最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163905594

作品紹介・あらすじ

◎TEDトーク225万回再生◎私たちはいつ言語を獲得し、文字を使い始めたのか?4万年前の氷河期に残された壁画の数々。そこには牛や馬の絵とともに不思議な記号が残されていた。ヨーロッパ全体368箇所の洞窟に残された記号を世界で初めてデータベース化。すると記号はわずか32個に収斂された。2400キロも離れた2つの洞窟に残された記号が一致するのはなぜか?あるいは急峻なピレネー山脈を挟んで、一致した特異な屋舎記号。自ら52箇所の洞窟に潜って記号を採取したカナダ人女性科学者がその謎に挑む!【目次】■はじめに 太古の人類が残した記号氷河期に残された人類の壁画の数々。そこには牛や馬などの絵とともに不思議な記号があるのをご存じだろうか? ヨーロッパ全体三六八カ所の洞窟に残された記号を私は初めてデータベース化した。すると三二個の記号に収斂された■第一章 何のために印をつけたのか?膝の高さもない、ぬかるんだ穴へ。誰も寄り付かないスペインの洞窟で見つけたのはたった二つの赤い点。だが、それは太古の人々の確かなる痕跡だ。四カ国、五二の遺跡を這いずり回り、幾何学記号の謎を解く手がかりを探し出す■第二章 人類のはるか以前に道具を使った者たちケニアで発見された世界最古の石器は三三〇万年前のもの。ジョージアでは一五〇万年前の手斧が見つかった。現生人類が出現する二〇万年前よりずっと昔に旧人類たちは道具を作り始めていた。道具の使用は意識の誕生と重なる■第三章 死者をいたむ気持ちの芽生え死者を弔い、我が身を飾る、人間が人間たる精神的な営みはいつ始まったのか?三万五〇〇〇年前に精神性を獲得した、というこれまでの考えはデータベースの構築によって覆された。一〇万年前の遺跡で見つかった副葬品と火打ち石■第四章 言葉はいつ生まれたのか?南アの遺跡で見つかったダチョウの卵殻には、格子のような幾何学模様が刻まれている。たった5つのパターンが繰り返し現れる、その意味は所有を表すのではないか。そうした慣行をもつ種族はすでに言語を獲得しているはずだ■第五章 音楽の始まりアフリカを出て氷河期のヨーロッパに到達した人類。彼らは寒冷な生活様式に素早く適応する。やがて最古の定住集落が形成され、余暇を楽しむ時間も生まれた。欧州中の洞窟遺跡で、骨や象牙のフルートが見つかっている■第六章 半人半獣像とヴィーナス像氷河期の芸術家は動物と人間の半人半獣像を数多く残した。また人間を象った〝ヴィーナス像〟も盛んに出土している。その目的を解釈することには限界があるが、彼らは信仰や起源神話に突き動かされていたのかもしれない■第七章 農耕以前に布を織っていた三万五〇〇〇前に生まれた最初の村。マンモスの骨を使った家に住む彼らは布を織り、かごをつくっていた。発掘された土器についた指紋以外の模様は、最古の布地やかご細工に使われていた模様だった。農耕を始めるはるか前の話だ■第八章 洞窟壁画をいかに描いたか?スペインのラ・パシエガ遺跡には二万七〇〇〇年前に赤い顔料の調合に用いられた砥石が残されている。過去の芸術家はいかに壁画を描いたのか。彩色と線刻の技術を紐解くと、現代人に匹敵する知識とスキルの高さが浮き彫りになる■第九章 欧州大陸に到達以前から描いていた半減期を利用した年代測定によって壁画の年代が、さらに古く書き換えられている。このことは人類がヨーロッパに到達したその瞬間から壁画をすでに描いていたことを意味する。いずれアフリカにおける洞窟壁画も発見されるだろう■第十章 唯一の人物画氷河期の芸術家にとって、動物は何より重要なモチーフだった。地域と年代に関係なく、躍動感に溢れたウマやバイソンたちが描かれ続ける。反対に人物画は少なく、写実性も薄かった。ただしシチリアのアッダウラ洞窟だけは例外だ■第十一章 遠く離れた洞窟に残される共通の記号シチリアとスペインの洞窟では同じ幾何学記号を使っていた。あるいは非常に特異な屋舎記号もピレネー山脈が隔てる二つの地域、今のフランスとスペインで使われている。羽状の記号は、今のフランス、スペインの多くの洞窟にある■第十二章 それは文字なのか?甲骨文字、楔形文字など文字の成立は約六〇〇〇年前と考えられている。ではそれ以前の例えばラ・パシエガ遺跡に描かれた複雑な抽象記号は文字だったのか? 私は視覚の世界を抽象的な記号に置き換える文字の始まりだと考える■第十三章 一万六千年前の女性の首飾りに残された記号群フランスのドルドーニュ地方で副葬品として見つかったシカの歯の首飾り。歯には幾何学記号の組み合わせが刻まれており、周辺の洞窟の記号パターンに一致する。図形は記数法もしくは物語を記憶する手段に使われたのかもしれない■第十四章 壁画は野外にも残されていた祖先にとって洞窟だけが芸術の場所だったのか。ポルトガルのコア渓谷には野外の岩壁画が今も残る。そこに刻まれた曲折模様は目の前の川にそっくりだ。幾何学記号は身近な世界のものごとを描いていたものも多いのかもしれない■第十五章 最古の地図か?点や羽状記号など、多くの洞窟に見られる記号の解釈について、星座、記数法など様々な説が提起された。スペイン北東部の洞窟で見つかった一キログラムの石に刻まれた一万三五〇〇万年前の模様は、洞窟周辺の地図のようだった■第十六章 トランス状態で見える図形なのか?神経心理学の研究からトランス状態にある人は一定の抽象図形が見えることが判明している。渦巻き、ジグザグ、格子などは、儀式の際に人間が見る図形だったのか? 構築したデータベースによってこの仮説を検証してみる■おわりに データベースを世界の遺跡に広げる私が作ったデータベースは氷河期のヨーロッパの洞窟の記号が中心だ。が、このデータベースを今後、中国やオーストラリアなどの洞窟に広げていけば何がわかるだろう? 具象から抽象へ、その記号の違いから新たな発見もあるか?

