- Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163901497
作品紹介・あらすじ
昭和五十九年、台風の夜。埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が殺された。浦和署の若手刑事・渡瀬は、ベテラン刑事の鳴海とコンビを組み、楠木青年への苛烈な聴取の結果、犯行の自白を得るが、楠木は、裁判で供述を一転。しかし、死刑が確定し、楠木は獄中で自殺してしまう。事件から五年後の平成元年の冬。同一管内で発生した窃盗事件をきっかけに、渡瀬は、昭和五十九年の強盗殺人の真犯人が他にいる可能性に気づく。渡瀬は、警察内部の激しい妨害と戦いながら、過去の事件を洗い直していくが……。正義とは? 真実とは? 人の真理を暴くのは、はたして法をつかさどる女神テミスが持つ「天秤」なのか?それとも「剣」なのか? 最後に鉄槌を下されるのは?司法制度に、大きな疑問を投げかける王道社会派ミステリーと、ラストまで二転三転し、読者を翻弄するエンターテイメント性に溢れた本格ミステリーの奇跡の融合がついに実現!!『連続殺人鬼カエル男』や『贖罪の奏鳴曲』などで中山ファンにはおなじみの渡瀬警部が「刑事の鬼」になるまでの前日譚。そして『静おばあちゃんにおまかせ』で、冴えわたる推理を見せた現役裁判官時代の高遠寺静も登場。『どんでん返しの帝王』の異名をとる中山七里が、満を持して「司法制度」と「冤罪」という、大きなテーマに挑む。
感想・レビュー・書評
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昭和56年。
今や埼玉県警に於いて、検挙率ナンバーワン班長の渡瀬警部の駆け出しの頃。
埼玉県浦和市で不動産会社経営の夫婦が、刺殺された。
浦和署内1.2の検挙率を誇る鳴海刑事は、ある男を苛烈で荒っぽい取り調べの結果、自白を引き出す。男は、裁判で供述を一転したが、地裁、高裁共、死刑が確定。
男は、獄中、自殺してしまう。
当時、鳴海刑事とコンビを組んで、取り調べに当たっていた渡瀬刑事は、
5年後に起こった窃盗事件が、5年前の事件に、酷似していることに気がつく。
冤罪を知り、内部告発。
隠蔽を図る警察組織の妨害。
一人、戦う、渡瀬刑事。
冤罪事件の関係者の中で、唯一、生き残った、渡瀬刑事は「パンドラの箱の希望になる。二度と冤罪を作らない。間違えない。真っ当な刑事になる。それが、パンドラの箱を開けてしまった者の贖罪だ」と誓う。
そして、最後に待ち受けた、意外な真相。
渡瀬刑事の駆け出しの頃の過ちがわかり、今の彼の立ち振る舞いが、納得できたような気がする。
次は、じっくり、渡瀬刑事を読んでみたい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
知らなかったとは言え、冤罪をつくる事に加担してしまった渡瀬刑事。
5年後に発生した窃盗事件をキッカケに、以前の事件には他に真犯人がいる事に気づき、警察組織の妨害を受けながら冤罪を証明しようと戦うお話。
証拠を捏造して自白させるなんてなんと恐ろしや。
こーゆー事って本当にあるのかしら...
冤罪が発覚すれば困る人たち、警察署が渡瀬刑事にトンデモない邪魔をしてきます(>人<;)
それでも遂に真実に辿り着き...
最後まで気が抜けずとても面白ったです!
ここから渡瀬刑事はスゴい刑事さんになっていくのですね。
裁判官の高遠寺静さんのお話もシリーズ化してるみたいなので読んでみます‼︎
埼玉日報の尾上善二記者。チョイチョイ他の作品にも出てますが、今回のチョイチョイは...♪( ´▽`)
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渡瀬警部の新人時代の頃の物語。
自らも関わってしまった冤罪の事件。
結果的に罪のない者を死に至らしめてしまった罪悪感を背負い、真犯人は元より隠蔽を図る組織とも対立していく。
彼の刑事における根本が詰まった事件。
罪の十字架を背負うきっかけとなった事件が綴られています。
様々な事件が時系列により絡み、かなり内容の濃い1冊になってました。
人間の醜さが鮮明に描かれてて、これもまた心を抉られる作品でした。 -
ずっしりと重い一冊だった。
同時に借りた知念実希人と同じく、
こちらも初めての作家さん。
二人を比べるのはどうかと思うけど、
たまたま借りた2冊が正反対のタイプだったことに笑えた。
わたしはこっちの方が好きなタイプだった。
最初の前振り部分が割と早々に終わってしまい、
いったいどんな着地をするのかとやきもきしながらも
最後まで引き込まれて読み終えた。
登場人物がまるで実在するかのように
生き生きと描かれていて、
それぞれに魅力的だった。
間違いを犯して、それを悔いながら生きていく大変さを
