- Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163900377
作品紹介・あらすじ
反骨の浮世絵師、国芳が猫にまつわる謎に挑む。江戸後期を代表する浮世絵師、歌川国芳。閉塞した社会状況を打破すべく、お上への批判や、滑稽な戯画、そして力強い武者絵を描き、同じ時代を生きた広重や国貞とは、また異なる持ち味で、多くの江戸っ子を魅了した稀代の浮世絵師が、一番愛した動物が猫でした。そして、国芳は、その人柄を慕い、浮世絵師以外にも、特に、三遊亭円朝、月岡芳年、河鍋暁斎といった、後世著名となる多彩な人物たちをはじめとして、大勢の弟子を抱えたことでも知られています。本作は、NHKドラマ化された『妻はくの一』シリーズや、そして江戸の怪事件を解決する『耳袋秘帖』シリーズなどの時代小説で、好評を博す著者が、老境に差し掛かった国芳を主人公に据え、老若男女さまざまな一癖も二癖もある愉快な弟子たちと、身の回りに起きた「猫」にまつわる事件を解決する、愉快で、ほろりとくる謎解き時代小説です。普段は気風がよく威勢のいい国芳も老いが忍び寄り、ふと垣間見せる気弱な一面を見せ、そして、死を前に最後の恋への淡い憧れをいだくようになります。そんな絵師ならではの繊細な一面も描きつつ、そこから国芳の絵にこめられた想いを、風野真知雄ならでは、温かく、そしてユーモアあふれる筆でお楽しみください。
感想・レビュー・書評
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江戸時代も末期の画家・歌川国芳。
初老の日々を描きつつ、猫好きの画家が猫にまつわる謎を解く連作です。
日本橋で家族と5人の弟子、8匹の猫たちと暮らす歌川国芳。
根っからの江戸っ子で、火事となれば見物に駆けつける。
天保の改革で贅沢が禁止になり、美人画などが発禁になったことに憤慨し、絵に風刺を紛れ込ませて庶民の喝采を浴びる反骨精神の持ち主だった。
「猫飼好五十三疋」という、東海道五十三次に見立てた猫の絵を発表しているほどの猫好き。
行方知れずの猫を心配したり、元気がない猫を評判の良い人間の医者に連れて行ったり。
北斎の後は国芳か広重かと言われていたそうで、広重とは同年。
広重と絵で張り合うのかと思ったら、事件に巻き込まれて推理合戦になり、その後に広重の挑戦を受けて猫好きの証明をすることになったりと、微笑ましいですね。
葛飾北斎の娘・応為が北斎亡き後に寄るべのない身になって、ふらりと訪ねてくるというほろ苦い話も、どこかユーモラス。
応為が好きなのでこれが事実としたならちょっと哀しいけど、ひょうひょうとした描き方や北斎を尊敬する画家同士の共感、何気なく行末を考えてあげる心のあたたかさに、読後感はよいものでした。
晩年はペリーが来航した頃とまでは思わず、今の大河ドラマと同じ頃なのねとびっくり。
身近で起きる奇妙な出来事、これがいろいろあるんです!(笑)
それぞれを太っ腹に受け止め、驚きつつも淡々とさばいていく様子が、ざっくばらんな性格と年齢らしい余裕を感じさせて、よかったです☆詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
おもしろかったー
幽霊がらみのお話が好き。
国芳の日常、いつまでも読んでいられる感じで心地よかった。
猫も好きなので、すり寄ってくるとか可愛すぎる!
読み終わった日に、団十郎の襲名ニュースがあったので、特に関係ないけど、お!っと思ってしまった。 -
江戸時代末期を代表する浮世絵師の一人であり、画想の豊かさ、斬新なデザイン力、奇想天外なアイデア、確実なデッサン力を持ち、浮世絵の枠にとどまらない広範な魅力を持つ作品を多数生み出した歌川国芳。
大の猫好きとしても知られた国芳が、個性豊かな弟子達とともに、身の回りに起きた「猫」にまつわる事件を解決する全7話からなる連作短編集です。
作者は、時代小説を多数手掛けているため、大変読みやすく、浮世絵に詳しくない方でも、時代小説として軽く読めるものとなっていると思います。
タイトルが猫づくしとなっていることもあり、国芳の猫に対する愛情が随所に描かれています。
「猫がいなくなった時の寂しさは、愛猫家でなければわかりはしない。猫といっしょに自分の膝までなくなってしまったような心持ちがするのだ。猫がいなくなると、猫に置いていかれた気持ちになるのだ。」
との言葉に溢れる猫愛を感じました。
また、葛飾北斎とその娘のお栄(応為)、月岡芳年、歌川広重、初代三遊亭円朝などなど、登場人物がとにかく豪華!!
私は、応為がものすごく好きなのですが、本作ではめちゃくちゃトリッキーなキャラクターで登場し、また、それも一つの考察として楽しいものとなっています。
同じ絵師でも、北斎は、見る者の気持ちより、自分の描きたいものを優先させ、国芳は、見る者に喜ばれる絵を描きたい、見る者を笑わせたい、驚かせたいと、常に見る者を意識して絵を描いたという、北斎と国芳の違いについての考察も興味深いです。
江戸っ子気質でお上を恐れぬ威勢の良さで知られた国芳ですが、老境に入り、老いへの戸惑いから死神を描きたいという思いに、しだいに囚われるようになります。
国芳は、歌舞伎役者の団十郎の幽霊に、絵師の仕事はいつまでも残るものだが、役者の仕事は、客が帰ったら消えてしまう寂しいものだと言われます。
しかし、国芳は、絵師も役者と同じく寂しいものだと感じます。
絵も文も時代の上に立っていて、時代が動けば、絵や文も置き去りにされ、やがては忘れられる。
自分のやっている仕事に虚しさを感じた国芳ですが、だからと言って、仕事の手をぬくつもりなどはさらさらなく、いま、ともにこの時代を生きる人たちに面白がってもらえる絵をこれからも描き続けたいと、より決意を固めます。
そして、“自分のため”に描くつもりだった死神の絵への執着を、「そんなもの描く必要はねえ」と切り捨てるのでした。
「わっちは町絵師なんだ。面白がらせて、満足させて、おあしをいただくのが稼業なんだ。」
という言葉には、国芳の“見る人を喜ばせたい!”という確固たる信念が表れ、その信念は、色褪せることなく、時代を越え、現在でもたくさんの人々を魅了し続けています。
根強い国芳人気の理由がわかる一冊です。 -
国芳が好きで手に取ってみたけど、エピソードも人物の描写もよくてとてもいい本。ずっと読んでいたい。
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読みやすく面白かったのですが、色事や女性の描写がクドいと思ったら…いつも読まない雑誌の連載小説でした。国芳と猫の話が読みたければ良い本かと。
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江戸っ子国芳の気風の良さが気持ちいい。
国芳の作品の根底にある性格が生き生きと描かれていて、国芳の絵をより深く見られそう。 -
絵師のことはよく知らなかったけど作品は見たことあった。史実はわからないけど国芳さんはこんな風に猫好きだったのかなあと興味は持てました。
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はんなり面白かった。さっぱりしていて好き。装丁が素敵だったから借りてみたけど古めかしくなく読みやすかった。猫、というよりかは国芳って感じだった。春画の言葉の下りはへぇぇそんな感じなんだ…という具合。程よく男女の機微とかも書かれてて、でも嫌らしくなくて良い。町の名前や所の様子が書かれてる作品はその土地の感じやその時吹いてるだろう風とかそういう自分の中にある思い出と紐付いたりして良いなと思う。