- Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
- / ISBN・EAN: 9784163906119
作品紹介・あらすじ
連合赤軍がひき起こした「あさま山荘」事件から四十年余。その直前、山岳地帯で行なわれた「総括」と称する内部メンバー同士での批判により、12名がリンチで死亡した。西田啓子は「総括」から逃げ出してきた一人だった。親戚からはつまはじきにされ、両親は早くに亡くなり、いまはスポーツジムに通いながら、一人で細々と暮している。かろうじて妹の和子と、その娘・佳絵と交流はあるが、佳絵には過去を告げていない。そんな中、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から突然連絡がくる。時を同じくして、元連合赤軍最高幹部の永田洋子死刑囚が死亡したとニュースが流れる。過去と決別したはずだった啓子だが、佳絵の結婚を機に逮捕されたことを告げ、関係がぎくしゃくし始める。さらには、結婚式をする予定のサイパンに、過去に起こした罪で逮捕される可能性があり、行けないことが発覚する。過去の恋人・久間伸郎や、連合赤軍について調べているライター・古市洋造から連絡があり、敬子は過去と直面せずにはいられなくなる。いま明かされる「山岳ベース」で起こった出来事。「総括」とは何だったのか。集った女たちが夢見たものとは――。啓子は何を思い、何と戦っていたのか。桐野夏生が挑む、「連合赤軍」の真実。
感想・レビュー・書評
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赤間山荘事件における真実の一面を描こうと、当時の事実や構造を再確認しながら、ある女性兵士の視点からフィクションを織り交ぜながら語り直させたストーリー。
週末の事か、私はテレビを見ないがとある番組で日本赤軍は重信房子の娘がイスラエル問題を語った事でネットが騒ついていたようだ。重信は、パレスチナを拠点にテルアビブ空港乱射事件に関与した。本著の赤間山荘事件は、日本赤軍ではなく、連合赤軍。共にブント、赤軍派の流れを汲む。こちらは永田洋子が有名で、私は彼女の書いた『十六の墓標』も読んだが、毛沢東思想を根拠とした自己批判、総括によるリンチがクローズアップされる。独裁私刑によって自壊しつつあった所に、事件を迎えた。
主人公は、当事者である。いや、当事者か否か、その主観、客観、二つの視点に媚びりつく想念の葛藤や連鎖が小説の見どころでもある。関係性に影響を及ぼし、一つは自我として自らの解釈に折り合いをつけながら自身が背負う人生となり、もう一つは他者の人生の軌道に影響を与える。時間軸で抜き取ったこの関係性の揺らぎをメタで台本としてトリミングしたのが小説であり、人間ドラマだという事だろう。
暴力で支配する。私的独占を排し、公共の福利を求めた思想において、一人や二人の犠牲は取るに足らないのか。思想改善なら殺してはならない。粛清は合理主義か。犠牲の多寡が判断軸ならば、基準はその層別と識別において主観。自己批判の前に、自己矛盾、思想自体が矛盾したものだと気付かねば、やがてエネルギーは主観、客観ともに自己正当化の立証に費やされていく。純粋な理想を求めた私的欲求という、動物であるが故の肉体の限界と葛藤ゆえに。
とてつもない。小説の更なる可能性を感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
群馬県の山中に籠った連合赤軍の同志に対するリンチ殺人、その凄惨な現場から脱走した西田啓子(仮名)は、逃走中に逮捕され5年余の服役を経て40年、世を忍びひとり静かに暮らしてきた。やがて連合赤軍元最高幹部・永田洋子の獄中死を知らされ、東日本大震災の襲来と共に、思い出したくない過去の深い因縁に脅かされることに・・・。革命を夢見た女たちの生き様をテーマにした、高質で重厚な社会派心理サスペンス小説。
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連合赤軍のリンチ殺人事件をベースに描いた物語。
主人公は実在の人物ではないけど、刑期を終えてからはひっそりと素性を隠しながら暮らしていく。
事件に関わった人物の資料を読むと、刑務所から出た後の世間の受け入れは良かったというものをよく目にしていたけど、こうやってひっそりと暮らしていかざるを得なかった人もいただろうなと思いながら読んだ。事件のその後、B面の物語をみてるみたいで面白かった。
この時代が好きな人にはおすすめ。
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連合赤軍の話かあ…リンチとか厳しそうだな〜と思い、しばらく読むのを躊躇っていたのですが、そこはさすがの桐野さん!スイスイ読めちゃうのに的確で鋭い表現で、深いところをえぐってきます‼︎ 一気読みでした。
お話は、西田啓子の現在の暮らしからスタートして、思い出していくものなので、実際の事件の箇所は、全体からすると少ないといえるほどです。むしろ、それが効果的だと思いました。
私自身も連合赤軍事件というものは、イメージでしかなく、あまり理解はしていないのですが。
世間からは単純に「リンチで仲間を殺した」という恐ろしさを持たれ、なおかつ「革命」という名の、あまりにも愚かしい(と私は思う)幼ささえ感じる、そういった犯罪。そして刑期を終えた後の人生とは?
