あなたの本当の人生は

著者 :
  • 文藝春秋
3.28
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本棚登録 : 478
感想 : 83
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163901367

作品紹介・あらすじ

「書く」ことに囚われた三人の女性たちの本当の運命は…… 新人作家の國崎真美は、担当編集者・鏡味のすすめで、敬愛するファンタジー作家・森和木ホリーに弟子入り――という名の住み込みお手伝いとなる。ホリー先生の広大で風変わりなお屋敷では、秘書の宇城圭子が日常を取り仕切り、しょっぱなホリー先生は、真美のことを自身の大ベストセラー小説『錦船』シリーズに出てくる両性具有の黒猫〈チャーチル〉と呼ぶことを勝手に決めつける。編集者の鏡味も何を考えているのか分からず、秘書の宇城は何も教えてくれない。何につけても戸惑い、さらにホリー先生が実は何も書けなくなっているという事実を知った真美は屋敷を飛び出してしまう。 一方、真美の出現によって、ホリー先生は自らの過去を、自身の紡いできた物語を振り返ることになる。両親を失った子供時代、デビューを支えた夫・箕島のこと、さらに人気作家となった後、箕島と離婚し彼は家を出て行った。宇城を秘書としてスカウトし書き続けたが、徐々に創作意欲自体が失われ……時に視点は、宇城へと移り、鏡味の莫大な借金や箕島のその後、そして宇城自身の捨ててきた過去と、密かに森和木ホリーとして原稿執筆をしていることも明かされていく。 やがて友人の下宿にいた真美は、鏡味と宇城の迎えによって屋敷へと戻る。そしてなぜか、敢然とホリー先生と元夫の箕島にとって思い出の味を再現するため、キッチンでひたすらコロッケを作りはじめた。小説をどう書いていいのかは分からないけれど、「コロッケの声はきこえる」という真美のコロッケは、周囲の人々にも大評判。箕島へも届けられるが、同行した宇城はホリー先生の代筆を箕島に言い当てられ動転する。真美、ホリー先生、宇城、三人の時間がそれぞれに進んだその先に〈本当の運命〉は待ち受けるのか?

感想・レビュー・書評

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  • すばらしい小説だった。物語についての小説。
    ここでの物語とはイコール人生と言っても良い。
    作者自身も奇妙な小説と言うようにその内容を説明することが私の力では出来そうもない。

    書くことにとらわれた年老いたジュニア小説家とその秘書と弟子が主人公。この三人のそれぞれの目線から物語は進んでいく。
    この設定だけ聞いても正直食指が動かなかった。
    作家が作家を主人公にしちゃうなんてどうなのよと。
    登場人物を見る限り軽くて安易な内容を想像してしまった。

    いやはやとんでもなかった。
    大島さんの力量を完全に侮っていました、ごめんなさい。
    魅力的な登場人物たち、現実と物語が錯綜する設定、そして物語とは何か人生とは何かを問い続ける台詞。どれもこれも文句なし。
    読みながら私も物語の世界に足を踏み入れているような感覚に陥り、終わってしまうのが寂しくて寂しくて。

    でもこの物語は未完、いつまでも。
    一番好きな登場人物、担当編集者の鏡味の言葉を借りるならば物語はいつも未完なのだ、無理に終わらせる必要はない。
    そうだ、私達はいつだって物語を欲しているのだから。
    「さあ、くれ。わたしには物語が必要なんだ。物語をくれ。」
    「さあ、くれ。くれよ。もったいぶらずに」
    そう、その通り。
    この小説は物語を書く側の小説でもあり同時に読む側の小説でもある。
    だから存分に楽しめた。

    「あなたの本当の人生は?」
    何度も何度も繰り返されるこの台詞。
    登場人物と一緒に私自身も自問自答。
    おおげさな言葉のようだが、この本の中で問われるとなぜか心地良い。
    人生について思いを馳せながら読み終わった。
    本当に素敵な小説だった。
    ああ、そうそう装丁もすばらしいです。
    このイラストレーターのファンになってしまいました。

    • takanatsuさん
      vilureefさん、こんにちは。
      大島真寿美さんの新刊!そしてvilureefさんが大絶賛!
      これは読まねば!と朝からテンションMAX...
      vilureefさん、こんにちは。
      大島真寿美さんの新刊!そしてvilureefさんが大絶賛!
      これは読まねば!と朝からテンションMAXです(笑)
      「おおげさな言葉のようだが、この本の中で問われるとなぜか心地良い。」
      この一文に心惹かれました。
      私はその手の問いかけがとても苦手で、焦ってしまうというか…。
      でもこの本では心地良いのですね。是非とも読みたいです。
      2014/12/18
    • vilureefさん
      takanatsuさん、こんにちは!

      私の拙いレビューに素敵なコメント頂いて嬉しいです♪
      本当に奇妙で不思議な小説で、何と書いたらい...
      takanatsuさん、こんにちは!

      私の拙いレビューに素敵なコメント頂いて嬉しいです♪
      本当に奇妙で不思議な小説で、何と書いたらいいのか散々迷いました(^_^;)

      新聞書評だとピンとこなかったんですよ、この作品。特に読売の唯川さんのレビューなんかじゃ全然魅力が感じられず。(あ、好きな作家さんだったらごめんなさい)
      ですが、いつも参考にしている書評ブログで大島さんの最高傑作と書いてあって俄然読む気になりました!

