ムーンナイト・ダイバー

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 672
感想 : 95
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  • Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163903927

作品紹介・あらすじ

ダイビングのインストラクターをつとめる舟作は、秘密の依頼者グループの命をうけて、亡父の親友である文平とともに立入禁止の海域で引き揚げを行っていた。光源は月光だけ――ふたりが《光のエリア》と呼ぶ、建屋周辺地域を抜けた先の海底には「あの日」がまだそのまま残されていた。依頼者グループの会が決めたルールにそむき、直接舟作とコンタクトをとった眞部透子は、行方不明者である夫のしていた指輪を探さないでほしいと告げるのだが… 311後のフクシマを舞台に、鎮魂と生への祈りをこめた著者の新たな代表作誕生。

感想・レビュー・書評

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  • 5年たってしまった。

    南三陸の海では3年たっても大型船の入れない港の海中は網やロープ、洗濯機、ガードレールなどがあった。
    立ち入り禁止区域となっている福島の海はそれこそ手が入れられるはずもなく、そのままでしょう。

    その禁断の海に潜って遺品を回収するという違法ダイバーの物語。震災の傷もやっと物語として世の中に出てくるようになったのですね。

    それでもいまだにあのときの光景を思い出すと涙がこみ上げてきます。
    福島の仮設住宅の玄関にあった小さな女の子の靴とお母さんの靴を見たときの衝撃(どんな思いをして目に見えない恐怖から逃れてきたのか)、線量の高い田畑が荒地となった風景、瓦礫として処分しなければならない雛飾り・・・
    現地視察だといって何度か仙台空港周辺を案内しなければならなかった夜は必ずうなされて汗まみれになって起きたことを思い出します。

    そして、最近東京出張で見た煌々と照らし出された夜でも明るい町。あの事件はなかったことになってでもいるようで、なんだかやりきれない気分になりました。

    「これから」何ができるのか、今一度考えてみる。心に染み入る本でした。

  • 東日本大震災から8年。
    帰宅困難区域の復興整備を進めていく方針であるニュースを先日目にした。
    8年という歳月は、被災した方達にどんな変化をもたらしたのだろう。

    ムーンナイトダイバーでは、残された人達の後悔や申し訳なさといった気持ちの葛藤が読んでいてしんどい。
    生と死の狭間のような浮遊感は最期まで抜けなかった。
    結局誰も報われない。
    起きてしまったこと。
    それによってついた傷。
    それはずっとずっと消えない。
    どうしようもないことを再確認させられたような。
    でも、最終的に物語りは前を向いていく。
    でもだからといって完全なまでに前向きになれない読後感こそがリアルなのかもしれない。
    そうゆうところに作者の誠実さを感じてしまう。

    写真:岡本隆史
    装幀:関口聖司

  • 東日本大震災を扱った小説はいくつか読みましたが、本書のように津波と原発事故を絡めて描いたものは初めてでした。

    本書は、津波で家族や家や思い出の品々をなくした人の依頼を受け、健康の危険を冒しながらも禁止区域の夜の海に潜り、海底に残されたものを引き上げ続ける主人公を描いています。手持ちのライトで照らされる夜の海に沈む家や車や様々な生活の道具を目にする主人公が、陸に上がった日に「肉食」になるのは、生きている実感を本能的に欲しているからでしょうか。

    金品目的の潜水と疑われないように、貴金属とか財布とか玩具のアクセサリーでさえ、海に残しておかなければならないことがもどかしく感じます。せめて亡き家族の持ち物だけでも、という小さな願いが叶えられない原発事故の酷さを改めて感じました。