ひっそりと暮らしてはいるものの、啓子自身の頑なさもあり、唯一の肉親である妹や姪との諍いや、しかし、やはり肉親であることの尊さ。妹や姪との喧嘩の場面は、どこまでいっても平行線にしかならない辛さをしみじみ感じました。誰しも、自分の歩んできた道を忘れることは出来ても、消すことは出来ないんですものね。
こんな重いテーマなのに、こんなふうに読みやすく描かれ、しかし答えがあるわけではないのが人生と言わんばかりに、ラストは放り出すように終わる。この桐野さんらしさが私は大好きだ‼︎ やっぱり凄いなあ〜と唸ってしまうのでした。傑作です‼︎
印象的だったところ、少し。
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見栄や思い上がりいや愚かしさ、そして屈辱、若い頃の感情は恥ずかしいことだらけだ。
しかし、自分は何を誤解されたくないのだろう。いったい、「真実」とは何か。
家族は子供が死んでも勿論悲しいけど、その子が誰かを殺したら、もっと悲しいんだと思う。だから、それも親の気持ちなのよ。
彼女は、その場で求められている正答しか言わない。だから、生き延びたんだと思います。
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図書館で借りて読みましたが、文庫版の解説も読んでみたくなりました。 -
あさま山荘事件を基にした小説ですが、登場人物の多数が実名であり、参考文献も非常に多い事から、アウトラインはかなり事実に即しているのだと思います。
世代では無いのでその時の空気感は分かりませんが、子供の頃はまだ連合赤軍や中核派といった極左への警戒感は強かったと思います。
あさま山荘事件に関わり5年の服役を済ませ、市井でひっそりと目立たず生きて行く事だけを願っている西田啓子が、姪の結婚や連合赤軍最高幹部の永田洋子の獄死を契機に、次第に過去について否応なしに向き合う事になる小説です。
リンチ殺人、死体の処分に関わったのではないかと思われる親族がいたとしたら、どうやって説明を受けても忌避感はぬぐえないだろうと、自分自身を鑑みて思います。
この本はフィクションですが、実際に有った事件を基にしているし、再現ドラマなどで見た事も有るので、人が人を支配して尊厳と命を犯すという行動が全く分からないという僕自分の姿勢ははっきりしています。
しかし、最初は崇高な目的の為に集った人々が次第に狂気に染まっていくのは、戦争や洗脳による事件などで良く見聞きします。人間の精神の脆弱さはいつの時代も変わりません。この後オウム事件も起こる訳ですが、そこにこの事件との類似は間違いなく見て取れます。
自分もこの集団の中に居たら罪を犯してしまったであろうと、容易に想像できます。
服役して罪を贖ったとはいえ、ずっと拭う事の出来ない過去を引きずりながら生きて行かなければいけないのは大変ですが、読んでいて感情移入出来ないのが面白かったです。言い方は難しいのですが、啓子は今でも間違っていないと思っています。それが周囲をイラつかせるんです。迷惑は掛けたけれど間違ったことはしていないという態度が、肉親の不信感を募らせています。わかるなー、こんな独善的な人だとちょっと付き合うの躊躇するかも。その冷静で冷たい感じが物語とマッチしていていい感じです。-
初めまして。父がアメリカ生まれで、当時アメリカでは赤軍のニュースを見なかったと言っていました。
確かに啓子は逃げていましたね。
姪っ子へも...初めまして。父がアメリカ生まれで、当時アメリカでは赤軍のニュースを見なかったと言っていました。
確かに啓子は逃げていましたね。
姪っ子へも冷たすぎます。
でも、ベースの跡地に行ったのは、彼女なりの禊というかけじめをつけて、罪に向き合う気持ちを感じました。
それも、あの手紙があってこそなのですよね。
