- Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163825007
感想・レビュー・書評
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ひょうたんがひとつ、ひょうたんがふたつ、ひょうたんがみっつ…
いやぁ~、読んでる間中、何度ひょうたんに追いかけられる夢を見たことか(汗)。
相変わらず破天荒でワケが分からんストーリーやけど(笑)、
それでも毎作品ごとに面白いと思わせてくれるんやから、しょうがない。
万城目さん初の時代小説ながら、『徳川家康』『三国志』『宮本武蔵』などの歴史小説を中学までに読みハマってたという著者だけに、
嘘を巧みに織り交ぜながら史実を描いていく手法で、
あたかも本当にあった話のようにリアリティを感じさせてくれる。
冒頭の殿様のいる天守への侵入シーンからして
一気に引き込まれた。
万城目さんの作品はその卓抜な文章力によって、
導入部からその物語世界に一気に連れて行ってくれるのだ。
時は戦国末期。
とんでもない失態をやらかし伊賀を追われた若き忍者の風太郎と黒弓は、なりゆきで京の町で暮らすことに。
しかし、黒弓が商売を始める一方、風太郎は京の町が醸し出す不思議な居心地の良さにぼんくらな日々を送るニート忍者と化していた。
ところが黒弓からの依頼で不思議なひょうたんと出会ったことから運命の歯車は回り始め、風太郎は豊臣方と徳川方の戦いに、 否応なしに巻き込まれていく…。
主人公は誰よりも長く息を止められる18歳の伊賀の忍者、風太郎(ぷうたろう)。
茶や壺を愛し、とんでもない身の軽さと火薬の扱いに長けた
17歳の南蛮帰りのマイペース忍者、黒弓(くろゆみ)。
(脳内では万城目作品の映像化作品には欠かせない濱田岳くんに自動変換されて読んでた笑)
狡猾で抜け目ない性格の20歳のくのいち、百市(ももいち)。
風太郎の忍仲間で大坂城に潜伏中の
麗しき美貌を持った、常世(とこよ)。
気配を完全に消すことのできる謎の老人、因心居士(いんしんこじ)。
風太郎のライバル忍者で
口の端からドジョウ髭を生やした20歳の蝉左右衛門(せみざえもん)。
ひょうたん屋で働く、化粧っ気なくぶっきらぼうな物言いの18歳の少女、 芥下(げげ)。
(この子がホント、不器用ながらいい子なんですよ)。
そして凄まじい抜刀術のかぶき者の頭領、残菊(ざんきく)などなど、魅力的な登場人物達が所狭しと躍動し、壮大な物語を盛り上げていく。
中でも病弱ゆえに屋敷の外に出られず、京の町を一度しか歩いたことがない公家の御曹司ひさご様とののんびりとした京都散策と蹴鞠のラリーの場面は
印象的で胸にジーンとくる記憶に残る名シーンだ。
そして南蛮物の商いをしながら毎日美味い物を食べ悠々自適に暮らす黒弓と、商才も愛想もなく
その日の食うものにも困るぷー太郎の風太郎(ダジャレかいな!)、
この凸凹コンビがホントいい味出してるし、
口下手だがいつも風太郎を気にかけるひょうたん屋の少女・芥下や
辛い過去を背負い風太郎に憎まれながらも
彼を陰ながらサポートする美貌の女忍者・百市らの女心に胸が締めつけられる。
やがて戦が始まり、幼い子供を誤って殺してしまったことへの後悔に苛まれる風太郎。
忍者が必要とされぬ世の流れの中、自分のアイデンティティに思い悩みながらも
ようやく自分の進むべき道を見つけ、今度は命を奪うのではなく
誰かを救うために風太郎は自らの意志で動き出す。
それにしてもなんと胸を打つラストシーンか。
万城目さんの魔法は、読後も僕たちをとらえて離さない。
切ない読後感であるにも関わらず、生き生きとした登場人物たちが読む者の心に住み着き、
切に再会を願わずにはいられなくなる。
万城目作品には珍しくシリアスで残酷描写も多い今作だけど、
シンガーソングライターの秦基博もハマった見事なアクションシーンは一読の価値はあるし、
現代にも通じる「自分探し」の物語だけに
時代小説が苦手な人や、辞書並みの分厚いページ数に敬遠していた人にも自信を持ってオススメします。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
マキメ流・時代小説。
ひょうたんの神様?というファンタジックな要素も絡めつつ、落ちこぼれ忍者の若者が命がけで豊臣家の最後に立ち会うまで。
忍者として育てられた孤児の「風太郎(ぷうたろう)」。
ところが、試験のときに失敗して一人前と認められず、主君の藤堂の怒りを買って追放されてしまう。
藤堂家では忍者を擁していたが、戦国時代も終わりかけ、忍びの役割もまた終わりかけていた‥
ひなびた村のボロ家でごろごろ暮らしていた風太郎を、「黒弓」が尋ねてくる。
とぼけた顔つきで、この男が現れると何かの不運を運んでくると決まっているのだが‥
実は海外の生まれで、日本人はほとんど奴隷という環境で育ち、爆弾の専門家でもあった。
優秀な忍者の「常世」は、侍女として大坂城に入り込んでいる。
黒弓は美女と思って憧れているが、実は女装の麗人。
常世と共に、とある公家のおぼっちゃまの町見物を護衛することになった二人。
「ひさご様」と仮の名で呼ぶ、そのおぼっちゃまとは。
派手な歌舞伎者らに目をつけられて襲われ、「残菊」と名乗る異様に強い男に出会う。
秀吉の正妻・ねねは、出家して高台院となっている。
ひょうたんに宿っている神様?に見込まれた風太郎は、ねねが神様の片割れを豊臣家の守り神としたいきさつを知ることに。
老いてなお存在感のあるねね。
風太郎は何をする気も起こらず、渋々、ひょうたん屋の手伝いをしたり。
武家たちも忍者たちも騙し騙されながら、徳川は豊臣を追い詰めていく。
忍者としての出世を目指していた「蝉」。
女を武器にたくましく生きていた「百」。
そして、風太郎は‥
何も深く考えていなかった若者が戦闘に巻き込まれる様子がありありと描かれます。
厳しい時代の中、自分の行き方を選んでいくことに。
後半の戦うシーンはリアルでいてわかりやすく、迫力があります。
命をかける思いが切ない。
ただ、このタイトルで、この結末はないんじゃない?
