革命前夜

著者 :
  • 文藝春秋
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  • / ISBN・EAN: 9784163902319

作品紹介・あらすじ

1989年、日本の喧騒を逃れ、ピアノに打ち込むために東ドイツに渡った眞山柊史。彼が留学したドレスデンの音楽大学には、学内の誰もが認める二人の天才ヴァイオリニストがいた。正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。冷戦下の東ドイツを舞台に、一人の音楽家の成長を描いた、著者渾身の歴史エンターテイメント。

感想・レビュー・書評

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  •  良かったです。この本。
     日本が昭和から平成に変わった日、主人公 真山柊史は、留学先の東ドイツドレスデンに到着します。ピアニストを目指していて、周囲から「何もわざわざ東側の国に行かなくてもいいではないか」とどれだけ言われても、意思を通して東ドイツに来たのです。西ドイツではカラヤン率いるベルリン・フィルが有名でしたが、商業主義に走っている西側より、バッハからの伝統を重んじ、純粋な音楽を大切にしている東側に来たいと切に願ったからです。
     柊史の目に移った東ドイツの街は予想を上回るものでした。灰色の街。瓦礫。臭気。粗悪な商品。商品の不足。食物の質の悪さ。第二次世界大戦のダメージから西ドイツや日本は瞬く間に立ち直ったのに、東ドイツはまだ復旧が進んでいないのでした。
     しかし、隣に住む女性は言いました。「この灰色の街から音楽だけはいち早く蘇った国だということを覚えていなさい。この国には至る所に音が溢れています。」と。
     留学したドレスデンの音大で、柊史はハンガリー出身の天才ヴァイオリニストや北朝鮮出身のピアニストやベトナム出身のピアニストや地元のヴァイオリニストの学生と友達になります。また、学生ではありませんが、クリスタという天才オルガニストとも知り合い、心惹かれます。
     柊史はスランプに陥ります。仲間たちの素晴らし過ぎる音に圧倒されたことも事実です。それだけではありません。父親同士が親しかったため、親しくしていたダイメル氏が妻を西への亡命容疑で告発し、そのせいでダイメル一家はバラバラになり、柊史自身もシュタージ(監視者)から常に目をつけられるようになってしまうという事件がありました。オルガニストのクリスタも西への移住申請を出したために常にシュタージに追われているということを知りました。
     その頃、東ドイツでは中国の天安門事件などを受けて、市民運動がさかんになり、あることをきっかけにハンガリーを通じて、西への亡命が出来るようになり、どんどん西へ出て行く若者が増えました。しかし、以前から市民運動をしていた人々は国を捨てて西へ行くのではなく、自分の国を良くしていこうと主張します。
     東ドイツ全体が大混乱の中、柊史の周りではクリスタが西への亡命に成功したが、その後撃たれたり、ハンガリーのヴァイオリニストが何者かに襲われ、ヴァイオリニストの道が絶たれたり、親友だと思っていた者がシュタージの手先だとわかったりとショッキングなことが起こります。
     だけど、シュタージも市民活動家も自ら望んでそうなったのでらなく、そうせざるを得ない理由があったのです。あるコンサートが両方の派閥関係なく、国民の心を一つにするという、感動的な出来事もありました。
     そんな大混乱の中、柊史の友人たちは、音楽を諦めたり、傷を抱えたまま必ず音楽で大物になると決心したり、それぞれの道に別れました。柊自身もピアノに向き合い直そうと決心し、歩き始めた時、ベルリンの壁が…。
     偶然にも日本が昭和から平成に変わった年、ベルリンの壁崩壊、天安門事件など世界の流れを変える大事件が次々起こりました。私より少し年上の主人公は、純粋な音を求めて東ドイツに留学したはずが、あのベルリンの壁の中で壮絶な体験をしたのですね。もし、実在していたとしたら、その時の体験を肥やしにして、今は大音楽家になっているかもしれません。
     クラシック音楽は古い音楽を守っていくものですが、同時に今を生きる人の息が吹き込まれることによってその時にしかない演奏が出来ていくものだと思いました。



