防諜捜査

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 35
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163904412

作品紹介・あらすじ

国益とプライドをかけた防諜戦争の行方は…?ロシア人ホステスの轢死事件が発生。事件はロシア人の殺し屋による暗殺だという証言者が現れた。倉島警部補シリーズ、待望の最新刊!

感想・レビュー・書評

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  • 公安刑事・倉島シリーズ第五作。

    前作でチームを組んだ四人…伊藤(地味だが優秀)・片桐(やる気満々)・白崎(元刑事だけに刑事視点)・西本(倉島にライバル心を燃やす)が再び集結。そこに片桐と同じ公安機動捜索隊の松島(一生懸命)も加わり、結構な大所帯。
    今回はロシア人女性が駅のホームから転落死した事件を追う。

    当初は自殺か事故と見られていたのだが、ある中学校教師の証言でロシアからの暗殺者による殺人ではないかという見方が出てくる。
    例によってロシア大使館の三等書記官・コソラポフから情報を得ようとする倉島だが、彼の反応は鈍い。
    それではとロシア人女性の周辺を探ると、彼女が二人の男性と付き合っていたことが分かる。
    その一人は石油エネルギー会社の管理職。
    日本とロシアには過去石油パイプラインを建設する計画があったのだが、それが関係しているのか。

    今野さんの作品なので、今回もミステリーとしては複雑ではない。伊藤の『まるで、幽霊を追っかけているようだ』というセリフやコソラポフの『そんな似顔絵を用意しても無駄だ』というセリフなど大きなヒントとなる言葉もある。

    このシリーズの読みどころとしては公安警察官という立場ならではの事件の見方、捜査方法、そして最終的な落とし所だろうか。
    刑事警察なら徹底的に事件の真相を突き止め、犯人を逮捕し、その動機や手口などを追及し送検する。しかし公安警察にとってはそこは重要ではない。
    典型的な言葉が公安総務課長から出てくる。

    『その事案は、国家の危機に関わることなのでしょうか?』
    『作業のための工作費は、国のために使われなければなりません。(中略)その行動は、すべて国家のためでなければならないのです』

    つまり刑事警察が国民一人ひとりのために動いているとするならば、公安警察は国家のために動いている。そして事件の解決にしてもそれが国家のためであれば目を瞑る部分があったり逆に徹底的に潰すところもある。
    ただしここでいう『国家』とは『国家権力』や政治のことではなく、まさしく国そのもの。最終的にはやはり国民一人ひとりのためということになるだろうか。

    しかし実は課長にこの言葉を向けられた時点では、この事件が『国家の危機に関わる』事案かどうかは分かっていない。それでも倉島は彼の経験と公安警察官としての感覚から該当すると答える。公安警察官に限ったことではないが感覚や人脈や行動などの様々なアンテナを張り巡らせることの重要さを感じる。

    前作のレビューでも書いたが、倉島は他の公安警察ものとは違って割とオープンにさらけ出す。情報取引にしても明かすところは明かすし、その上での信頼関係によって必要な情報を引き出したり読み取ったりする。そうした姿勢は好感が持てる。
    今回は新たに入館管理局とも信頼関係が出来たようだ。

    それにしてもヴィクトルとの死闘が伝説になって、倉島の名前がこんなに有名になっているとは。公安警察官なのに目立って良いのかとちょっと心配になるが、そこをどう逆手に取って今後の仕事に活かすのかも期待するところ。

    西本が安積班シリーズでいう相楽みたいになってちょっと心配だったが、ラストで良い雰囲気に。
    今後が楽しみなシリーズだがこの作品以降は書かれていない。他の作品で忙しすぎて手が回らないのだろうが、こちらも忘れずに続編を書いて欲しい。

    ※シリーズ作品レビュー
    「アクティブ・メジャーズ」
    https://booklog.jp/users/fuku2828/archives/1/4163823700

  • 公安の倉島警部補シリーズです
    倉島手をし広げすぎじゃない?っていう
    いや何人育てるつもりや!自分の面倒も見られんのに!(偉そう)

    このシリーズはなんか最初にW主人公みたいな感じで始まったんだけど、またそうなりそうな予感
    伊藤の成長が著しい
    倉島追い抜きそうな勢い
    次回伊藤目線で物語がすすみそうだこれw

  • 倉島警部補シリーズ最新作。
    前作の後、ゼロの研修を受けて、晴れて公安のエースの階段を上り始めた倉島。初めての事案はロシア人女性の不審な死。作業班を作り、捜査を始める倉島だが・・・作業班のメンバーの個性がいい!今後、倉島がどんな公安のエースになっていくのか、楽しみ。

