羊と鋼の森

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著者 : 宮下奈都
  • 文藝春秋 (2015年9月11日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902944

羊と鋼の森の感想・レビュー・書評

  • 冒頭──────
     森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
     問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が下りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
    ─────────

    また小説を読んで泣いてしまった……。
    自分が涙もろくなったのか、それとも作家の方々が素敵な作品を書くようになったのか。

    “枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、美しいものであると同時に、あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。あたりまえであって、奇跡でもある。きっと僕がきづいていないだけで、ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。”(P20)

    “ピアノの基準となるラの音は四百四十ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。(中略)日本では、戦後になるまで四百三十五ヘルツだった。もっと遡れば、モーツァルトの時代のヨーロッパは四百二十二ヘルツだったらしい。(中略)最近はオーケストラの基準となるオーボエのラの音が四百四十四ヘルツになってきている(中略) 変わらないはずの基準音が、時代とともに少しずつ高くなっているのは、明るい音を求めるようになったからではないか。わざわざ求めるのは、きっと、それが足りないからだ。”(P97~98)

    北海道の山間の集落、大自然の森の中で中学まで暮らしていた少年、外村君。
    中学時代、体育館にあるピアノの調律のためにやって来た男性が出した不思議なまでの音色に心を動かされ、彼は調律師を志す。
    調律師の学校を卒業した彼は、自分を魅了した調律師、板鳥さんと同じ職場に就職し、調律師の仕事を始める。

    その過程で感じる多くの疑問と苦悩。
    調律とはなにか? 
    ピアノとはなにか? 
    音楽とはなにか? 
    自分はどういう調律師を目指せばよいのか? 
    自分は本当に調律師になれるのか?

    それとともに、
    どんな目標を持って生きるべきなのか? 
    自分の人生に夢や希望などあるのだろうか?

    “才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”(P224)

    周囲の人たちの温かい目に見守られ、彼は日常の調律の仕事で出会う様々な光景から、それらの答えを模索し続け、探し当てる。
    彼の前に現れた可愛い高校生のふたごのピアニストが抱く葛藤と絡み合わせながら。

    “もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。”(242P)

    随所に現れる珠玉の言葉が胸に沁みわたる。
    優しい言葉、優しい心の持ち主によって綴られた美しい話。

    様々な場面、主人公の語り、ふたごの女子高生の思い、その他登場人物の台詞などが透き通るように真っ直ぐで、何故か何度も涙が零れる。

    広大で、でも静謐な森の中の澄んだ空気を深く吸い込みながらゆっくり散策しているような、心に沁みわたる優しい物語。

    胸に刻んでおきたいような言葉がありすぎて、引用が多くなりましたが、素晴らしい小説。
    これまで読んだ宮下さんの作品の中でも最高傑作。
    お薦めです。

    2015年下半期直木賞候補作。... 続きを読む

  • じんわりとあったかくて優しくて、この物語の森の中から抜け出てしまうのが哀しい。ずっと羊と鋼の森の中にいたいのに、いられない辛さ。
    ぽつりぽつりとしか宮下奈都さんの作品は読んでいないけれど間違いなく一番好き。
    淡々とした静けさに一本の光がやわらかく差しているような感覚がたまらなかった。

    物語は一人の少年がピアノ調律師の世界に魅せられるところから始まり、一人前の調律師へ一歩一歩近づいていく様が描かれている。
    彼の夢を目指すひたむきさ純朴さに胸を打たれ彼を励まし続ける周囲の人々に癒され、大きな展開はないもの物語の森へすっかり迷い込んでしまった。

    才能とは何なのか、努力とは何なのか。
    ここで描かれるのはピアノ調律師ではあるけれど、夢に向かって頑張っている人、頑張りつつも迷いがある人、そんな人が読んだら絶対に励みになると思う。

    調律師が主人公の小説は前にも読んだけれど、今回ほど調律師の世界に魅了されてしまうことはなかった。この物語は脇役であるピアノ調律師の奥深い世界を余すことなく描いていて自分自身がピアノの世界を知らないことに歯がゆくなった。

    物語そのものももちろん、タイトル『羊と鋼の森』、それから装丁もすばらしい。全てが一体となって宮下さんの新しい世界を作り出している。
    タイトル初見で、「何、このタイトル?」と思った自分が恥ずかしい。