ラストシーンは、ありえないと思いつつ、私は泣きました。2021/07/15
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嫌な女を書かせたら天下一品。
でも、なんだか物足りない。桐野さんでこのテーマなら、上下巻くらいにできたのでは?もったいない。 -
連合赤軍事件を新たな視点から描く。西田啓子は総括という名の下に行われたリンチ殺人を恐れ、ベースから脱走した。
服役後、啓子は身を隠すようにひっそりと生きてきたが、ある日昔のメンバーからジャーナリストが取材を希望しているとの連絡が。姪の結婚式、かつての恋人などと話し、啓子は過去に向き合うようになる。
永田洋子の死や東日本大震災など、現実の出来事を絡めてリアリティが増していく。甘いといわれればそうなのだろうが、ラストは期待が持てる形でよかった。 -
世の中白黒割り切れないこともあるが、この本を読んだ人にこれってハッピーエンド?と尋ねたい気持ちになった。相変わらず、重ったるい空気を書くのが上手い作家さん。連合赤軍の話だけど、その当時の話ではなく、生き残った人が今どうしているかという話だった。
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もともと赤軍や彼らが起こした事件には興味があったが、
インターネットでは全面否定論か全面肯定論か、くっきり分かれていて、
ほとんどがグロテスクな写真と当時の週刊誌や新聞からの転載写真や幹部たちの人格に関するものしか載っていなく、
なんとなくもやもやしていた。
その時にこの本と出会えてよかった。
主人公に実在のモデルがいないからか、極めてフラットな視点で、インターネットではわからない当時の若者の想いをなんとなく感じた。
1952年に生まれ、そのころ日本に住んでいた母にも色々話を聞きたくなった。 -
あさま山荘事件をリアルには知らない世代の私。
事件も触りの部分を知っているだけで、
どうしてこんな事になったのか、
その政治背景も彼・彼女らの心理も分からない。
過激なことを言ってしまうと、戦争へ行きそびれた世代の人たちなんだと私は認識している。
日本にこんな時代があったとはなぁ。
ラストは少し光が見えたような気がして救われる。 -
桐野さんの「抱く女」も読んでいて、同じ60年代後半から70年代という時代背景だが、個人の取った行動や感情はこうも違うものかと思った。「抱く女」の方が時代的には後なので、事件を受けてのしらけ世代ともいえるのかもしれない。
世の中を変えるため、よくするためだった革命が凄惨なリンチという結果に終わり、それがすべてではなかった良い面もあったとは死者の前に言うことはできない。けれど、何か訴えるものがあったからこそ赤軍に限らず、若者が学生運動に夢中になったことは確かだけれど、良い面を説明してくれる人はあまりいない。壊すのが楽しかった、壊してそのあと何も作り出せなかったとは聞いたことがある。
この小説は、最後の方で、女性の視点も加えた新しい共同体を作るという目的が赤軍にあったという想像を加えていて、その点がもし現実もそういう面もあったなら救いとなっただろうと思った。ひどく失敗したのではあるが。 -
⑪1970年代連合赤軍のなかで浅間山荘事件の前に行われた山岳ベース事件で脱出した啓子が主人公。過去を後悔しているように見えて、まだ自分の経歴や赤軍への甘い想いを捨てきれない感じがある。最後の落ちも良かった。
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アメトークで光浦さんの好きな本として紹介されていたので読んでみた。
連合赤軍についてほぼ知識がないまま読んだのですが…
いつまで罪を犯したことを引きずればいいのかとはよく思うけど…
