帳簿の世界史

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902463

作品紹介・あらすじ

「権力とは財布を握っていることである」アダム・スミス、カール・マルクス、マックス・ウェーバー……。彼らが口を揃えて主張していた「帳簿」の力とは、一体何なのか。これまでの歴史家たちが見逃してきた「帳簿の世界史」を、会計と歴史のプロフェッショナルが初めて紐解く。・なぜスペイン帝国は栄え、没落したのか。・なぜフランス革命は起きたのか。・なぜアメリカ独立は成功したのか。・なぜ日本は急速に列強へ追いつくことができたのか。その歴史の裏には全て、帳簿を駆使する会計士たちがいた!【目次】■序 章 ルイ一六世はなぜ断頭台へ送られたのか■第1章 帳簿はいかにして生まれたのか奴隷が帳簿係を務めたアテネ、ハンムラビ法典で会計原則が定められていたバビロニア、歴代の皇帝が帳簿を公開したローマ帝国。だが古代の会計は不正に満ちていた。それはいかに進化し、複式簿記の発明へ至ったのか。■第2章 イタリア商人の「富と罰」教会法で金貸業が禁じられていた一四世紀のイタリアでは、商人と銀行家は常に罪の意識に苛まれていた。だが、最後の審判を恐れるその信仰心こそが、会計を発展させたのだ。彼らの秘密帳簿は、それを示している。■第3章 新プラトン主義に敗れたメディチ家ルネサンス期のフィレンツェを支配していたメディチ家。ヨーロッパ最大の富豪を支えた会計技術は、なぜ一世代で失われてしまったのか。その謎を解く鍵は、新プラトン主義によるエリート思想の流行にあった。■第4章 「太陽の沈まぬ国」が沈むとき一六世紀になっても会計への偏見は根強かった。だが、スペインは赤字続きの植民地を前に、遂に会計改革に乗り出す。重責を担ったフェリペ二世だったが、オランダの反乱・無敵艦隊の敗北など、更なる悪夢が彼を襲う。■第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記東インド会社を中心とした世界貿易で途方もない富を得たオランダ。その繁栄の秘密は、複式簿記にあった。国の統治者が史上初めて複式簿記を学び、それを政権運営に取り入れることができたのは、一体なぜなのか。■第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問ヴェルサイユ宮殿を建設したルイ一四世を支えたのは、会計顧問のコルベールだった。財政再建に奮闘したその手腕はアダム・スミスにも称賛されたが、同時に彼は会計の力で政敵を容赦なく破滅へと追い込んだ。■第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作スペイン継承戦争の巨額債務や南海泡沫事件など、イギリスの財政危機を何度も救ったウォルポール。だが彼の権力と財産は、国家財政の秘密主義なくしては得られず、その長期政権も裏金工作によって支えられていた。■第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析イギリス史上最も成功した陶磁器メーカーの創立者・ウェッジウッド。彼は経営に確率の概念を取り込み、緻密な原価計算を行うことで会社を繁栄させた。この時代、富は信心と几帳面な会計の産物だとみなされていた。■第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官ルイ一六世から財務長官に任命されたスイスの銀行家・ネッケルは、それまで秘密のベールに包まれていた国家財政を、国民へ開示した。そのあまりにも偏った予算配分に国民たちは怒り、フランス革命が起きた。■第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち「権力とは財布を握っていることだ」。アメリカ建国の父たちの一人、ハミルトンはこう喝破した。複式簿記を郵政会計に導入したフランクリン、奴隷も個人帳簿に計上したジェファーソン。彼らはみな会計の力を信じた。■第11章 鉄道が生んだ公認会計士鉄道の登場により、財務会計の世界は急速に複雑化した。鉄道会社は巨大企業へと成長するが、粉飾決算が横行。その監督のために公認会計士が誕生することになる。彼らは、規制がなく野放し状態のアメリカで奮闘した。■第12章 『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性一九世紀から二〇世紀にかけて、会計は小説や思想にどのような影響を与えたのか。父親が会計士だったディケンズ、複式簿記の発想が『種の起原』に見られるダーウィン、会計を忌避したヒトラーから見えてくるものとは。■第13章 大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか複雑化した会計は、もはや専門教育を受けた人でなければ扱えない。その中で大手会計事務所は、監査で知り得た財務情報をもとにコンサルティング業を開始する。明らかな構造的矛盾のもと、最悪の日は近づいていた。■終 章 経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている■日本版特別付録 帳簿の日本史(編集部)