  • もしかしたら、
    すごい世界に生まれついたのかもしれない。

    何もかもを与えられているんだ。
    ただ私が見つけられていないだけ…。

    そんな幸福感の中で、本を閉じました。

    高校生の時、学校のピアノの調律に偶然立ち会い
    衝撃をうけてその道をすすむことになる
    新米調律師のお話。

    フォローさせていただいている方々のレビューで
    ずっとずっと気になっていた作品ですが
    ピアノや音楽と縁遠い生活の私が理解できるのかと
    ちょっと不安が大きかったもので。
    (宮下奈都さんの作品も初読みでしたし)

    なんのなんの。全く問題ありませんでした。
    ピアノの調律の話であるのに、
    主人公の苦悩や、先輩調律師たち、
    調律してもらうピアノの所有者たちの話は
    私にも通じるものが沢山沢山あるんです。

    調律されて共鳴し連なっていくピアノたちのように
    私の心も自然と整えられて、いい状態のどこかへ
    繋がった感覚があり、とても気持ち良かったです。

    私自身…だいぶ歪んでいましたね。
    でもそれもピアノと一緒で
    生きていればここに居続けるだけで
    自然と起こってしまうこと。

    いい本を見つけました。
    歪んでもまたこの本に調律してもらえば
    いいんですから☆

    羊ってすごいんですね。素敵な字の元だなんて。
    …できれば未年の間に読みたかったなぁ…なんて。

    ピアノもすごい。
    調和のとれた森に会いに行きたくなります。

    コツコツコツコツやって、
    今年どれだけ溶けている「美しい」を取り出せるか。
    なんだか楽しみになってきました。

  • 最近、活字の細かい本のピントが合いづらくなってきた。
    (げ。これが老眼、というものだろうか?!)
    私は不安になった。
    老い、に対するソレでは無く、
    将来、本が読めなくなる事への不安が、だ。

    目の機能の衰えのせいで
    本が読めなくなるのなら、
    その先の人生に何の意味があるだろう?
    ちょっと前に
    「まだ来ぬ不安に対する心配など、何の意味も無い。」
    と、枡野住職の本で学んだばかりだと言うのに、
    全く私の学習能力の低さには
    自分自身あきれるばかりである。

    そんな私を見捨てずに
    この物語には
    「物語」が活字の中にばかり存在しているのではない事、
    どうしても、と求めるものは
    宝箱の中ばかりでは無く、
    本の中ばかりでは無く、
    どこにでも存在している事に気がつく感性をほおっておくべきではない事。を、教えてもらった。

    物語の中に綺麗なメロディーが流れる。
    目を閉じて、
    私は見た事も、行った事も無い場所の風景を思い浮かべる。
    音を捉えていない耳でも、
    活字を捉えきれない目でも、
    不思議とコロコロ、物語は(聞きたい)と言う欲求が拵えた道を見つけて必ずやって来てくれる。

    物語の主人公であるピアノの新米調律師の外村には、
    板鳥さんの様な天才的な感性も才能も無いかも知れない。
    でも、それがなんだと言うんだ。
    …と、突っ走る頑固な勇気が人生にもたらしてくれるものは大きいんだなぁ、としみじみ感じた。

  • この本を最初に知ったのは『王様のブランチ』でした。
    その後、第154回直木賞候補になり、ブランチブックアワード2015受賞、2016本屋大賞にノミネートされ…

    読みたい、読みたい!、読みたい!!、読みたい!!!
    気持ちばかりがどんどん膨らんで…
    ようやく手にすることができました(笑)

    高校の体育館で偶然、ピアノを調律する場面に出会い、魅せられ、調律師を目指す外村。
    それまでピアノとは無縁の世界にいた一人の青年が、自分と向き合い、仕事と向き合い、悩み、苦しみ、もがき、成長していく…

    ゆったりとした宮下ワールドに浸りつつ、読み進めました。

  • 静謐で、崇高なまでの音の世界にひたることができました。

    才能があるとかないとか、そんなことは問題ではなく、
    一人の調律師の”音”に憧れ、
    迷いながらも信じる道をひたすら進む外村。
    その純粋さが羨ましくなるほどでした。

