「南京事件」を調査せよ

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905143

作品紹介・あらすじ

各方面から大絶賛のテレビ番組『日テレNNNドキュメント 南京事件 兵士たちの遺言』が、大幅な追加取材で待望の書籍化!77年目の「調査報道」が事実に迫る。南京事件」は本当にあったのか?なかったのか?戦後70周年企画として、調査報道のプロに下されたミッションは、77年前に起きた「事件」取材だった。「知ろうとしないことは罪」――心の声に導かれ東へ西へと取材に走り廻るが、いつしか戦前・戦中の日本と、安保法制に揺れる「現在」がリンクし始める……。伝説の事件記者が挑む新境地。

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭にも終わりにもある「知ろうとしないことは罪」を自覚しながら読んだ。筆者が仕事する上での信条である"調査報道"=自分の足で調べ、表に出ていなかった事実を拾い上げていく 方式で所謂「南京大虐殺」を検証したノンフィクションです。この本にもあるように政治と戦争の深い関係性や怪しい胎動などにも警鐘を鳴らしていて、とりわけSNSなどに流され易い現代だけに要注意の時代だと改めて思わされた次第です。

    • やまさん
      おはようございます
      やま
      おはようございます
      やま
      2019/11/10
  •  「南京事件」或は「南京大虐殺」。これに関する本を数冊読んできたが、1937年、南京攻略の際、日本軍が、法にも人の道にも外れた残虐行為を行ったことに、疑いの余地はない。正確な被害者の数は最早永久にわからないだろうが、行為自体がなかったと主張する人間は、何を目指しているのか知らないが、無知か不誠実か、その両方だろうから、相手にしても仕方がないと思っている。
     この本に興味を持ったのは、著者が「桶川ストーカー殺人事件」の清水潔だったからである。1999年、桶川駅前で女性が刺殺される事件が発生した当時、清水潔は写真雑誌FOCUSの記者だった。彼は独自の取材を重ね、警察よりも大手の記者よりも先に真犯人にたどりつき、警察の対応の杜撰さ、怠慢、不正を暴き出し、一躍有名になった。その清水潔が、メディアがタブー扱いしているこの事件を調査報道の手法で調べるとどうなるか、大変興味があり、楽しみにしていたのだが、予想通り、大変有益な本であった。
     著者は、戦時中の一次資料を重視する。後から出てきた証言は、いろいろな思惑が絡んでいる可能性があるからだ。著者は、防衛相防衛研究所に保管されている当時の命令書、兵士が書いた現存する実物の陣中日記を読む。読む際は、紙の質や劣化具合までを確かめる。日記の中に船の名前が出てくれば、図書館や地元新聞社で出船や入船の記録を調べて期日を照合する。虐殺の証拠写真と言われるものについては、その撮影場所を周囲の景色から特定する。とにかく、あらゆる手段で一次資料の信憑性を確認していく。もちろん、中国・日本両国で、当時を知る人々に会い、話も聞く。
     こうした調査の結果、著者は、正確な犠牲者数はわからないにしろ、日本軍による虐殺行為があったという常識的結論を再確認する。これは予想された当然の帰結である。また著者は、南京事件を強く否定しながら、少し突っ込まれると「無かったとはいわないが……」とすぐに発言を翻す自民党原田義昭の無節操さ、それでいて最後はでも捏造だと主張する非論理性、繰り返される「国益」という言葉などから、南京事件についての対立の構図は「肯定派」対「否定派」ではなく、「利害」対「真実」だと思うようになる。慧眼である。
     調査の中で、日露戦争で勲章をもらった祖父、ソ連の捕虜となって強制労働に従事させられた父についてあらためて考える個人的な記述も、私は大変興味深く読んだ。とにかく多くの人に手に取ってほしい良書である。
     最後に、この本は著者が手がけたテレビ番組「NNNドキュメント 南京事件 兵士たちの遺言」(2015 日本テレビ)を発展させたものであるが、産経新聞がこの番組に対して、著者がこの本で予想した通りの反応を示したことが、滑稽だった。