ひしひしと感じた。
この作者の作品の人物はいろいろリンクしているようなので、他のも読んでみたいと思った。 -
流石のどんでん返ししまくりです。
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仕事で失敗をしてしまうことは、ある。それも気づいた時には、取り戻せないほど時間がたってしまっている。警察なら尚更。このまま、知らなかったことにしてしまうこともできる。私なら、そうするだろう。
しかし、主人公は、自分の中の正義を貫く。失敗を新しい仕事に生かせるように、日々努力を積み重ねていく。
では、終わらなかった。後半、気になって一気読みしてしまった。全部がつながってて、すごい。 -
相変わらず中山さんの本は面白い。それ故に図書館で新刊は借りるのがなかなか困難。
失敗は成功のもとというが、取り返しのつかない失敗もあるという話。この人はもう冤罪は二度とうまないだろう。 -
中山七里ファンお馴染みの渡瀬警部の若かりし頃を描いた作品とのことだけど、正直、渡瀬警部のイメージがない…ただ、これまでの中山作品とは違い、事件を描くだけではなく、昭和57年に自分たちが半ば強引に立件した強盗殺人事件を、その5年後に真犯人に当たることで、冤罪を打ち明けるべきか、悩む渡瀬の心の葛藤が描かれる。
何の罪もない若者を死刑にした上に、自殺にまで追いやってしまった。検挙率が全てだった、警察の黒歴史の時代を描いた作品。この事件を経て、渡瀬が厳しくなったとのことだったので、続けて、「カエル男」を読んでみた。 -
冒頭───
昭和五十九年十一月二日午後十一時三十分、埼玉県浦和市。
三日ぶりの風呂から出て、夫婦一組の布団に入ろうとしたところで電話が鳴った。受話器を上げるといきなり低い声が聞こえてきた。
『コロシだ。今からそっち行くから支度しておけ』
こちらの返事も待たずに切れた。渡瀬は溜息を一つ吐いて遼子に向き直る。
「事件が起きたらしい。行ってくる」
「また?」
遼子は眉を顰めて抗議する。
「さっき帰って来たばかりじゃないの」
「仕事だ。しょうがない」
遼子は唇を尖らせて布団から這い出た。帰宅するのは一週間に三日。しかも呼び出されたら夜も昼もない。仕事柄やむを得ないとしても、新婚一年目の妻としてはそれが当然の反応だろう。
──────
死刑制度。
殺害された被害者の遺族にすれば、存続してほしいものかもしれない。
人を殺した人間がのうのうと生き残り、刑務所の中で模範囚として過ごせば、終身刑とて数十年で生きて出られることになる。
遺族の哀しみを思えばやりきれない話だ。
だが逆に、その判決が下された犯罪がもし冤罪だったなら------。
死刑を下された被告人が真犯人でなかったとしたら------。
一度下された判決は殆ど翻されることはない。
死刑が執行された後に冤罪が証明されたとしても、死んだ人間が生き返ることはない。
その制度の是非が未だに論争となっているのは、誰も正解が下せないからだろう。
昭和59年に起こった夫婦強盗殺害事件。
犯人と断定された青年は、警察の過酷な聴取の下に自白を強要させられる。
青年に下った判決は死刑。
その後、青年は獄中で自殺する。
それから五年後、別の窃盗事件をきっかけに、先の強盗殺害事件の真犯人が別の人間だった可能性に気づいた刑事。
あれは冤罪だったのかもしれない。
自分の犯した過ちを悔いた刑事は、それを白日の下に晒そうとするが、警察内部の権力維持のため、激しい妨害にあう。
それからさらに約四半世紀後、新たな驚きの事件が迫っていた。
いやあ面白かった。
権力と正義と人間としての誇りと、いろいろ考えさせられる物語だった。
間違った正義の定義、権力の行使は、社会を滅ぼす。
それに敢然と立ち向かっていった渡瀬刑事の姿に心を打たれた。
最後のどんでん返しもお見事。
中山七里さん、前作の原発を問題にした作品「アポロンの嘲笑」は細部に齟齬が感じられて今一つだったが、この作品は完璧だった。
現行の司法制度に抱く人間の感情の揺れみたいなものを上手く表現している。
デビュー作の頃に感じられたぎくしゃくした日本語表現もまるでなくなったし。
それにしても、昭和の時代は、これほどひどい取り調べが許されていたのかなあ。
被告人の人権も何もあったものじゃない。
暴力丸出しの警察の過酷な取り調べ。
こんな警察ばかりだったら、仕方なく自白してしまい、冤罪になった人間も数多かったのじゃなかろうか。
最近のニュースでもあったよね。
再審請求して無罪になったのが。
あれは死刑じゃなかったからまだ生きているうちに戻れたけど。
それでも何十年という人生を無駄にさせられたわけだから、本人の忸怩たる思いは僕らには想像もつかないほどのものだろう。
死刑制度の是非はやはり難しいな。
兎に角、警察が真っ当な捜査を行い、裁判が正当に行われることを願うのみだ。