羊と鋼の森

  • 5957人登録
  • 3.93評価
    • (619)
    • (850)
    • (537)
    • (89)
    • (20)
  • 937レビュー
著者 : 宮下奈都
  • 文藝春秋 (2015年9月11日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163902944

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

羊と鋼の森の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • 冒頭──────
     森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
     問題は、近くに森などないことだ。乾いた秋の匂いをかいだのに、薄闇が下りてくる気配まで感じたのに、僕は高校の体育館の隅に立っていた。放課後の、ひとけのない体育館に、ただの案内役の一生徒としてぽつんと立っていた。
    ─────────

    また小説を読んで泣いてしまった……。
    自分が涙もろくなったのか、それとも作家の方々が素敵な作品を書くようになったのか。

    “枝先のぽやぽやが、その後一斉に芽吹く若葉が、美しいものであると同時に、あたりまえのようにそこにあることに、あらためて驚く。あたりまえであって、奇跡でもある。きっと僕がきづいていないだけで、ありとあらゆるところに美しさは潜んでいる。あるとき突然、殴られたみたいにそれに気づくのだ。”(P20)

    “ピアノの基準となるラの音は四百四十ヘルツと決められている。赤ん坊の産声は世界共通で四百四十ヘルツなのだそうだ。(中略)日本では、戦後になるまで四百三十五ヘルツだった。もっと遡れば、モーツァルトの時代のヨーロッパは四百二十二ヘルツだったらしい。(中略)最近はオーケストラの基準となるオーボエのラの音が四百四十四ヘルツになってきている(中略) 変わらないはずの基準音が、時代とともに少しずつ高くなっているのは、明るい音を求めるようになったからではないか。わざわざ求めるのは、きっと、それが足りないからだ。”(P97~98)

    北海道の山間の集落、大自然の森の中で中学まで暮らしていた少年、外村君。
    中学時代、体育館にあるピアノの調律のためにやって来た男性が出した不思議なまでの音色に心を動かされ、彼は調律師を志す。
    調律師の学校を卒業した彼は、自分を魅了した調律師、板鳥さんと同じ職場に就職し、調律師の仕事を始める。

    その過程で感じる多くの疑問と苦悩。
    調律とはなにか? 
    ピアノとはなにか? 
    音楽とはなにか? 
    自分はどういう調律師を目指せばよいのか? 
    自分は本当に調律師になれるのか?

    それとともに、
    どんな目標を持って生きるべきなのか? 
    自分の人生に夢や希望などあるのだろうか?

    “才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。”(P224)

    周囲の人たちの温かい目に見守られ、彼は日常の調律の仕事で出会う様々な光景から、それらの答えを模索し続け、探し当てる。
    彼の前に現れた可愛い高校生のふたごのピアニストが抱く葛藤と絡み合わせながら。

    “もしかしたら、この道で間違っていないのかもしれない。時間がかかっても、まわり道になっても、この道を行けばいい。何もないと思っていた森で、なんでもないと思っていた風景の中に、すべてがあったのだと思う。隠されていたのでさえなく、ただ見つけられなかっただけだ。”(242P)

    随所に現れる珠玉の言葉が胸に沁みわたる。
    優しい言葉、優しい心の持ち主によって綴られた美しい話。

    様々な場面、主人公の語り、ふたごの女子高生の思い、その他登場人物の台詞などが透き通るように真っ直ぐで、何故か何度も涙が零れる。

    広大で、でも静謐な森の中の澄んだ空気を深く吸い込みながらゆっくり散策しているような、心に沁みわたる優しい物語。

    胸に刻んでおきたいような言葉がありすぎて、引用が多くなりましたが、素晴らしい小説。
    これまで読んだ宮下さんの作品の中でも最高傑作。
    お薦めです。

    2015年下半期直木賞候補作。
    何故に受賞に至らなかったのか、選評者の意見を読みたいと思ったが、「文藝春秋」が貸し出し中で読めず。その選評を読んで後日追記したいと考えています。

  • じんわりとあったかくて優しくて、この物語の森の中から抜け出てしまうのが哀しい。ずっと羊と鋼の森の中にいたいのに、いられない辛さ。
    ぽつりぽつりとしか宮下奈都さんの作品は読んでいないけれど間違いなく一番好き。
    淡々とした静けさに一本の光がやわらかく差しているような感覚がたまらなかった。

    物語は一人の少年がピアノ調律師の世界に魅せられるところから始まり、一人前の調律師へ一歩一歩近づいていく様が描かれている。
    彼の夢を目指すひたむきさ純朴さに胸を打たれ彼を励まし続ける周囲の人々に癒され、大きな展開はないもの物語の森へすっかり迷い込んでしまった。