      まさしくその通りです。
      ファンタジー色もありつつ破綻もなく、テーマもすばらしい。楽しかった~(*^_^*)
      takanatsuさんのレビューも楽しみにしていますね(^_-)-☆
      2014/12/18
  • 「本当の人生」
    この言葉を言われる度責められているように感じていた。
    あの時こうしてたらこうだったのに、ああだったのに…
    そんなことを考えてしまうことがあっても、でもそれは出来なかったのだと切り捨ててきた。
    この物語に登場する宇城さんのように選ばなかった道を無視してきた。
    今いる場所に熱中するあまりいろんなものを落として、蹴散らしてしまった。
    そしてそのことに気付いた時には跡形もなくなっていて、もう戻せないと諦めるしかなくて。
    そして思っていた。ダメだなぁと。

    でも、でも、本当の人生がないのなら、いや、今の人生こそ本当なんだとしたら、あるべきように生きているんだと思えるかもしれない。
    この物語はそんな物語ではないかと思う。
    人生の流れは自分だけで決められるものでも、誰かに決められてしまうものでもなくて、そんな単純なものでも、大袈裟な意味のあるものでもないのだよね?
    たぶん人生とか言って大袈裟に語るようなことはそんなにないんだろうな。
    ベストセラー作家でも、町のコロッケ屋さんでも、人生の意味はほとんど同じ。
    失敗したくないとか、傷つきたくないとか願っていても失敗はするし、ぼろぼろに傷つくこともある。
    失敗したのは本当の人生じゃなかったからなのか?
    いいえ、それが本当なんだ。
    今立っているここだけが本当なんだ。

    『あなたの本当の人生は』というタイトルのこの物語から、人生の意味は皆同じでほんのちょっとしたこと(あるかなきかの煙のようなもの)だということを教わった気がした。
    そしてホリー先生に今までの人生を素っ気なく「ふぅん」と聞き流してもらった気がした。
    それは肯定でも否定でもなく、ただここにいることの許可のようだった。
    誤読かもな…。大島真寿美先生すみません。ホリー先生にもすみません。
    でも深く納得してしまったので、そういうことにして、また10年後くらいに読み返したい。
    その時にはもっとこの物語に入っていける気がするから。

  • 人気シリーズで名を成した大御所作家とその秘書。2人が暮らす家に、デビューしたはいいが以後鳴かず飛ばずの新米作家が、担当編集者の提案により、弟子入りの形で同居することになる。
    やがて新米作家はその家で、意外な方法で存在感を示すようになる。そのことで微妙に立場が変わっていく3人。それぞれの目線で、くるくると語り手が変わっていく不思議なストーリーである。
    文中、「あなたの本当の人生は」という自らへの、そして相手への問いかけが頻繁に登場する。今の自分の人生は果たして自らがその意思で選びとったものなのか、それとも何となく流されているうちにいつしかたどり着いたものなのか。そして3人はそれぞれ、「これでいい」と納得できる心境やポジションを、三者三様のやり方で獲得するのだった。

  • 不思議な物語だったなー。作家森和木ホリーとその秘書宇城と新人作家で弟子のチャーチル(國崎)の3つの視点から語られる物語。「あなたの本当の人生は」どこにあるかなんて結局誰にもわからないのだ。

  • あなたの本当の人生は。ホリーさんに突然語りかけられ、人生が変わってしまった宇城。ホリーさんの家に住み込むことになったチャーチル。選んだ道と選ばなかった道、どちらが本当の人生か。チャーチルが揚げる魔法のコロッケ。チャーチルを乗せて走る錦船。ファンタジーではないのに、ファンタジーの世界に入っていく感じがあって、とても良かったです!

  • 「物語る」ということ。それは人生そのものなのだろう。自分と、自分と関わるすべての人の人生そのもの。
    一度とらわれるとそこから逃れることはできない。物語に殉ずるしかなくなる。そしてそれはきちんと死ぬことへとつながる。
    書くことにとらわれた人の、それは性というか業というか。
    この物語を紡いだ大島さんも、そういう「書く」ことにとらわれた一人なのは間違いない。この不思議な物語を読みながら、私はチャーチルになりたい、と思った。チャーチルになってホリーさんと一緒に書くことにとらわれて生きてみたい、と。そしていつか「あなたの本当の人生はね…」と語られたい。でもそのときが来るまえにコロッケを作らなきゃ。丁寧に丁寧に。人生を紡ぐように。物語を描くように。誰かの枯れかけた物語る力をよみがえらせる魔法のコロッケを作らなきゃ。

  • ドキっとするタイトルだけど、むしろほっこりしたファンタジー。

  • 読み終わったあとむしょうにコロッケが食べたくなった。
    明るい小川洋子、直感的でないよしもとばななそんな雰囲気。面白いと思うけれど、こういう作風ってどこか既視感を覚えてしまう。
    面白いとは思うけれど。

  • 73物語を産み出すというのは命を削るようなヒラメキと努力がいるねんなあ。主人公を取り巻く憎めない人たちとお話ししてみたい。

  • コロッケが食べたくなった。
    人生の何処かで選ぶ道が違ったら違う人生もあったかも

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著者プロフィール

1962年名古屋市生まれ。92年「春の手品師」で文学界新人賞を受賞し同年『宙の家』で単行本デビュー。『三人姉妹』は2009年上半期本の雑誌ベスト2、2011年10月より『ビターシュガー』がNHKにて連続ドラマ化、2012年『ピエタ』で本屋大賞第3位。主な著作に『水の繭』『チョコリエッタ』『やがて目覚めない朝が来る』『戦友の恋』『空に牡丹』『ツタよ、ツタ』など。2019年『妹背山婦女庭 魂結び』で直木賞を受賞。

「2021年 『モモコとうさぎ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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