    不器用な人が、自分なりに模索しつつ成長していく話って、好きなんですよね。

    そして表紙が可愛い~♪
    読んでいくうちに楽譜の上の羊たちが
    ピアノの音にあわせて、ぴょんぴょん跳ねそうに見えてね。

    最後に鍵盤に触れたのがいつだったか、思い出せない私ですら、
    無性にピアノが弾きたくなってしまいました。

    いや、弾くというより、ぽーん。ぽーん。と鍵盤をたたいて、
    その響きを感じてみたくなった、と言った方がいいのかな。

    今まで読んだ宮下さんの作品の中でも、
    特に好きな一冊になりました。

  • 実家にあるアップライトピアノは、私がピアノを習い始めたときに買ってもらったもの。
    子どもの頃は妹も私もよく弾いていたけれど、今では誰にも弾かれずに片隅に佇んでいます。
    本書を読み終えたあと、確かめたくなりました。
    私のピアノはどんな音をしていたか。
    どんな風に調律してもらっていたか。

    小さい頃から、年に一度、ピアノの調律師の方が来てくれていたことは知っていたけれど、彼らにまつわるドラマに想いを馳せたことなどありませんでした。
    すぐそばをすれ違っていたにも関わらず見えていなかった調律の世界に、新鮮さと親しみを感じつつ読み進めました。

    偶然居合わせた調律の現場で、ピアノにも音楽にも縁がなかった主人公の目の前に調律師への扉が開かれます。
    運命的な何かと出会い、その道を突き進んでいく主人公の姿が羨ましく、眩しい物語でした。

  • まず、題名の意味を知って、ぐっと引き込まれた。
    うまい題名だと思う。

    実は、私のいとこで1人調律師がいる。
    女系家族の中で、やっと生まれた男の子。
    お稽古事レベルだけど、いとこ達みんながピアノをやっていた中、
    1人縁遠いと思っていたその子が調律師になった。
    彼も森に足を踏み入れたのだろうか?

    実に謙虚で、おどおどと足を踏み入れる主人公に好感が持てる。
    癖のある仲間も素敵だ。
    ピアニストと調律師の関係も納得できた。

    引きこもった男性のピアノを調律する場面は
    思わず胸が熱くなった。

    ただ、ふたごちゃんが絡んでくると、
    ちょっと強引な感じがしてしまった。

    でも、ピアノの調律が、こんなに繊細だとは知らなかった。
    大昔、調律師の方が、終わった後に1曲弾いてくださったのを思い出します。

    美しい物語でした。

  • 2016年の本屋大賞。

    ピアノの調律師にスポットを当てる。
    これは、本当に自分にあった仕事なのか、才能があるのだろうかと悩むこともある。

    努力をすることが大切だと思っていたけど、努力は苦しいもの。いつかやめなきゃいけないもの。そうではなく、努力と言う認識ではなく、いつまでも続けられることこそが本当の才能だと思う。

    少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体。夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。

    続けるには現実をきちんと見れないといけない。何よりも、自信と誇りを持たなければいけない。

  • 初めの一ページ目で引き込まれる感じがすごかった。一気にこの本の世界観に引き込まれる感じがした。
    外村くんの純粋な板鳥さんへの憧れが、森の中を彷徨うようにしながら明確なものになっていく。
    3年という短い期間でのお話だけど、音との繋がりで気づかされる大切なことは、今の仕事の中でも大事なことなんじゃないかないかと感じた。
    ピアノの事は全く知らないけれど、一気に読めた!
    ただ、本のデザインからくるイメージと本を読んだ後のイメージがちょっと違和感。

  • (羊の森はわかるけれど、鋼の森ってなんだか工場みたい)と思って手に取った本。
    でも羊は牧場か高山にいるもので、森にはいないはず。
    宗教的な比喩か、心理小説かと思いましたが、実際はそのどちらでもありませんでした。

    茫漠とした空虚感を抱える少年が、学校にやってきたピアノ調律師との出会いを経て、自分もその道に進む決心をします。
    このファーストインプレッションの描写がとても印象的。形のない音楽を文章にするのはとても難しいことだと思っていますが、それまでのモノトーンの世界に色がついたような主人公の感激がはっきりと伝わってきます。

    そうして調律師としての道を歩み出した主人公。
    自分の耳と勘を頼りに正確な音に直していく仕事の重圧にさらされ、自分の資質を疑いながらも、彼は愚直なほどにその道を邁進していきます。

    様々に悩み迷う彼の思考の中に、羊と鋼の森は登場します。
    彼の中に常に存在している、出口の見えない深い森。
    その森はどれくらい深いのか、出口があるのか、正しい道を歩いているのかと考えながら、彼はこつこつと経験を重ねていきます。

    挫折がきっかけだったり救いを求めた結果だったり。
    同じ調律師仲間でも、抱えるバックグラウンドとこの職に就いたきっかけは、それぞれに違っています。
    でも誰もがプロ意識が高く、一音一音に対してすこぶる真剣。
    真面目だからこそのプライドと、理想と現実との妥協点が必要な職業なのだと知ります。