  • 昔、小林よしのり氏のゴーマニズム宣言戦争論を読んだことがある。
    その中で、この南京事件に関して、疑問を呈する記述があり、本当に真実が何かよくわからないまま今まで来ていた。
    ちょっと怖かったが、とにかく事実を知りたいと思い読んでみた。
    小林氏が載せていた疑問で覚えているのは、
    ①南京の住民は中国で報告されている犠牲者30万人より少なかったという説。
    ②特派員が虐殺を報告していない。
    ③日本人を歓迎したという話がある。
    こういったところを覚えている。
    それはこの本を読めば、たちどころに答えが出る。
    ①→アメリカとイギリスの特派員はいち早く虐殺を報告している。
    ②→南京城内の住民は確かに30万人より少なかったが、周辺の人を合わせると100万人ほど住んでいた。
    ③→無政府状態を回避したいがために、歓迎の気持ちで迎え入れられた所があったにもかかわらず、虐殺は起こった。
    そして、それほど沢山の人間を殺しうるものなのか?
    殺害してその遺体はどうしたのか?
    とも思っていたが、その答えもここにはあった。

    これらの話を裏付けるのは、戦後小野さんという方が時間をかけて取材された元兵士の証言や日記31冊。
    捕虜の処刑、1万数千人、数千人という数字が出てくる。
    そうなると、30万人という数字も全くの誇張とは言えなくなってくる。

    日本人としては認めたくない事実だったけど、なかったことには出来ない。
    この痛みを知り、そして二度とこのようなことが起こらないようにするにはどうしたらよいかを考えていきたい。

  • 日本軍は悪、の結論ありき本。
    東京裁判はねつ造、の自虐史観批判本。
    もちろん本書はそのいずれでもない。
    著者が「殺人犯はそこにいる」の清水潔氏であることで、クオリティは読む前から保証されているようなものだ。

    私は自国の歴史に何であれ誇りを持っている、だが、というか、だからこそ、少なくとも清水氏が突き止めたような残虐行為が日本軍の手で、南京で、組織的に行われたことは、日本人として痛恨ではあるが認めざるを得なかった。

    慎重に補足するならば、「非戦闘員を含む30万人」の被害という主張を裏付ける本ではない。しかし自らの兵站さえ確保できなかった日本軍が、大挙して投降してきた中国兵捕虜2万人を管理しきれなくなった結果、許しがたい方法で「解決」を図ったことは客観的な証拠から明らかにされたとみていい。捕虜が暴動を起こしたから、という「ねつ造説」定番の主張も丁寧に反証されている。

    戦争中、もちろん相手もとんでもないことをやっていた。だが、我らの祖国も他国でひどいことをした、その事実も動かない。
    どちらについてもなるべく正確に知りたい。それに尽きる。

  • 中学校や高校の図書室に必要な本だと思う。

    多くの関係者が他界してしまった今になって声高に主張し始めた、という一点だけをとってみても、南京大虐殺や従軍慰安婦強制連行は動かしがたい事実だ。それはほんの少し考えればわかる。でもそれがまさかここまでおぞましいことだったとは、考えられる限界を超えてた。ことに、積み上げられたのではなく、塔に、山に、ならざるをえなかった人体の状況が。

    この本を読んで今、私にできることはなんだろう。

    生きていると、かつての自分が知ったら全力で否定するだろうと思うようなことをしてしまうことがある。自分の物差しとは相容れないのに、飲み込んでしまう。煮え湯でも。そして内側がただれる。
    自分の物差しが大切だからこそ、他人の物差しも大切にしたい。物差しの目盛りが「正義」だけになってしまうとき、その物差しは、振りかざされ、金属製の凶器になる。正義は振りかざした途端に、ただの傲慢な支配欲に成り下がる。それを覚えておかなくちゃ。

  • 自ら真犯人を突き止め、冤罪事件に関われば再審にまで漕ぎつける、規格外のジャーナリストである著者が本著で扱うのは、俗に言う南京大虐殺こと、南京事件。
    どんどんと地雷原に突っ込んでいくかのようで、何と言うか崇敬に似た感情を抱いてしまいます。

    本著を読んで思ったのは、思いのほか自分の感情が高ぶらないこと。同じ著者の「桶川ストーカー殺人事件―遺言」や「殺人犯はそこにいる」では、ページをめくる手が止まらず、興奮しながら読んだのですが、本著ではどうにもそういう気持ちになれませんでした。
    それはつまり、自分が日本人だからなのでしょうか。遥か昔のことでも、自分に都合が悪いことは認めたくない気持ちになったり、認めていても触れたくない気持ちになるものなのでしょうか。
    本著をキッカケに、そんなことを考えさせられました。これを自覚してからこそ、本当にフェアになれるのでしょうか。

    また、内容について、70年前の出来事を扱っているからこそ、入手できる情報量に限界があり、結局火種になっている「30万人」という虐殺の人数を明らかにすることも難しく、上記の2冊のようなカタルシスは無いです。(TV放送では触れられていたのでしょうか)
    本著の後半は旅順事件と著者のルーツへと向かいますが、個人的にはもっと南京を掘り下げて欲しかったなぁとも思いました。