    震災から5年が過ぎ、様々な大きな出来事が起きたことなどによって記憶が薄れかけている今、本書が出版された意味を考えてみなければと思いました。

  • 感想を書くのに躊躇して、読後かなり時間が経過してから書いています。
    私は好きになれなかったです。
    テーマなどは、私たちが忘れてはならないあの日、そしてその後を生きてきた人たちの思いや生き方、抱えてきたものなどとても感慨深く、重さもあるけれど一歩一歩前へ進んでいく人たちを描いているお話だと思いましたし、その部分はとてもよかったのですが、いかんせん主人公の人柄が好ましくありませんでした。
    女性をなんだと思っているのか。
    生と死、そしてそれらな性が隣り合わせなのは理解できますが性的描写がこんなに必要なのか、そして彼が誠実なのかと思っていただけに、傲慢で高圧的な考え方が単純に不愉快でした。
    依頼人が女性でなかったら…と考えさせられてしまう時点で醒めてしまい、テーマがテーマだけに不愉快な感想を持つ自分が人としてどうなのかと考えたりもしましたが、自分は好きではないんだというところに落ち着きました。

  • 授業の一環で読みました。

  • 《ネタバレです》
    久々の天童さん、今回も重いです。
    東日本大震災によって、海に沈んでしまったもの。
    建物、車、家財道具、様々なものを海に入って、引き上げてきて手掛かりになりそうなものを心当たりにある人に手渡す、ビジネスとして、密かに。
    被害にあって残された人達は、どんなものでも手掛かりが欲しい、そして手掛かりを見つけたときに、心に踏ん切りをつけられることもあります。
    その気持ちは痛いほどわかるので、毎回海に潜って探し物をする主人公と一緒にドキドキしていました。
    女の子のおもちゃのカバン、髪飾り、片方になった靴、アルバムなどなど・・・
    他人にはガラクタでも家族にはかけがえのない品物。
    貴金属やお金は持ち帰らないというおきてを破り、依頼人の一人の亡くなった夫の指輪を持ち帰り、その苦しくてつらい仕事に区切りをつけます。
    震災から5年と少し経ちましたが、依然なんの手がかりもないまま宙ぶらりんの気持ちで過ごされている方々も大勢いらっしゃることと思います。
    気持ちの整理などというものは簡単にできるものではありませんし、しようもありません。
    一日も早く心安らげる日が来ることを心からお祈りするばかりです。

  • 今年は東北の震災から5年経ち、先月に熊本地震が起こったので、色々と考えさせられながら読了。震災で失ったものを見つけるために被災された方の思いを背負い、潜り、誰もやらないから、自分がやらないとという責務を感じ、亡くなった方を悼む思いを感じながら、探す姿が焼き付けられる。主人公の妻や、指輪が見つかった被災者の言葉が胸に突き刺さる。死亡認定のこと、指輪が見つかり、家族は永遠に戻ってこないという気持ちの整理をつけないと前進できないのが辛い気持ちになる。いつか光が差し込む日が来るのを願わずにいられないと思う。

  • 誰も潜らないから、だからこそ潜るのだ。
    誰かが潜らなければいけないのだと信じるー。あの日から5年の…。

    漁師をしていた瀬奈舟作。
    東日本大震災で港で船の掃除をしていた両親と兄を亡くしていた。
    水が引いた瓦礫の町でひたすら遺体の回収をするしかなかった…。
    あの日亡くなっていたのは自分かもしれない…。
    どうして自分は生かされたのか…。
    今は幼馴染が営むダイビングスクールのインストラクターをしている舟作は、
    秘密の依頼者グループの依頼を受けて、亡き父の親友である文平とともに
    立ち入り禁止の海域で、行方不明者の手掛かりとなるものを引き揚げを行っていた。
    光源は月光だけー二人が〝光のエリア〟と呼ぶ建屋周辺地域を抜けた海域には
    「あの日」がまだそのまま残されていた。

    福島第一原発前の汚染濃度が年々濃くなっている危険な海に何故潜るのか…?
    天災という、どこにも怒りをぶつけられないものに対しての憤り、やるせなさ、
    無力感…様々な感情を抱えながら自分でも何故潜るのかという答えのないまま
    しかし、潜る事によって必死に何かの答えを求めている。
    何かを変えようとしている。
    また、行方不明者の手掛かりを待つ遺族も、手掛かりが出て来て欲しい…。
    しかし、出てくれば死の事実を受け入れなければならい…。
    やがて舟作は、何を求めて自分が潜っているのか答えを見つけ
    前向きに生きようとします。
    ラストは、舟作が潜っていた暗闇の海にほんのり光が差したような感じで良かったです。

