拳の先

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904160

作品紹介・あらすじ

恐怖と不安の先にあるものとは。感動長編!文芸編集者の空也はボクシング選手・タイガー立花の日々を見つめ続けるうち、不吉な予感を覚える。才能とは。逃げるとは。傑作長編。

感想・レビュー・書評

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  • モチベーション。

    ボクシングだけでなく、
    今熱いオリンピック選手などのスポーツ選手だけでなく、
    いろんな目標に向かって努力をしている人々。

    自分が成長している、実力が伸びている感覚があり
    楽しいと思える時は考えないでがむしゃらに誰もが進む。

    でも怪我をしたり、怖い思いをしたり
    どんなに苦しいことをしてもマイナスしか感じないとき
    何のためにやっているのかさえわからなくなったとき
    どこにそれを置き、何を見据えたらいいのか。

    自分の心にどう折り合いをつけるのか…。

    『空の拳』より私はこちらの方が好きでした。
    タイガー立花が好きだったので、
    今回の展開は複雑な気持ちでしたけど。

    最後は、タイガーいいっ!!って思えましたので。

    メダルを取れても取れなくても
    どれだけの選手が自分を出し切れたと思えているのか。
    オリンピックを観戦しながら
    こんなことを考えてしまう一冊です。

  • 「空の拳」続編(続編とはいえ、単独でも十分楽しめる)。出版社の文芸編集担当として慌ただしく過ごす空也が、久々に、かつて関わっていたボクシングジムに関わることとなる。
    ボクシング雑誌担当時代はへなちょこっぷりが目に余るほどだった空也だけど、今回は前作ほどボクシングにどっぷりというわけでもなく、ワンクッション置いたところから状況を見ているためか、落ち着いてストーリーを追うことができた。新キャラとして登場した作家・蒼介。だが、一癖二癖ある面倒な人物で、ボクシングに興味を持ち始めたはいいが、イヤな予感しかしない。不快なキャラだが、ちょっと違った視点からボクシング界が見えてくる。空也と同い年の花形ボクサー・立花は着々とキャリアを積んできたが、ライト級にすさまじい強さを見せる大型新人が登場し、本作では割と早い段階から、立花に翳りが見え始める。その翳りの正体が掴めず、常に漂うもやもやした不穏な空気。その不穏さを早く取っ払いたくて必死でページをめくるが、その不気味さに読む側まで足を絡め取られた気分になる。
    更に、ジムに通う小学生・ノンちゃんを取り巻く状況からも目が離せない。立花ファンで、強くなりたいと健気にトレーニングする彼だが、ひた隠しにするいじめの兆候を、見て見ぬ振りができない空也。
    前作と比べると、スポーツ小説らしい爽快感は少ないかもしれない。試合の描写は臨場感に溢れてリアルだけど、どちらかというと全体を通してとにかく苦さが際立つ。キャリアを重ねていくからこそ、ぶち当たることを避けられないいくつもの壁。否応なく感じてしまう限界、己の弱さ、恐怖心。じわじわと不安の正体をあぶり出していく手法は、さすが角田さん。ボクシングがテーマではあるけど、こんな思いを誰もがしているのではないだろうか。
    長く、非常にボリュームのある一冊だが、飽きることはなかった。角田さんの放つ言葉の一つ一つが、まるでパンチのように心に鋭く刺さった。非情な現実に打ちのめされる場面も多かったけど、空也の真摯さにすごく救われた気がする。強くもかっこよくもない空也かもしれないが、腕っぷしという意味ではなく、一本筋の通った心の強さを感じた。こんな風に相手を思いやり、そっと支えることができたらと思う。負のスパイラルの渦中の立花に対しても、散々自分を振り回す蒼介に対しても(書きたいことを求めたあげくの彼の行動も、何気に目が離せない)、身の振り方に悩むノンちゃんに対しても、放っておくことができないある種のお節介さを、好ましく思う。
    拳の先に見えるものの重さ、儚さ、苦しさ、残酷さ。アスリートが背負うものの一端を本書で垣間見ることができた気がする。壮絶さを極めた先にはきっと、まだ見たことのない景色が広がってることだろう。自分の目指す結果が、得られたとしても得られなかったとしても。そんなことを感じさせてくれた、とても意味のある出会いだった。