鮮烈な終わり方にする意図はまったくわからないわけではありませんが。
「プリンセス・トヨトミ」に続く!
‥にしてはちょっと距離感ありすぎ。
危機に際してのほんの数人の熱い思いが、後々あそこまで大勢の人々と共有されるようになるのだろうか?
そう思うと、感慨があります。
なかなか力作ではありました☆ -
なんにしても圧巻であった。
平和な時代になってしまい、用なしになった忍者。それでも身についた忍びの生き方は捨てられなかったのだな。
ぼんくらで鈍い風太郎が、ようやくすとんと腑に落ちて、「俺は約束したのだ」と言い切るところで胸が熱くなる。
赤子を連れて城を脱出するくだりは、ドキドキしながら読んだ。
日本にも、戦に明け暮れる時代があって、たくさんの人が殺しあって死んだ。そんなことを思い起こさせる。「生きたい」という個人の思いと、どうしようもない世の中の流れのせめぎあいの中で、否応なしに戦って、死んでいく。蝉や常世の死に様な壮絶であった。
残菊とはいったい何者だったのだろう。作者の意図はわからぬけれども、しんと心の底に余韻の残るキャラクターであった。
それにしても。冒頭の一文が意味するところが、700ページ余りを読み進めてようやくつながるとは、壮大すぎてため息が出る。おそらくそうであろうとはわかっていても、やはりあの結末は切ない。思わず風太郎の名を呼び、涙してしまった。
「プリンセス・トヨトミ」との関連に言及するレビューも多いようだが、果たしてどうなのであろうか。あえてそうやって深読みさせる、というお楽しみなのかもしれぬ。
ひょうたんの絡みが、物語に飄々とした雰囲気を添えていてとてもよかった。
まったく、凶器にもなりかねないほどの厚みであるのに、ページを捲る手を止めることが難しく、気がつけば物語の世界にどっぷり入り込んでいるさまは、あたかも因心居士のひょうたんワールドに取り込まれた如くで、己の立つ場所がいずこなのか、判別しがたくなる。
大変魅力的な時代小説であった。 -
はー、もうすごいというか、すばらしいというか
なんて言ったもんだろう。
しばし、心が持ってかれて放心状態でした。
この厚さに重さにして、いつも通りの奇っ怪で妙ちきりんなタイトル
初の時代小説に、主人公はニート忍者の風太郎(プータロー)。
不思議可笑しい万城目ワールドにわくわくしながら読みはじめました。
序盤はなかなか話が見えてこず、残りページの多さに
いったいこの先どんな展開を見せどんな結末に行きつくのか、さっぱりでした。
でも黙々と読み進むうちにだんだん輪郭が見えてきました。
そこにつながるのかーと思うと、
ずっとこの話を書きたかったんだなぁとしみじみ実感してしまった。
忍びの生き方や時代のドラマチックな変化にも、
ドキドキして気がついたらどっぷりはまっていました。
そして、第6章の最後の
「ああ、俺はすっかり変わってしまったのだ、と気がついた。」
の一行で、突然涙腺が決壊してしまって。
もう後半は、終わりが見えてきたのが悲しくなって
あまりに壮大な物語に感銘を受けるとともに
風太郎とはじめとする忍びの面々、ひさご様とねね様、
それぞれの生き様にハラハラして、時に涙して噛みしめるように読みました。
最後、こうなるしかないの?という展開が立て続けで
でもこうなるしかない展開でもあり、ほんとうに切なくて悲しくて胸がいっぱいになりました。
救いも希望もあり、とても満ち足りた読後感でしたが、やっぱり悲しいよぉ。
とっぴんぱらりとは、「とっぴんぱらりのぷう」という言い回しが秋田あたりの方言にあるようで、民話や昔話の〆の一言として用いられるそうです。
「これでおしまい」「めでたしめでたし」みたいな感じでしょうか。 -
タイムマシンで大坂冬の陣夏の陣を間近で体験してきたような、充実した疲労感に包まれて読了。
面白かった!では伝えきれない。
燃え盛る城から無事出られた安堵感もリアルな感覚。
