中国茶風雅の裏側: スーパーブランドのからくり (文春新書 299)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (229ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166602995

感想・レビュー・書評

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  • 2003年出版ということで今の中国・香港・台湾事情と照らし合わせると当時が全く違う時代だったと思わせる1冊でもあった。とはいえ、内容に関して言えば、現代のことだけはなく、過去の歴史の中におけるお茶の役割(皇帝に献上、人々がそのために働かされた等)や、いわゆるスーパーブランドと呼ばれる有名ブランド茶の成り立ちなどが描かれていて興味深い。台湾の茶商等があまり大陸の茶に興味を示さないというのは、個人的に台湾でお茶屋さんの店員さんと話していても感じるところであった。

    P.39
    上流階級のために、新芽だけを使った特殊な団茶(固形茶)が生まれ、それが工芸品のようにもてはやされた宋代。喫茶法は固形茶を熱湯に浸し、乾かしてから木槌で砕き、ふるいにかけて粉末にして、それを茶碗にいれて熱湯をさし、茶筅のようなものでかき回して賞味した。私たちがいただく抹茶は、宋代の喫茶法がもとになっている。

    P.59(大紅袍について)
    台湾や香港の知り合いの茶商たちに聞いてみると、本物の評価は概して「馬馬虎虎」となる。
    「値段の割には美味しくなかったな。いかにも老木から採れたお茶という感じなんですよ。香りと味のバランスがあまりよくないから、焙煎を強くして、味に統一感を出しているんですよ。まあ、エピソードや値段が初めにありきのお茶ですかね」と辛口の評価をしたのは台湾の茶商の林聖秦さん。
    「自己催眠をかけて飲むお茶の類です。はるけき貢茶の世界を思い起こし、自分が皇帝に成り代わって賞味しているのだと何度も言い聞かせて飲む。すると美味しくなる」とは茶芸家肌の香港茶商の呉樹栄さん。

    P.130
    空前の好景気に支えられ、希少価値のあるものなら何でも売れると強気だった台湾茶商。一方、一九九七年の香港変換を見越して、カナダやオーストラリア、ニュージーランドに投資移民の資格で入国するために、金策に走り回っていた香港の茶商がいた。投資移民とは、その国の政府が指定したプログラムに沿って投資をする代わりに移民が認められるもので、学歴や英語力よりも自賛金の額がものを言う。そこで、この両者の利害が合致してお茶が動いたのである。
    かくして香港の倉庫に眠っていた普洱茶は根こそぎコンテナで台湾へと運ばれた。このケースも政治の都合でお茶が動いた例だろう。しかも、寝かせた年数が長いほど珍重される陳年という付加価値が付いたものだから、マーケットは年数をめぐって過熱した。倉庫に眠っていた普洱茶でお金儲けを思いついたのは、香港人。ブームに火をつけたのは経済が絶好調だった台湾人、それに乗じて儲けたのは中国人と東南アジアの華人、という図式が見えてくる。

    P.171
    台湾と日本の歴史学者や歴史家によって、検証作業が進められている日本の植民地政策は、西欧列強が南米やアフリカやアジア諸国で行った略奪型や接種型ではなく、「投資経営型」だったという要旨が目立つ。

    P.177
    現在も台湾のジャスミン茶は、包種茶をベースにして作られている。緑茶をベースにする大陸のジャスミン茶よりも、包種茶からの香りが混ざって、優しい味がするので、ぜひ、台湾へ行ったらジャスミン茶を飲んでみて欲しい。
    ついでに、「東方美人」と「包種茶」を買い求めるとき、チェックすべき点を書いておこう。
    1.白、紅、緑、黄、こげ茶の5色がはっきり混ざり合っている方が上質
    2.茶葉がしっかりと乾燥し、ダイナミックによじれているものがいい
    3.夏に採れたものがベストだから、秋に出回るものを買う
    4.浸出液がやわかな琥珀色をしていて、透明感の高いものを選ぶ
    包種茶は以下のとおり。
    1.茶葉に明るい緑色のツヤがあり、フレッシュな感じがあふれている
    2.しっかり乾燥し、かさこそ音が出る
    3.春に採れたものが香りがいい
    4.浸出液が淡いカナリア色で透明感の高いものを選ぶ

    P.187
    一九四九年前後、国共内戦に敗れた蒋介石とともに、一五〇万人とも二百万人とも言われる大勢の人々が大陸から台湾へ移住してきた。そのほとんどは台北市周辺に住み着いたため、大陸北方の喫茶週間に茶商たちはとまどう。
    「山東省や河北省など、北方からやってきた人が多かったので烏龍茶なんて知らないんだね。ジャスミン茶を大量に作れとお達しがきたけれど、原料の緑茶や包種茶が間に合わない。手先にあったお茶はすべてジャスミン茶にしてしまいましたよ」

  • 【目次】(「BOOK」データベースより)
    はじめに 中国茶は風雅か?/第1章 皇帝の愛したスーパーブランド/第2章 大紅袍と商標権/第3章 鉄観音と清涼飲料/第4章 普〓茶と衛生問題/第5章 台湾茶と両岸関係/おわりに 茶は魂を映す鏡

  • 2017/11/16 19:06:59



  • 中国茶...ワインよりも奥深いやもしれん。
    中国茶は、茶葉の発行度合いによって便宜上、6つのジャンルに分けられる。
    緑茶、白茶、青茶、紅茶、黄茶、黒茶。
    緑茶でも紅茶でも茶葉は同じだけど、不発酵なら緑茶、微弱な発酵なら白茶、半発酵なら烏龍茶、完全に発酵すれば紅茶。黄茶と黒茶は、それぞれ緑茶を後から発酵させた後発酵茶。
    更に、杜仲茶、八宝茶など、漢方を加えたブランド茶、高山植物を使った代用茶などなど。実にバラエティに富んでる。

    日本の茶道には、律が伴う。武家の儀礼や公家作法を取り入れ発展したため、お点前を重んじる。
    中国の茶藝は、もっとより自在だと。
    とは言え、その精神は禅に繋がっている点では同様である。

    ゆっくり、お茶を味わう時間を作るべきだな。

  • プーアール茶の話題が多い。

    お茶をめぐう裏側に興味がない人にはつまらない本かもしれない。

    香港に行ったら、基本がプーアール茶だったので、その後よくのむようになった。
    現在は、紅茶>ウーロン茶=緑茶>ジャスミン茶>プーアール茶で、一番少ない。

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著者プロフィール

平野久美子 (ひらの・くみこ)
作家。東京都出身。学習院大学仏文科卒業。編集者を経て1990年代末より執筆活動へ。学生時代から各国、特にアジアを巡り、その体験を生かして多角的にアジアと日本の関係をテーマに作品を発表。台湾の日本統治時代に関心が深く、取材を続けている。主な著作に『淡淡有情』(小学館ノンフィクション大賞)『トオサンの桜』(小学館)『中国茶 風雅の裏側』(文春新書)『水の奇跡を呼んだ男』(産経新聞出版、農業農村工学会著作賞)『テレサ・テンが見た夢』(ちくま文庫)『台湾世界遺産級案内』(中央公論新社)など。日本文藝家協会会員、一般社団法人「台湾世界遺産登録応援会」顧問。

「2021年 『牡丹社事件 マブイの行方[増補版]』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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