    • Macomi55さん
      モデルいたのか、私も気になるところです。
      モデルいたのか、私も気になるところです。
      2021/09/17
    • Macomi55さん
      蜜海さん
       コメントありがとうこざいます。蜜海さんのコメントを読んで、この小説は人生の選択の小説でもあったのだと気づきました。音楽の本場へ留...
      蜜海さん
       コメントありがとうこざいます。蜜海さんのコメントを読んで、この小説は人生の選択の小説でもあったのだと気づきました。音楽の本場へ留学出来る程の才能と機会に恵まれた若者たちですが、それだけに感受性の高い彼らが、歴史上でも場所的にも類まれな壮絶な状況に巻き込まれて、お互いが惹かれ合ったり、その分苦しく、辛い思いをするという、交響曲のような重みのある小説でしたね。
       今まで安易な選択ばかりして、人の気持ちには鈍く、図太く生きてきた私には近づくことの出来ない登場人物たちだと思います。
       お互い求めた唯一無二の音を作る者同士が惹かれ合うというのは素敵な話だと思いました。
       十字架を背負いながら、音楽家としての成功を誓った李君、ピアノを続けられず、ベトナムに帰ってしまったスレイニット、ヴァイオリンを続けられないほどの傷を負わせた相手を知っていながら、口に出さず、思い切って進路を指揮者に変更したラカトシュ、一人で罪を背負い、黙って音楽から身を引いたイェンツの行く先が気になりました。

      2021/09/17
    • Macomi55さん
      蜜海さん
       同感です。本のタイトルが最後に出てくるあの曲のことだったなんて。色々あった彼らへの花向けのようです。実在していたといたら、今は5...
      蜜海さん
       同感です。本のタイトルが最後に出てくるあの曲のことだったなんて。色々あった彼らへの花向けのようです。実在していたといたら、今は50代半ば。あの体験を乗り越えて、立派な音楽家や何らかの道での深みのある人物になっていてほしいと願っています
      2021/09/17
  • いやあもう読み終わった瞬間目を閉じました
    もう自分でも分かってきました
    自分がそうするときってもう★5じゃ足りないってときなんですよね
    そして最初に出てきた感情はやはり「オリゴ糖」でしたいや間違い「ありがとう」でした(今くだらないダジャレ一番いらない)

    もちろんこの素晴らしい作品を生み出してくれた須賀しのぶさんに深い感謝ですが、同時にこの物語に出会わせてくれたゆきさんのブックリスト(さっき慌ててフォローさせて頂いた)とひまわりめろん「次の本」選考委員会副委員長のヒボさん(勝手に任命もちろん無許可)に感謝です
    ゆきさんのブックリストを見てちょっと興味をもって飛んでいった先で副委員長(無許可)の感想を読んで読もうって決めたんですよね
    ブクログでこういうルート辿ること本当に多いです

    ありがたいな〜

    ちなみにこの選考委員会の自分の立場は上級特別顧問となっており、もちろん委員長や他の委員、部門長などもいらっしゃいます
    今後も勝手に名前を出すかもしれませんがどうか広いお心でひとつ笑って許してくださいね

    ちなみにヒボさんのレビューは文庫本のほうです

    さてやっと本編です

    詳しい内容はヒボさんのレビューを見てください(物を投げないで)
    自分が思ったのは頭の中にバッハの曲を響かせることが出来る人がこの物語を読んだらどんな世界が広がるんだろう?ということでした
    無限の広がりをみせ何倍も光り輝くのか
    あるいは陳腐でくだらないものに成り果てるのか
    もちろんそれも人それぞれなのかもしれませんが少なくとも自分には分かりません
    分かりませんかなんかいろいろ想像するとそれだけでちょっとワクワクするのです
    答えを突き詰めようとバッハを聞いたりしません
    分からないからワクワクするってことだってありますよね
    この物語の結末のように
    だって二人の、二人と仲間たちの未来を想像するのってワクワクしますよね

    素晴らしい結末でした
    「良く出来た物語は最後に必ず最初に戻る」とはかの有名なひまわりめろんさんの名言ですが本当にそうでした

    須賀しのぶさんの文章の感じも好きだったのでもっといっぱい須賀しのぶさん読むぞ!

  • 昭和が終わった日。
    重く垂れ込める雲も、並ぶ糸杉も、積み木のような団地も、すべてが黒ずんでいる灰色の国、東ドイツ。敬愛するバッハが今なお息づく国。日本からピアノを学ぶために留学してきた眞山柊史がこの国で初めて出会ったデモは、控えめに紙を掲げているだけの静かなものでした。学生ですら声高に叫ぶことをためらうほど、共産圏では反体制と見なされることは、恐ろしいことなのです。季節が巡り、沈黙のデモは形を変えました。自由を、解放を求め数千の群集は口々に我々こそが人民であると想いの丈を叫んだのです。彼らの熱気が歴史のうねりを生み出したのでしょう。ベルリンの壁が崩壊したのです。