感想・レビュー・書評

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  • 岩絵遺跡を調査する古人類学者による、文字や記号の誕生を探る活動が綴られた一冊。
    壁画などの芸術は学者だけでなく大衆からも注目されますが、文字かもわからない記号のようなものにはあまり関心が集まりません。
    調べなければ始まらないということで著者が本腰を入れて研究を進めます。
    文章のようなもの、単語のようなもの、単体の文字か記号のようなもの、色々見て回った結果として共通の記号や染料などが判明していきます。
    しかし、それが本当のところ文字なのかはわからないのです。
    シャーマンが儀式の最中か末に描いた物が記号に見えるだけなのかもしれませんし、一つの記号に複数の意味があるか単一の音を表しているのか、全てが謎です。
    我々が音声と文字でコミュニケーションを取り始めた切っ掛けや、古の呪術や芸術の始まりについては研究の余地がまだまだあります。
    本書は後進への道標となる内容であると感じましたし、今後の進展に期待します。

  • Code hidden in Stone Age art may be the root of human writing | New Scientist
    https://www.newscientist.com/article/mg23230990-700-in-search-of-the-very-first-coded-symbols/

    最古の文字なのか? ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー著 - 日本経済新聞(2016年12月11日 会員限定記事)
    https://www.nikkei.com/article/DGKKZO10524190Q6A211C1MY6000/

    『最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』|感想・レビュー・試し読み - 読書メーター
    https://bookmeter.com/books/11204476

    Genevieve von Petzinger | Speaker | TED
    https://www.ted.com/speakers/genevieve_von_petzinger

    『最古の文字なのか? 氷河期の洞窟に残された32の記号の謎を解く』ジェネビーブ・ボン・ペッツィンガー 櫻井祐子 | 単行本 - 文藝春秋BOOKS
    https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163905594

  • ヨーロッパにある氷河期の洞窟に動物の絵があるのは有名だが、その動物の絵の周辺にある記号に初めて焦点を当てた研究についての書籍。
    氷河期の動物画は昔から知られていたのに、今まで誰もその周りにある記号に注目していなかったという驚きをまず感じる。
    この本では記号たちはは最古の文字ではないが、数を数えるための記号か地図等に使われていたのではないかという結論に至っている。
    氷河期の人間の認知能力はすでに高くなっており、未来のことを考えたり外界を認識したりできる証拠ではないかとなっていた。

