夜の谷を行く

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163906119

感想・レビュー・書評

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  • 桐野さんの「抱く女」も読んでいて、同じ60年代後半から70年代という時代背景だが、個人の取った行動や感情はこうも違うものかと思った。「抱く女」の方が時代的には後なので、事件を受けてのしらけ世代ともいえるのかもしれない。

    世の中を変えるため、よくするためだった革命が凄惨なリンチという結果に終わり、それがすべてではなかった良い面もあったとは死者の前に言うことはできない。けれど、何か訴えるものがあったからこそ赤軍に限らず、若者が学生運動に夢中になったことは確かだけれど、良い面を説明してくれる人はあまりいない。壊すのが楽しかった、壊してそのあと何も作り出せなかったとは聞いたことがある。

    この小説は、最後の方で、女性の視点も加えた新しい共同体を作るという目的が赤軍にあったという想像を加えていて、その点がもし現実もそういう面もあったなら救いとなっただろうと思った。ひどく失敗したのではあるが。

  • ⑪1970年代連合赤軍のなかで浅間山荘事件の前に行われた山岳ベース事件で脱出した啓子が主人公。過去を後悔しているように見えて、まだ自分の経歴や赤軍への甘い想いを捨てきれない感じがある。最後の落ちも良かった。

  • 連合赤軍の話。
    この事件のことをよく知らなかったので読後調べてみた。
    異様な環境だったんだなあ。
    日常に溶け込みきってない主人公がクールで著者とかぶった。
    経験をしていないとわからない孤独。
    自分の普段の暮らしにも転がってる気がする。
    主人公が通うジムでの下世話な方々との遣り取りは流石。嫌悪感絶好調だった。

  • あさま山荘事件の現場にいた、元活動家の女性が主人公。
    今は老いてひっそりと暮らす女性の元に当時の仲間だった男性から連絡がある。
    それを機に、彼女は元夫、自分の事を取材したいと言う男性、一緒にあさま山荘から逃げた仲間の女性と接触することになる。

    何となく読み始めて、これは元活動家の女性が、事件のあった頃の事を回顧する話だろう・・・と思っていたらそうではなかった。
    話の軸は現在の彼女で、それに昔の話がからんでくるというストーリー。
    そして、現在の主人公女性と言えば、老いてひっそりと淡々と暮らしていて、性格も特に過激だとかいう事もない。
    そんな女性の日常と心情が描かれているのがほとんどなのに、全く退屈することもなく読ませてくれた。
    私は桐野夏生さんが描くこういう何気ない日常の描写が好き。
    何でこんなに変わり映えしないのに面白いんだろう・・・と思う。

    読んでいて中盤あたりから私が感じたことは、
    「この主人公の女性が好きじゃない」ということ。
    それは後半に向かってじわじわと加速して結末では「嫌い」になっていた。
    読んでいて今身近にいる女性に重なってきた。
    頭が良くて立ち回りがうまい。
    だけど、その人は誰も好きじゃないし、だから誰にも好かれてない。
    この人って「こういう人なんじゃ・・・」と思って読んでいたら後半の登場人物によって私が思っていた通りの人物像が語られていた。
    魅力のない人間だと思う。

    結末は「ああ、そうか・・・」という話が用意されているが、それは私にとってはどうでもいい事だった。
    普通の人が経験できないような過去をもちながらも、それがある意味、「身になってない」女性の生き様の方に興味がわいたし、読んでいて静かにわくわくした。

  • アメトークで光浦さんの好きな本として紹介されていたので読んでみた。

    連合赤軍についてほぼ知識がないまま読んだのですが…

    いつまで罪を犯したことを引きずればいいのかとはよく思うけど…

    啓子は当時そういう思想の元で動き罪を犯してしまい、刑期を終えてるとはいえ、どこかその思想をまだ持っているんじゃないか?刑期を終えたんだからもういいじゃないと反省の色が見えずにいたような気がした。

    私も佳絵や和子と同じように感じているのかもしれない。

    2017.12.1 読了

  • 連合赤軍の山岳ベースから脱走した女性・啓子が主人公。連合赤軍の関係者とは縁を切り過ごしていたが、一本の電話をきっかけに、昔の仲間に会うことになる。あの時、自分は何を考えていたのか。山岳ベースで起こったリンチ。明らかに間違えているのに、間違っていると誰も言わないことが恐ろしい。主人公には共感できなかったけど、一気読みだった。どうなるのかと思ったけど、希望のあるラストに救われた。