    あぁ、この物語自体が音楽なんだ。
    そう感じました。人々が音符となって音楽を作っているのではないか。
    密告するもの、されるもの。自由を求め亡命するもの、国に残って国を変えると決意するもの。音楽に愛されるもの、復讐されるもの。結局どんな選択をしても選ばなかった道を思えば、苦しみからは逃れることは出来ないのでしょう。
    その人々の想いや叫びが音となり、ひとつの旋律となって響き渡るようでした。それは、この国のこの歴史を生きた人々にしか作り出せない音楽。この『革命前夜』なんだと思いました。

    国に残る者、国を去る者。どちらが正しく、どちらが卑劣か。国の中から見れば、この2つしか答えはないのかもしれません。でも、それをこの国でピアノを学ぶことが夢だった、遠い国からきたひとりの留学生から見れば答えは2つではないのかもしれません。柊史がこの物語を語ることで、偏った考えに陥ることなく読むことが出来ました。

  • おーー!最後は鳥肌!!

    ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、ピアノを学ぶ留学生、眞山柊史。後半まで白黒で色味のない情景だったが、最後には音楽と歴史が交差し、はっきりと色のついた物語になった。
    「自由は代償を要求する。罪には罰が必ず下る。」
    平和な世界って、幸せな生活ってなんなんだろう。

    ヴェンツェルやシュトライヒって、舌噛みそうな名前だけど、その後が気になるーーー。

    • タバスコさん
      こんにちはyyさん

      粋でしたよねー!!

       我が親愛なる戦友達へ捧ぐ

      ピアノ・オルガンディオは革命への第一歩、そして戦友達の挑戦なのでし...
      こんにちはyyさん

      粋でしたよねー!!

       我が親愛なる戦友達へ捧ぐ

      ピアノ・オルガンディオは革命への第一歩、そして戦友達の挑戦なのでしょうか。

      こんなん教会の中で聞いたら完全に震えながら涙流すでしょー(T_T)
      2022/03/06
    • yyさん
      タバスコさん

      ですよね~♪
      わかります。きっと、すっごくたくさん涙が流れる…。
      そして、心も体も綺麗になる気がします。

      この...
      タバスコさん

      ですよね~♪
      わかります。きっと、すっごくたくさん涙が流れる…。
      そして、心も体も綺麗になる気がします。

      この小説を思い出すと、なぜか、今 ウクライナで起こっていることが頭をよぎります。
      一日も早く、みんなが手を取り合って平和に暮らせますように。
      2022/03/06
    • タバスコさん
      私もウクライナの現状が頭をよぎりました。
      戦争は失うものばかりで得るものなんて何もない。戦争が終わっても、元の生活には戻れない。
      でも、必ず...
      私もウクライナの現状が頭をよぎりました。
      戦争は失うものばかりで得るものなんて何もない。戦争が終わっても、元の生活には戻れない。
      でも、必ず平和に暮らせる日が来ます。同じ人間なんですから。
      2022/03/06
  • 革命前夜、歴史としてしか知らない壁が崩れる前にあったかもしれないドラマ。
    熱い激しい想いを感じた。
    人への印象なんて、自分から見えているものだけが真実ではないと思う。それは私もそう、すべての人にすべてをさらけ出さないのだから当然。隠したいことは誰にだってある。
    ましていつどこで誰に監視されているかわからない場所では、本音なんて誰にでも言えるものではない。みんなに裏の顔があって、それさえ信じていいのか?そんな世界がいまでも世界にはあるのだろう。
    そんな中でも音楽だけは裏切らない?

    シュウとクリスタが新たなハーモニーを響かせられることを祈りたい。ラストは明るい光がさすようで、聴きたいな〜と思った。

    • yyさん
      みほさん

      こんばんは☆彡
      夜遅くにすみません。
      みほさんの本棚に「革命前夜」があったので
      なんか嬉しくなってしまって…。
      この...
      みほさん

      こんばんは☆彡
      夜遅くにすみません。
      みほさんの本棚に「革命前夜」があったので
      なんか嬉しくなってしまって…。
      この作品、好きなんです。
      ふたりのハーモニー、聴きたいですね♪
      2024/01/06
    • みほさん
      yyさん、こんにちは。
      私も大好きな本です。ピアノ曲やバッハが好き、という以外のことを何も知らずに読んで、あの世界観に衝撃を受けました。

      ...
      yyさん、こんにちは。
      私も大好きな本です。ピアノ曲やバッハが好き、という以外のことを何も知らずに読んで、あの世界観に衝撃を受けました。

