水声

著者 :
  • 文藝春秋
3.28
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本棚登録 : 647
感想 : 109
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901312

作品紹介・あらすじ

過去と現在の間に立ち現れる存在「都」と「陵」はきょうだいとして育った。だが、今のふたりの生活のこの甘美さ!
「ママ」は死に、人生の時間は過ぎるのであった。

感想・レビュー・書評

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  • 皆さん書かれていますが装丁が素敵ですね。
    水の声?と思ったのですがなるほど、読むとそういうことねとわかりますね。造語なのでしょうが絶妙のタイトルですね。

    話を過去と現在を行きつ戻りつ書かれる物語はたくさんありますが、章立てせず平の文章の流れのみで綴っていくのは並みの力量ではできないことと、この手のスタイルの文を読むといつも思います。(雑誌で連載していた
    山田詠美さんの「賢人の愛」を読んだ時もすごい力量と改めて思った過去現在行ったり来たり系文体でした)

    川上さんは、中だるみもせず緊張感を持った文体で「家族」の関係性を最後まで描き出していきます。
    いやほんとすごい。文章うまいなぁといつもながら思いました。

    大切な人を失うと、確実に「その人以前」「その人以後」に記憶は分かれます。ここに書かれたことはみんなおそらくそうであるのに案外気づかれていなかったそのことをなぞっているのだと思いました。
    あまりにも大切な人を喪ったばかりに、絶対に失くせないものは何なのかということが痛いほど突きつけられてきて、そのあまり倫理など関係なくなってしまうのでしょうか。倫理、という言葉が薄情に感じられるほどの姉弟の関係です。

    でも、弟の側から描いたら微妙に違う物語が展開されそうな気もします。痛い…切ないなと思いつつ、わかるその感じと思いつつ、最終的には姉弟の愛の物語というところに乗り切れなかった自分。現在は五十半ばである姉弟が振り返るにしては生々しいというか若々しいというか何だろう、違和感をちょっと感じ…というところで故に星三つ。

  • 50代の姉弟、都と陵。
    幼い頃からの二人の道なりを辿っていく物語。

    忘れることの出来ない「あの夏の夜」から30年。
    家族というよりもっと近い、互いが「もう一人の自分」のような存在の二人。
    それは好きとか恋とか簡単に言い表すことの出来ない感情。
    胸が締め付けられる想い。
    水のように形がはっきり定まらず、ふわりふわり静かに流されていく。
    互いに距離を持とうと離れた時期もあったけれど、やはり離れられない二人は家族とか恋人等の枠に囚われない生き方を選ぶ。
    例え他人に咎められようとも、隣で生きていきたい、ただその想いのみ。
    とても穏やかで、けれどとても情熱的で狂おしい物語だった。

  • 素敵な装丁に惹かれて。

    時間がいったりきたりだけど、視点は主人公のままなのでわかりやすい。
    テーマに対して、さらさらと綺麗な表現。

    「人間は、人間であるかぎり、それほど違っちゃいないよ」

  • 静かに空気が流れて、時間はいつのまにか過ぎていく。
    母の影響がやはり強いのかな。背徳の正当化。

  • こうゆう作品は苦手です。
    オブラートで包んだような、はぐらかされているような、つかみどころのない作品でした。

    年子の姉弟、父、癌で亡くなる母!

    こんな家族、気持ち悪いです!

  • "私"は弟の陵と一緒に暮らしはじめた。ママのいた、家で。ママと、ママの兄であるパパと一緒に暮らしていたあの家。そこはママの死んだ家でもあった。
    紙屋の娘だったママ。美しい顔立ちというわけではないのに、魅力的で、男を引き寄せ振り回す、心に思えば口をついて、気遣いなんて遠回りはしないママ。私、都はママが大好きだった。そして弟の陵も。

    淀みなく、浅瀬を澄んだ水道水が流れていくみたいなお話しだった。文章が一続きの流れのようで美しかった。

  • (2015.03.21読了)(2015.03.18借入)
    熊がアパートに引っ越してきて、近所にあいさつ回りしたりする話しを平気で書いてしまう人ならではの小説と言えるかもしれません。
    戸籍のこととか考えたらこのような話はありえないと思うのですが、平気で書いてますね。
    死について、家族について、親子について、兄弟姉妹について、生きることについてのいろんなことを盛り込んでいる感じですけど、深刻で暗くなるわけではないですね。
    川上さんは、この作家ならこんな話を書く、というふうには決めさせてくれない作家かもしれません。あんまり、こだわりのない作家なのかもしれません。
    1986年頃に、ママは50と少しでなくなった。1935年頃に生まれたということでしょう。
    主人公は、都(みやこ)さんと陵さんです。一歳違いの姉と弟です。
    地下鉄サリン事件、日航ジャンボ機墜落事故、東京大空襲、チェルノブイリ、等の話題が所々で出てくるので、死について何となく気にしているようです。
    パパとママ、みやことりょう、二代にわたって身内だけで暮らす人たちは、何を意味しているのでしょうか。現代社会の生きにくさでしょうか。川上さんの解説がほしい漢字です。