    こうした専門性の高い職業は、経験がものをいうため、新人は壁を乗り越えるのが大変。
    主人公が思いつく限りの勉強をして、生活のほとんどを調律の技術向上に捧げているのは、学生の時に知った果てしのない羊と鋼の森に、もっと深く分け入りたいと考えているから。

    彼が強い感銘を受けた瞬間は、作品内でニ度訪れますが、もう一つのシーンもまた、印象深く語られます。
    それは、顧客である双子の少女の片方の演奏を聴いた時。
    一般的にはもう一人の華やかな演奏の方が好まれるのですが、静かな方の演奏を糧に、主人公の仕事へかける熱はさらに高まります。

    依頼をする客も、それぞれの背景を持っています。
    ひと昔前の日本では、音楽のたしなみとして大勢の子どもたちがピアノレッスンを受けていましたが、そうした子どもたちも大人になると、忙しさに追われてなかなか続けられなくなってしまうもの。
    そうしたノスタルジーと共に、シビアな現実も織り込みつつ、物語は進んでいきます。

    依頼者によって、細かく音を聴きとれる人や、全く分からない人がいます。
    調律とは、正確な音に直すことだと思っていましたが、そうではなく、ピアノを弾く人に適した合わせ方をするのだと、初めて知りました。
    弾き手が違うピアノが10台のあれば、10通りの調律がされるということ。
    調律師はトータルバランスをみる、プライベートな職人さんだというわけです。

    ピアノ経験が全くない主人公であるため、演奏面での薀蓄いっぱいの専門的な記述がないのが読みやすい点。
    初心者の気持ちのままでピアノに向き合っている、ワクワク感と新鮮さが伝わってきます。
    その分、調律のシーンには専門的な記載がありますが、それでも大まかに説明されているため、わからないまま話の流れに取り残されることはありません。

    「昔のピアノは、いい羊を使っていたのでいい音がする」のだそう。
    いい時代とは、ビルが立ち並ぶ便利な現代ではなく、上質な羊が草をはんでいた昔だとする彼ら。
    音楽は、演奏者が奏でた時に生まれるものではなく、その楽器が出来上がるより前の、素材がまだ生きていた頃から、既に始まっているものだと気づきました。
    うーん、思っていたよりもずっとスケールが大きいわ。

    ひたむきな努力を続け... 続きを読む

  • 山村で生まれ育ち、音楽の世界から縁遠かった主人公は、高校生の時に心を撃ち抜かれるような出会いをし、「調律師」という道を選ぶ。ピアノの才能があるわけでも、人より並外れてよい聴力を持っているわけでもない。ただそこにあるのは、仕事への情熱とピアノへの愛。調律師の仕事というのはこんなにも奥が深いのか、とただただ感じ入るばかり。

    私など、中学校で部活が忙しくなったのを機に、早々にピアノをやめてしまったクチなのだが、うちのピアノは調律師さんにはどう評価されていたのだろうか。もう、確かめる術もないが。遣り甲斐、なかっただろうなぁ。

    基本的に良い人しか出てこない小説ではあるが「出会いに恵まれるのもその人の才能」。確かに、単なる毒舌家のレッテルを貼って終わりそうな同僚も出てきた。でも主人公は、純粋に気構えることなく懐に入り、調律師人生にとって貴重な話をその人からいくつも聞かせてもらうのだ。
    仕事道具を磨く、ノートを取る、丁寧に仕事開始までの準備をする。仕事人として、忘れていたことを改めて気づかせてくれた。心が洗われるような小説だった。

  • 本屋大賞おめでとうございます。
    宮下さんの作品は、以前から読んでみたいと思っていたのに、機会がなく、今作が初めてとなりました。

    レビューで村上春樹のようだ、というのを見かけたので、少し身構えてからの読書だった。
    読み進めると、たしかに綺麗な、美しい文章、そして表現力。
    上手いなぁと思うたとえがいくつもあって、普段は読まない雰囲気の本だったが、すっと沁みる楽しさがあった。

    とくに大きな事件がおきるわけではない。
    主人公は少し特別なものを持っているようだったけれど、苦悩している姿に共感を覚えた。
    そして、絶対的な存在の板鳥さんもよかった。すごく素敵なおじさまを想像した。
    好きな言葉もできた。引用したくなった。
    そしてなにより、調律師という仕事をとても素晴らしいものだと感じた。憧れをもった。
    ピアノを聴くときに、調律師のことをまるで考えてこなかったことを悔しく思った。これからは、もっと気に留めてみよう。

  • 本屋大賞受賞おめでとうございます!

