電氣ホテル

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 51
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901305

作品紹介・あらすじ

二人の詩人の冒険に立ちはだかる謎につぐ謎、奇人また奇人!停電調査の旅に出た詩人・オルドバと猿のチューヤー。この世の二階から魔都・東京の夜景を見おろす詩人・シャバダ。忽如として行方不明になった十数名の「児島」と、その謎を追う探偵・中田と相棒の探偵犬・終列車。物語の行方は、この世の二階にあるといわれる、幻の〈電氣ホテル〉へ――。奇怪にして愉快な活劇小説!

感想・レビュー・書評

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  • 待ちに待った『電氣ホテル』。
    『大停電世界』の続きを心待ちにするシュビのように一読後にすぐにもう一読。
    ゆっくりじっくり読み終わったところ。
    今回は第一幕ということで、早くも第二幕を心待ちにしてしまう。
    そんなところもシュビのようだ。

    第一幕では電氣ホテルの全貌は明らかにならない。
    第二幕で本当に明らかになるのかも疑わしい(笑)。
    登場人物は奇人変人揃い。
    それも気味良い。
    なぜか可愛くて憎めない奇人変人達。
    彼らの思惑が交錯する物語の混沌に揉まれる心地よさとでもいうか。
    急がなくて良い。
    無駄な迂回も余裕のうち。
    オールナイトの映画を見ながらカレーパンを絶賛する余裕。
    孤独をフラフープで忘れる余裕(?)。
    「なんかおかしいって?それがどうした!」と
    うじうじ、ぐだぐだに喝を入れてもらったような気持ち。

    さてさて第二幕で彼らはどうなってしまうのか。
    第二幕の前に更なる謎を投げかけてくれる幕間劇がカバー下に隠れています。
    そちらもお忘れなく…。

  • 現在進行形で進む物語。

    登場人物が多すぎて、これ一冊で完結するのかしらと思っていたら続きものだった。

    必然的に巻き込まれる詩人、暗躍する死神、真相を探る探偵、読者の司書…その他いろいろ、それぞれの思惑。

    相変わらずの言葉遊びが楽しくもあり、なにがなにやら分からないなりに読み進めれば『大停電世界』が立ち上がってきてミブルイです。

    続きが楽しみ。

  • (ちょっと読みにくいなぁ…)
    大好きな吉田さんの本だが、
    滞在予定日数の2週間を過ぎてしまったので
    返却する事にした。

    新しくインコの本を2冊借り、
    ついでにウンコの本を予約した所で
    図書館員さんが
    「今回は貸し出し期間が3週間になりますよ。
     いつもよりちょっと長いです。」
    と、掛けてくれた言葉が

    フト、返却済み本の一番上に重ねてあった
    <電気ホテル>の暗い窓に明かりを灯した様な気がして、
    「あ、じゃあその本をもう一度貸してください。」
    と、借りてきて再び挑んでみた。

    が、やはり引っかかりがある。
    これはまるでチンプンカンプンな難しい話を聞いていると眠くなるのと一緒で
    私の中には無い言葉の、物語の、エピソードの出現に私自身がいちいち戸惑っているせいだ。

    だが、3週間も滞在していると
    やがて終わりはやってくる。
    その頃になってようやく電気ホテルへの入館キーを見つけた様な気がした。

    ふと、
    目を落とすと一緒に借りてきた
    インコの本がそこにあった。
    (フフ…。鸚鵡返しだってよ♪)
    なんとなく秘策となりそうな言葉を口にすると
    表紙の鳥達はつん、として
    「インコですよ♪」

    なんて。
    どうやらお話にはまだ続きがあるようなので
    今度はオウムのごとく復唱でもするように
    のんびりゆっくりリゾートしてみようかな。

  • シリーズものの第一巻にあたるらしく、今作は序盤で物語はまだ続く...というラスト。物語は地上=1階から中2階→2階(物語の世界?)へと上がるようだが...何となく過去作の「百鼠」を思い出す。
    しかし...ぶつ切りの文章で読みづらい。文章も講談風、あるいは映画の活弁風?でリズム感重視なのかもしれないが、もっと短く区切った方が頭に入りやすかったのでは、と思ってしまう。

    登場するキャラクターも個性派揃いでそれぞれが変わった名前を持ち、由来や容姿描写を読んでいると「クラフト・エヴィング商會」の吉田さんだ、と感じる。
    甘い香りを放つ女「バニラ」と砂犀の「シラジラ」(白白と開けてゆく朝のように優しい子だからとバニラが命名)と不老不死の薬を少し口にして永遠に牙が生える象「プラネタリウム」(体の中に宇宙をひとつしまいこんだ象だからというバニラ命名) が好き。
    それぞれキャラクターが濃いのに、いかんせん数が多すぎて個人の物語が印象に残りにくいのも残念...続編では上手く収集がつくのだろうか

  • 詩人のオルドバとシャバダ(どちらも本名は上田)は詩人ユニット「ブラック」を組んでいる。オルドバは停電調査の旅が趣味で、猿のチューヤーを連れて旅に出る。その頃東京では、児島さんばかりが失踪する事件が発生。探偵犬・終列車を連れた探偵・中田が事件の行方を追っている。図書館司書のシュビは長い本を読むのが仕事。ある日、トトキという女忍者のような謎の人物からある取引を持ちかけられ…。

    とにかく登場人物が多くてどんどん増えていくので全貌を把握するのが大変。しかもこれ、第一幕で、まだ続編があるらしい。本書では終盤でやっと「電氣ホテル」がちらりと登場、電力を奪うため各地で停電を起こしているらしいことがわかる。巻末にそれっぽい資料があるのだけど、きっとクラフトエヴィング商会でやりがちな、本物そっくりのジョークだろうと思っていたら、どうやらこの電気ホテル、昭和5年の上野に本当に実在したようです。(参考:https://www.ehagaki.org/shopping/weja/weja_a3/weja_a3_a1/weja_a3_a1_a13/weja_a3_a1_a13_a2/57165/

