- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163903927
作品紹介・あらすじ
ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが… 311後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。
感想・レビュー・書評
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5年たってしまった。
南三陸の海では3年たっても大型船の入れない港の海中は網やロープ、洗濯機、ガードレールなどがあった。
立ち入り禁止区域となっている福島の海はそれこそ手が入れられるはずもなく、そのままでしょう。
その禁断の海に潜って遺品を回収するという違法ダイバーの物語。震災の傷もやっと物語として世の中に出てくるようになったのですね。
それでもいまだにあのときの光景を思い出すと涙がこみ上げてきます。
福島の仮設住宅の玄関にあった小さな女の子の靴とお母さんの靴を見たときの衝撃(どんな思いをして目に見えない恐怖から逃れてきたのか)、線量の高い田畑が荒地となった風景、瓦礫として処分しなければならない雛飾り・・・
現地視察だといって何度か仙台空港周辺を案内しなければならなかった夜は必ずうなされて汗まみれになって起きたことを思い出します。
そして、最近東京出張で見た煌々と照らし出された夜でも明るい町。あの事件はなかったことになってでもいるようで、なんだかやりきれない気分になりました。
「これから」何ができるのか、今一度考えてみる。心に染み入る本でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
東日本大震災から8年。
帰宅困難区域の復興整備を進めていく方針であるニュースを先日目にした。
8年という歳月は、被災した方達にどんな変化をもたらしたのだろう。
ムーンナイトダイバーでは、残された人達の後悔や申し訳なさといった気持ちの葛藤が読んでいてしんどい。
生と死の狭間のような浮遊感は最期まで抜けなかった。
結局誰も報われない。
起きてしまったこと。
それによってついた傷。
それはずっとずっと消えない。
どうしようもないことを再確認させられたような。
でも、最終的に物語りは前を向いていく。
でもだからといって完全なまでに前向きになれない読後感こそがリアルなのかもしれない。
そうゆうところに作者の誠実さを感じてしまう。
写真:岡本隆史
装幀:関口聖司 -
東日本大震災を扱った小説はいくつか読みましたが、本書のように津波と原発事故を絡めて描いたものは初めてでした。
本書は、津波で家族や家や思い出の品々をなくした人の依頼を受け、健康の危険を冒しながらも禁止区域の夜の海に潜り、海底に残されたものを引き上げ続ける主人公を描いています。手持ちのライトで照らされる夜の海に沈む家や車や様々な生活の道具を目にする主人公が、陸に上がった日に「肉食」になるのは、生きている実感を本能的に欲しているからでしょうか。
金品目的の潜水と疑われないように、貴金属とか財布とか玩具のアクセサリーでさえ、海に残しておかなければならないことがもどかしく感じます。せめて亡き家族の持ち物だけでも、という小さな願いが叶えられない原発事故の酷さを改めて感じました。
震災から5年が過ぎ、様々な大きな出来事が起きたことなどによって記憶が薄れかけている今、本書が出版された意味を考えてみなければと思いました。 -
授業の一環で読みました。
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今年は東北の震災から5年経ち、先月に熊本地震が起こったので、色々と考えさせられながら読了。震災で失ったものを見つけるために被災された方の思いを背負い、潜り、誰もやらないから、自分がやらないとという責務を感じ、亡くなった方を悼む思いを感じながら、探す姿が焼き付けられる。主人公の妻や、指輪が見つかった被災者の言葉が胸に突き刺さる。死亡認定のこと、指輪が見つかり、家族は永遠に戻ってこないという気持ちの整理をつけないと前進できないのが辛い気持ちになる。いつか光が差し込む日が来るのを願わずにいられないと思う。
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メディアを通して被災した地域の状況などは目にしてきましたが、活字となってこのような状況を知るというのは目で見る時よりもまた印象が違い風景も被災した人達の心の中などあらゆるものが暗く今までとは到底想像の出来ないものへと変化しているのが伝わります。
とかく被災をしてから復興へと叫ばれていましたが、
物が徐々に動くようになり、風景も少しづつ前のようにと移ろっていきます。被災した人達の心も一見すると前を向いて歩いているようにも思えましたが、
実は心の奥底ではあの日のままで忘れることの出来なくて辛くてどうしようもない心情でいるということが切々と伝わり涙に誘われます。
舟作の秘密の仕事である立ち入り禁止地域での引き上げ作業はメディアでも見たことがありますが、
想像以上に危険な仕事であるけれど、
何もかも一瞬で奪われてしまった物を少しでも良いから
あの日の前に戻して欲しいという思いや
何か形ある物を欲しいという思いもあるので、
自分の危険を晒してでも作業に打ち込んでしまうのかと思いました。
海中の風景の描写はダイバーの資格を取っただけあって、暗黒の世界が不気味でいて、時には不思議な魔力を満ちたりして独特な雰囲気が漂っているのが目の前で映っているかのようでした。
依頼会社からのルートではなく直接コンタクトを取ってきた透子は行方不明者である夫の指輪を探さないで欲しいという要望には初めは理解できなかったですが、ストーリーが進んでいくうちに彼女の内心が分かってきてこうゆう愛情もあるのだと思えました。
ここまでの愛情に繋がるにはこのような特別な事態だったからこそだとも思いました。
天童さんの作品は以前『悼む人』を読んで理解するのが
やや難しいなと思っていましたが、
この作品はテーマがははっきりとしているの分かりやすかったです。
けれど鎮魂の祈りを込めて書かれたと思うのですが、
途中で透子との接触の仕方や奥さんとの情事などは
少しこの風景とは似つかわしくないようにも思えました。
でもこれを書き入れることで殺風景だった景色に色が入ったように、これまでの舟作とは思えない生きるということへの欲求を際立たせるためにも
これが必要なのかと考えることが出来ました。
この本を通してまた改めて被災した人達へ今後どうしていったら良いのかと考えを突きつけられたように思いました。
一体真の復興とはなんなのか?
そしてこの作品を通して3.11を風化させることが無いように祈りを込めたいと思います。 -
108震災後の癒えない痛みや苦しみの重さは、それぞれに異なるけれど、今生きている人が元気で笑っていることが大切だと思わせる。忘れずに前向きに、言葉では簡単だけれど難しい。でも幸せになる権利は誰にもある。