啓子は当時そういう思想の元で動き罪を犯してしまい、刑期を終えてるとはいえ、どこかその思想をまだ持っているんじゃないか?刑期を終えたんだからもういいじゃないと反省の色が見えずにいたような気がした。
私も佳絵や和子と同じように感じているのかもしれない。
2017.12.1 読了 -
連合赤軍の山岳ベースから脱走した女性・啓子が主人公。連合赤軍の関係者とは縁を切り過ごしていたが、一本の電話をきっかけに、昔の仲間に会うことになる。あの時、自分は何を考えていたのか。山岳ベースで起こったリンチ。明らかに間違えているのに、間違っていると誰も言わないことが恐ろしい。主人公には共感できなかったけど、一気読みだった。どうなるのかと思ったけど、希望のあるラストに救われた。
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連合赤軍事件の史実に基づき、実際には実在しない架空の女性・啓子の目線を通して、事件が語られる。
帯にあさま山荘事件とあるので、その話がメインだと思っていたが、もう一つ、問題になったリンチ事件に焦点を当てている。
物語自体がつまらない訳ではないが、啓子の自分勝手な物言いがとても不快感を感じる。桐野作品が大体そうであるけど、自分の犯した罪を罪とも思ってなく、自己弁護に終始徹する啓子に最後まで共感する部分がなかった。学生運動が盛んな時代を知らない私には、啓子がなぜ連合赤軍に加わったのか、動機も理解出来ないし、周囲との関係を遮断したと言いつつ、いろんな人に接しては、自分を正当化する…そんなことを言われても、私も姪の佳絵と同じく、啓子は「テロリスト」だと思うし、決して許されることではないと思う。小説としてはありだけど、実際に啓子のような人がいたら、決して許せない読後感の悪い作品。 -
史実を元に連合赤軍にいたという架空の女性の今を語ることで、あの連合赤軍にいた日々がどんなものだったのか、そして現代になった今、彼女たちはどう生きていくのかをリアルに感じることができた。桐野さんだからこその女性の描き方だなと思ったが、思ったより過激にならずソフトだった気がした。
少しひっかかったのは、主人公である啓子が赤軍派に入って、危険な生き方をしてまでそこにいる理由がしっかりと語られていない気がしたこと。国に対する反発、反社会的思想など啓子の思いがイマイチ見えてこない。何となくそこにいてしまったという感じ。そのため子供を革命の戦士にと言われてもピンと来なかったし、赤軍派にいた過去により周囲に迷惑をかけても自分は悪くないと保身的になる姿には共感できるものがほとんどなかった。
それとも赤軍派にいた女性はこういう感じだったと作者が作為的に作った主人公だったのだろうか。
ひとつ印象に残ったのは姪が啓子をテロリストと言ったとき、なるほど今はそういう風に見えるのかと時代の変化を感じた。 -
桐野夏生は色んな意味でドギツイ印象があったが、この著作は淡々と語られていて素直に面白いと感じた。時々の心情がよくわかる文章力は流石。自分自身が学生運動世代の次世代でドストライクではないので理解できない面もあるが、60~70年代の時代の空気感を感じられる良作。
私の想像力が足りないのだが、古市氏が啓子の実の子供だったという最後の告白には推理小説的な要素も多分にあって楽しめました。 -
桐野版『ノルウェイの森』と思った『抱く女』と同じくらいの時代を描いたもの。私はその時代の人ではないし、その関連書籍も読んでいないので深くは知らないけれど、すっと読めていった。桐野さんと同じくらいの年齢の方は、より深く読めるのではないかな。
会話が多くサクサク読めていきますが、もう少しだけでも、心の中を深く描いても良かったのでは。しかし、生の人間をありのまま書いていたりで、まあこれはいいかな。
桐野さんの中でも書くことにより、この時代のものを一つ終わらせたのでしょうか。