    とは言え、相変わらずの調査量。丁寧なお仕事ぶりは見習いたい限りです。

  • 清水さん2冊目。
    扱っている題材が題材なので、殺人犯は〜に比べると、わあお!そうだったのか!!みたいな驚きはあまりなかったかな、と。
    というのか、改めて史料にあたり検証していくことが大事なんでしょうな。知る、知ろうとすることに価値を置かない世の中になって来ていることには危機感を感じます…

  • 南京事件はあったのか。30万人もの市民が日本人兵士によって虐殺されたのか。日中間で多くの議論を巻き起こし、どんな結果が出ようとも、左右どちらかから必ず批判されるであろう歴史問題だ。

    著名なジャーナリストであれば、深入りしても得にはならないことはわかっている。そんな事件を現代犯罪報道で数々の実績をあげた著者が挑む。なんともリスキーな行動だが、警察も裁判所も信じず、殺人事件の冤罪を証明した著者にすれば、あやふやな事実は許せないのだろう。

    そして、著者の取材方法は南京事件でも現代犯罪でも変わらない。一つの事象を様々な方向から検証して、裏を取り、「事実」と認定する。そこにあるのは「だまされない」という著者の決意だ。

    南京事件について書かれている市民の日記があれば、原本を確認して、その内容に矛盾がないか他の文献で裏を取る。こうして積み上げた事実による著者の結論は「南京事件はあった」。

    さらに彼の疑問は続く。南京事件を見ていない人に取材して、「南京事件はなかった」という報道に意味はあるのか、と。結局、南京事件報道とはイデオロギーや国益、ナショナリズム、ジャーナリズムがごちゃ混ぜになって生み出された「踏み絵」なんだろう。

  • 南京事変についてジャーナリストの視点から調査した本。

    桶川ストーカー殺人事件で名を馳せた著者だけあって、緻密な取材の過程が明らかになっていて興味深いです。

    南京事変を否定したい人もいるでしょうが、現実を直視することが重要であると改めて思いました。

    それにしても、歴史修正主義者には困ったものです。

  • 著者の清水潔は、桶川ストーカー殺人事件を、警察の犯罪も含めて事実上”解決”し、足利事件で菅家さんの冤罪を証明する原動力となった「伝説の記者」だ。現役ばりばりだから伝説は変かもしれないが。
    その彼が南京事件を扱うとなれば読むしかない。

    著者の手法は徹底した現場主義。こつこつと現場に足を運び、関係者に話を聞く。納得いくまで何回でも。
    とはいえ南京事件は70年以上昔の話だ。現場は大きく変わっており、関係者もすでに亡い。どうするのだろうと思っていたら、一次資料に当たりまくる。現場の兵士の日記、軍の記録、帰還後の兵士の証言。証言についてはテープやビデオで確認。
    これで南京虐殺なんかないというのなら、歴史なんか勉強したって意味ねえよな。
    なんで第2次大戦はなかったくらいのことを言い出さないのだろう?

    この人の本を読むたびに思うのだけれど、警察より早く犯人にたどり着いたりするのに、やっていることはごくまっとうで当たり前だ。それでどうして、と思うくらい。たぶん、他の人より少しだけ丹念で、少しだけ諦めが悪く、少しだけ生真面目なのだ。
    南京事件は著者の追った他の事件と違い、すでに終わった事件だ。本書はそういう意味での緊迫感はなかった。その代わり、著者のもう一つの旅、中国人に対する偏見や、自分の祖父が日露戦争の軍人だった事実を、消化していく過程が興味深い。そこにも目をみはるような飛躍があるわけではない。ひとより少しだけ誠実に、少しだけ生真面目に考えていく。中国に行ったり、中国人と話をするという現場主義がここでも顔を出す。そして著者の出した結論が、これまた平凡で、当たり前ではあるのだけれど、ああ、その通りだよな、と腑に落ちる。

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著者プロフィール

昭和23年生。皇學館大学学事顧問、名誉教授。博士(法律学)。
主な著書に、式内社研究会編纂『式内社調査報告』全25巻(共編著、皇学館大学出版部、昭和51~平成2年)、『類聚符宣抄の研究』(国書刊行会、昭和57年)、『新校 本朝月令』神道資料叢刊八(皇學館大學神道研究所、平成14年)。

「2020年 『神武天皇論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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