  • <展>
    警視庁公安部倉島警部補の物語は,最初にシリーズが始まった時の構成/コンセプトから随分と発展し今(今作は2016年上梓だが)の状態に落ち着いてきている。
    今の物語もそりゃ十分に面白いが,のっけの主役級の人物が三人いた頃のストーリーは飛びぬけて面白かったと個人的には思う。

    今作での感想文として書いているので『ネタバレ』にはならないと勝手に判断して以下書きます。 ソ連のスパイだったヴィクトルがめちゃ強くてカッコ良かった。そして対抗する暴力団の武闘派だった兵藤 の一途な行動に感動した。この二人は何処へ行ってしまったのだろう。ヴィクトルは第2作以降も主役として登場していたが兵藤は野球場のマスコット着ぐるみに入ったきり出て来ないではないですか。

    今敏先生。お願いです兵藤を再登場させてくださいoz!って,僕は既に現時点での最新刊『ロータスコンフィデンシャル』まで読んでる立場でお願いしています。 え? なんですか,いまさら彼を登場させ得るストーリー構成を思い付けない,ですって。分かりました僕がなんとかしてみましょう。少しお時間をください・・・こうして僕りょうけん の妄想は広がるのであった。すまぬ。

    官庁についての凄く納得の行く記述が在ったので引かせて頂きます。 ”省庁の職分に合理性を求めるのが間違いなのかもしれない。官僚主義と既得権によって動いている世界だ。” 御意です御意です。今敏先生の著書を沢山読んだせいでもあるのだろうけれど,僕の実際の仕事の場でも,そういう事を感じた経験がしばしばありまするので。決して良い職分では無いのだろうけど実に面白い部分もあります。そういう官庁での仕事を遣りたいが為に実に多くの人が懸命に日夜努力勉強しているのだから。

    今作のストリーは公安警察による作業の体は採っているが,なんだか遣っている事は刑事警察の様だ。佐久良課長が言った,「国家にとって重大な事なのですか?」 その通りだと僕も思った。なぜこの件を作業として扱わなければならないのだ。答えはとりあえず,目の前にあった作業の素はこれしかなかった,という事にしておくのと,やはりこういう”捜査”が今敏先生は得意なのだろうと考えた。高言,すまぬ。

  • 倉島警部補シリーズ第5弾。
    公安小説の中でも、好きな作品。

    スパイ天国と言われる日本において、ロシアといった旧共産系国家のスパイや殺し屋との対決を描いたシリーズ。

    公安警察というと諜報活動のプロフェッショナルでスーパーマンをイメージするが、倉島はエースになれるのかどうかと葛藤しながらも成長していくタイプで人間味を感じる。

    公安警察を題材にした青山望シリーズ(作者:濱嘉之)もあるが、どちらかと言えば今野敏の倉島シリーズの方が完璧すぎず、好感が持てる。

    読了に一週間くらいかかると思っていたが、半日で読み終えてしまった。

  • 若干雑な箇所もあるが、全体としては面白く読み終えた。

  • 倉島警部補シリーズ第5弾

    オペレーション(作業)を自ら遂行していく公安総務課の作業班を拝命した倉島。

    秋葉原でのロシア人女性・マリアの轢死事故を受け、初めての作業を開始する。

    前回の作業で共に働いた伊藤、片桐に加え、外事一課の白崎、西本を加え、事件の真相を追う。

    同時に中学校教師でロシアの日本人学校に赴任していた九条という男性が、命を狙われていると申し出て、ロシアで出会った男がマリアを殺害したとの証言を得る。

    九条の身辺警護をしながら、マリアの身辺を洗っていくと、国家のエネルギー政策に関わる諜報活動の影が見えてきた。

    日本で暗躍する殺し屋を見つけることができるか?


    話しは派手ではありませんが、倉島の公安マンとしての新たな旅立ちです。

    公安小説って読後感がスッキリしませんが、次のオペレーションはどんなものなのか期待してしまいます。

  • 今野敏氏の作品では、新しい主人公だ。公安ものだ。この作品で描かれている事が、実際の話であるなら、面白いというか、かなりきわどい。今野氏の作品では、公安がたびたび出てくるが、その公安を主人公にしたのは珍しい。と言っても私が知らなかっただけで、この倉島警部補はシリーズになっているらしい。しかしゼロの研修を受けた後に、実際の作業を行う流れが記載されているのも面白い。と言うかこれは本当の事なのだろうか?いずれにしてもこの作品も面白い。

  • シリーズも数を重ねてきたが、面白かった。
    相変わらずロシアって怖いね。

  • ちょっとしたネタばれだけども... 「警察ってのは死ななきゃ動いてくれないんですか?」「その通りです...」相手はぽかんとしていた。 そりゃそうでしょwww

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著者プロフィール

1955年北海道生まれ。上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。

「2023年 『脈動』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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