壁の男

著者 :
  • 文藝春秋
3.86
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本棚登録 : 568
感想 : 115
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  • Amazon.co.jp ・本 (348ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905525

作品紹介・あらすじ

ある北関東の小さな集落で、家々の壁に描かれた、子供の落書きのような奇妙な絵。その、決して上手ではないが、鮮やかで力強い絵を描き続けている寡黙な男、伊苅(いかり)に、ノンフィクションライターの「私」は取材を試みるが……。彼はなぜ、笑われても笑われても、絵を描き続けるのか?寂れかけた地方の集落を舞台に、孤独な男の半生と隠された真実が、抑制された硬質な語り口で、伏せたカードをめくるように明らかにされていく。ラストには、言いようのない衝撃と感動が待ち受ける傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • ずるい!
    単なる東京から故郷に戻り、塾を経営し、ある時から壁に絵を描き出した話から
    遡っていく。

    3歳の女の子の癌の闘病
    辛くで読み進められない、抗がん剤投与そして副作用に苦しみむ様子ー辛くて、つらくて。

    主人公伊刈の娘、妻
    遡れば恋人
    そして母、父とつながって
    いろんなことが表されていく「ネタバレになるので〜」


    本文よりー
    人と人との間にわだかまりを作るのは才能の有無ではなく
    劣等感なのだとしみじみ実感する。



    ー言葉にする事で分かり合えることもある、だがどうしても言葉が届かない場合もある。


    ーどんなに辛くても時間は流れていく

    ー喜んでも悲しんでも、時間は坦々と流れていく

    4年前貪るように、貫井徳郎を読んだ、ほとんどの作品たぶん全部。
    大好きな作家

    久々に新刊と思って「壁の男」を読んだ。

    最後に全部の謎が解き明かされた。

    最後は号泣。

    人間の悲しさ、宿命の悲しさ

    どんなに辛くても生きていかなければならない苦しみ。
    一つや二つではない
    いろんなことを示唆されている
    大作だと思う。
    たくさんの人に読んで欲しい。

    主人公のただひたむきに生きていく内面の持っている葛藤。

    自分だったらどう生きていくのか
    いろいろ考えさせられた。

    中山七里、吉田修一、道尾秀介、宮下奈都、宮部みゆきと
    いろんな作品を読むのが忙しくて。

    あーやはり貫井徳郎も目が外せないな!

    • hiroki-musashinoさん
      いや〜よくわかります。この作品はホントにいいですよね!
      いや〜よくわかります。この作品はホントにいいですよね!
      2020/02/03
    • トミーさん
      hiroki musasinoさん

      ありがとうございます。一時期
      貫井徳郎にハマってほどんと読みましたが
      レビュー書いてないので
      忘れまし...
      hiroki musasinoさん

      ありがとうございます。一時期
      貫井徳郎にハマってほどんと読みましたが
      レビュー書いてないので
      忘れました。
      2020/11/07
  • 久々に心を揺さぶられる小説に会う。この本は幾つもの異なる極上のテイストの小説を一冊で読めるような、そんな贅沢な作品だ。しかもその一冊一冊の小説の質の高さには脱帽せざるを得ない。

    作者の人生の機微を知り尽くしたかのようなセリフの数々には唸らせられた。中でも幼い子供が病気と懸命に闘う姿とそれを必死で支える父親の姿には心を締め付けられずにはいられない。

    それでいてミステリーの要素も充分とあっては、これはもう傑作と言っても過言ではない一冊だ。

  • なんとも切ない物語。栃木県のある街は異様な光景が広がっていた。家々の壁に稚拙な絵が描かれている。その絵を描いた男、伊苅。伊苅はなぜこのような絵を描いたのか。ラストには全てが解き明かされる、というか、心に染み渡ってくるのだが、ラストに至るまでの経緯が本当に丁寧に描かれている。
    この物語は、伊苅側からの視点と、この絵を描いた男に興味を持ったノンフィクションライターの鈴木の視点から成り立っている。読者もこの鈴木と同じく、なぜ伊苅はこのような絵を描くことになったのか。そして、伊苅の人となりが語られていく中で、伊苅自身に興味を持つことになる。
    そして、読み終えると、静かな感動に浸ることになるだろう。

  • 久しぶりの貫井作品。
    第一章から壁の絵の意味は何だろう?と思いながら読み進める。
    章ごとに場面が変わりながらも全体的に暗く、息を詰めるように引き込まれていく。
    最後の章まで読むと全てが繋がり、一つの作品として流石だなと沁みる。
    ドラマ的には地味な第四章が、主人公の伊狩を形造る出発点のように感じ、個人的には印象に残りました。

  • 安心して読めます。独特のもどかしさが後半溶けていく感じがします。

  • 感動した…
    そういうことだったのか…
    家の壁に稚拙な絵を描く寡黙な男の話。
    なぜか人々を惹きつけて、彼に我が家にも、うちのお店にも描いて欲しい…と次々伝染し、街中稚拙な絵だらけに。

    絵を描く男はどういう男なのか。
    ノンフィクション作家が動き出すが面白い話は出てこない。
    ただ、男目線の懐古録では、誠実に愛情に溢れたドラマが繰り広げられていた。