    才能とは何なのか、努力とは何なのか。
    ここで描かれるのはピアノ調律師ではあるけれど、夢に向かって頑張っている人、頑張りつつも迷いがある人、そんな人が読んだら絶対に励みになると思う。

    調律師が主人公の小説は前にも読んだけれど、今回ほど調律師の世界に魅了されてしまうことはなかった。この物語は脇役であるピアノ調律師の奥深い世界を余すことなく描いていて自分自身がピアノの世界を知らないことに歯がゆくなった。

    物語そのものももちろん、タイトル『羊と鋼の森』、それから装丁もすばらしい。全てが一体となって宮下さんの新しい世界を作り出している。
    タイトル初見で、「何、このタイトル?」と思った自分が恥ずかしい。

  • もしかしたら、
    すごい世界に生まれついたのかもしれない。

    何もかもを与えられているんだ。
    ただ私が見つけられていないだけ…。

    そんな幸福感の中で、本を閉じました。

    高校生の時、学校のピアノの調律に偶然立ち会い
    衝撃をうけてその道をすすむことになる
    新米調律師のお話。

    フォローさせていただいている方々のレビューで
    ずっとずっと気になっていた作品ですが
    ピアノや音楽と縁遠い生活の私が理解できるのかと
    ちょっと不安が大きかったもので。
    (宮下奈都さんの作品も初読みでしたし)

    なんのなんの。全く問題ありませんでした。
    ピアノの調律の話であるのに、
    主人公の苦悩や、先輩調律師たち、
    調律してもらうピアノの所有者たちの話は
    私にも通じるものが沢山沢山あるんです。

    調律されて共鳴し連なっていくピアノたちのように
    私の心も自然と整えられて、いい状態のどこかへ
    繋がった感覚があり、とても気持ち良かったです。

    私自身…だいぶ歪んでいましたね。
    でもそれもピアノと一緒で
    生きていればここに居続けるだけで
    自然と起こってしまうこと。

    いい本を見つけました。
    歪んでもまたこの本に調律してもらえば
    いいんですから☆

    羊ってすごいんですね。素敵な字の元だなんて。
    …できれば未年の間に読みたかったなぁ…なんて。

    ピアノもすごい。
    調和のとれた森に会いに行きたくなります。

    コツコツコツコツやって、
    今年どれだけ溶けている「美しい」を取り出せるか。
    なんだか楽しみになってきました。

  • 最近、活字の細かい本のピントが合いづらくなってきた。
    (げ。これが老眼、というものだろうか?!)
    私は不安になった。
    老い、に対するソレでは無く、
    将来、本が読めなくなる事への不安が、だ。

    目の機能の衰えのせいで
    本が読めなくなるのなら、
    その先の人生に何の意味があるだろう?
    ちょっと前に
    「まだ来ぬ不安に対する心配など、何の意味も無い。」
    と、枡野住職の本で学んだばかりだと言うのに、
    全く私の学習能力の低さには
    自分自身あきれるばかりである。

    そんな私を見捨てずに
    この物語には
    「物語」が活字の中にばかり存在しているのではない事、
    どうしても、と求めるものは
    宝箱の中ばかりでは無く、
    本の中ばかりでは無く、
    どこにでも存在している事に気がつく感性をほおっておくべきではない事。を、教えてもらった。

    物語の中に綺麗なメロディーが流れる。
    目を閉じて、
    私は見た事も、行った事も無い場所の風景を思い浮かべる。
    音を捉えていない耳でも、
    活字を捉えきれない目でも、
    不思議とコロコロ、物語は(聞きたい)と言う欲求が拵えた道を見つけて必ずやって来てくれる。

    物語の主人公であるピアノの新米調律師の外村には、
    板鳥さんの様な天才的な感性も才能も無いかも知れない。
    でも、それがなんだと言うんだ。
    …と、突っ走る頑固な勇気が人生にもたらしてくれるものは大きいんだなぁ、としみじみ感じた。

  • この本を最初に知ったのは『王様のブランチ』でした。
    その後、第154回直木賞候補になり、ブランチブックアワード2015受賞、2016本屋大賞にノミネートされ…

    読みたい、読みたい!、読みたい!!、読みたい!!!
    気持ちばかりがどんどん膨らんで…
    ようやく手にすることができました(笑)

    高校の体育館で偶然、ピアノを調律する場面に出会い、魅せられ、調律師を目指す外村。
    それまでピアノとは無縁の世界にいた一人の青年が、自分と向き合い、仕事と向き合い、悩み、苦しみ、もがき、成長していく…