  • 連合赤軍事件の史実に基づき、実際には実在しない架空の女性・啓子の目線を通して、事件が語られる。
    帯にあさま山荘事件とあるので、その話がメインだと思っていたが、もう一つ、問題になったリンチ事件に焦点を当てている。
    物語自体がつまらない訳ではないが、啓子の自分勝手な物言いがとても不快感を感じる。桐野作品が大体そうであるけど、自分の犯した罪を罪とも思ってなく、自己弁護に終始徹する啓子に最後まで共感する部分がなかった。学生運動が盛んな時代を知らない私には、啓子がなぜ連合赤軍に加わったのか、動機も理解出来ないし、周囲との関係を遮断したと言いつつ、いろんな人に接しては、自分を正当化する…そんなことを言われても、私も姪の佳絵と同じく、啓子は「テロリスト」だと思うし、決して許されることではないと思う。小説としてはありだけど、実際に啓子のような人がいたら、決して許せない読後感の悪い作品。

  • 史実を元に連合赤軍にいたという架空の女性の今を語ることで、あの連合赤軍にいた日々がどんなものだったのか、そして現代になった今、彼女たちはどう生きていくのかをリアルに感じることができた。桐野さんだからこその女性の描き方だなと思ったが、思ったより過激にならずソフトだった気がした。
    少しひっかかったのは、主人公である啓子が赤軍派に入って、危険な生き方をしてまでそこにいる理由がしっかりと語られていない気がしたこと。国に対する反発、反社会的思想など啓子の思いがイマイチ見えてこない。何となくそこにいてしまったという感じ。そのため子供を革命の戦士にと言われてもピンと来なかったし、赤軍派にいた過去により周囲に迷惑をかけても自分は悪くないと保身的になる姿には共感できるものがほとんどなかった。
    それとも赤軍派にいた女性はこういう感じだったと作者が作為的に作った主人公だったのだろうか。
    ひとつ印象に残ったのは姪が啓子をテロリストと言ったとき、なるほど今はそういう風に見えるのかと時代の変化を感じた。

  • 桐野夏生は色んな意味でドギツイ印象があったが、この著作は淡々と語られていて素直に面白いと感じた。時々の心情がよくわかる文章力は流石。自分自身が学生運動世代の次世代でドストライクではないので理解できない面もあるが、60~70年代の時代の空気感を感じられる良作。
    私の想像力が足りないのだが、古市氏が啓子の実の子供だったという最後の告白には推理小説的な要素も多分にあって楽しめました。

  • 桐野版『ノルウェイの森』と思った『抱く女』と同じくらいの時代を描いたもの。私はその時代の人ではないし、その関連書籍も読んでいないので深くは知らないけれど、すっと読めていった。桐野さんと同じくらいの年齢の方は、より深く読めるのではないかな。
    会話が多くサクサク読めていきますが、もう少しだけでも、心の中を深く描いても良かったのでは。しかし、生の人間をありのまま書いていたりで、まあこれはいいかな。
    桐野さんの中でも書くことにより、この時代のものを一つ終わらせたのでしょうか。

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著者プロフィール

1951年金沢市生まれ。1993年『顔に降りかかる雨』で「江戸川乱歩賞」、98年『OUT』で「日本推理作家協会賞」、99年『柔らかな頬』で「直木賞」、03年『グロテスク』で「泉鏡花文学賞」、04年『残虐記』で「柴田錬三郎賞」、05年『魂萌え!』で「婦人公論文芸賞」、08年『東京島』で「谷崎潤一郎賞」、09年『女神記』で「紫式部文学賞」、10年・11年『ナニカアル』で、「島清恋愛文学賞」「読売文学賞」をW受賞する。15年「紫綬褒章」を受章、21年「早稲田大学坪内逍遥大賞」を受賞。23年『燕は戻ってこない』で、「毎日芸術賞」「吉川英治文学賞」の2賞を受賞する。日本ペンクラブ会長を務める。

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