感想・レビュー・書評

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  • 世界史に会計というものがどのような役割を果たしたかを知ると同時に、簿記の歴史も教えてくれるとても楽しい本です

  • 帳簿をずさんにし始めると、滅びへの道を歩み始める。っていう歴史事例集。お金の記録を正確に残すというのは、現実を直視することなんだ。

  • 帳簿をきちんとしてる国は栄え、おろそかにすると衰退する様を取り上げた本。

    「帳簿」にターゲットを絞り、発生から発展、そしてそれらがどう使われてきたのかの歴史が書かれている。
    古くはアテネ、バビロニア、ローマから始まり、イタリア商人、フェレンツェのメディチ家、太陽の沈まぬ国だったスペイン、世界貿易で途方もない富を得たオランダ、ブルボン王朝最盛期、南海泡沫事件のイギリス、フランス革命、アメリカの建国、そして現代と内容は多岐にわたる。
    そのほとんどが責任者が会計責任を全うすることで栄えるのだが、世代を重ねると、時には重ねるまでもなく会計責任を全うする習慣が廃れ、共に国も廃れていく様が書かれている。

    幾分盛ってる気がしないでもないが、「帳簿」の力がすごいことが良く伝わる内容だと思う。
    この本を読むまで、複式簿記はイタリアで生まれ、大航海時代に発展、広まった 程度の認識だったが、生まれてから広がるまで、特に支配者層がしっかり制度として取り入れるまで恐ろしいまでに時間が掛かっていたとは知らなかった。
    本の帯には「権力とは財布を握ってることである」とあるが、これはアメリカ建国の父、ハミルトンの言葉で、所謂財布の紐と言った話にとどまらず、(帳簿によって)財務内容を把握していることが権力に繋がるといった意味。財政の掌握こそが権威に実態を与えるは名言だと思う。
    帳簿をきちんとつけると言うことは、行ってきた事業の評価をし、現在の財務状況を確認し、将来の事業予測を立てるに必要な情報を得ることにつながる。だが、きちんとつけ続けないと意味がなく、継続の大変さと大事さが良くわかる本だった。

  • 『○○の世界史』系の本にありがちな、歴史から筆者が語りやすい部分のみを並べた簡易まとめ本。

    対象読者層を広くとったせいか、肝心の簿記会計手法の進化や変遷にはあまり触れられず、それにまつわる人と歴史を語ることに終始する。

    筆者の視点から見れば、オランダは複式簿記の力で一時代を築き、フランスは会計を軽んじたせいで革命に至り、ウェッジウッドのような成功した企業は会計を正しく扱い、エンロンのような事件は会計会社がコンサル業にうつつを抜かしたせいで起こった。

    端的に言えばどれも歴史を持論に引き寄せて語っただけで、例えば鉄道会社が大規模な会計処理を如何に克服したのかは本書から学ぶことはできない。

    そのような本書であるからこそ、オチが『絵画から文化的な高い意識と意志を取り戻そう』となるのも頷ける。

    もちろん意識と意志を否定するわけではないが、それをつちかうための論理的な歴史考証こそ、学問が担うべき領域だろう。

  • 邦題は「帳簿の世界史」だが、英文タイトルThe Reckoning: Financial Accountability and the Making and Breaking of Nations の方が本書をよく表している。
    会計(account)がいかにアカウンタビリティに資するか、なぜ権力が会計を嫌ったのか、透明性がどのように国家を企業を強くしたか、理解できた。
    今になっても東芝など不正会計はつきない。現実に向き合う勇気を持たねば、結局は身を亡ぼしてしまうことを本書は伝えてる。
    翻訳も読み易かった。

  • メソポタミア、ギリシャ、ローマ。古代、既に存在しゆっくりと進歩していた帳簿、会計原則の意識。中世イタリア、商業都市国家が複式簿記を生み、会計責任と内部監査のシステムが確立。神と会計がついに相容れる16世紀オランダで、国家の統治者が複式簿記を史上初めて政権運営に導入する。
    しかし公明正大な会計は、それ故絶対君主を脅かし、彼らの多くは帳簿から目をそむけ、遠ざけた――。

    スペイン帝国の盛衰、イギリスの産業革命、フランス革命、アメリカ独立。大改革を陰で支え、また、国王の神性をはぎ取ったもの。国家の収支を正確に記録し、時に粉飾され、政敵を貶める罠ともなり、世界を混乱に陥れもする。帳簿の発展とそれが果たした意外な役割を繙く異色の世界史。