    ゆったりとした宮下ワールドに浸りつつ、読み進めました。

  • 静謐で、崇高なまでの音の世界にひたることができました。

    才能があるとかないとか、そんなことは問題ではなく、
    一人の調律師の”音”に憧れ、
    迷いながらも信じる道をひたすら進む外村。
    その純粋さが羨ましくなるほどでした。

    不器用な人が、自分なりに模索しつつ成長していく話って、好きなんですよね。

    そして表紙が可愛い~♪
    読んでいくうちに楽譜の上の羊たちが
    ピアノの音にあわせて、ぴょんぴょん跳ねそうに見えてね。

    最後に鍵盤に触れたのがいつだったか、思い出せない私ですら、
    無性にピアノが弾きたくなってしまいました。

    いや、弾くというより、ぽーん。ぽーん。と鍵盤をたたいて、
    その響きを感じてみたくなった、と言った方がいいのかな。

    今まで読んだ宮下さんの作品の中でも、
    特に好きな一冊になりました。

  • 実家にあるアップライトピアノは、私がピアノを習い始めたときに買ってもらったもの。
    子どもの頃は妹も私もよく弾いていたけれど、今では誰にも弾かれずに片隅に佇んでいます。
    本書を読み終えたあと、確かめたくなりました。
    私のピアノはどんな音をしていたか。
    どんな風に調律してもらっていたか。

    小さい頃から、年に一度、ピアノの調律師の方が来てくれていたことは知っていたけれど、彼らにまつわるドラマに想いを馳せたことなどありませんでした。
    すぐそばをすれ違っていたにも関わらず見えていなかった調律の世界に、新鮮さと親しみを感じつつ読み進めました。

    偶然居合わせた調律の現場で、ピアノにも音楽にも縁がなかった主人公の目の前に調律師への扉が開かれます。
    運命的な何かと出会い、その道を突き進んでいく主人公の姿が羨ましく、眩しい物語でした。

  • まず、題名の意味を知って、ぐっと引き込まれた。
    うまい題名だと思う。

    実は、私のいとこで1人調律師がいる。
    女系家族の中で、やっと生まれた男の子。
    お稽古事レベルだけど、いとこ達みんながピアノをやっていた中、
    1人縁遠いと思っていたその子が調律師になった。
    彼も森に足を踏み入れたのだろうか?

    実に謙虚で、おどおどと足を踏み入れる主人公に好感が持てる。
    癖のある仲間も素敵だ。
    ピアニストと調律師の関係も納得できた。

    引きこもった男性のピアノを調律する場面は
    思わず胸が熱くなった。

    ただ、ふたごちゃんが絡んでくると、
    ちょっと強引な感じがしてしまった。

    でも、ピアノの調律が、こんなに繊細だとは知らなかった。
    大昔、調律師の方が、終わった後に1曲弾いてくださったのを思い出します。

    美しい物語でした。

  • 2016年の本屋大賞。

    ピアノの調律師にスポットを当てる。
    これは、本当に自分にあった仕事なのか、才能があるのだろうかと悩むこともある。

    努力をすることが大切だと思っていたけど、努力は苦しいもの。いつかやめなきゃいけないもの。そうではなく、努力と言う認識ではなく、いつまでも続けられることこそが本当の才能だと思う。

    少しは甘えているようでありながら、厳しく深いものを湛えている文体。夢のように美しいが現実のようにたしかな文体。

    続けるには現実をきちんと見れないといけない。何よりも、自信と誇りを持たなければいけない。

  • 高校の体育館で見かけたピアノの調教に感銘を受け、自身も調教師になることを決めた戸村。
    駆け出しの調教師の成長物語。

    ↑こんな風に書いてしまうと違う話のように感じてしまうほど、とても美しい物語でした。

    以前我が家にもあったピアノ。
    娘の習い事のためのものでしかなく、調教は面倒だと思っていたことを、恥ずかしく感じます。
    登場する調教師が、皆それぞれの温度で、熱くピアノと向き合っているということに、感動しました。
    戸村の成長に期待します。

全937件中 1 - 10件を表示

羊と鋼の森に関連するまとめ

羊と鋼の森を本棚に登録しているひと

羊と鋼の森を本棚に「読み終わった」で登録しているひと

羊と鋼の森を本棚に「積読」で登録しているひと

羊と鋼の森の作品紹介

ゆるされている。世界と調和している。それがどんなに素晴らしいことか。言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」ピアノの調律に魅せられた一人の青年。彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。

羊と鋼の森のKindle版

ツイートする