      感想も読ませていただきました。
      私も他の方のおすすめで読むことが多いです。
      また自分が好きと思った本を、他の方がどう思っているのか。私もいろんな視点の感想を読むことが好きです。好きな本の話を語り合えることってうれしいですよね。
      2024/01/07
  • バッハの平均律をこよなく愛し、バッハの活躍した地でピアノをじっくり学ぼうと、あえて東ドイツのドレスデンに留学を果たした眞山柊史(シュウ)。柊史の周りで起こる数々の事件。ベルリンの壁崩壊直前のドレスデン(やライプツィヒ)を舞台として、学友のヴェンツェルやイェンツ、李、ニェット、そして想いを寄せるオルガン奏者クリスタ、父親の旧友の親族ダイメル家などと織り成す、壮大な歴史ドラマ。

    恋愛あり、音楽性についての挫折や苦悩あり、市民運動(革命運動)あり、シュタージとその協力者による密告あり(密告社会東ドイツでは、味方か敵かの二分法でしか生きていけないという現実!)、亡命未遂事件(不倫相手と亡命しようとする妻を夫が密告、娘が家出して柊史の元へ、という衝撃)に、天才ヴァイオリニストヴェンツェルの殺人未遂事件あり(この部分はミステリー仕立て)、ととにかく盛りだくさんな内容。

    歴史的伝統を持ちながらも、経済的荒廃の中で灰色にくすんだドレスデンの街、燻る市民の不満と革命に向けて盛り上がる熱気、そして街に根付くクラシック音楽の雅な音色、これらがミックスされた味わい深い雰囲気を満喫味することできた。

    また、ピアノ一筋で世間知らず、性格は内向的で周りに流されがちな(それでいて天の邪鬼なところのある)柊史が、才能ある学友に圧倒され、美しい女性に心引かれ、ダイメル家の亡命未遂事件に巻き込まれ、ヴェンツェルの殺人未遂事件に遭遇し、クリスタの亡命を手助けし、と次々に起こる事件を通して社会の裏側を知り、精神的・肉体的な危機を乗り越えて人間的に大きく成長していく姿も印象的だった。

    読み応え十分な作品だった。

  • バッハを極めたいとドイツ民主共和国(東ドイツ・DDR)
    に留学したピアニストの真山柊二

    バッハ生誕の地ライプツィヒで、バッハが毎日歩いたであろう道、オルガンを弾き、合唱団を指揮し、神に祈りを捧げたであろう教会にバッハの息遣いを肌に感じる柊二だったが、そこはベルリンの壁が立ちはだかる厳しい共産主義国家でもあった

    シュタージやIM (シュタージの協力者) によって密告され逮捕されるモノクロームのような世界
    自分の周りにいる誰がシュタージなのか、IMなのか?
    共に音楽を追求していく素晴らしい仲間と思って信頼していた友人たちがIMだった!

    柊二の周辺で起こる奇怪な事件に次第に疑心暗鬼になっていく柊二

    おりしも中国では歴史を揺るがす天安門事件が起こる
    自由を求める民主化の静かな波はここDDRにも押し寄せ
    大きなうねりとなっていく

    国境を開いたハンガリーに亡命する人が後を絶たない
    このままではDDRという国は瓦解してしまうのではないか
    この大きなうねりが1989年のベルリンの壁崩壊となっていくのだ

    須賀しのぶさん、名前も聞いたことのない初読みの作家
    さんだったが、その表現力・描写力には驚いた
    音楽に関しては(音楽に関しても) 何の知識もなく、いろんなクラシックの曲の描写もはっきり言ってよくわからなかったが、ご自分でも楽器をやっておられるのかなと思うぐらい専門的だった

    フィクションとはいえしっかりした歴史に根差した話だけに、たかだか30年前の東ドイツがこんな状態だったとは!と今更ながらに驚かされた

    戦争中は、日本の同盟国だったドイツが戦後こんな経路を辿ったのかと複雑な思いもした
    国家の体制によって、東と西こんなにも違うものなのか
    それは朝鮮半島でもいえることだが

    日本は島国だからこんなに直接的に隣国の影響を受けることなく、ここまできて、平和ボケしている感が否めないが、周囲をいろんな国に囲まれた国は、大変だなと思った

    ウクライナの人々が戦禍から逃げてポーランドなどに移動している現実、人間のやっていることは全然進歩してないのではないかとも思わされた


  • 「バッハを極める」だだその一心で東ドイツに留学した若き日本人男性ピアニストの視点で「東側世界」と「ベルリンの壁崩壊」を体験するお話。用語としては矛盾するのでしょうが、近現代史版時代小説という趣きのある作品でした。  

