ねずみに支配された島

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163900810

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  • 1人を救うために5人殺すのかを問うトロッコ問題はあくまで仮定のストーリーであるが、
    100匹を救うための1000匹、1万匹の殺処分は現実に行われている。

    『すべての命は大切にしなくてはならない』という言葉に嘘はないが、命の価値に優先順位がないと言っているわけではない。
    アリを無為に踏み潰したら非難されるが、蚊を叩いても怒られない。
    屠殺に対する抗議運動はあっても、ネズミやゴキブリの駆除が反対されることはない。
    命の価値は、人への影響度合いで決められている。
    では、その影響が遠い環境ではどうだろうか?

    人里離れた離島において、ありふれた外来種により、固有の在来種が脅かされている。
    せめて苦しめずに駆除すべきだろうか?その方法を探している間に絶滅してしまう可能性があるとしても?
    在来種に価値があると信じる人々は保護のために駆除を進め、在来種に特別な価値を見いださない人々はそれに反対する。

    固有種の希少性に十分に寄り添って書かれた本書を読めば、そのための害獣駆除を認めざるを得ないだろう。
    例えその対象がネコやイヌであったとしても。

  • カカポというニュージーランドのみ生息するオウムがいる。
    ・いい香りがする
    ・肉付きがよい
    ・羽が綺麗な緑
    ・飛べない
    ・足も早くない
    ・むしろ外来生物に興味を持って寄ってくる
    ・外敵に向けた武器を持ってない
    ・保護しようとしても複数頭集まるとストレスになる
    ・繁殖は4,5年に一度
    ・母親は卵を置いて餌を探しに行く
    ・父親は子育てしない

    と、どう考えても絶滅しそうな鳥を筆頭に、世界の生物の1/5の種類が暮らす島を舞台にした野生生物保護のお話。

  • ニュージーランド、アリューシャン列島、バハ・カリフォルニア等の島々には、独自の発達を遂げた、様々な固有の生物が棲んでいた。
    それら、固有の動物たちは、食物連鎖の中にあっても、同時に進化してきたほかの生物たちと調和し発展してきた。

    そこに、(主に人間の手によって)外来生物が持ち込まれる。
    人間それ自体も、生物の殺戮には手を貸すが、殺戮の主たる戦力となるのは、意図せずに持ち込まれたネズミ。そして、猫、キツネなど。
    独自の発展=内なる世界だけの平和に安穏として過ごしている固有種の生物は、外の世界の常識たる殺戮の前になす術もなく殺されて、絶滅させられていく。
    その残虐の殺戮から、固有種を保護しようとする人間がとる手段は、外来種の殺戮。ネズミを一匹たりとも残さず殺しつくすこと。
    そんな、幾重にも重なる殺戮が織り成すバランスの上に、主の生存は成り立っている。

    島国で、固有の自ら一方的に戦争を放棄する法律を持つある国。
    世界標準の外敵が、己の利益のために一旦牙をむいたら、種の生存すら危うくなるほどの殺戮が行われるということを示唆しているようにも思える。
    そのとき、外敵を駆除してくれる力はあるのだろうか?

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