  • 最後まで蒼介(作家)のことが好きになれなかったし、空也がなぜ、メモを渡してもいいも思うほど彼に思い入れるのか、まったくわからなかった。

  • ボクシングには、あまり詳しくないのですが角田さんが書いたということで読んでみました。試合のシーンは、やはり漫画には描写ではかなわないものがありますが、本書はなかなかに読みごたえはありました。読み慣れないうちは、試合が終わったことが分かりづらく、次のシーンの記述に移って気付くという事が少しありましたが、中盤にかけて慣れてくると段々と読みごたえが出てきました。弱小ジムならではの苦労が側聞していたほど感じられなかったのは、多少違和感がありましたが。

  • 「空の拳」の後日談。文芸編集者としての仕事が忙しくなりボクシングから遠ざかっていた空也が、ふとしたきっかけでまたボクシングに関わっていくことになる。悪役路線をつづけている立花、ぽっちゃり小学生のノンちゃん、無敗の新人岸本…それぞれにとってのボクシングとその人生を綿密に描く物語。

    正直言って、前作を読んでいると後半特に辛い。時の人だった立花が、落ちぶれるとまではいわないけれど、明らかに中心から外れていくさま、そして彼が呑み込まれていた闇の姿。唯一無二だと思っていた頼りの綱が、突然化け物に変わっていたという恐怖。

    それはなにもボクシングに限った話ではなくて、友達や恋人との齟齬、仕事の行き違いなど、突然それまでの親密性がぱたりと憎悪に入れ替わる瞬間はだれにだって訪れる。だからか、彼の陥った状況にあまりにぞっとさせられたのです。

    そして容赦のないその描写がつづいても、彼にかかわる人々のあたたかさ(無論その逆もみっちり描かれてはいますが)、ボクシングそのものの魅力、けして悪いことばかりではないという側面も描かれていて、あまりにどんよりさせられるわけでもありません。

    そういった意味で、前作を含めてこの二作は、ボクシング小説というより、ボクシングにかかわった人々の物語、人間を描いた物語だと思うのです。だから、すかっとするスポーツ物を求めると、うん?と感じるかもしれないですね。

    無敗の王者として描かれた岸本がなぜそんなにうつろなキャラクタとして描かれているのか気にかかりますし、蒼介が空也のメモをもとに立花の物語に着手する日が来るのかと妄想したりしますが、きっと彼らの物語はこれで終わりなのでしょう。

    立花が、空也がうつくしい光を一瞬捉えたというシーンの印象を残したまま、そっと閉じられていった本編のかたちがこれ以上なく完璧だと、そう感じたからです。

  • 凄く良かった!ボクシングものなんだけどボクサーを主人公にせずに特にボクシングファンでも無いのにボクシングに関わった男を主人公にしてるところがとてもユニークで、かつ普通のボクシング物では辿り着けない視点にまで達してる。中盤の葛藤から逃げたいという気持ち、更には最後の試合でのゾーン体験の共有、拳の先の化け物を叩き潰したって表現、それぞれ素晴らしいシーン。ノンちゃんの登場もこの作品を単なるボクシング小説の枠に収めないことに一役買ってる。全然関係無いけど角田光代ってすごいおばあさんだと思い込んでたんだけど若いのね。トレーナーの有田みたいな無自覚に人を傷つけたり意気消沈させたりって凄くわかる。

  • 過酷でかっこいいスポーツボクシングに魅了された男たちの生きざま。くうちゃんも、立花も坂本も、中神も大好きです。一対一で相手を叩きのめし、または叩きのめされるリアルに目が離せなかった。
     落ち込み、恐怖しながらも、それでもなお拳を突き出す立花に泣かされた。

  • 絶望して光を失うくらいなら逃げればいい。逃げるうちにここだと思える場所に辿り着けることもできることもあれば、逃げる中で戦い方を見出すこともできる。恐怖に戦き落ち込み苦しむこともあるだろう。だけど追い詰めてくる奴は意外に悪意がない。実は追い詰めるのは他者ではなく自分だったりする。人は脆く弱い。拳の先にあるのは全然他者と変わらぬ自分なのかもしれない。

  • 長いが飽きずに読み切れる。
    すでにボクシングをやめて記者として仕事をしている主人公はボクシング雑誌から他のジャンルに替わる。
    しかしむしろ前作のような濃い関係より、第三者としての視点がまたボクシング関係者の思いをうまく浮き彫りにしている。
    アジアの国で一人自分を磨くボクサー。でもものすごく努力をしても、全てがうまく行くわけでもない現実との葛藤。
    スポーツマンとして淡々と受けて一つの人生の経験として流せていく潔さ。ここにいじめを受けている前向きな少年の姿が重なり…。

  • 前作より面白かった

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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