万城目学さんが描くニート忍者の数奇な運命。今はなき豊臣大阪城で落城の最中、こんなことがあったかもしれない、なかったかもしれない、史実と空想を混ぜこぜにして楽しく読みました。
忍者仲間も、ライバルも、やんごとなき方々も、謎のひょうたんの方も、個性と魅力にあふれていて、時に切なく時に痛快にあの時代を駆け抜けた気分。
先に読んでいた「プリンセス・トヨトミ」、あれに繋がるの?とまたわくわく。
久々にこんな分厚い本を読みましたが、納得、満足! -
☆5
超大傑作忍者小説である。
今までのマキメの作風とはガラリと変わって、これわ本格時代劇(っつー言葉は無いカモ。としたら今作ったw)である。なんてったって切られて刺されて人がバタバタと死んでいくのだから。これ以上書いてると物語の肝心な部分に触れたくなってしまうのでよす。
しかして、この作品はまたもや映像化されるであろう。あまり書きたくないが、どうやらそれを非常に意識して書いているような節がうかがえる。いや別にそれでも物語は面白いのだから特に問題はなぁんにも無いのだけれどね。なんとなく小賢しいというかね。あ、すまぬ。
(物語終盤でなんども「すまぬ」という言葉が風太郎の口から吐き出される。うーむ、俺の方がはるかに前から頻繁に使っていたが、よもや真似された・・・訳は無いか。すまぬ。) -
万城目さんの真骨頂。待っていた甲斐がありました。
とくに後半は万城目さんの小説を読んでいるのに苦しいという不思議な感覚が訪れ、いい意味で裏切られた。
そして相変わらず登場人物のキャラがいい。
風太郎、黒弓、蝉、常世、残菊...
なによりひさご様が最高だった。まんかか様もすき。 -
読み終えてしまうのが寂しい!もったいない!と感じる作品に年にいくつか出会うけど、これもそんな作品のひとつ。
本の分厚さにたじろいでしまって、図書館の貸し出し期間・2週間で読みきれるか心配したけど、そんな懸念はよそにあっという間に読んでしまった。
「忍びをクビになった “ ニート忍者 ” の風太郎の物語」
最初はコメディかと思ったけど、とんでもない!
大スペクタクルの映画を観ているかのような、壮大なアクション作品。
一方で、人物の心の機微が細やかに描かれたヒューマンドラマ。
ぷっと笑ってしまうコメディ要素があちこちに散りばめられているけど、次第に物語はシリアスな状況へと進んでいく。
風太郎をはじめ、愛すべきキャラクターたち。
彼らのバックグラウンドをもっと知りたい。
私が今まで読んだ中でもトップ5に入る名作。 -
初出 週刊文春 2011年6月23日-2013年5月30日 連載
みんな書いてるけれど746ページの大長編
伊賀の柘植屋敷でものごころつくころから忍びとして育った風太郎は、修練中のほんのわずかのことが原因で伊賀を放逐されてしまう。
忍者には戻れず 京都吉田山のあばらやで気ままに暮らすが、もとのしがらみからも抜けられない。
そうこうするうちに妖しい瓢箪に取り憑かれ、とんでもない役目を負わされて 冬の陣へ 夏の陣へととびこんでいく。
とっぴんぱらりのぷぅ なんて言うから、ひょうげた話であろうと読み進めると 豈はからんや いち下っ端・タダの駒 の哀しき人生物語。
しかも、命のやりとりを生業とする忍びの話だから、血も流れるし首もとぶ。
結構なグロさを入念に描き込んでいるのは、傷つけられるものの辛さに共感しているからなのか?
一方で ロクでもない登場人物のウソ偽らざる姿の面白さと、奇想天外な瓢箪話のたくみさが、グロさエグさを中和してくれる。
愛想がなく、キレもなく、術も凡庸、美味しい話にはすぐだまされる風太郎(ふうたろうではない、プータロー)だが、人の話はちゃんと聞くし、泣く泣くやらされる仕事でも真面目にやる。
なんとも可愛気がある。
でも、本当にワリに合わない、つまりはただの駒という存り様は多くの人が身につまされ、応援したくなる姿だろう。
そのしょうもない風太郎が最後は立派に男である。
万城目作品のパターンっちゃパターンだけれど、やっぱり良い。
ひさご様も良い。
映像化するなら山田孝之さんかな。