    都さん:イラストレーター
    陵さん:会社員
    奈穂子さん:ママの幼馴染の子。11歳のときに5年間過ごしたアメリカから帰国。
    満寿子さん:奈穂子さんの母親。
    薫さん:満寿子さんの姪。菜穂子さんの従姉妹。
    武治さん:ママの実家の使用人? 都さんと陵さんの実父。
    パパ:ママの同居人。武治さんのところで働いている。ママの兄。
    七帆子さん:陵さんの友人。

    【目次】
    1969年/1996年
    ねえやたち
    ママの死
    パパとママ/奈穂子
    家―現在

    女たち
    父たち
    1986年前後
    1986年
    2013年/2014年

    ●虫くさい(62頁)
    陵はキャベツを好まない。虫くさいじゃない、キャベツって。そんなことを言って、皿からよけようとする。
    ●意味(160頁)
    おれたちは、起きた事がらの意味からできあがっているわけじゃないでしょ。ただずっとふらふら存在してきて、それで今たまたま、こうなってるだけでしょ。
    「じゃあ、起ったことに、意味はなかったの?」
    「意味なんて、ないでしょ。あるわけが、ない」
    ●悲しいのは(166頁)
    人が死んで悲しいのは、死んだこと自体よりも、会えなくなること喋れなくなることなのだった。
    ●水から(215頁)
    「あたしたちは、水からできているから」
    「水のものを飲みこむと、体が迎えて音をたてるの」
    陵がわたしの体にはいってくるおりに、最初にふれあうのは、陵とわたしの体そのものではなく、わたしたちの体の中に蔵された水と水なのではないか。その時、水と水とは、どんな音をたててまじりあってゆくのだろう。

    ☆関連図書(既読)
    「パスタマシーンの幽霊」川上弘美著、マガジンハウス、2010.04.22
    「機嫌のいい犬-句集-」川上弘美著、集英社、2010.10.30
    「ナマズの幸運。東京日記3」川上弘美著・門馬則雄絵、平凡社、2011.01.25
    「天頂より少し下って」川上弘美著、小学館、2011.05.28
    「神様2011」川上弘美著、講談社、2011.09.20
    「なめらかで熱くて甘苦しくて」川上弘美著、新潮社、2013.02.25
    「晴れたり曇ったり」川上弘美著、講談社、2013.07.30
    「猫を拾いに」川上弘美著、マガジンハウス、2013.10.31
    (2015年3月22日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    都と陵はまたこの家で一緒に暮らし始めるのだった。人生の最も謎めいた部分に迫る長編小説。死が揺さぶる時間。

  • 誰かに秘密を打ち明けられたような気分。そして、私が永遠にできないようなことを疑似体験し、少しだけ悦に入るこの背徳感…読書の醍醐味です。

  • あぁ、川上弘美だなぁ、としみじみ。
    見た目はさらさらとしているのに手が触れるとざらざらとしている、見た目は透明なのに潜ると濁っている、そんな不思議な水のような。

    どうしようもなく、ただお互いに必要であった。ということなのだろう。ただ、どうしようもなく。

    「何かを、してもしなくても、後悔はするんじゃない?」

    • ryoukentさん
      いいねサンク
      おひさね(^_^;)
      あちがうわ久田さんやった(-_-;)
      いいねサンク
      おひさね(^_^;)
      あちがうわ久田さんやった(-_-;)
      2015/01/31
  • 読み終わったあと「水声」というタイトルがさらさらと体の中を走り抜けて、なんとも清々しいきもちになった。ていねいに、ていねいに、自分の、そして誰かの「好き」のきもちを大切に抱いて生きていく話。人や物はもちろん。景色や想い出や時間や言葉。自分が「好き」と感じたものに正直に、緊張感を忘れずに寄り添っていく。その想いさえあれば少しのつらいことや哀しいことは乗り越えていけるのかもしれない。

    川上弘美さんの文章を読んでる時間がたまらなく好きだ。ファンタジーのなかに真実があって、やさしくてかなしくて。この本を読みながら年を越せてしあわせだった。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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