1番好き。お母さんを1番好きだったのは僕、お母さんを1番許せなかったのも僕。お母さんの体を丸めた小さな姿がいつまでも目に浮かび涙。

    「石の十字架」言葉は知らないうちにナイフになる。声をかけてあげたいのに、どの言葉がナイフになるのか、ならないのか区別することが出来なくて…

    「光の航路」いじめの描写が怖い…先生は本当に大変だと思う。

    *先日湊かなえさんのサイン会に行ってきました。
    湊かなえさんはとても優しくて気さくでサインを書いている間ひとりひとりと丁寧にお話をしてくれました。
    サインを書いて頂いたこの望郷は一生の宝物です(⁎˃ᴗ˂⁎)

  • 読後、
    (この表紙…すごくいいな。)
    と、救われた思いで眺めていた。

    白綱島にて幼少期を過ごした彼らの思い出は、
    真っ暗な海の中で行き場無く漂うような悲壮さに満ちていたけれど
    闇のなかで膝を抱えていたからこそ、
    目を凝らしていたからこそ、
    柔らかく光る人の本意に気付けたんじゃないだろうか。

    青く、青く、光る海の星。
    漆黒の海にも
    摩訶不思議な光は灯る。

  • みかんの花
     駆け落ちして島を出た姉。本当の理由を知ってしまった。
    海の星
     父は行方不明。その行方を知っていたのが、おっさん。
    夢の国
     あんなに恋い焦がれてた「東京ドリームランド」。
    雲の糸
     いじめられてたのに、有名人になった途端に周りが寄ってくる。
    石の十字架
     小学生の時の友人が十字架にお祈りしていたこととは。
    光の航路
     教師だった父。進水式に父と行けなかった理由とは。

    どの話も、白綱島をメインにした話でした。
    瀬戸内海にある島(という設定)。
    島と本土をつなぐ大橋など、田舎と都会みたいな
    関係性の中、いろいろな話が散りばめられてたよー!!
    ☆4よりの☆3かなー。

    個人的には、光の航路が好きだった。
    亡くなった父は中学校教師。
    主人公の航も小学校の教師となる。
    島の出身ということで本土から戻ってくるが、
    小さな島の学校にも「いじめ」がある。
    そのいじめ対応に苦慮していた。
    そんな中、父がどんな教師であったか
    父の教え子から聞く機会があった。

    人間も一緒だ。
    とつきとおか待ちわびて生まれ出た赤ん坊に、
    願いを込めて名前をつけ、
    夫婦、家族、皆で喜び合い、
    希望を託して、広い世界に送り出す。

    …僕の役割は、僕がいる海を通過しようとしている船を、
    先導し、守ることだと思っている。
    海が荒れれば、沈まないように同じ航路を進む船同士を
    しっかり連結させるのも、僕の仕事だ。
    どんな船だって、他の船を沈めることは許されない。

    父が、いじめられていた子に言う言葉。
    そうだなーって本当に思った。
    いじめは決して許されるものではない。
    ってか、犯罪だし。
    いじめはなくならないかもしれないけど、
    それでも、大人が子供を見守っていかなきゃって
    思えたなー。

  • 実は、湊かなえって読んだコトがありません。

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    「島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む複雑な心模様が生み出すさまざまな事件。推協賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全六編。」

  • 白綱島で生まれたいろんな人の彼らの立場からみた白綱島が描かれている。(短編集)

    生まれ育ってからそこにしかない人生はまるで、学校のなかの自分の人生で、嫌になってもそこで暮らしている限り逃げ出せず、誰しも逃げ出そうと思ってもしない。
    閉鎖的な環境の中で発狂しそうな彼らたちの感情をみるのは苦しすぎた。
    1つの物語の中にあった、”思いを込めてはなった言葉は相手次第でナイフにもなるし、ならなかったりもする”
    自分が相手方を思うのはもちろんだけれど、それでもあなたのあげた言葉は人を傷つけてしまうものもある。
    強くならなければ。