  • 会計という文明の利器を活用することが、その国や文明・企業に大きな利益をもたらしてきたという事実を証明する本。一方で、金融危機の防止策・あるいは正確な企業の実態の把握等、投資家の判断としてのツールとしての役割が大きいとはいえ、その実態を把握するのは過去から現代に至るまで困難との認識。

  • 中世イタリアでは、複式簿記による帳簿は健全な事業や政府の実態を表すと同時に、神の審判や罪の合計を表す宗教的な一面も備えていた。

    マタイは富を賢く正直に扱うよう教えつつも、富そのものは現世では罪であるとした。富をめぐるこの論理的な曖昧さは、今日もなお解決されていない。

    免罪符という発想
    信心とキリストの血で罪が贖えるというキリスト教の中心的な教義にすら、商取引のニュアンスが認められる。

    1567年当時のオランダはスペインからの重税にあえいでいた。スペイン国王を満足させるためにオランダ人はさまざまな対策をひねり出した。その一つが、終身年金債を富裕層に強制的に買わせてその代金を国庫に入れることである。

    オランダ東インド会社1602年
    オランダの市民は、株を買うか売るかすれば、簡単に同社に出資したり出資を打ち切ったりでき、直接投資の煩わしさはいっさいない。会社に対するインライを支えていたのが会計であった。

    18世紀のフランスが際限なく繰り返す失態は、秘密主義、国王の専断、財務会計の混乱に加え。ルイ14世が国家の機構を分断してしまったことにも原因がある。
    1715年にルイ14世が死去すると、フランス国家は破綻した。そして効果的な会計システムのないまま、75年におよび財政危機と最後の決算がフランスを待ち構えることになる。

    イギリスのプロテスタント
    1696年ベントレーの講演
    神は自己の利益を追求することによって、利益と快楽を得られるように人間をつくられたと述べている

    フランクリンはみずから帳簿をつけていた。彼は複式簿記のできる人たちを大いに尊敬し、自伝にも複式簿記は偉大な徳であるとまで書いている。

    会計の原則を学び、それを子孫に伝えていく姿は、プロテスタント的職業倫理の一つの理想像だと言えるだろう。
    フランクリンは心の会計を帳簿につけていた。自分のした善行を個別の欄に記載して・・・神の審判に備えて、会計の手法を通じて用心深く行いを正したのだった。

    会計は人間の心の惨めさを測るのに、最も適した方法である。
    会計は善と秩序の道具にもなりうるが、腐敗の手段にもなりうる。

    今日では、チャールズ・ディッケンズのように金融や会計の世界を生き生きと描き出し、社会的あるいは倫理的考察を加えられるだけの筆力と専門知識を持ち合わせた作家はめったにいない。

    国際会計基準審議会IASBによれば、地方自治体や政府の会計はいまなお原始的な無政府状態にあるという。国家は、富裕国であれ、貧困国であれ、自国のバランスシートから年金債務を隠し、医療費を隠し、インフラ・コストを隠す。

    国が信用を失う傍で、多くの人が巨大銀行や格付け機関の職業倫理と能力に疑問を呈するという、相互不信の悪循環が起きている。

    中国は、会計責任を果たさない超大国なのである。

  • 帳簿は紀元前よりあったが、中世イタリアで発達した複式簿記がやがては現地では廃れ、ヨーロッパ各国では時の権力者の胸先三寸で根付いては消え根付いては消えしてとうとう1929年世界大恐慌までにもまだ世界的には制度として正しく扱われていなかった。(透明会計を渋る声が米国大手銀行に多かった。)
    今では当たり前のように存在する会計システムが実はとても現代的なものなのだというのが新鮮だったし、それでも尚リーマン・ショックのような事件が起こるのはそれだけ帳簿を正しく扱うのが難しいそうだ。著者は不透明会計が蔓延る中国でまた歴史が繰り返されることを危惧している。
    ちょうど東芝事件があって、監査していた会計事務所は何をやっていたのだという義憤に駆られていたけども、この本を読むとそんなに単純ではないことがわかった。
    複式簿記と監査がきちんと行われた国は富み、それが廃れた国は傾く。そういう話がたくさん出てきて、会計に興味を持った。

  • 【権力とは財布を握っていることである】メディチ家の繁栄、スペイン没落、フランス革命、アメリカ独立戦争、大恐慌……。いつの時代も歴史を作ってきたのは会計士だった!

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