    中学生時代に男の母が言った言葉、才能があるから偉いわけじゃない、才能がないからって卑屈になる必要ない、が刺さった。
    才能がない凡人は、家族でも友達でも才能がある人が身近にいると嫉妬して苦しむ。そして、嫉妬される方もそのことに苦しむ。
    本当は必要ないことなのに。柔らかい中学生の男に素直に響いて、彼を救ったのが良かった。
    嫉妬心は本当に厄介。私も嫉妬に苦しんだり、妬まれていると感じたりすることがあるけど、男の母の言葉で少し救われた。

  • 先日「悪の芽」で初読みだった貫井徳郎氏。肌に合ったので続いてこちらも。やっぱり初読みの印象通り、いい!

    ある田舎町、その町中に稚拙な絵を描き続ける男、伊苅。稚拙だがどこか心をワクワクさせる不思議な絵。彼は何故描き続けるのか?ノンフィクションライターの私がインタビューするが無愛想な返答ばかり。そんな寡黙な伊苅の過去を辿って物語は進んで行く。妻の不貞行為の描写には心が締め付けられた。そして3歳の笑里の横紋筋肉腫。抗がん剤治療の過酷さ。そして伊苅の母の強さ。「<前略>才能の有無と、その人の価値は、まったく別の問題なの。才能があるからって、ただそれだけで人の価値が決まるわけじゃない。何をしたかが大事なの」人は人の才能に嫉妬してしまう。それは人間だから仕方のないこと。

    更にそれだけでは終わらない真実が後半に。赤い絵の女の子が誰か分かった時の衝撃。秀作。

  • ずっと読みたいと思っていた本。
    やっと読むことができて一気読みした。
    読む前にこうじゃないか?と思っていたのとは違う内容だったけど、静かな読後感だった。
    読んでいての印象は、前半と後半にくっきり分かれていて、話が途中から変わってしまった、作者が書きながらストーリーを組み立てたような話ということ。

    「壁の男」は家の壁に絵を描く男のこと。
    男は自分の家ならず、他人の家にも請われて絵を描くようになる。
    その絵というのが幼児が描くような稚拙な絵で芸術性はない。
    そんなへたくそな絵が描かれた家が立ち並ぶ田舎町はやがてネットで話題となり多くの人がその町に押し寄せるように。
    そして、ノンフィクションライターの女性はその現象に興味をもち、「壁の男」について取材をすることになる。
    何故彼は壁に絵を描くのか?
    住民たちはなぜ自分の家の壁に絵を描かせたのか?
    そもそも「壁の男」とはどんな男でどんな生い立ちなのか?

    私が読み終えて思ったのはこのノンフィクションライターの女性って必要だったのかな?ということ。
    特に中盤から後にかけては存在感が希薄で、ほとんどが「壁の男」の半生をその女性の取材で分かるというよりも勝手に物語の中で綴られている感じなので特にいらなかったような気がする。
    彼女には前半に何故こんなに住民たちが連携して絵を描かせたのかとか、人が押し寄せるようになった町が一時は潤ったが、その後どうなったのか?なんて事をもっとつっこんで調べて欲しかった。

    壁に絵を描く、描かせるという事がどういう行為で何故そうなったのかという事を前半私なりに分かったつもりでいたけど、読み進めるにつれてそれだけじゃない、男の絵というものに対するこだわりがあった事が見えてくる。

    人は大切なものを失った心をどこかにぶつけずにはいられない。
    壁に絵を描くなんて、普通はしないこと、人に非難されかねないことがその思いを受け止める。
    ダメだって言われてきたような事をする事にワクワク感、高揚感がある。
    得ることよりも失うことが多い人生では寂しくてどこかにその思いを表したい。
    私もこの本を読んで絵を描いてみようかという気になった。

    また、後半の男の母親の言葉を読んで、才能っていろいろあるよな・・・と思った。
    人が賞賛する才能、分かりやすい才能もあるけれど、誰にも認めてもらえない、分かってもらえない才能・・・そんなの誰にでも1つはあるんじゃないかと思う。

  • どうして絵を描くようになったのか、その真髄がラストにわかる構成は見事でした。子どもの闘病場面は本当につらいです。そして伊刈さんの今後の幸せを祈らずにいられません。ただ、笑里ちゃんは、途中で呼び方変えたの?それがちょっと不思議でした。

  • 学生時代に、人と人との間にわだかまりを作るのは才能の有無ではなく、劣等感なのだ。っていうのに気づけてよかったな。

    笑里ちゃんへの想いは、せつない。やりきれない。

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著者プロフィール

1968年、東京都生まれ。早稲田大学商学部卒。93年、第4回鮎川哲也賞の最終候補となった『慟哭』でデビュー。2010年『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞受賞。「症候群」シリーズ、『プリズム』『愚行録』『微笑む人』『宿命と真実の炎』『罪と祈り』『悪の芽』『邯鄲の島遥かなり(上)(中)(下)』『紙の梟 ハーシュソサエティ』『追憶のかけら 現代語版』など多数の著書がある。

「2022年 『罪と祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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