    …それがきっかけで読んだわけではないですが、受賞して多くの人が読んでくれるなら良いな、と素直に思えた作品です。

    小川洋子さんの「博士の愛した数式」と似た静謐さを感じる、とどなたかが言われていましたが、確かにそんなひそやかな空気感の漂う、調律師の物語です。

    高校の体育館で出会ったピアノの調律の世界へいっしんに取り組む青年はあやういほど純真で、どこかはらはらする風情があるのですが、周りの手厳しかったり優しかったりする支えのおかげで、少しずつ前進していきます。この先輩たちの取り巻き方も甘く厳しく良いなあと思えました。うらやましよこんな職場…

    そして彼がけして天才、才能に満ちている、という風に描かれていないのがどこか新鮮でした。ただただ彼のいじましい努力と経験を重ねたことによって、調律を少しずつ上達させていくので、その平凡さ(というには彼は浮き世だった感じですが)がどこかいとおしく感じられましたね。それゆえのジレンマを抱く姿とか、がんばれ、って握りこぶしを作りたくなります。

    大いなる森のたもとで生まれ育った彼が、羊と鋼の世界で、これから少しずつ確実に羽ばたいていってくれることを願うばかりでした。

  • 宮下奈都さんの小説は何冊か読んでいたので
    昨年から話題になっている本ですが
    (直木賞候補にもなっていましたね)
    文庫になってからでもいいかなぁと思っていました
    しかしなんとなく本屋で引き寄せられてしまって
    読んで良かった
    静かにしんとした深い森の中の香りの中の雰囲気で
    唐突に涙が出てしまったりする場面もあり
    きっと、たくさんの人のそれぞれの心の琴線に触れたんだろうと思いました
    いつまでも、どこかでビアノの調律をしている人たちが
    コツコツとあきらめないで生きている気配が続いています

  • #読了。2016年本屋大賞受賞作品。
    特に音楽に興味があったわけではない外村。ある日体育館のピアノを調律師が調律した音色を聞き、自らも調律師なつことを決意する。戸惑いながらも、成長していく姿を描く。
    淡々と静かに、とても丁寧に描かれている。ピアノの音の描写では音色が伝わってくるような気持ちになる。調律師の仕事というものを実際に見たことは1~2回しかないが、今度じっくりと見たくなった。

  • 羊と鋼の森・は本当に素敵な素敵すぎる1冊でした。
    ピアノの調律師の道を選ぶも才能のなさに落胆し、それを埋めるために努力し足りないものはなにかを静かに自問自答しながら成長していく物語。共感できる部分も多く、登場人物も少なく2ヶ月くらいかけて空き時間に少しずつ読み進めてもすぐにその世界に入れるほど読みやすい本でした。

    でもこの本はその内容よりも何よりもとにかく宮下さんの表現力が美しすぎるのです!

    実は北海道に1年間住んでいた宮下さん。
    しかもトムラウシ…え?どこ?(笑)あ…新得町なのね(笑)
    そんなTHE北海道の壮大な風景が目の前に現れるように表現されているのです。あ、わかるわかる!それの風景わかるよ!共感できる道民でちょっと自慢したい!って思うくらい(◍′◡‵◍)

    【雪の降る日は暖かい。道民には共通の感覚だろう。ほんとうに冷え込んだ日に雪はふらない。空はぬけるように晴れ渡り、青さが目に刺さる。】
    【五月の連休が明けたあたりに一度雪が積もり、それが溶けるとようやく本当の春が来るのだった。まだ降るまだ降ると警戒しながら三月を過ごし、四月を乗り切り、やっと五月。最後の雪が解けて暖かさとのタイミングが合って初めて桜が咲く】

    北海道ならではの季節の表現が本当にその通りで嬉しくなりました。
    正しい北海道なまりを聞いた時のような気持ち(笑)になる表現があちこちに
    (◍′◡‵◍)
    音に対する表現もとても美しいので、付箋でいっぱいになってしまいました。凛とした気持ちになりたいときに読みたい1冊です。