    特に魅入られたのは、世界を巻き込んだ激動の歴史の流れを、それに翻弄されるしかない登場人物たちの異なる国籍や性質、行動遍歴等によって同時に示した、「仮託性」というのか「象徴性」というのか…。「厳然たる史実」と「架空の登場人物の描写」の2本の柱を、それこそ音楽的に言えば、「二重奏」とも言える調和で記している点。(正直、ピッタリな言葉が見つかりません。意味不明な表現になっていたらごめんなさい。)

    東西問わずドイツにおいては誰とどう関わっても、所詮は部外者で「東側の異質さ」に圧倒させられるしかない西側世界のしかも異なる文化圏に属する日本人主人公の青年マヤマ・シュウジを始めとして。
    ハンガリーからの留学生のラカトシュ、北朝鮮からの留学生の李、ベトナム社会主義共和国からの留学生のニェットらは、1989年前後の各国を少なからず体現(擬人化)したような性格と役割を持っている気がしました。

    そして、大半を占める東ドイツ側の登場人物たちはと言えば、当時の彼の国の混迷ぶりを象徴するように、各人たちに様々な性質や物語上での役割が与えられているのだけど、その配置に本当に無駄がない。  

    …て書くと、私の語彙力がないせいで、すごく味気ない話のようになってしまうのだけど。
    音楽家の苦悩や成長、恋愛要素なども軸となっていて、音楽エンターテイメント小説としても楽しめると思います。

    場面場面で、マヤマや他の登場人物たちが向き合ったクラシック音楽のタイトルも沢山記載されています。
    私はクラシックの教養が皆無なので、タイトルを見ても曲が頭の中で再生されないのですが、詳しい方なら曲の音や印象とともにもっと物語の世界観に浸れるのではないかと思います。
     
    マヤマが図らずも、より東ドイツの世界を覗いてしまいもがいていた時に出会った人物の言葉は、一つの時代の象徴のような気がします。
    「同じ敗戦国ながら、空前絶後の繁栄を誇る国。
    全く異なる文化をもつ国。
    ぜひ話を聞いてみたかったんだよ。」

  • 日本の元号が昭和から平成に変わるころの、混沌とした東西ドイツを舞台に繰り広げられる、人生を賭けた青春劇。

    周りに翻弄されるだけだった主人公が、1人のオルガニストとの出会いをきっかけに自分の意思を持ち、異国の地で自分にできること、やるべきことを模索して行きます。

    登場人物が魅力的なのと、グレースケールで色彩をイメージさせる文章表現がお見事でした。
    歴史的背景、主人公の成長、音楽、恋愛…それぞれの要素、配分が自分好みでした。

    なんか癖のある登場人物たちですが、読み終わってみると、誰に対しても共感している不思議。

    東西を分けていた壁が崩れるラストは鳥肌ものでした。
    ヴェンツェルが憎いことをするから。またね(笑)

  • イメージとしては、灰色や黒色の世界に
    音楽という色が散りばめられている感じだったよ。

    東ドイツ、西ドイツなどの関係性が分かっていない、
    アホちんな私だったけど、それでも、
    その当時の人々の息づかいが感じられるような
    作品だったよー!!
    終盤になるに連れて、話が気になり過ぎた!!
    ページが止まらんー笑

    日本からピアノの留学生シュウが、DDRで生活をする。
    自分の音とは何か見つけるために、もがき、もがき、
    もがきまくる話。

    ピアノとオルガンの曲を聞いてみたいと思ったよー。

    • shintak5555さん
      小説を読んで、その歴史とか地域とか文化に興味を持つって良いですよね。
      特に音楽の才能を持つ方々は異次元の人達と感じるので作品にのめり込む。
      小説を読んで、その歴史とか地域とか文化に興味を持つって良いですよね。
      特に音楽の才能を持つ方々は異次元の人達と感じるので作品にのめり込む。
      2021/12/20
    • ほくほくあーちゃんさん
      本当に勉強になりましたー。
      いろいろ調べながら読みましたもん。
      音楽系の小説って表現の仕方が好きなんですー。
      音を言葉で表すって、スゴいです...
      本当に勉強になりましたー。
      いろいろ調べながら読みましたもん。
      音楽系の小説って表現の仕方が好きなんですー。
      音を言葉で表すって、スゴいですよねー。
      2021/12/20
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著者プロフィール

『惑星童話』にて94年コバルト読者大賞を受賞しデビュー。『流血女神伝』など数々のヒットシリーズを持ち、魅力的な人物造詣とリアルで血の通った歴史観で、近年一般小説ジャンルでも熱い支持を集めている。2016年『革命前夜』で大藪春彦賞、17年『また、桜の国で』で直木賞候補。その他の著書に『芙蓉千里』『神の棘』『夏空白花』など。

「2022年 『荒城に白百合ありて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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