    穏やかながら圧倒的な筆力で〝失われた町〟あの日をそのままに残した暗い暗い海の中。
    まるで実際に目にしているかのようで、読んでる途中から身体の震えが止まらなくなった。
    気持ちが引きずられて…どうしようもなくってたまんなかった(´⌒`。)
    今迄、何冊か東日本大震災関連の本を読みましたが、こんな風になったのは初めてでした。
    登場人物皆が〝大きな喪失感〟と闘っていた。
    その苦しみが少しでも軽くなるのは、まだ遥か遠く何だろうなぁって感じさせられた。
    タイトルそのまま、夜の深い海の底に漂う様な深い深い哀しみ。
    大切な人の手掛かりが欲しい!
    そう感じておられる方は多いのではないかって思った。
    神様っているのかな…。

  • メディアを通して被災した地域の状況などは目にしてきましたが、活字となってこのような状況を知るというのは目で見る時よりもまた印象が違い風景も被災した人達の心の中などあらゆるものが暗く今までとは到底想像の出来ないものへと変化しているのが伝わります。

    とかく被災をしてから復興へと叫ばれていましたが、
    物が徐々に動くようになり、風景も少しづつ前のようにと移ろっていきます。被災した人達の心も一見すると前を向いて歩いているようにも思えましたが、
    実は心の奥底ではあの日のままで忘れることの出来なくて辛くてどうしようもない心情でいるということが切々と伝わり涙に誘われます。

    舟作の秘密の仕事である立ち入り禁止地域での引き上げ作業はメディアでも見たことがありますが、
    想像以上に危険な仕事であるけれど、
    何もかも一瞬で奪われてしまった物を少しでも良いから
    あの日の前に戻して欲しいという思いや
    何か形ある物を欲しいという思いもあるので、
    自分の危険を晒してでも作業に打ち込んでしまうのかと思いました。
    海中の風景の描写はダイバーの資格を取っただけあって、暗黒の世界が不気味でいて、時には不思議な魔力を満ちたりして独特な雰囲気が漂っているのが目の前で映っているかのようでした。

    依頼会社からのルートではなく直接コンタクトを取ってきた透子は行方不明者である夫の指輪を探さないで欲しいという要望には初めは理解できなかったですが、ストーリーが進んでいくうちに彼女の内心が分かってきてこうゆう愛情もあるのだと思えました。
    ここまでの愛情に繋がるにはこのような特別な事態だったからこそだとも思いました。

    天童さんの作品は以前『悼む人』を読んで理解するのが
    やや難しいなと思っていましたが、
    この作品はテーマがははっきりとしているの分かりやすかったです。
    けれど鎮魂の祈りを込めて書かれたと思うのですが、
    途中で透子との接触の仕方や奥さんとの情事などは
    少しこの風景とは似つかわしくないようにも思えました。
    でもこれを書き入れることで殺風景だった景色に色が入ったように、これまでの舟作とは思えない生きるということへの欲求を際立たせるためにも
    これが必要なのかと考えることが出来ました。

    この本を通してまた改めて被災した人達へ今後どうしていったら良いのかと考えを突きつけられたように思いました。
    一体真の復興とはなんなのか?
    そしてこの作品を通して3.11を風化させることが無いように祈りを込めたいと思います。

  • 108震災後の癒えない痛みや苦しみの重さは、それぞれに異なるけれど、今生きている人が元気で笑っていることが大切だと思わせる。忘れずに前向きに、言葉では簡単だけれど難しい。でも幸せになる権利は誰にもある。

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著者プロフィール

天童 荒太(てんどう・あらた):1960(昭和35)年、愛媛県生まれ。1986年「白の家族」で野性時代新人文学賞受賞。1996年『家族狩り』で山本周五郎賞受賞。2000年『永遠の仔』で日本推理作家協会賞受賞。2009年『悼む人』で直木賞を受賞。2013年『歓喜の仔』で毎日出版文化賞を受賞する。他に『あふれた愛』『包帯クラブ』『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』『静人日記』『ムーンナイト・ダイバー』『ペインレス』『巡礼の家』などがある。

「2022年 『君たちが生き延びるために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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