  • 瑞々しく、爽やかな筆致で、調律師の青年の成長を描く。
    音に関する描写も素晴らしい。
    読んでいる間中音に包まれていた。
    同時に感じるのは光。
    風景の中の光はもちろん、調律師や、まだ幼いピアニストの放つ光が物語全体をキラキラ包み込んでいる。
    音と光に包まれた、幸福な読書がここにある。

  • 初めて読む作家さんです。ブランチで注目してたので図書館で予約してました。

    高校生の時にピアノの調律という仕事に魅せられ、調律師になった外村くんの成長物語です。

    お仕事小説、とも言えますが、それよりは青春小説、といったほうが似合うかも。
    それは主人公の、こつこつ、仕事と向き合う真摯な姿に胸を打たれたからですかね。

    目指すべき場所を見つけたことも、そこに向かうと覚悟を決めたことも、今出来る仕事を精一杯やってきた成果です。
    そうやって一歩一歩進むことで少しづつ見えてくるものがあり、その積み重ねが気が付いたら「一流」と呼ばれ「才能」になるんだろうな、と思いました。

    後半、双子ちゃんの事件を通し、外村くんがあらたな覚悟を決めてからは、ずっと涙腺がゆるみっぱなしでした。
    号泣するような涙ではなく、胸にじんときて、涙がうるうる溜まる感じの感動がずっと続くのです。。
    読んでよかった。

  • 面白くて一気に読みました。
    「羊と鋼の森」って、ピアノの調律師の世界のことだったんだぁー・・・
    タイトルも例にもれず、文章に一切難しい単語がない。
    誰でも知っている日本語だけで、とても素敵な伝わってくる豊かな表現をされる作家さんだと思いました。
    読書をする習慣がない人でも、題材が好めばスッとその世界観に入って読めるのではないかと思います。

    もっともっと早くこの本に出合っていたら、ピアノが大好きになって手放すこともなかっただろうな・・残念。
    でも、これから聞くピアノは、今までとは異なる感性で聴けると思う。いろんなことに気づけると思う。それは楽しみ。間違いなく世界が広がりました。

    登場人物のキャラ設定もとてもよかった。
    主人公の外村くんの謙虚すぎる性格。そして彼の成長を、それぞれの持ち味で見守りサポートする人たち。

    天の川のかささぎの比喩、とても素敵で分かりやすくて気に入った。
    何かを成し遂げたいときの、私の思考の一部になりそう。

    これから何かを目指そうとしている人や、そのご両親におすすめの一冊。

  • 最初タイトルでどんな話なんだろなって思ってて、友人にピアノの話と言われて余計訳がわからなくなった覚えがあります。

    とても素敵な話でした。音楽って素晴らしいなとか、ピアノ弾いたことないけれど弾いてみたいなとか、言葉にうまく表すことができませんが、主人公の世界観がとても素敵で読んでる側にも感性を響かせる話でした。

  • ストーリーはたんたんと進み
    決して面白いストーリーではないのに
    どんどんストーリーの中に自分が穏やかに溶け込んで行きすごく穏やかに読めた作品でした。
    1つの景色でも音でも、どれが一番なんてないし
    多くの人に価値の無いものでも、誰か1人のかけがえのない価値のある物になればそれはこの世界で一番の価値のある物になるんだと…
    いっぱい素敵言葉にもめぐりあえた作品でした。

  • 2016年第13回本屋大賞受賞作。

    予備知識もなく、タイトルからミステリーものかと思っていましたが、いわゆるお仕事小説でした。
    羊と鋼とは、ピアノの羊毛フェルトのハンマーと鋼のピアノ線のことだったのでした。
    調律師の話で、主人公が調律師と出会って調律師として成長していく、王道的なつくりでした。
    青春の軽さがないのが、ちょっと物足りなくも、登場人物たちやエピソードが素敵で秀作だと思います。
    続編として由仁が調律師になる話が読みたいと思いました。

  • 調律師という、私には全く接点のない職業のお話。
    文章に透明感があって美しい。
    ピアノの音色なんて全く分からない私にもメロディが聴こえてきそうな本だった。

  • ピアノ調律師という職業に対する見方が変わった一冊。
    調律師が職人的技術で音程と音色を調律することで、始めてピアノは息を吹き込まれるんですね。
    ピアノの音色や演奏された音楽から見えてくる風景の描写は珍しいけど、文章表現が上手く本当に目の前に風景が見えてくるように感じる。
    外村君のささやかな成長物語としても安心して読めたし、爽やかな読後感に包まれた。

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羊と鋼の森の作品紹介

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

羊と鋼の森のKindle版

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