  • 6つの短編で構成されている作品
    全てが白綱島という瀬戸内海にある島を舞台にしており、過去のエピソードと現在のエピソードを行ったり来たりしながら結論に向かってく
    この辺りは湊かなえ先生作品のだいご味であり、それを6作品も楽しめるという良作である

    全体的に「イジメ」についてもよく語られている
    大人になった今はイジメなんかしてはダメ、自分の子供にはそんな事をしてほしくないし、当然ながらされてもほしくはない
    イジメなんてなくなってほしいと思うのだが、自分が子供の頃もイジメはあり、その頃に今と同じ考え方はしていなかったなぁ

    ・みかんの花
    ある姉妹がメインで語られていく
    姉は都会住みで知られた作家
    もともと島は一つの市だったが他の市に合併されることになり、島の最後のセレモニーに呼ばれて久しぶりに島に帰ってきた姉に不満を持つ妹の視点で描かれている

    姉は高校卒業の頃に駆け落ちしており、島に残った妹は母と一緒に苦労が絶えず、そこに不満を持っているのだ
    しかし、読み進めると妹の理解は一面的な理解でしかなく、姉は姉で苦労してきたことが描かれる
    実際にはエグい事が発生しているのだが最後は爽やかさすら感じる作品になっている

    ・海の星
    母子家庭の男の子とおっさんがメインで語られていく
    男の子の家は父親が失踪(突然行方不明になった)した事で母子家庭となっていた
    突然そのような状態になった事で貧乏になった男の子は釣りで食料を確保していたところ、漁師のおっさんに出会う

    おっさんは母子家庭に入り込むようになり、母子家庭の家計を助けるようになっていった
    男の子には「おっさんは母を好いている」と映っていたが、後にそういう話ではないという事がわかる
    こちらも爽やかな読後感を感じる作品

    ・夢の国
    あのネズミさんの国をモチーフにしたと思われる夢の国
    メインに描かれている女性は夢の国に行くことが夢だったが、子供の時には家庭の事情でそれは叶わなかった

    修学旅行で夢の国に行く学校に入ったが、自分の年から別の場所に変わってしまうという不運
    それが縁で男性と結婚することになり、築いた家庭で夢の国に訪れる

    夢の国を中心に一人の女性の人生を振り返るような作品

    ・雲の糸
    あの蜘蛛の糸とかけたタイトル
    主役は島から東京に出て新進気鋭の歌手として活躍している男性
    島にいたころは母がやってしまった事が原因でイジメにあっていたので嫌な思い出しかなかったが、歌手になった事で地元の名士的な友人(実はイジメていた張本人)から何かの会の挨拶を求められる

    自分が利用されているように感じた
    自分は蜘蛛の糸を握って自分で這い上がったのに、下を見ると自分をイジメていたヤツや知らないヤツが同じ糸を上ってきている

    空を見上げるのも好きだったので、それとかけて雲の糸というコトですね

    最後は母がやってしまった事の真実が語られ、こちらも爽やかな読後感

    ・石の十字架
    現在、島に台風が来て、娘と家に取り残されてしまったというシーンから始まる

    メインは女性
    元島民だが一度都会に出た
    娘が不登校になった事で島に帰ってくるという決断をした

    いつも通り過去と現在を行き来しながらストーリーが展開していく
    小さいころに仲良かった女の子
    大きくなってから疎遠になりつつもどこかでつながっていたという事なのか
    不思議な読後感

    ・光の航路
    小学校の先生になった男性がメインのストーリー
    他にも小学校の先生が二人出てくる
    一人はメイン男性の父親、男性は早世してしまった父親の影響を受け小学校の先生になっていたのだった
    もう一人は男性の先輩

    以下2つの軸でストーリーは展開していく
    <現在のイジメ軸>
    小学校でイジメがあり、男性はその対策に腐心していた
    <過去の進水式軸>
    島では昔、造船業が盛んであり、完成した船の進水式が島民みんなの行事のようになっていた

