元気で大きいアメリカの赤ちゃん

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784163942100

作品紹介・あらすじ

奇妙で不気味、美しいのにどこかユーモラス〈黒バドニッツ〉がスパークする傑作短編集現実を縦横無尽に侵食する奔放な想像力、そして絢爛たる色彩世界にひびく黒い笑い。現代アメリカのダークな肖像を痛烈に描出した傑作中編群からスラップスティックな面白さがたまらない短編の数々まで、12作品を収録。

感想・レビュー・書評

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  • シュールで奇想に満ちた物語でありながら、生理的な部分や感情に於いてはどの作品も怖いほどリアル。
    つかみ所のない軟体物に触れている気分で、気持ち悪いのに何時までもいじっていたいような…悪臭の中に懐かしさの源を嗅ぐような。
    どれもハイクオリティだが中でも『優しい切断』は白眉。病院に転用された戦時下の教会。毎日のように腕や脚の切断手術が行われ、シーツや包帯の上にはステンドグラスの窓を通して聖人や天使の姿が色とりどりに映される…「あらゆるものが祝祭めいて陽気に見える」。最初から最後まで強烈なイメージに痺れ続けた。森山良子の歌声も聞こえてくる …ザワワ〜

    母娘、姉妹、赤んぼうなど女ならではの感受性に訴えるテーマやモチーフ

    他に『顔』『奇跡』も傑作。

  • この本は確か以前ブクログに感想を書いた記憶がある、と思って振り返ってみるともう七年以上前のこと。その経過した時間によって、すっかり忘れてしまっていた短篇もあれば覚えている短篇もあるというくらいの忘却作用が働くが、原著で読んで書き付けた過去の印象が、今、翻訳されたものを読んで得た印象とそう違わないことに安堵する。「空中スキップ」-絶妙な訳のタイトル!-の乾いた第一印象が強いバドニッツだけれど、本書には少し湿った重さを感じた。七年前も、そして今も。

    現実離れした設定や人物が登場するのはバドニッツの特徴の一つと思うが、実はそれが人間のグロテスクな部分をオブラートにくるんだ結果の表現なのだと改めて気づかされる。あり得ないと思っているから醜悪な人間性を見せつけられてもそれが現実離れした物語であると思うことで受けとめることができる。何年も胎児を腹に抱え続ける母親や、同じ年に産まれた似た顔つきの子供たちばかりが棲む島の話。そんな奇妙な状況はただ単に少しばかり大袈裟にデフォルメされた現実で、当てこすられているのはそんな現実を産み出した理不尽さの方なのだ。

    その構図は翻訳を読んで漸く解ったことではあるけれど、それが以前読んだ時に感じた「一つ一つ読み終わる度にふっと解放されるような印象」に繋がっていたのだとも理解する。究極、人間も自然淘汰の摂理の中で足掻く生物であって、グロテスクと感じるものは淘汰されまいとする生き物としての本能に由来する。だからこそ、目を背けたいと感じなからも、ふと吸い寄せられてもしまう。その本質的な部分をバドニッツは短い文章の中で巧みに展開する。

    それにしても、こういう癖の強い作家の作品の岸本さんの翻訳は相変わらず素晴らしい。捻った世界観の中で作家が何を描いているのかが、すっと見通せる。文体が翻訳者の個性を主張することはない。一方で、それぞれに個性的な作家を取り上げているにもかかわらず、あたかも岸本佐知子翻訳群というジャンルがありそうな共通性もある。比較でいうなら、米国文学の翻訳と言えば柴田さんだとも思うけれど、その日本語には柴田元幸臭さというものが明らかにあって、例えばオースターの持つパルプフィクション的な雑味まで柴田さんの日本語に掛かると洗練されてしまうような気もすることがある。それは、村上さんの翻訳がどこかしら村上春樹作品を読んでいる読んでいるような気にさせられるのと似た感覚。岸本さんの翻訳には、そういう意味での岸本佐知子臭さがない。エッセイや嘘日記ではあれ程に個性的な書きぶりを発揮するのに。もっとも、ニコルソン・ベイカーにしろ、ミランダ・ジュライにしろ、選ばれた作家たちに岸本佐知子臭さがあると言えばあるのかも知れないけれど。次はミランダ・ジュライのmy first bad manかしら、と、勝手に期待する。

  • やっぱりグロテスクで摩訶不思議だ…。
    しかしアートディレクターQ-TAさん手掛ける装丁・挿絵のコラージュが、また美し気持ち悪くていいな…。

  • 異様なバドニッツの世界観に岸本さんの訳がベストマッチ。「わたしたちの来たところ」、の、安全で豊かなアメリカに至るまで産まれない赤ちゃんが4年胎内にいた話のインパクトがすごい

  • 生々しく胸焼けするような濃さ、後味はスッキリする、先を先を見たくなるお話たち

  • 再読
    「ナディア」にノックアウト

  • ホラーというほどでもないけれど、なんだかゾクゾクと背筋が寒くなる短編集。

    遠くに住む両親が車で娘に会いに来る。
    道に迷ったという電話が数時間おきに娘にかかってくるが、どこを走っているのか要領を得ない。
    そのうちに何かを轢いた。確認しに行ったら父親が何かに噛まれた。
    警察の検問を通過した。見知らぬ人が運転をかわってくれると言う。
    母親と娘の電話のやり取りだけで展開する『来訪者』
    少ない情報から読者の想像をふくらませる。

  • 文学

  • 不思議なお話の短編集。
    だが、世界のどこかでは起こっていることかもしれない、
    なんて思わせる話もあり、ぞくりときた。

  • ぞわぞわする短編集。
    何としてもアメリカで出産するため、赤子をお腹に四年間とどめるお母さん。
    白人同士なのに黒人の赤ちゃんが産まれて、母は子を愛するけど、それができない父。

    間違った慈善、両親がなかなか家に辿り着かない話などなど。

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