    20世紀までの学者たちのヨーロッパ中心の考え方のために、アフリカで誕生した人類がヨーロッパにたどり着いたころに認知能力が高まったと考えていたが、アフリカにいたころにすでに十分な認知能力を得ていたことが分かってきたということも書かれていた。
    20世紀までの考え方を捨てていくと新しい発見はまだあるのだと感じた。

  • 読了。内容は面白かったけど、思ってたんと違って文字の話はあまり出てこず、主に壁画の話だった。あと説明している壁画や図形の図版がほとんどなくてイライラした。時々あっても小さくて不鮮明だし。そして調査のために洞窟に入るシーンは、閉所恐怖症の人にはきつい描写だった。

  • 現生人類の祖先がアフリカをでて、ヨーロッパ大陸に進出した時の痕跡としてよく知られているのはフランス、ラスコーの洞窟壁画。躍動感のあるウシやウマの絵が特に有名ですが、著者がスポットを当てるのは、これらの絵の脇に描かれるような比較的地味な「記号」。驚くほど注目されてこなかったこれらの記号から、どのような情報を引き出せるのかが、本書を読む楽しさといったところです。

    著者は主にヨーロッパの洞窟壁画を探す調査であちこちの洞窟に入って行きます。あまりに注目されてこなかった記号は、記録に残されていることが少なく、記録があったとしても名称に統一性がないため、自分の目で形を確かめる必要があったとのこと。

    そうして集めに集めた記号の統計をとって、ようやく始まった研究はいきなり驚くべき結果を出すことになります。

    32種類。

    広大なヨーロッパ大陸、時間にして3万年。
    広く長い時空間で使われた記号の種類がたったの32種類。

    これが意味することとは?
    旧人類の研究において斬新な発想で進められる内容は、著者も認める通り今となっては証明が難しいのは確かですが、新たな側面を広げることによって、ヨーロッパ以外の旧人類の痕跡を統計に入れようとする新たなステップにもつながって、ますます面白くなりそうです。

  • 授業内容更新用。ヨーロッパの洞穴に残る、人類の手による幾何学模様の中に共通する形が多いことに着目し、これを最古の記号と捉えて考察を進めていく。
    著者は博士課程在籍で、幾何学模様をデータベース化し、現在博論に向けて分析を進めているところであるという。

    結論から言えば最古の文字ではないのだが、幾何学記号の利用の話を組み込むことは必要そうだ。←組み込んだ

  • ラスコー遺跡の壁画に動物が描かれていることはよく知られている。一方で、平行線や点などの幾何学模様(記号)も描かれていることはあまり知られていないのではないだろうか。私も知らなかった。岩絵は何度も見たことがあるから、記号の存在に気がつかなかったのだろう。著者は、研究されていない古代の記号をデータベース化し、文字の起源であると思われるものを研究している。記号のデータを集めるだけでも大変な苦労がある。研究は始まったばかりであり、本当の成果は数年先でないと出てこないだろう。本書は、古代ファンを惹き付ける研究分野があることを知ることを目的に読んだ方がいい。著者が慎重なのか、推定でしかない事を断定することはない。そのため、結論を知らされない読者はもやもやするが、数年後には新たな発見がありそうな期待感で胸を膨らますことができる。

  • ラスコー洞窟のような見事な絵を描ける人びとが、原始的な文字を持っていてもおかしくない、と思う。この記号が表した意味も絵画の表した世界もすでに失われてしまったのだろうか?ほんの一部でも今の私たちに受け継がれているのだろうか?いろいろ想像すると面白い。

  • ヨーロッパの300か所を超える洞窟に残された様々な模様、記号を調査、データベース化してみると、それはわずか32個に集約された。これらの意味を探るべく著者は調査を重ねる。日本語タイトルは「文字」という言葉を使うが、本文は洞窟に残された様々な記号、模様についての考察が中心であり、本書においてはそれらが文字であるとは結論付けていない。
    とはいえ、このような研究はまだ間発展途上との事なので、今後のさらなる研究に期待している。
    あと、本書のおかげで少し考古学や古人類学に興味が出た。

  • 普段使っている文字というよりは、記号の起源の研究に関する内容。
    カラー挿絵があるのは嬉しいですが、本文中で紹介されていない写真等がもっと載っていると嬉しかったです。
    あと、ちょっと長いw

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