    その中で「先輩である先生」から「父親である先生」についての真実が語られていく
    その中で「先生としての自分」がやるべき事も見えてくる
    後ろから背中を押されるような

    こちらも爽やかな読後感

  • こちらのは、読後すぐにはレビューを書かないで数日間いたら、あれこれ感じたことの大半がどんどん削ぎ落とされていき、最後に自分の印象に残った場面がひとつだけ、鮮明に残りました。それは4番目の短編『雲の糸』の中で、主人公が半ば自殺行為をして、昏睡状態に陥っている時にとった母親のある行動。全部は書けませんが、彼女はひたすら掃除に没頭します。自宅ではなくて、島中の公園や海岸を懐中電灯片手に、寝食も惜しんで。息子も又、どんな問いかけにも意識を取り戻さなかったのに「母さんの掃除、手伝いに行くよ」と言った姉の一言に目を覚ますのです。「生んでもらって、その瞬間から守られ続けている」という台詞もこの場面には出てきます。いてもたってもいられない気持ち。そんな時は、何かに没頭することで、人は願をかけるのかなとも思いますし、その「祈り」にも似た気持ちの中には「信じる」という強い心も含まれていると思います。 この場面を読んだだけで、今回の湊作品が、いつもとは違っているということを感じさせてくれました。事件性はついて回るものの、こちらに描かれているのは毒々しい人間の性ではなく、それは細長く途切れることのない、岩肌を流れる清水のような温情でした。自分しか知りえないこと、口に出して言えないこと、様々な辛い想いを抱えて生きている人達が、何かしらきっかけを持ち、もう一度過去の自分を自分で晒し、その時には気付けなかった他者の想いと再び交差し、分かち合えた時に訪れる安息。 「故郷(場所であったり、愛しい人であったり)には、そんな想いがいつでも待っていてくれるんだよ」そんな著者のメッセージが伝わってくるような作品となりました。

  • 湊さん自身も、広島の島出身者なんですよね。だからこういうお話を書いたのかな。
    瀬戸内海の島って、のどかで心が穏やかになりそうだけど、
    やっぱり人が住む所って、ちょっとした些細な事で住みにくくなるんだろうな。
    ここに書かれてる家族は、みな何かしら心の傷を負っている。
    でもこの島があるから、自分もあるんだって。
    自分の生きてきた人生は、消せないから。

  • 橋が架かったことによって本土と結ばれた白綱島。
    都会から近くなったのに都会とは一線を画した島の暮らし。
    そこで暮らす人々を描く短編集。
    面白く、一気に読みました。

  • 白綱島という瀬戸内海に浮かぶ小さな島を故郷とする人たちの様々な想いが駆け巡る短編集。
    ふうっ、と溜息がこぼれた。
    私は、これまで出版された湊かなえの作品は全部読んだと思うが、その中では一番印象の残らない作品である。
    彼女独特の「イヤミス」感が殆どない。
    というよりも、これはミステリーなのだろうか?
    読み終えて幾日か経ってしまったら、あれ、どんな話だったけ? と思うほど印象に残らない。
    それほど、あっさりとした読後感の本でした。
    そんなわけで、レビューも感想は殆ど書けません。
    湊かなえ、こんなさっぱりとした話も書くのだなあ、と思うぐらいです、はい。
    まあ、1月30日発売の新刊が、2週間以内で借りられ、読めたのだからそれだけで良しとしよう。
    なんちゅう、いい加減なレビューだ、こりゃあ……。

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著者プロフィール

1973年広島県生まれ。2007年『聖職者』で「小説推理新人賞」を受賞。翌年、同作を収録した『告白』でデビューする。2012年『望郷、海の星』(『望郷』に収録)で、「日本推理作家協会賞」短編部門を受賞する。主な著書は、『ユートピア』『贖罪』『Nのために』『母性』『落日』『カケラ』等。23年、デビュー15周年書き下ろし作『人間標本』を発表する。

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