    で、あの、なぜか本作、文体が独特で、大変読みにくかった。体言止めを多用してあるせいで、最初は「なにこれラップ?」と思い、だんだん「講談調なのかな?」と思い、そのうち映画弁士が登場したので、なるほど弁士の口調なのかも、とも思い、さらにアングラ演劇のセリフまわしみたいなダジャレや言葉遊びがふんだんにちりばめられていて、かなり実験的。これについていけるか、苦手と思うかで評価がざっくり分かれそう。個人的には、正直ちょっと乗り切れなかった…。

    スクリーンに映し出された池田屋の二階に突入するくだりなどは、新選組オタク的にちょっとときめいたし、部分的にはとても好きだったのだけど、なぜこういう文体になったのか、イマイチ作者の意図が見えてこなくて戸惑ってしまう。そして続編はまだ出ていない…?

  •  実に感想を書きづらい長編小説。でも面白く読めたとは思う。
     冒頭から登場した二人の詩人を軸に物語が展開されるかと思いきや、次から次に色々な人物や現象が現れ、視点や場面の転換も目まぐるしく、もはや誰が主人公なのか、そもそも主人公という概念がある小説なのかすら分からないまま、まさかの「第二幕」に続くというシリーズ物。
     この世界が階層構造であることの示唆が散りばめられる一方、作中映画の内と外、また、別の作中小説の内と外が入り混じり、複雑怪奇な世界観と人物設定を擁している。にもかかわらず面白く読み進められたのは、吉田さんのユーモア満載の語り口のおかげに違いない。シャバダの父親の寝相の悪さに関する描写には笑いを堪えきれなかった。
     第二幕を読む頃に、この第一幕の粗筋を覚えていられるかが不安である。

  • ただただ登場人物の名前に惹かれる
    ほぼ詩

  • これは難しい方の吉田さん作品。他の方だと挫折するはずなのに、吉田さんなら読める不思議。漢字、平仮名、カタカナ、外来語、並列の「」、縦列の「」。ページからリズムが溢れてくるようで、まるで紙芝居か戯曲…そんな語り口調に巻き込まれ、乗せられ、どんどん次のページを欲する自分。奇人が次から次へと現れ、巻末にまとめられた一覧を見ればざっと大きく76人(多分)。誰が誰でどこへいく?パラレレワールドに陥り、不安になって、どこへ戻ろうかとページを戻しかけたら、要になる人がきゅっと締めてくれる心地よさ。第2幕は既に準備済み。

  • クラフト・エヴィング商會の作品はいつでも虚と実の淡いを歩む。信じてはいけないし、全てを疑ってもいけない。そのバランスの取り方を作家と読者の双方で図り合う。こっくりさんの、互いを信じつつ疑う構図と、それはどこか似ている。

    電氣ホテルという、如何にも大正浪漫的な時代がかった名前と、その宣伝用小冊子から浮かぶ造り。そんなホテルがかつてこの世に存在し、かつ今尚この世の二階に存在して、この世から大量の電氣を掠め取る。ふむふむこれは当代日本の原子力政策に対する一流の皮肉というやつですかな、と先走り。しかし、吉田篤弘が如何にも描きそうな大仕掛けと、これまたこの作家の得意とする駄洒落とも批評めいた言葉遊びとも知れない文章の行く末を、あまり性急に求めてはならない。巻末に、件の小冊子の各頁の写しがあり、電氣ホテルはかくかように実在したのだが文章はフィクションですなどと言われても、警戒の鎧を解いてはいけない。ただひたすらに大上段に構え、目まぐるしく変わる場面や登場人物に目を回すこともなく、こちとらクラフト・エヴィング商會の手口には慣れっこでい、と特段うきうきもわくわくもせず読み進めるのがよい。

    とは言うものの、残り少なくなる頁数。一体ここまで広げに拡げた大風呂敷は、どのようにしゅっと丸めて納めるつもりか、と徐々に心配の種の芽は育つ。ああ、この頁の薄き紙面を通して見えるのは、大団円に付き物の奥付きではあるまいかと思う刹那、電氣ホテル第一幕は呆気なく終わる。全て電氣映画の銀幕の向こう側に投げやったままで。

    てやんでぇ!こっ、こちとらそれもお見通しのことよ、と強がっても、何も始まらないし、終わりもしない。ただ、ただ、吉田何某の策略にまんまと嵌まって身動きの取れない己れを発見するのみ。そういえば目次を見た時に何か可笑しいと気付いていた筈なのにと、地団駄踏んでも致し方なし。せめて、上野駅界隈に電氣ホテルが存在しなかったという不在の証明を試みるのみ。しかし、遠くから声がする。神の存在が証明出来ないことは神の非存在を証明しない、と。 

  • なんとなく、吉田先生は”明かり”について思うところがあるのかな
    それともずっと好きなモティーフなのかな…

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著者プロフィール

1962年、東京生まれ。小説を執筆しつつ、「クラフト・エヴィング商會」名義による著作、装丁の仕事を続けている。2001年講談社出版文化賞・ブックデザイン賞受賞。『つむじ風食堂とぼく』『雲と鉛筆』 (いずれもちくまプリマー新書)、『つむじ風食堂の夜』(ちくま文庫)、『それからはスープのことばかり考えて暮らした』『レインコートを着た犬』『モナリザの背中』(中公文庫)など著書多数。

「2022年 『物語のあるところ 月舟町ダイアローグ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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